不当解雇とは?不当解雇になるケースと請求できる金銭を解説


不当解雇とは、簡単にいうと会社の都合で一方的に従業員を解雇することをいいます。
不当解雇を受けた方の中で、「突然解雇だと言われて、納得がいかない」「解雇になったけど、受け入れるしかないの?」と悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論からお伝えしますと、解雇を裁判所が不当解雇だと判断したら解雇は無効になります。
本記事では、不当解雇への対処法や、労働局などの相談窓口を詳しく解説しています。
不当解雇とは?通常の解雇とどう違う?
解雇とは、会社側の一方的な都合による労働契約の解除であり、30日以上前に解雇予告する、または30日以上の平均賃金を支払っていれば、労働基準法上の手続き的には適法です。
ただし、解雇理由に社会通念上の正当性がなく、客観的な合理性もなければ労働契約法第16条に違反するため、不当解雇に該当します。
不当解雇の考え方はかなり抽象的なので、社員が会社を相手取り、法廷で争うケースも少なくありません。
解雇理由に納得できない場合、まず適法かどうかを疑ってみるべきでしょう。
解雇の種類
解雇には普通解雇や整理解雇などの種類があり、いずれも会社都合による労働契約の解除です。
社員に落ち度がなくても解雇される場合があるので、具体的な解雇理由は以下を参考にしてください。
普通解雇
普通解雇とは、問題行動のある社員や、労務提供できなくなった社員との労働契約解除です。
以下のような状況の解雇であれば、普通解雇に該当します。
- 正当理由のない遅刻や欠勤、早退の繰り返し
- 協調性の欠如
- 業務命令違反
- 能力不足や成績不良
- けがや病気による労働能力の低下
- 職場規律の違反 など
会社は就業規則に解雇の項目を定め、該当する社員に対して解雇を通知できます。
整理解雇
整理解雇とは、余剰人員を削減するための解雇です。
会社が事業を再構築する際、人員削減が必要となった場合に整理解雇がおこなわれます。
整理解雇は経営課題のクリアが目的になっているため、落ち度がまったくない社員でも解雇対象になる可能性があります。
ただし、就業規則に照らし合わせ、何らかの落ち度がある社員を解雇対象にするケースが多いでしょう。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、就業規則の懲戒事由に該当する社員の解雇です。
社員に以下のような問題行動があれば、懲戒解雇される可能性があります。
- 無断欠勤
- 業務上横領
- パワハラやセクハラ
- 経歴詐称
- 転勤などの重要な業務命令の拒否
懲戒解雇は懲罰処分になるため、解雇予告手当や退職金をもらえないケースがあります。
不当解雇に該当するケース
解雇理由に合理性がなく、解雇手続きが正規の手順ではなかった場合、不当解雇に該当するケースがあります。
以下のような状況で解雇されたときは、不当解雇になる可能性があるでしょう。
普通解雇の場合
普通解雇は能力不足や成績不良、協調性の欠如などを理由としていますが、以下のような状況であれば、不当解雇になる可能性があります。
- 社員育成のための指導や研修、面談などが不十分
- 社員の適性を考慮した配置転換をおこなっていない
- 療養のための休暇を与えていない
- 業務上のけがや病気で休業している期間および、その後30日間の解雇
- 産休中および産休明け30日間の解雇
会社は安易な理由で社員を解雇できないため、能力育成や適材適所を探すなど、企業努力がなければ不当解雇に該当するでしょう。
整理解雇の場合
整理解雇では落ち度がない社員も解雇対象になりますが、以下の条件をクリアしていなければ不当解雇に該当します。
- 人員削減の必要性があること
- 公正な人選になっていること
- 会社が解雇の回避努力をおこなっていること
- 社員への説明会を開いていること
- 代表社員や労働組合と協議していること
事業の再構築を理由に解雇する場合、人員削減が欠かせなかったかどうかを問われます。
整理解雇は「経営難だから仕方がない」と諦めがちですが、役員報酬のカットや残業の削減など、会社に解雇回避の努力があったかどうかもみておく必要があります。
恣意的な人選も許されないため、解雇後の生活に影響が出にくい社員を対象にするなど、公正な観点が求められるでしょう。
整理解雇の対象者には解雇条件などを丁寧に説明し、労使間の十分な協議も必要です。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇になる問題行動があっても、以下のようなケースは不当解雇になる可能性があります。
- 無断欠勤を理由に解雇したが、事情聴取や改善指導をおこなっていない
- パワハラの報告があったため解雇したが、本人から事情聴取していない
- 勤務態度や能力に問題はないが、1回の重大ミスのみで解雇した
社員に反省を促しておらず、育成する努力もしていなければ、懲戒解雇は認められないでしょう。
不当解雇を受けたときにやるべきこと
会社から不当解雇を受けたときは、以下のように対処してください。
不当解雇は就業規則などを確認するまで判断できないため、証拠を集めておく必要があります。
退職に応じる意思表示はしない
解雇理由に納得できなければ、退職に応じる意思表示はしないでください。
会社側は「今だったら退職金が出る。君なら再就職にも困らない。」など、退職が有利であるかのように説明してくるので、返答にも注意が必要です。
「はい」や「わかりました」などの返答は都合よく解釈され、退職を承諾したものとみなされる可能性があります。
また、「預かるだけだから退職届を書いて」などといわれても、絶対に応じてはなりません。
口頭や書面で退職を意思表示すると、合意退職になるので要注意です。
不当解雇の証拠を集めておく
不当解雇と思われるときは、以下のような証拠を集めてください。
- 就業規則
- 賃金規程
- 労働条件通知書
- 人事評価書
- 始末書
- 業務用のメールやLINE
- シフト表やタイムカードのデータ
- 解雇通知書
- 解雇について会社側とやりとりしたメモなど
就業規則や賃金規程、労働条件通知書などの書類は、会社から開示してもらえる可能性が高いので、会社が定める解雇条件に該当していたかどうか判断できます。
始末書は解雇の裏付けになりますが、もともと社員に書かせていない場合や、会社が開示を拒否したときは、解雇するほどの問題ではなかったものと判断できるでしょう。
解雇理由証明書を請求する
会社には解雇理由証明書の交付が義務付けられており、解雇を通知された社員は、会社に対して、解雇理由証明書の交付請求できます。
解雇理由証明書に記載された解雇理由が就業規則にないときや、「問題行動が多く社員としての適性を欠く」などの抽象的な内容であれば、正当な解雇とはいえません。
解雇理由証明書は不当解雇の証拠になりやすいので、必ず入手しておきましょう。
なお、解雇理由証明書は退職日までに請求しなければならないため、すでに退職しているときは、会社に退職証明書を請求してください。
法的措置をとる
不当解雇した会社を訴えるときは、法的措置も検討してください。
法的措置には以下の種類があり、会社との和解を目指すときは調停や審判、徹底的に争う場合は労働裁判を選択できます。
調停や審判
裁判所に調停を申し立てると、調停委員を介して会社と和解交渉できるので、不当解雇を撤回してもらえる可能性があります。
ただし、調停は裁判官の判決が出ないため、会社が和解案に納得しないときは調停不成立となります。
労働審判は調停と裁判の中間的な手続きになっており、原則3回の審理によって裁判官から一定の結論が出されるため、短期間で不当解雇を解決できるでしょう。
なお、会社が審判の結果に異議を申し立てた場合、通常訴訟へ移行するため、労働裁判で不当解雇を争うことになります。
労働裁判
労働裁判では社員が原告となり、会社を被告として不当解雇を争います。
裁判は証拠に基づく主張・立証が必要になってくるので、就業規則や労働条件通知書、解雇理由証明書などの書類は必ず準備してください。
また、審理中は月1回程度の口頭弁論があり、双方の主張がすべて出たところで裁判官の判決が下るため、一般的には1年程度の期間がかかります。
労働裁判では会社の行った解雇が不当解雇であることを主張・立証できるかどうかが重要なポイントになるでしょう。
不当解雇を受けたときに請求できる金銭
会社から不当解雇を受けた場合、解雇予告手当などの金銭を請求できるケースがあります。
解雇理由が正当だったときはもらえない金銭もあるので、請求の要件などは以下を参考にしてください。
未払いの給料や残業代
給料や残業代は労働への対価になるため、未払い分は解雇されても請求できます。
未払いの賞与や手当ても請求できますが、解雇理由によっては減額される可能性があるので注意してください。
また、未払いの給料や残業代を請求する場合、自分で金額を計算しなければならないため、給与明細やタイムカードなどが必要です。
計算方法がわからないときは、給与計算の担当者に協力してもらいましょう。
解雇日以降に発生した賃金
解雇理由に正当性がない場合、労働契約は継続しているため、解雇日以降に発生した賃金も請求できます。
本来、働いていなければ賃金は発生しませんが、不当解雇は「会社側の責任で労働の機会を奪われた」という状況になるので、賃金を請求することができます。
解雇予告手当
解雇予告手当とは、解雇日の30日以上前に会社が解雇予告していなかった場合、1日あたりの平均賃金をもとに支払われる金銭です。
解雇予告手当の計算方法は以下のようになっています。
- 解雇予告手当:1日あたりの平均賃金×予告期間が30日に足りていない日数
- 1日あたりの平均賃金:解雇予告日直前の賃金締日から3ヵ月間に支払われた賃金総額÷解雇予告日直前の賃金締日から3ヵ月間の総日数
なお、賞与(年2回払いの場合など)や一時金、産休や育休中の給料、労災で休んでいる間の給料などは賃金総額に算入できません。
退職金
会社が就業規則に退職金制度を定めている場合、退職に合意するときは退職金を請求できます。
ただし、退職金の支払いには法的義務がないため、退職金制度のない会社は請求に応じてもらえない可能性があるでしょう。
また、正当理由で懲戒解雇された場合は退職金の不支給、または減額される場合もあります。
失業保険の仮給付
失業保険は仕事を失った労働者への補償ですが、解雇の無効を争っているときは失業保険の仮給付を受けられます。
ただし、通常の失業給付と同じ受給要件を満たす必要があり、調停や審判の申立書などを提出し、会社と争っていることを証明しなければなりません。
また、解雇が無効になった場合、受給額を返還することになるので注意してください。
慰謝料
解雇理由に納得しない社員を侮辱したり、暴言を浴びせたりするとパワハラになるため、うつ病などの精神疾患になった場合は慰謝料を請求できます。
会社側に慰謝料請求するときは証拠が必要になるので、パワハラの内容のわかる録音やメール、病院の診断書をもらっておきましょう。
不当解雇を受けたときの相談窓口
会社から不当解雇を受けたときは、以下の相談窓口を利用してみましょう。
解雇理由に正当性がない場合、公的機関が会社を指導してくれるケースがあります。
労働基準監督署の総合労働相談コーナー
労働基準監督署には総合労働相談コーナーが設置されており、不当解雇などの相談に対応しています。
総合労働相談コーナーのあっせんを利用すると、専門家を交えて会社と和解協議できるので、解雇を撤回してもらえる可能性があります。
なお、あっせんには強制力がないため、専門家が提示した和解案に会社が納得しなければ、あっせんは不成立となります。
労働局
不当解雇を労働局に相談すると、会社への指導や、必要に応じて是正勧告などを措置してくれます。
労働局が介入する事態になれば、会社側も考え方を改める可能性があるでしょう。
ただし、労働者の味方になってくれるわけではないので、仮に解雇が撤回されたとしても、未払い賃金や慰謝料などは自分で請求しなければなりません。
弁護士
不当解雇を弁護士に相談すると、以下のように対応してくれます。
- 証拠収集のアドバイス
- 解雇の有効性の分析
- 復職や解決金の支払いを目指した会社側との交渉
- 未払い賃金の計算および請求
- 慰謝料請求
- 訴訟手続きの代理
不当解雇の証拠は業種や業態によって異なるので、何を集めたらよいのかわからないときは、弁護士のアドバイスが参考になるでしょう。
また、弁護士に証拠を提出すると、解雇するほどの問題であったかどうか分析してくれます。
弁護士は依頼者の代理人になれるので、会社側が高圧的な態度をとっており、解雇撤回の主張がストレスになるときは、代理交渉を依頼してください。
さいごに|不当解雇を争いたいときは証拠を押さえておきましょう
会社の都合で一方的に労働契約を解除されると、労働者は収入が断たれてしまい、生活も不安定になります。
合理性のない解雇は絶対に認められないので、不当解雇を受けたときは退職の意思表示をしないように注意してください。
ただし、解雇の有効・無効は証拠がなければ判断できません。
会社と不当解雇を争うときは、就業規則や解雇理由証明書などの証拠を確実に押さえておきましょう。