退職勧奨された時の対応法|拒否の方法や退職金の相場について解説
勤務先から突然の退職勧奨をされ、困惑している人や、退職勧奨を受けて納得できないまま言われるままに退職した経験を持つ人がいるのではないでしょうか。
退職勧奨は従業員側が退職に応じなければ退職とならず、解雇も成立しませんが、精神的な重圧から受け入れてしまい、自主退社となってしまうケースが散見されます。
本記事では、そういった事態に陥った時、ご自身の不利益をできる限り減らし、退職金などの一時的な利益を有利に得られるよう進めるために有効な手段をご紹介します。
退職勧奨と解雇の違い
まずは、退職勧奨と解雇の違いについて確認しましょう。この2つを同一のものと考えている方もいますが、その実まったく違います。それぞれの特徴と違いをわかりやすく解説します。
解雇は雇用契約の解消のため企業に残れない
解雇とは、企業側が従業員に対して一方的に雇用契約を解消することを指します。労働者側が会社に残りたいと伝えても、残ることができない非常に強い効力を持っています。
そのため、企業は簡単には解雇をすることはできないようさまざまな法制限が設けられています。
具体的には、労働基準法第2章労働契約第19条では解雇制限として、
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。
引用:e-GOV
としています。ただし、
使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合や、天災事変その他、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない
引用:e-GOV
としており、やむを得ない理由があれば解雇が可能と記されています。
また、解雇をする際には解雇予告が必要で、労働基準法第2章労働契約第20条には
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
引用:e-GOV
と記されています。 ただし例外もあり、
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。
引用:e-GOV
と、解雇と同じようにやむを得ない理由があれば例外が認められます。
さらに、解雇予告を短縮できる要件も示されており、
予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
引用:e-GOV
とあります。これは、解雇予告の条件とされる賃金の支払いさえすれば、予告日を減らして退職を早めることができることを示しています。
退職勧奨では双方合意した場合に初めて雇用契約が解消される
解雇が企業側から従業員に対して一方的に退社を求めるものである一方、退職勧奨とは企業側が従業員に対して退職を勧めるものを指すため、それだけでは退職とはなりません。
退職勧奨を受けた従業員が退職の意思を企業側に伝えることで、雇用契約解消の効果が生まれます。
このように、退職勧奨には退職の強制力はないため、退職勧奨は断ることができます。
もし退職勧奨を受けたけれど、退職の意思がない場合は応じないことを伝えるようにしましょう。
退職強要など退職勧奨が違法になるケースには損害賠償も視野に
退職を強要する退職勧奨は「退職強要」となり、違法です。 具体的には、
- 退職届の提出をしつこく迫る
- 何度も長時間の面談を実施し、退職をせまる
- 退職しないことで嫌がらせを行う
などが、退職強要に該当します。
退職強要により損害賠償が発生するケースもあるため、あまりにも悪質な退職強要を受けた場合には速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
退職勧奨であることを証明する主な証拠
退職勧奨か退職強要なのか、ご自身で判断するのは難しいため、まずは状況証拠を集めることから始めましょう。具体的な証拠となる事柄について紹介します。
退職勧奨についての企業からのやり取り
まずは退職勧奨を受けた日にちや内容など、企業側とのやり取りを収集しましょう。そのためには口頭ではなく、メールや文書など、記録が残しやすい方法が有効です。
退職勧奨を受けない旨、しつこい退職勧奨がある場合はやめてほしい旨を記録に残る形で企業側に伝え、その返事も含めて保存・保管しましょう。
退職勧奨があまりにも執拗である場合は内容証明郵便や特定記録郵便の利用も有効です。これらの郵便は、「いつ、誰に、どんな内容」で、書類を送ったのかを証明するものです。
万が一、裁判になったときにも有効な証拠となるので、利用を検討してみてください。
企業との退職を巡る意見交換のやり取り
企業とやり取りした退職に関する意見交換の内容をメモしたものも、証拠として有効です。やり取りした日にち、内容を時系列でまとめておきましょう。
就業規則と退職金規定
自社の就業規則や退職金規定を確認しましょう。企業側の対応が就業規則から逸脱している可能性があります。
また、退職金規定は、退職の応じた場合にご自身に有利な金額を引き出すためにしっかりとチェックすることをおすすめします。
雇用契約書と雇用条件通知書
雇用契約書や雇用条件通知書について証拠となります。それぞれの書類に退職についてどのような記載があるのか、再度確認してみましょう。
退職勧奨された場合の対処法
勤務先から退職勧奨された場合に、冷静に対処するためにその流れを紹介します。
会社に残るかどうかに関わらず行うべき対処
会社に残る、退職するどちらを選んだ場合にも必ずしておきたいことは以下の通りです。
退職勧奨のやり取りのログを残す
退職勧奨に関わるやり取りを残しておきましょう。万が一、トラブルが発生した時にご自身が不利にならないよう必須です。面談などが行われる際にICレコーダーなどでやり取りを録音するのも有効です。
雇用契約書、雇用条件通知書を用意する
雇用契約書、雇用条件通知書はお手元に残してありますか?どちらも入社する際に作成・交付することが企業側に義務付けられています。
もし、交付された記憶がなければ企業側に確認しましょう。 手元にある方は、内容を確認しておきましょう。
就業規則・退職金規程を確認する
退職するしないにかかわらず、就業規則・退職金規程を確認しておくことをおすすめします。
会社を辞めても良い場合
退職勧奨を受けて、退職を視野に入れる方向へと進んでいる方がするべきことを紹介します。
退職届は自分から提出しない
まずは、退職届をご自身から提出しないようにしましょう。自己都合退職と会社都合退職では失業保険の内容が大きく変わり、会社都合とした方が圧倒的に得です。
また、いつまで働くのか、引き継ぎはどうするのかなどを確認することに加えて、退職金の交渉も必要です。会社都合による退職となるため、通常よりも多くの退職金を要求しましょう。
退職の条件を書面に残してもらう
退職に関する条件を企業側と交渉したのち、その内容を退職合意書として書面で残してもらうことを忘れないようにしましょう。のちのち、言った言わないのトラブルとなることw防ぐことができます。
会社を辞めたくない場合
退職勧奨を受けたものの、会社を辞めたくない場合にすべき行動を紹介します。
退職しない意志を強く伝える
退職しないという気持ちを会社側に伝えます。この際、口頭でよりもメールもしくは特定記録郵便など、形に残る形で伝えるようにしましょう。
解雇予告手当・退職金を受け取らない
解雇予告手当や退職金を受け取ってしまうと、退職に同意したとみなされてしまう可能性があります。一方的に銀行口座に振り込まれてしまった場合は手をつけず、会社と交渉を続行しましょう。
交渉が難航してしまった場合は、弁護士に交渉を代行してもらうことも有効です。
退職勧奨での退職は原則として会社都合退職になる
厚生労働省の「労働契約の終了に関するルール 4.退職勧奨について」には、
退職勧奨に応じて退職した場合には、自己都合による退職とはなりません。
引用:「労働契約の終了に関するルール 4.退職勧奨について」
と示されており、退職勧奨による退職は原則として会社都合退職となります。
ただ、退職届の事由に「一身上の都合」などと記載してしまうと、自己都合退職として扱われてしまうことがあるため、注意しましょう。
退職勧奨では退職金に上乗せされるケースがある
退職勧奨は会社都合の退職となるため、退職金が上乗せされるケースがあります。以下ではそういったケースについて紹介します。
解決金や特別退職金
退職勧奨による退職の場合、解決金や特別退職金といった名目で、退職金の上乗せした金額を支払われることがあります。おおよその相場は給与の3カ月から6カ月であることが多いようです。
企業規模・退職後の生活費・退職までの対応経緯から総合的に額を判断
解決金は以下のような要素が加味されて決定します。
- 解雇の合理性や相当性
- 従業員側の働きたい意志の強さ、企業側が退職させたい意志の強さ
- 再就職までにかかる期間
- 失業保険の受給の可否
「1.解雇の合理性や相当性」は、解雇の条件にご自身が満たしているのか解雇相当とされる事柄があるのかどうか。
解雇条件を満たしていないけれど退職を求めている場合は、企業側としては解決金を上げてくる可能性があります。一方、解雇条件を満たしている場合、退職勧奨ではなく解雇という形でも退職させることが可能なため、解決金は低くなります。
「2.従業員側の働きたい意志の強さ、企業側が退職させたい意志の強さ」は、会社側がどうしても解雇を実行したいという気持ちが強ければ金額が上がることを示しています。
しかし、従業員側が素早く解雇に応じてしまうと、企業側は金額を上げる必要がなくなってしまいます。
ですので、すぐに解雇に応じることはご自身を不利な状況にしてしまうため、すぐに退職勧奨に応じないようにしましょう。
「3.再就職までにかかる期間」は、次の就職先のあてのある無しが関わってきます。再就職に時間がかかる可能性がある場合、数カ月の解決金では生活の維持が難しくなってしまいます。
再就職までに必要な期間=お金がどれくらいになるか試算して交渉しましょう。
「4.失業保険の受給の可否」は3と繋がる部分があり、再就職までの生活維持に欠かせません。例えば、
- 会社が雇用保険の加入手続きを怠っていた
- 失業保険の受給要件を満たしていなかった
場合は、失業保険を受け取ることができません。そうなると、生活維持に必要なとしての解決金は増加します。
また、前述したように退職勧奨の場合は原則として会社都合の退職となりますが、自己都合退職とされてしまった場合、支給までの期間、支給日数などが大幅に変わります。
もし会社側から自己都合での退職を迫られた場合、その分の金額を解決金に上乗せするよう交渉しましょう。
退職金には所得税、復興特別所得税や住民税など税金がかかる
解決金には税金がかかりますが、その区分は退職所得もしくは一時所得となる可能性が高いといえるでしょう。
退職所得
勤続年数20年を境に退職所得控除の計算方法が変わります。退職金から退職所得控除の2分の1が課税対象となります。
参照:国税庁「退職手当等に対する源泉徴収」
一時所得
所得金額の2分の一相当の金額が課税対象となります。そこに、給与所得をはじめとした他の所得と合算した総収入から収入を得るために支出した金額を差し引き、さらに最高50万円の特別控除をした金額が一時所得となります。
参照:国税庁「退職手当等に対する源泉徴収」
退職に関する労働トラブルは解決が難しいため弁護士へ相談
退職勧奨を受けたものの、拒否したい、受け入れるけれど自身に有利に退職を進めたいと考えた時、ご自身で解決へと導くには困難です。
そんな時に心強い味方となるのが弁護士です。 代理で交渉に当たってくれたり、法のもとで適正な退職金を要求したりするだけでなく、交渉が決裂し、労働裁判や労働訴訟となった場合にもご自身をサポートしてくれます。
さらに、弁護士に依頼することで、適正な賠償金を受け取ることができる可能性もあります。 退職勧奨をされた時、会社に振り回されずにご自身にとってできる限り有利に進めるためには弁護士への相談が非常に有効です。
まずは気軽に相談してみましょう。
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