パワハラは労災認定される?認定基準・申請手続き・給付金額を解説
仕事をしている中で上司からパワハラを受けてしまうと、身体や心にストレスがかかってしまうものです。
ストレスが原因で、うつ病や急性ストレス障害などの精神疾患、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などを発症してしまうこともあるでしょう。
パワハラが原因で病気やけがを負ってしまった場合は、労災保険給付を受給することができます。
本記事では、パワハラが労災認定される基準や条件、申請方法などを詳しく解説します。
ぜひ本記事を参考に適切に補償を受け、パワハラ解決の役に立ててください。
パワハラが労災認定される基準
まずは、パワハラが労災認定される基準について解説します。
労災とは、業務中や通勤途中に社員がけがをしたり、病気を患ってしまったりしまうことであるので、基準を満たしていればパワハラも労災認定されるケースがあります。
労災申請をおこなう前に、まずは次の基準を確認してください。
労災認定の対象となる精神障害を発病していること
ストレスにより発病した精神障害が「仕事による強いストレス」と診断された場合、労災として認定されます。
パワハラを理由とした労災認定の対象となる精神障害とは、国際疾病分類によって分類されています。
うつ病や適応障害、急性ストレス反応、心因反応、心因障害、睡眠障害などがそれにあたりますが、主には次のような症状が該当します。
- 統合失調症や統合失調症型障害および妄想性障害
- 気分(感情)障害
- 神経症性障害やストレス関連障害および身体表現障害
- 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
- 成人のパーソナリティおよび行動の障害
- 精神遅滞(知的障害)
- 心理的発達の障害
- 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
- 特定不能の精神障害
医師による診断のもと、このような症状が明らかになった場合には、認定条件を満たしていると考えてよいでしょう。
発病前の約6ヵ月間に業務での強い心理的負荷が認められること
パワハラに限らず、精神疾患の労災認定は、発症前の約6カ月間で業務による強い心理的負荷を受けていたことが認定の条件とされています。
心理的負荷による労災認定基準はとても明確で、厚生労働省が発表した「職場における心理的負荷評価表」に基づいて判断されます。
発症前の約6ヵ月の間、職場で起きた全ての出来事を評価表に記録し、ストレスの強さを「弱」「中」「強」3段階で評価するものであり、パワハラはもっともストレスの強い「強」と評価されています。
治療が必要な程の暴力など身体的攻撃を受けた場合や、人格や人間を否定するような精神的攻撃などは、原則として強い心理的負荷になります。
それが原因で病気になれば労災認定されるでしょう。
業務外での心理的負荷が原因で発病したものではないこと
もし精神障害を発症し、心理的負荷が認められたとしても、その原因が業務外での心理的負荷が原因となった場合は労災認定されません。
労働基準監督署は、精神障害の発症と職場の因果関係は評価表をもとに調査をおこなうため、因果関係が認められれば労災として認定されます。
パワハラについて労災申請する際の流れ
パワハラを受けたため、労災保険の給付を受け取るためには、労働基準監督署へ労災申請をしなければなりません。
労災認定の申請手続きは、基本的に被災した労働者もしくは遺族が実施します。
労災申請する際の流れを説明しますので、参考にしてください。
- 必要書類を準備・作成する
- 医師から証明書を受け取る
- 必要書類を提出する
①必要書類を準備・作成する
まずは必要書類の準備・作成します。
療養補償を請求する場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」を用意してください。
受診先が労働保形指定医療機関であるか、厚生労働省ホームページの「労災保険指定医療機関検索」で確認します。
労働保険指定医療機関で療養した場合には「5号用紙」、それ以外で療養した場合には「7号用紙」を用意し記入します。
②医師から証明書を受け取る
労働保険指定医療機関以外で療養した場合、医師からの証明書が必要です。
労災申請をすると伝えると対応してもらえるため、病院に問い合わせてください。
③必要書類を提出する
必要書類を全て用意できれば、それらを提出します。
5号用紙の場合は病院に、そして7号用紙の場合は会社を管轄する労働基準監督署に提出します。
それぞれの提出先が異なるため、間違えないよう注意してください。
書類内に「事業主証明欄」という箇所があり、この部分は会社が労災の証明を記載しなければなりません。
もし会社が書類記載に応じない場合は空白のままでも申請自体は受理されます。
パワハラが労災認定された場合の給付金額
パワハラを理由に労災認定された場合は、労災保険から以下のいずれかが支給されます。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 障害補償一時金
自身が申請するべき給付金を正しく把握するためにも、それぞれの内容と給付金金額を詳しく説明します。
療養補償給付
療養補償給付金は、労災より治療が必要になった場合の給付で、労働者が業務中や通勤途中に被ってしまった病気やけがの治療費を全額補償するものです。
基本的に労働保険から支払われ、労災病院や労災保険指定医療機関で治療を受けると治療費がかかりません。
それ以外の病院での労働者の検査や治療、入院、通院にかかる費用の実費相当額が支払われます。
支給額は受診期間によって異なります。
治療をおこなうことによって病気やけがが完治する、もしくは症状固定になるまでにかかった費用が支払われます。
休業補償給付
休業補償給付は、仕事を休んだ場合に給付されます。
労働者が業務中や通勤途中に被ってしまった病気やけがにより働くことができず、仕事を4日以上休業してしまい、その際に受け取れなかった賃金の補償をするものです。
労働者は休業4日目から給付金を受け取れることができ、業務災害の場合のみ、3日目までは事業主が1日につき平均賃金の60%の休業補償をおこなうよう定められています。
休業補償給付は「給付基礎日額(平均賃金)の60%+給付基礎日額(平均賃金)の20%(特別支給額)」という方法で算出します。
したがって「給付基礎日額(平均賃金)の80%」が補償されることになります。
障害補償一時金
障害補償一時金は、パワハラによる精神疾患が後遺障害として残った場合、障害補償などを保障する一時金です。
労働者が業務災害や通勤災害で被った病気やけがが、症状固定と診断されても後遺障害が残ってしまった場合、本来得られるはずだった利益を保障するものです。
障害等級は第1級から第14級までわけられており、労働者に残った障害の等級によって、給付の種類と金額が決定されます。
たとえば精神疾患の行為障害は、通常9級と12級、14級にわけられています。
9級の場合は給付基礎日額の391日分、12級の場合は給付基礎日額の156日分、14級の場合は級不起訴日額の56日分が支給され、あわせて後遺障害の程度に応じた特別支給額が支給されます。
パワハラで労災認定を受けるためのポイント3つ
パワハラでスムーズに労災認定を受けるためのポイントを3つ紹介します。
1. できるだけ多くの証拠を集めておく
パワハラで労災認定を受けるには、できるだけ多くの証拠を集めておくことが大切です。
パワハラにより精神障害を発症した場合、次のようなものが証拠として役立つ可能性があります。
- メール・LINE・チャットの履歴
- 音声の録音や動画
- 加害者や日時、場所、具体的なパワハラ内容をまとめた記録メモ
- 会社への相談記録
- 会社がパワハラを認めた記録
- 加害者の謝罪文や陳述書
- 精神障害の診断書や担当医による意見書 など
メールやLINE、音声などはパワハラの事実を証明するだけでなく、労災認定の際にも効果的な証拠になり得ます。
また、社内での不当な配置転換や退職要求、解雇などが原因で精神障害になった場合には、上述したもの以外に次のようなものが証拠になることがあります。
捨てずに大切に保管しておきましょう。
- 退職の推奨や教養に関する記録
- 解雇通知書や解雇理由通知書
- 雇止め通知書
- 配置転換や転勤、出向の命令書
- 組織票や組織図 など
2. 労災保険の給付金には時効がある
労災保険の給付金には時効があることを忘れてはいけません。
給付金の種類によって時効までの期間が異なるため、十分に確認してください。
療養給付金は、療養の費用を支出した日の翌日から2年間、休業補償給付金は、賃金を受け取れない日の翌日から2年間、障害補償給付金は請求事項はなく、その翌日から2年間です。
時効の期間が過ぎてしまうと、労災給付についての請求ができなくなるので注意しましょう。
給付金の種類 | 時効期間 |
---|---|
療養補償給付 | 治療費を支払った日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
休業補償給付 | 給与の支払いを受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
障害補償給付 | 症状が治癒した日の翌日から5年 |
3. 自力で対応できるか不安な場合は弁護士に依頼する
パワハラによる労災給付の請求が、自力で対応できるか不安な場合は、弁護士に依頼することがおすすめです。
弁護士はトラブルのケースに応じてさまざまな対応をおこなってくれ、自力で対応するよりも早期解決が望めるため、労働問題が得意な弁護士に相談してみましょう。
パワハラの被害者が弁護士に依頼するメリット3つ
パワハラの被害者が弁護士に依頼するメリットを解説します。
1. 証拠集めや申請手続きのアドバイスをしてくれる
弁護士に依頼することの最初のメリットは、証拠集めや申請手続きのアドバイスをしてくれることです。
証拠集めや申請の手続きは弁護士がおこなうものではなく、自分自身でおこなわなければならないのですが、より効果的な証拠集めのアドバイスをもらえることでしょう。
また自分ひとりでは不安な気持ちになりながらおこなう申請の手続きも、スムーズに進められるでしょう。
パワハラ労災の認定には初動の行動が肝要になるため、精神的に大きな安心感を持つためにも法律のトラブルは弁護士への依頼がおすすめです。
2. 会社とのやり取りを一任できる
会社とのやり取りを弁護士に一任できることも、依頼者にとっては大きなメリットです。
パワハラへの対応は、書類の作成や裁判所での手続き、勤務先との交渉が必要です。
このようなやり取りや手続きは、自分ひとりでおこなうことは難しく、強いストレスに晒されかねません。
弁護士に依頼することで、代理人として全てのやり取りを一任することができます。
会社とのやりとりによるストレスが緩和され、正確かつ素早く進めてくれるため、対処が早く進むことでしょう。
3. 慰謝料請求や刑事告訴なども依頼できる
パワハラ被害については、労災認定を目的とする解決だけでなく、慰謝料請求や刑事告訴などができる場合があります。
パワハラで不当解雇された、度重なる暴言や嫌がらせにより精神疾患を発症した、といった場合は損害賠償の請求が可能です。
しかし、具体的な損害賠償額の算出や、請求方法の検討、書面の作成など、難しい作業が多くあるため、実際にこれらを自身でおこなうのは難しいでしょう。
このような場合も弁護士に依頼することで、労災認定と同時に対応してもらうことができます。
特に加害者の言動が悪質の場合、犯罪に該当すると刑事告訴をすることにより、刑事罰を与えられる可能性があります。
この場合も告訴状の作成や提出は自身でおこなうことが難しいため、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
さいごに|パワハラ被害に遭った際は、まず弁護士に相談を
パワハラによる強い心理的ストレスを受けると、さまざまな不調が心や体に起こります。
パワハラによりダメージを負った被害者は、労災認定のために動くことも億劫な場合もあるでしょう。
時効などで泣き寝入りしてしまうことのないよう、パワハラや労災に関する手続きについて詳しい弁護士に頼るとよいでしょう。