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不当利得返還請求とは|認められるケースや流れ、時効をわかりやすく解説

弁護士監修記事
遺産相続
2023年04月24日
2023年04月24日
不当利得返還請求とは|認められるケースや流れ、時効をわかりやすく解説
この記事を監修した弁護士
黒井 新弁護士 (井澤・黒井・阿部法律事務所)
2002年 弁護士登録。15年以上の実績のなかで多くの相続問題に取り組み、その実績を活かし、相続分野における著書執筆や不動産の講演・セミナーへ登壇するなど、活動の幅は多岐に渡る。
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「受け取れるはずだった遺産を無断で使われてしまった」
「資産が不当に使われた場合は、返してもらうことはできるのかな?」

自分が受け取れるはずだった利益や資産を誰かに不当に使われてしまった場合、不当利得返還請求をおこない、返還を請求することができます。

たとえば、相続されるはずだった遺産を勝手に使われていたなどの場合に不当利得返還請求が可能となります。

ただし、不当利得返還請求は必ず認められるわけではありません。使い込みを立証する必要がありますし、そもそも時効などの場合には請求できません。

証拠集めや申し立てなど、自分だけで手続きが難しいと感じられるのであれば、弁護士に依頼することも検討するとよいでしょう。

この記事では、不当利得返還請求の基本的な知識や要件、事例や注意点について詳しく解説します。

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不当利得返還請求とは

そもそも「不当利益」とは、法律上の正当な理由がないにもかかわらず、他人の財産もしくは利益を受けることにより他人へ損失を与えること、または利益そのものをいいます。

自分が受け取れるはずだった利益や資産を誰かに不当に使われてしまった場合、損害を受けた人物が「不当利得返還請求」をおこなうことができます。

民法第703条では、不当利益について以下のように規定されています。

第七百三条 
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

不当利得返還請求に必要な4つの要件

不当利益返還請求が成立するには、4つの要件が必要となります。この4つを満たしていない場合には、不当利得返還請求できませんので注意が必要です。

請求先が他者の財産によって利益を得ている

不当利得返還請求をおこなう場合、他者の財産によって第三者(請求先)が利益を得ている必要があります。

受け取れるはずのお金を使い込むなどで、第三者が利益を得ていないと請求できません。

たとえば、お金が使われていたとしても、お金を持っている親の医療費や食費のために使われている場合には、利益を得ていないために不当利得返還請求を請求することができないのです。

請求元に損失が生じている

不当利得返還請求をおこなう場合、請求者に損失が生じている必要があります。

たとえば、誰かが遺産を使い込んでしまったとしても、誰にも損失がない場合には不当利得返還請求をおこなうことはできません。

利益と損失に因果関係がある

不当利得返還請求をおこなう場合に重要なのは、「利益」と「損失」に因果関係がある場合です。

たとえば、請求元が貰えるはずだったお金が請求先に使い込まれ請求先が利益を得た場合には、「利益」と「損失」に因果関係があることが分かります。

その一方で、対象の遺産などが「請求元が本来もらえるお金」である事が証明できなかったり、請求先が得た利益が「対象の遺産からのものである」と証明できなかったりする場合は、要件が満たされないと判断されます。

利益を得ることに法律上の原因がない

不当利得返還請求は、請求元が利益を得ることに法律上の原因がない場合に限り成立します。

請求先がお金を使い込んでしまったとしても、そのお金を引き出せる法律上の原因がある場合には要求が認められないということになります。

たとえば、法律上で権限がないにもかかわらず、勝手に遺産を引き出していたなどの場合に不当利得返還請求の要件は満たしていると考えられます。

一方、請求先が事前に資産を法的に贈与されていたなどの場合、不当利得返還請求は認められないでしょう。

不当利得返還請求が難航するケース

不当利益返還請求が難しいケースとして挙げられるのが、すでに請求先が利益を譲渡してしまった場合などです。

通常、不当利得返還請求は現物返還が原則となるため、お金を使い込まれたなどの場合には価格賠償がおこなわれます。

ただし、不動産や物品などの場合は注意が必要となります。

不動産をすでに譲渡している場合も価格賠償がおこなわれますが、不動産の価値は時期によって上下します。

不動産を売却して大きく利益を得た場合でも、不当利得返還請求の場合は同じ金額を請求できるとは限りません。

このような場合は、不当利得返還請求が難航することもありますので、弁護士に依頼して対応することをおすすめします。

不当利得返還請求には時効がある

不当利得返還請求には、時効がある点も覚えておきましょう。民法166条1項で定められています。

以下では「債券」と記載されていますが、不当利得返還請求の条件にも該当します。

第百六十六条  債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

2020年4月に民法が改正されたことにより、不当利得返還請求の時効は「使い込みが発覚してから5年間もしくは、(発覚の有無にかかわらず)使い込まれた時から10年間のどちらか短い期間」が時効となりました。

これにより、他人の使い込みが発覚後5年以内には不当利得返還請求をおこなう必要が生じたといえるでしょう。

相続で不当利得返還請求が問題になる事例

ここでは、相続によって不当利得返還請求が問題になる事例を見てみましょう。

特定の相続人による遺産の使い込み

不当利得返還請求が問題になりやすい例としてまず、特定の相続人が、遺産を勝手に使い込むことが挙げられます。

具体的には、兄弟で相続するはずだった遺産をそのうち一人がほかの兄弟に黙って金品を使い込むなどといった行為におよんだ場合に、不当利得返還請求に至るケースが挙げられます。

ちなみに、使い込みが悪質な場合は「悪意の受益者」として損害賠償を請求することも可能です。

「悪意の受益者」とは、利益を得ることが不当であると知っておきながら、利益を得た場合に使われる法律用語です。

これは、民法第704条で以下のように定められています。

第七百四条  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。
この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索

たとえば、法律で不当な利益であることがわかっているのにもかかわらず利益を得ていた場合に、悪意の受益者として損害賠償を請求できます。

ただし、悪意の受益者として損害賠償を請求するには、請求側が悪意の有無を立証しなければなりません。

不動産賃料を無断で受領していた相続人がいる場合

特定の相続人が、ほかの相続人に対して無断で不動産賃料を受領していた場合にも、不当利得返還請求がおこなわれることがあります。

たとえば、故人がアパートなどの賃貸不動産を保有していた場合、ほかの相続人に黙ってその利益を無断で受け取っていた場合に、不当利益として不当利得返還請求に至るケースがあります。

この場合は、利益の返還をする場合もあれば、相続人全員の合意のもと、あらためて遺産分割協議をおこなって解決に向かう場合もあります。

不当利得返還請求をおこなう4つのステップ

ここでは、不当利得返還請求をおこなう4つのステップについて見ていきましょう。

使い込みの証拠を集める

まずは、使い込みの証拠を集める必要があります。不当利得返還請求をおこなう場合には必ず、「不当利得返還請求とは」内で解説した4つの要件を満たしていなければなりません。

そのために、まずは以下のような証拠を集めましょう。

  • 預金口座の入出金履歴
  • カルテや診断書
  • 定期預金の解約請求書
  • 生命保険の解約請求書
  • 不動産の売買契約書
  • 亡くなった方のメールやメモ、日記 など

これらのような証拠があれば、不当利得返還請求を証明しやすくなります。中には持ち出しが難しいものもあるかと思いますが、その場合は撮影しておきましょう。

また、相続人であれば金融機関に対して取引履歴を請求することも可能です。

証拠を集めたら、不当利得の金額を計算します。請求相手も正確な不当利益を把握していないケースが多いため、金額は正確に把握しておきましょう。

なお、ご自身で対応することが難しい場合には弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。

内容証明郵便で請求する

証拠を集めたら、内容証明郵便で使い込んでいる先に請求しましょう。

内容証明郵便で請求することで、誰が誰に、いつ、どのような内容の書類を送ったのかを郵便局に証明してもらうことができます。

普通郵便などで送ってしまうと、「そんな通知はなかった」と言われてしまう可能性がありますが、内容証明郵便であればそれはできません。

もちろん、内容証明郵便で送ったとしてもそれが受理されるとは限りません。相手に無視される可能性も考慮し、弁護士に作成を依頼して弁護士名(もしくは法律事務所名)で送付してもらうことで「返事をしないと訴えられるかもしれない」と、返還に応じることがあるでしょう。

話し合いをもつ

内容証明郵便で請求したあとは、相手からからの連絡があり、話し合いがおこなわれることが一般的です。

この話し合いによって返還すべき金額などが合意できれば、合意書を締結します。

このときに相手の返還額と返還日、返還方法等を合意書に記載します。遺産が返還されたのち、相続人全員で遺産分割協議をおこなう運びとなります。

話し合いで合意が取れなければ訴訟をおこなう

話し合いをしても相手が返金をしようとしなかったり、金額や返金の方法などで合意に至らなかったりした場合に訴訟に至ることがあります。

不当利得返還請求訴訟をおこなうには、基本的に弁護士の力を借りることとなります。訴訟には時間はもちろん、コストもかかります。

そのため、訴訟に持ち込むべきかどうかは事前に十分に検討し、提起する場合にはしっかりと準備をする必要があります。

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不当利得返還請求をおこなう注意点

ここでは、不当利得返還請求をおこなう場合の注意点について詳しく見てみましょう。

使い込みの立証が難しい場合がある

不当利得返還請求をおこなう場合には、相手が不当に遺産などを使い込んだことを立証する必要があります。

それができなければ請求は認められませんが、立証は難航することがあります。 その理由は、立証するための客観的証拠である資料を確保することが難しいためです。

前章でも解説したとおり、不当利得を立証するには以下のような証拠が必要となります。

  • 預金口座の入出金履歴
  • カルテや診断書
  • 定期預金の解約請求書
  • 生命保険の解約請求書
  • 不動産の売買契約書
  • 亡くなった方のメールやメモ、日記 など

これらの書類を手に入れることは簡単ではありません。なぜなら、こうした書類などを管理しているのが使い込みを疑う相手であることが多いためです。

書類の開示を拒否されてしまうことが多く、その場合は立証が難しくなります。

また、使い込みを立証できたとしても相手の悪意を立証できなければ、現存利益のみの返還とされることになります。

つまり、遺産の全額が返還されず、現在も残っている額が返還の対象となるのです。

そのため、全額返還を求めるのであれば、使い込みの立証と共に「悪意」を証明する必要があるのです。

裁判に時間がかかる場合がある

不当利得返還請求は、裁判が長期化することがあるため注意が必要です。その主な理由としては、使い込みを立証するための証拠を集めるのに時間がかかることが多いためです。

場合によっては、金融機関や医療機関に問い合わせる必要が出てきます。

そうした資料は、ある程度時間が経ってしまうと破棄されてしまうこともあるため、特に発覚から時間が経ってからの不当利得返還請求は難航することを把握しておきましょう。

それでもできる限りスムーズに手続きを進めるためには、弁護士に相談するのがベターです。

不当利得返還請求で揉めないために|相続前にできる対策

不当利得返還請求で揉めないために、あらかじめできることはあるでしょうか。ここでは、相続前にできる対策についても見てみましょう。

被相続人が亡くなったら口座を凍結する

被相続人が亡くなったら、すぐに口座を凍結するようにしましょう。口座を凍結すれば預貯金を引き出すことが出来なくなるため、使い込みを防止することができます。

ちなみに、遺産を葬儀費用に充てたい場合は口座を凍結しても引き出すことができます。その場合は相続人が銀行窓口に直接申請することとなります。

この場合も、引き出せる金額の上限は設定されているため注意が必要です。

家族信託や成年後見制度で備える

認知症などにより本人が財産の管理をできない状況であれば、生前の使い込みにも、注意する必要があります。

このような場合であれば、家族信託や成年後見人制度を利用することをおすすめします。

成年後見人制度は、本人に十分な判断能力がない場合に家族が後見人として財産の管理などをできる権利を得る制度です。

家庭裁判所によって専任された方を成年後見人とし、これによって財産管理および各種サービスの手続きを本人に代わっておこなうことができます。

こうすることで、認知症などによって誤って契約したサービスの解除ができるなど、お金にまつわるトラブルを防ぐことに繋がります。

家族信託とは、家族のうちの誰かに不動産や預金などの資産の管理や処分を任せる方法です。

家族間での話し合いによってその契約内容を決められるのが特徴で、成年後見人よりも柔軟に設計できるのが特徴です。

また成年後見人制度に関しては、本人の判断力が低下してから裁判所に申し立てをおこないますが、家族信託の場合は判断能力がある状況で話し合いによって締結が可能となります。

これらの制度を活用することで、相続前に使い込みなどを防止することが可能となるでしょう。

相続人同士で話し合いをしておく

使い込みを防ぐ簡単な方法としては、事前に相続人同士で遺産をどうするか、話し合いをしておくという方法もあるでしょう。

お金の問題は、いざというときに大きなトラブルに発展する可能性があります。いくら仲の良い家族であっても、事前に話し合いをしておくことをおすすめします。

具体的な方法としては、生前贈与などの方法が取られることがあります。事前にどれくらいの資産があるのかを整理しておき、生前にどのように財産を分けるのか決めておく方法です。

信頼関係が十分にある相続人同士であれば、事前の話し合いでトラブルを防ぐことがあるためおすすめです。

使い込みを疑われ不当利得返還請求を受けた場合は?

もしも使い込みを疑われて不当利得返還請求を受けた場合には、まずは請求内容を十分に把握するようにしましょう。

請求を受けてから安易に回答してしまうと、その回答内容や矛盾点が訴訟に使われてしまうことがあるため回答は慎重に行います。

実際の請求内容を確認し、事実と照らし合わせて検証します。また、相手方の言い分が立証できる証拠があるかどうかも検討しておく必要があるでしょう。

使い込みの心当たりがないのであれば弁護士に相談し、反論することとなります。弁護士に協力を仰いで対処することをおすすめします。

まとめ

この記事では、不当利得返還請求について解説してきました。 自分が受け取れるはずだった遺産を使い込まれてしまった場合には、不当利得返還請求をおこない返還を求めましょう。

不当利得返還請求を認めてもらうために重要な点は、使い込みを立証するということです。また、そこに悪意があるかどうかもポイントとなります。

不当利得返還請求をおこなう場合には弁護士に相談することで、証拠をより集めやすくなります。

不当利得返還請求をおこなう際にはぜひ弁護士に相談し、確実に取り戻せるように動きましょう。

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