不当解雇の慰謝料相場はどのくらい?請求方法や事例を解説
ある日突然、会社から解雇を告げられたら、焦りとパニックで途方に暮れてしまうことでしょう。
しかし、解雇に納得できない場合はすぐに退職の意思表示をしてはいけません。 企業が従業員を解雇する合理的な理由がなければ「不当解雇」の可能性があるからです。
不当解雇の態様が悪質な場合は、慰謝料を請求できることもあります。
この記事では、慰謝料が認められる不当解雇の事例、慰謝料額の相場、不当解雇された場合の対処法や弁護士の選び方などを解説します。
不当解雇で慰謝料が請求できる場合
不当解雇とは、労働者を正当な理由なく解雇する行為です。
労働者に対して悪質な解雇が行われた場合、解雇は無効と判断されるだけでなく、不法行為に基づく慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、すべての無効な解雇が不法行為となるわけではない点に注意が必要です。
不当解雇が悪質であれば慰謝料を請求可能
不当解雇で慰謝料を請求できるのは、解雇が不法行為と評価できる程度に悪質である場合に限られます。社会的に相当性に欠ける、つまり悪質であると判断される場合に限ります。
たとえば東京地裁平成23年11月25日判決では、会社が解雇を回避する手段を全く検討せず、労働者を突然解雇した事案において、慰謝料を含む請求が認められました。
これに対して、きわめて悪質とまではいえない不当解雇の場合、解雇期間中の賃金の支払いをもって精神的損害はカバーされると解されるため、慰謝料請求は認められません。
慰謝料請求の可否については、具体的な事情によって判断が異なるため、専門家の意見を求めることをおすすめします。
不当解雇の慰謝料相場とその他に請求できる費用
実際には、不当解雇について慰謝料を請求することは一般的ではありません。 不当解雇された場合には、慰謝料以外にさまざまな請求ができます。
ここでは、不当解雇の慰謝料の相場とそのほかに請求できるお金について解説します。
慰謝料の相場は数十万円~百万円程度
不当解雇が不法行為に該当し、慰謝料請求が認められる場合でも、高額な慰謝料が認められるケースはほとんどありません。おおむね50万円から100万円程度が標準的です。
賃金総額から計算した解雇予告手当
解雇予告手当とは、解雇予告が行われた日から実際の解雇日までの期間が30日未満の場合に支払わなければならない手当のことです。 解雇予告手当は次の式で求められます。
解雇予告手当の金額 =(30日-解雇予告から解雇までの日数)× 平均賃金
不当解雇されていた期間中の賃金
不当解雇によって職場を離れていた期間は、会社の責に帰すべき事由によって働けなかったため、実際に働いていなくても賃金全額(=バックペイ)を請求できます(民法第536条第2項)。
ただし、不当解雇の期間中に他の会社で働くなどして収入を得ていた場合には、バックペイのうち平均賃金の60%相当額を超える部分に限り控除が認められます。
解雇が不当であり合意退職となった場合の退職金
本来は不当解雇であっても、会社との交渉により、退職を受け入れる代わりに退職金を受け取る合意がなされることがあります。
この場合、賃金の6か月分から12か月分程度の退職金が支払われるのが一般的です。 ただし、実際に支払われる退職金額は、会社との交渉次第で大きく左右されます。
適正額の退職金を受け取るためには、弁護士を代理人として交渉するのがおすすめです。
慰謝料が認められる不当解雇の具体的な要件と事例
ここからは、裁判所が不当解雇について慰謝料の支払いを命じた事例を取り上げます。
各事例で従業員がどのような不当な扱いを受け、それに対して裁判所がどのように判断したのかを確認していきましょう。
従業員の名誉毀損|社会福祉法人当別長生会懲戒解雇事件
社会福祉法人当別長生会懲戒解雇事件では、社会福祉法人が業務命令違反などを理由に従業員を懲戒解雇し、運営する会社の入り口に掲示しました。
しかし、懲戒解雇事由が事実ではなく、掲示したことにより懲戒解雇された従業員の名誉を毀損したとして、法人に50万円の慰謝料の支払いが命じられました。
(札幌地裁平成15年5月14日判決)
産休・育休の取得を理由とした解雇|社会福祉法人緑友会事件
社会福祉法人が、育児休業後の復職を客観的・合理的な理由なしに拒否し、解雇したことについて、慰謝料として30万円の支払いが命じられました。
この事案では、従業員が育児休業後の復職のため、子の保育所入所の手続きを進め、入所が決まって法人に復職を申し入れたにもかかわらず、復職の直前に合理的理由なく復職を拒否されたため、子どもの保育所入所も取り消されたという経緯がありました。
その過程で従業員が大きな精神的苦痛を被ったことが考慮されています。 また、男女雇用機会均等法9条4項の「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。」に違反している点も含め不当解雇と認定されました。
(東京高等裁判所判決令和3年3月4日)
追い出し部屋など違法な退職勧奨の上の解雇|国際信販事件
この事案では従業員を退職させるために、一人だけ「追い出し部屋」とも呼ばれた資料置き場になっていた席に移動させるなどのいやがらせの末に解雇したことについて、慰謝料として150万円の支払いが命じられました。
従業員がこれらの悪質な嫌がらせ行為を受けて精神的不調に陥り、うつ病との診断をうけたことを理由に、不当解雇としては比較的高額の150万円の慰謝料が認められました。
(東京地方裁判所判決平成14年7月9日)
不当解雇における慰謝料を請求する方法
実際に不当解雇にあった場合に慰謝料を請求する方法について解説します。
解雇理由証明書の請求
解雇理由証明書は、解雇の理由が記載された会社発行の書面です。反論の対象を明確化するため、解雇理由証明書は必ず入手しましょう。
従業員から解雇理由証明書の発行を請求されたら、会社は断ることができません。渡さないこと自体が違法になります。
雇用契約書・就業規則・人事評価書・賃金規程の取得
普通解雇の場合は雇用契約書または就業規則の解雇事由、懲戒解雇の場合は就業規則の懲戒事由を確認する必要があります。
雇用契約書については、会社と締結したものを保管していればそれを参照しましょう。手元になければ、会社に連絡すれば写しが交付される場合があります。
就業規則については、会社は労働者がいつでも閲覧できるようにする義務を負っています。会社に不当解雇されたら、速やかに就業規則の閲覧を請求しましょう。
また、人事評価の不良を理由に解雇された場合には、会社に対して人事評価書の交付も請求しましょう。 さらに、解雇予告手当や不当解雇期間中の賃金を請求する場合、賃金額を計算する根拠資料も必要になります。
雇用契約書や就業規則がそれに当たりますが、賃金規程が別に定められている場合には賃金規程の閲覧も併せて請求しましょう。
解雇に至るまでのやり取りの音声やテキストデータの記録
解雇を伝えられて以降の書面やメールは、すべて保存しておきましょう。 口頭でのやり取りは、ICレコーダーやスマートフォンで録音してください。口頭でのやり取りの音声も証拠として使用できます。
会社との協議
不当解雇の無効を主張できるだけの準備が整ったら、会社に連絡して解決に向けた協議を試みましょう。
会社に対しては、不当解雇の無効を主張した上で、バックペイ・解雇予告手当・慰謝料などの金銭を請求します。
会社は反論することが予想されますが、退職金の支払いを引き換えとする合意退職など、和解を提案してくる場合もあります。
労働者としては、和解の可能性も視野に入れつつ、適正な条件による不当解雇問題の解決を目指しましょう。
労働審判・訴訟による解決を図る
会社との協議がまとまらない場合、労働審判や訴訟による解決を図りましょう。
労働審判
非公開で実施される労使紛争の解決手続きです。裁判官1名と労働審判員2名が、調停または労働審判により紛争解決を図ります。
審理が原則として3回以内で終結するため、迅速な解決を実現できる可能性があります。
ただし、労働審判に異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟へ移行します。
訴訟
裁判所で実施される公開の紛争解決手続きです。労働者(原告)と会社(被告)の双方が、不当解雇に関する主張・立証を戦わせます。
判決が確定すれば、労使紛争を終局的に解決できます。
労働審判・訴訟のいずれも専門性の高い手続きなので、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
トラブルになりそうな場合は早期に弁護士へ依頼
会社との全面対決となりそうな場合は、労働問題の対応経験が豊富な弁護士に依頼をしましょう。一人で会社と争うのは大変ですが、弁護士に依頼すれば会社との交渉や法的手続きの対応を全面的に任せられます。
また、労働者本人が直接会社と交渉するよりも、代理人である弁護士が交渉した方が、会社が真摯に対応するケースもあります。
好条件での問題解決をスムーズに実現するためには、労働問題に精通した弁護士のサポートを得ることをおすすめします。
不当解雇問題を有利に解決するためのポイント
労働審判や訴訟は法的手続きであり、さまざまな証明が必要です。
ここでは労働審判や訴訟など法的手続きで費用請求の確実性や額面を高めるために必要な証拠集めや心がけについて解説します。
解雇理由証明書などの証拠をしっかり集める
不当解雇を裏付ける証拠が十分に揃っていれば、会社との交渉や法的手続きを有利に進められます。
特に解雇理由証明書は、会社が主張する解雇理由が明記されるため、反論の対象を明確化する上で非常に重要な書面です。
会社は労働者の請求に応じて、解雇理由証明書を発行する義務を負います。会社が発行を拒む場合は、弁護士を通じて発行を求めましょう。
法的な観点から具体的な主張をする
不当解雇について会社と交渉をする際には、感情を訴えるのではなく、法的な観点から具体的な事実を主張・指摘することが大切です。
会社の行為がどのように不当であるか、それにより自分がどんな損害を被ったかを具体的に主張する必要があります。
慰謝料を請求する場合は、どのような精神的損害を受けたかを証拠に基づいて主張しましょう。
たとえばうつ病を患い、精神科や診療内科に通院している場合は、通院履歴を示すことなどが考えられます。
証拠と主張をもとに労働問題に強い弁護士に相談・依頼する
不当解雇を受けた場合は、労働問題に強い弁護士に相談・依頼することをおすすめします。弁護士を代理人として交渉等をすることで、不当解雇問題を有利に解決できる可能性が高まります。
会社側には顧問弁護士がついているケースが多いですが、労働者側も弁護士に依頼すれば互角に戦えます。
一人だけで戦うのではなく、労働問題に強い弁護士に相談してください。
不当解雇問題の早期解決には労働トラブルに強い弁護士へ相談を
不当解雇をされた場合に、慰謝料を請求できるケースは悪質な事案に限られます。
しかし、慰謝料以外にも解雇予告手当・バックペイ・退職金などを請求できる場合があるので、弁護士に依頼して適正額による請求をおこないましょう。
不当解雇問題の対応を弁護士に依頼することで、適正な条件による早期解決が期待できます。会社からの解雇通告に納得できない場合や、不当解雇が疑われる場合は、労働トラブルに強い弁護士に相談してください。
またその他の相談先に関しては不当解雇に関するおすすめ相談先5選|無料でよいアドバイスをもらうコツをご覧ください。