遺留分侵害額請求をされたら?トラブルを早期解決するための対処法


相続や贈与で受け取った財産が、法定相続人の遺留分を侵害してしまっているケースもあるでしょう。
権利侵害をされた法定相続人は、その遺留分に相当する金銭を受け取るために「遺留分侵害額請求」という手続きをおこなうことがあります。
それでは、もし遺留分侵害額請求をされたら、受贈者や受遺者はどう対応すべきなのでしょうか。
この疑問に答えるために、この記事では遺留分侵害額請求されるタイミング、請求を拒否するのは基本的に難しいこと、請求されたときに確認すべきこと、支払いが困難なときにできることなどを解説します。
また、遺留分侵害額請求されたときに弁護士に相談・依頼するメリットについても確認しましょう。
遺留分侵害額請求をされるときとは?
遺留分侵害額請求とは、「遺留分を侵害された権利者が、侵害している受贈者や受遺者に対して侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利」のことです。
遺留分とは被相続人の配偶者、子ども、直系尊属といった法定相続人に認められている、一定の財産を相続できる遺産取得分のことをいいます。
つまり、被相続人が法定相続人の遺留分を侵害する贈与や相続をおこなっていた場合、侵害された遺留分権利者から遺留分侵害額請求をされることがあるのです。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺留分侵害額請求について詳しくは遺留分侵害額請求とは?期限や方法、遺留分の割合・計算方法を解説をご覧ください。
意思表示は一般的に内容証明郵便でおこなわれる
遺留分侵害額請求の意思表示の方法は明確には決められていませんが、一般的には内容証明郵便が使われることが多いです。
内容証明郵便とは、日本郵便が提供している「いつ、いかなる文書を誰から誰あてに差し出されたか」を証明してくれるサービスのことです。
遺留分侵害額請求権の時効は「遺留分の侵害を知ったときから1年間」とされているため、時効成立前に権利を行使していることを客観的に証明できる内容証明郵便が使われています。
請求された侵害額は原則として現金で支払う
遺留分侵害額請求をされた場合、原則として侵害額に相当する金銭を支払うことになります。
旧民法の遺留分減殺請求では遺言の効力の一部が失効されて、受け取った財産そのものを権利者に返還するという制度でした。
しかし、遺留分侵害額請求では遺言の効力は有効なままとなり、その代わり権利者に対して現金を支払う制度となっています。
遺留分侵害額請求をされても拒否することはできる?
被相続人の法定相続人から遺留分侵害額請求をされた場合、基本的にその請求を拒むことは難しいでしょう。
ここでは「なぜ請求を拒むことが難しいのか」「請求を無視するとどうなってしまうのか」について解説します。
遺留分は相続人の権利!請求されたら拒むことは難しい
遺留分侵害額請求をされた場合、その請求内容が正当なものであれば応じなければなりません。
そもそも遺留分侵害額請求権は法律で認められた一定の相続人の権利であり、侵害している受遺者や受贈者は金銭で補償する義務を負っています。
ただし、権利を侵害している場合でも、権利を行使されなければ金銭を支払う必要はありません。
遺留分侵害額請求を無視すると訴訟に発展する場合もある
遺留分侵害額請求を無視し続けると、裁判所に遺留分侵害額訴訟を提起される可能性があります。
裁判で遺留分権利者の主張が認められた場合、裁判所から支払い命令が出されます。
この命令も無視すると最終的に財産の差し押さえをされるでしょう。
また、裁判に発展して敗訴した場合は、以下のようなデメリットもあります。
- 遅延損害金の支払いを求められる可能性がある
- 裁判に要した訴訟費用を負担しなければならない
遺留分侵害額請求をされた際にするべき4つのこと
法定相続人に遺留分侵害額請求されたからといって、相手方の主張を鵜呑みにしてはいけません。
この理由は、そもそも支払う必要がないケースや支払い金額を減らせるケースがあり、相手方の主張を鵜呑みにすると損してしまう可能性があるからです。
そこで遺留分侵害額請求に応じる前には必ず以下のことを確認しましょう。
- 相手方が本当に遺留分権利者であるか
- 遺留分侵害額請求の時効が成立していないか
- 相手の要求している侵害額が正しいかどうか
- 土地や建物などの不動産の評価方法が適切か
- 生前贈与(特別受益)の考慮やその評価方法が適切か
1.請求してきた相手方が遺留分権利者であるか確認する
遺留分侵害額請求権を行使できる遺留分権利者になれるのは、被相続人の配偶者、子ども、直系尊属といった法定相続人に限られています。
被相続人の兄弟姉妹も法定相続人になりえますが、法律上、遺留分の権利は認められていません。
また、相続欠格、廃除、相続放棄によって相続権を失った方も遺留分の請求をすることができません。
遺留分侵害額請求をされたら、まず請求してきた相手方が遺留分権利者であるかどうかを確認しましょう。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。引用元:民法 | e-Gov法令検索
2.遺留分侵害額請求が時効になっていないか確認する
遺留分侵害額請求権には時効が設けられています。
この時効は「遺留分を侵害されていることを知ってから1年間で時効によって消滅し、相続開始から10年で消滅する」と規定されています。
消滅時効を成立させるためには時効の援用といって「時効が成立したこと」を意思表示する必要がありますが、相続開始から10年以上経過している場合は排斥期間により援用をしなくても権利が消滅します。
このように時効が成立していないかを確認しましょう。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。引用元:民法 | e-Gov法令検索
消滅時効を有効にするためには時効の援用が必要
時効の援用とは、時効を成立させるために時効の完成を主張する手続きのことをいいます。
この時効の援用をしていない場合、裁判所に消滅時効が成立していないものと判断されてしまいます(民法第145条)。
時効が成立したタイミングで、遺留分権利者に対して内容証明郵便で時効援用通知書を送付するようにしましょう。
遺留分の時効について詳しくは遺留分の時効はいつまで?時効が迫っているときの対処法を解説をご覧ください。
3.相手方の請求している侵害額が正しいかどうか計算する
遺留分権利者が請求できる侵害額は法律によって決まっています。
この計算方法に間違いがある可能性も考えられるため、必ず請求されている侵害額が正しいものかを確認しましょう。
基本の計算式は以下を参考にしてください。
- 遺留分侵害額=相手方の遺留分額(①)-相手方が受け取った相続・遺贈・特別受益の合計額+相手方が相続する債務額
- 相手方の遺留分額=遺留分の基礎となる財産額(②)×相手方の個別的遺留分(③)
- 遺留分の基礎となる財産額=被相続人が有していた財産の価額+贈与財産の価額-相続債務の価額
- 個別的遺留分=総体的遺留分×法定相続分
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺留分侵害額の計算方法について詳しくは遺留分侵害額の計算方法を具体例を交えて解説!をご覧ください。
4.不動産の評価方法が適切かどうか確かめる
不動産の評価方法には固定資産税評価額、路線価、地価公示価格などがあり、採用する評価方法によって不動産の価値が大きく変わります。
一般的な傾向として、固定資産税評価額と路線価は時価より2割から3割程度低く、地価公示価格は時価と同等となっています。
このことから相続財産に土地や建物といった不動産が含まれている場合には、ご自身でも請求された金額が適切かを確認しましょう。
評価方法に納得がいかない場合は遺留分権利者と交渉することをおすすめします。
請求された侵害額の支払いが困難な場合の対処法
遺留分侵害額は高額になることも少なくなく、すぐにまとまったお金を用意できないケースもあるでしょう。
そのようなときには、直接支払い方法の交渉をしたり、裁判所に支払い延長を申し出たりするのがおすすめです。
ここでは請求された侵害額の支払いが困難な場合にできる対処法を紹介します。
相手方に支払い方法の交渉をする
侵害額を今すぐ支払えない場合は、相手方に期限を延ばせないか相談してみましょう。
侵害額を支払う意思があることや現在は支払いが困難であることを説明し、相手が納得・合意してくれれば支払い方法を変更したり、支払い期限を延ばしたりできます。
取り決めた内容は合意書(和解書)として書面に残すようにしてください。
裁判所に支払い延期を申し出る
侵害額を支払えない場合の措置として、侵害者は裁判所に対して支払い期限の猶予を求めることができます。
民法第1047条によると「裁判所は受贈者または受遺者に対して支払いの全部または一部を相当の期限を許与できる」と規定されています。
支払い期限の変更という扱いになり遅延損害金は発生しないため検討してみるとよいでしょう。
(受遺者又は受贈者の負担額)
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。引用元:民法 | e-Gov法令検索
遺留分侵害額請求をされたら弁護士に相談するのがおすすめ
遺留分侵害額請求をされて困っている場合は、「ベンナビ相続」を利用して相続問題を得意としている弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、本当に侵害額を支払う必要があるのか、請求された侵害額が適切か、減額できる可能性がないかなどを教えてもらえます。
また、交渉が必要になった場合でも、弁護士に依頼すれば全てを一任することができるでしょう。
交渉した結果、遺留分侵害額を大幅に減らせた事例もあります。
1,200万円の請求額を400万円に減額できた事例
依頼前の状況
父親の公正証書遺言により,財産は全て弟である相談者に相続させることになっていました。そのため,相談者は,父親の遺言に従い,相続財産を受領していました。ところが,父親の全財産を弟の相談者一人が相続するのは,兄の遺留分(法定相続人に最低限保障される遺産のことです。)の侵害であるとして,兄から遺留分減殺請求権(現在は遺留分侵害額請求権といいます。)を行使されることになりました。依頼内容
依頼内容は,遺留分侵害額請求の行使によって,返還する金額を可能な限り減らしたい,というもの。対応と結果
相手方の兄は弁護士をたて,裁判にまで至ることになりました。訴え当初は,兄の遺留分を侵害しているとして,約1200万円もの高額な金員の請求に加えて,父親の財産である土地・建物の所有権移転手続きも迫られていましたが,最終的には,400万円の金員の支払いと一部の土地のみの返還で和解が成立しました。
まとめ|遺留分侵害額請求をされたら無視せずに交渉しよう
遺留分侵害額請求権は法定相続人に認められた権利であるため、請求されたら侵害額に相当する金銭を支払う必要があります。
しかし、どうしても侵害額を支払いたくない場合は、権利者と交渉するのもひとつの方法です。
遺留分を侵害する行為は民事上のトラブルであるため、話し合いにより合意に至ることができれば請求を取り下げてもらえたり、減額してもらえたりする可能性があります。
遺留分侵害額請求をされたら交渉することも検討してみましょう。