会社都合退職とは?自己都合退職にしてほしいといわれたときの対処法も解説


会社都合退職は、会社の倒産や社内のいじめなど、会社側の都合で退職に追い込まれた際に該当します。
厚生労働省が公表する「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、調査対象1万5,200事業所のうち、平均有効回答率は59.1%になっており、会社都合退職は以下の状況でした。
- 男性:全体の7.3%
- 女性:全体の7.8%
契約期間の満了や定年退職などを除くと、自己都合退職は男性が全体の59.8%、女性は70.3%ですが、会社都合と自己都合では退職金や再就職などに違いが出ます。
本記事では、会社都合退職と自己都合退職の違いや、会社から自己都合退職するようにいわれたときの対処法などをわかりやすく解説していきます。
【参考】令和3年雇用動向調査結果の概況
会社都合退職とは?自己都合退職の違い
会社側の事情で退職した場合は会社都合退職になりますが、自己都合退職とは退職金や失業給付などの扱いが異なります。
会社都合退職と自己都合退職の違いや、具体的な退職理由は以下を参考にしてください。
会社都合退職
会社側の都合による一方的な労働契約の解除や、何かしらの辞めざるを得ない状況で退職するなど、以下のような退職理由は会社都合退職になります。
- リストラによる人員整理
- 会社の倒産
- 退職勧奨による退職
- 希望退職制度による退職
- 派遣社員の雇い止め
- 労働契約内容と労働実態が大きく異なっている
- 賃金の未払い
- 慢性的な長時間残業
- 上司や同僚からのパワハラやセクハラ
- 勤務地が遠くなり通勤できなくなった
一定の場合に有期労働契約が更新されなかったときや、支店・支社などの閉鎖や移転により、通勤が困難になった場合は会社都合による退職です。
自己都合退職
自己都合退職は退職理由が労働者側の事情になるため、以下のようなケースが該当します。
- 独立開業やキャリアアップ
- 結婚や育児
- けがや病気による療養
- 家族の介護
- 懲戒解雇
会社側からの一方的な解雇であっても、懲戒処分に該当する理由があれば、自己都合による退職となることが通例です。
なお、自宅で親を介護している労働者が遠方へ転勤となり、介護を続けるために退職せざるを得なかった場合、失業給付の扱いは会社都合退職になるケースがあります。
会社都合退職のメリットとデメリット
会社都合で退職した場合、以下のようなメリットやデメリットがあります。
失業給付の受給においては有利になりますが、再就職の条件は厳しくなるでしょう。
会社都合退職のメリット
会社都合退職には以下のメリットがあります。
- 失業給付金を早い時期に受け取れる
- 失業給付金の給付期間が長い
- 会社から解雇予告手当が支給される可能性がある
退職理由が会社都合の場合、待機期間の7日間を過ぎると受給開始となり、概ね1ヵ月後に最初の失業給付金を受け取れます。
失業給付金の給付期間も最大330日なので、自己都合退職よりも長くなっています。
また、会社都合退職の場合、解雇日の30日以上前には解雇予告しなければなりませんが、即日解雇したときや、解雇予告が遅れたときは解雇予告手当が支給されます。
即日解雇は平均賃金の30日分、20日後の解雇予告であれば、「30日-20日=10日分」の解雇予告手当をもらえます。
なお、退職金は就業規則などに規定されており、勤続年数などを基準に計算しますが、会社都合退職の場合は基本的に減額がありません。
会社都合退職のデメリット
会社都合退職の場合、転職活動にデメリットが生じるケースがあります。
履歴書の職歴欄に「○○社を会社都合により退職」と記載した場合、「採用するとトラブルになるかもしれない」と判断される可能性があります。
退職理由が会社の倒産など、自分に落ち度がなければ問題ありませんが、能力不足や業務の怠慢などを理由とする解雇などの場合、採用されにくいでしょう。
会社都合退職は失業給付などの優遇措置を受けられますが、金銭的なメリットは一時的なものに過ぎないといえるかもしれません。
自己都合退職のメリットとデメリット
自己都合退職の場合、メリットやデメリットは以下のようになります。
失業給付の優遇は受けられませんが、会社都合退職に比べると転職は有利となる場合が多いです。
自己都合退職のメリット
自己都合退職の場合、有利な条件で転職できるメリットがあります。
面接時には「前職のキャリアを御社で活かせる」などの意欲アピールできるので、面接官や採用担当者に好印象を与えられるでしょう。
また、一般的に、履歴書の退職理由も「一身上の都合」だけで構いません。
企業が抱えている課題や主力商品、経営方針などを調べ、自分のキャリアがどう役に立つのかアピールできれば、給与面などの条件も優遇してもらえる可能性があります。
自己都合退職のデメリット
自己都合退職すると、以下のように金銭的なデメリットがあります。
- 失業給付金の受給開始が遅い
- 退職金を減額されるケースがある
自己都合で退職した場合、失業給付は原則として待機期間の7日と2ヵ月後から支給開始となります。
退職金は勤続年数に応じて支払われますが、会社によっては退職金の減額が規定されているケースもあります。
すでに転職先が決まっていれば特に問題はありませんが、自己都合退職の場合は少なくとも2ヵ月分以上の生活費を確保しておいた方がよいでしょう。
会社が自己都合退職にしたがる理由
会社都合で労働者が退職すると、会社は雇用関係の助成金を受け取れなくなる場合があります。
また、移住者の中途採用や高齢者などを雇用した場合、国の助成金制度を利用できますが、会社都合で退職させると受給できなくなるケースがあります。
会社が自己都合退職にしたがる理由は、助成金が目当てになっている場合もあるでしょう。
「転職しやすいから」などの理由で自己都合退職を勧められても、本来の退職理由が会社都合であれば、応じるかどうかを慎重に考えてください。
特定受給資格者や特定理由離職者に該当するか特定受給資格者や特定理由離職者に該当すれば会社都合退職の扱いになるため、失業給付の優遇措置を受けられます。
以下のような退職理由であれば、ハローワークが認めた場合に限り、特定受給資格者または特定理由離職者になります。
【特定受給資格者】
- 会社の倒産または営業所や事業所の閉鎖
- 事業所移転で通勤が困難になった場合
- 懲戒解雇以外の解雇
- 給与の支給遅延や正当理由がない減額
- 慢性的な長時間残業 など
【特定理由離職者】
- 雇い止め
- 家族の介護
- けがや病気、出産や育児などの正当理由による退職 など
なお、自己都合退職を会社都合退職に切り替えるときは、ハローワークに証拠を提示しなければなりません。
退職理由が慢性的な長時間残業であれば、入退室の管理データや超過金命令簿などが必要になるでしょう。
自己都合退職するときの流れ
自己都合退職するときは、準備から退職までおおむね以下のような流れになります。
職業や職種によっては後任への引き継ぎに時間がかかるので、余裕のあるスケジュールを組んでください。
会社に対する退職の申出雇用期間に定めがない正社員の場合、2週間前までに退職の申出をすれば法的には問題ありません。
退職の申出と事務引継ぎ
退職の意思が決まったら、上司に退職願を提出します。
上司は後任人事を考えなくてはならないので、退職申出のタイミングは早いほうがよいでしょう。
担当事務を引き継ぐときはスケジュールを作成し、有給休暇の消化に入る前、または退職日の2~3日前には完了するように調整するのがよいでしょう。
重要事項をノートなどに書き出し、完了・未完了を管理すると、引継ぎ漏れを防止できます。
担当顧客や取引先へのあいさつも早めに済ませておけば、後任者への引き継ぎもスムーズになるでしょう。
有給休暇の消化
有給休暇に残日数があれば、退職日までに消化する場合が多いです。
休暇を消化する前にはデスクやロッカーなどをチェックし、私物の引き上げや会社からの貸与物の返却をおこないましょう。
退職金の受け取りと再就職の準備
退職に際し、離職票や源泉徴収票、雇用保険被保険者証などを受け取ります。
退職金の振込は1~2ヵ月後になる場合が多く、無収入の期間が生じる可能性があるので、再就職の準備を着実に進めてください。
また、再就職するまでの間は無保険になるため、会社の健康保険を任意継続する、または国民健康保険に加入するなど、けがや病気に備えておく必要もあります。
失業手当を受け取る流れ
失業保険は一般的に失業手当と呼ばれており、受給までの流れは以下のようになります。
会社都合退職 |
自己都合退職 |
退職 |
|
ハローワークに離職票などを提出 |
|
7日の待機期間 |
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雇用保険受給説明会 |
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1回目の失業認定 |
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1週間後に支給開始 |
3ヵ月の給付制限 |
※支給期間は90~330日間 |
2回目の失業認定 |
4週間後に支給開始 |
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※支給期間は90~150日間 |
再就職が決まるまで、または支給期限の終了までに失業認定されると、4週間ごとに失業給付金が振り込まれます。
自己都合退職の場合、2回目の認定で失業状態が認められると、7日以内に1回目の給付金が振り込まれます。
詳しくは管轄のハローワークにお問い合わせください。ただし、求職活動していることが必要となるので注意してください。
失業手当を受け取る際の必要書類
失業手当の受給をハローワークに申請するときは、以下の書類を提出してください。
- 雇用保険被保険者離職票
- 個人番号がわかるマイナンバーカードや通知カード、または個人番号が記載された住民票
- 運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書
- 縦3.0cm×横2.5cm程度の証明写真2枚
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
雇用保険被保険者離職票は前職の勤め先から送付され、退職日から10日~14日後には自宅に届くことが一般的です。
なお、ネット銀行の口座は振込先にできない場合があるので注意してください。
会社都合退職を隠して再就職したときの影響
会社都合で退職したにも関わらず、退職理由を自己都合にして再就職した場合、以下のような影響が発生します。
退職理由のごまかしは本人だけではなく、転職先の会社にも悪影響が及ぶので注意してください。
会社都合退職を隠すと懲戒解雇の可能性あり
会社都合退職を隠して再就職すると、懲戒解雇される可能性があります。
退職理由が職務怠慢や重大なミス、横領などの違法行為にも関わらず、事実を隠して自己都合退職と偽った場合、再就職先への背信行為や経歴詐称となります。
事実の隠ぺいが発覚すると、入社前であれば不採用になりますが、仮に採用されたとしても懲戒解雇される可能性があります。
会社都合退職はどうやって発覚する?
会社都合退職を隠して自己都合退職にしても、以下のように調査されるとすぐに事実が発覚します。
- 離職票
- 失業給付の受給状況
- 前歴照会
- 人づてに退職理由が伝わる
離職票は以前の会社が作成するため、退職理由が履歴書と異なっていれば、自己都合退職ではないことがわかります。
また、失業給付金の受給期間が長いなどの事情があれば、会社都合退職がすぐに発覚するでしょう。
会社によっては採用者の前歴照会をおこなっており、また、経営者同士のつながりや、かつての同僚のSNS発信など、人づてに退職理由が伝わってしまうケースもあります。
会社都合退職が不当解雇に該当するケース
解雇(会社都合)された場合であっても、解雇に合理的な理由がなければ、不当解雇に該当します。
正当理由なく解雇されたときは、以下のように対処してください。
不当解雇に該当するときの対処法
解雇理由に正当性がないと考えるときは、まず証拠を集めておきましょう。
解雇が不当であると考えるときは、以下の対処法を検討してください。
- 自分で会社と和解交渉する
- 労働局の総合労働相談コーナーであっせんを利用し、会社と和解交渉する
- 裁判所に調停を申し立てて会社と和解する
- 労働審判を申し立てる
- 民事訴訟を提起する
なお、給与や残業代の未払いがあるときや、パワハラの被害でうつ病になり、慰謝料請求が必要になるような、争点が多岐にわたる場合などは、訴訟を起こしたほうがよいでしょう。
さいごに|会社都合退職と自己都合退職はメリット・デメリットの比較が重要
会社都合退職と自己都合退職では、メリット・デメリットが異なるため、失業手当などの条件を比較検討する必要があります。
自己都合退職は失業手当の優遇措置がなく、退職金が少なくなる可能性もありますが、条件のよい転職先が決まっていれば、あまり大きなデメリットにはならないでしょう。
ただし、会社都合退職にも関わらず、自己都合退職にした場合は経歴詐称になり、懲戒解雇される恐れがあるので要注意です。
会社を退職するときは、会社都合と自己都合の違いをよく理解しておきましょう。