DVを受けたら離婚できる?離婚手続きの流れや円滑に進めるためのポイントを解説
配偶者からの日常的なDVにより、精神的・身体的にも疲れて早く離婚したいと悩んでいませんか。
被害に遭っていても自分がDVを受けていると気付いていない、自分に原因があるという考えから、必要のない我慢を強いられている方は少なくないでしょう。
本記事では、DVを受けたら離婚できるのかを解説したうえで、手続きの流れや円滑に進めるためのポイントにも触れていきます。
現在の環境から人生をやり直すためにも、ぜひ参考にしてください。
DVを理由に離婚することは可能
DVを理由に離婚できないと認識している方は一定数いるかもしれませんが、法律では婚姻関係を継続し難い重要な事由がある場合の離婚は可能です(民法770条1項5号)。
そのため、ひどい暴力が続いている場合、我慢し続ける必要はありません。
DV被害を受けていると身体や生命に危険が及び、子どもがいる場合は成長過程に悪影響を与える可能性があります。
なお、DVは第三者から発覚しにくいため、被害者が積極的に動かなければ解決しないケースは少なくありません。
離婚を成立させるためにも、自ら積極的に行動を起こしましょう。
離婚できる可能性があるDVの種類
DVは配偶者だけでなく、事実婚の相手や同棲相手から受けるさまざまな暴力のことです。
殴る・蹴るといった身体的な暴力はもちろん、怒鳴ったり無視したりするなどの目に見えない暴力もDVに該当します。
身体的DV
身体的DVは、身体に直接危害を加えけがを負わせるような暴力です。
なお、身体的DVには次のような行為が該当します。
- 殴る、蹴る、叩く
- 首を絞める
- 髪を引っ張る
- ものを投げつける
- 刃物を突きつける
なお、以上の行為は傷害罪や暴行罪など刑法上の犯罪行為にもなり得ます。
精神的DV
精神的DVは心ない言動で相手の心を執拗に傷つける、恐怖心で支配する行為であり、一般的に「モラハラ」と呼ばれています。
なお、精神的DVには次に挙げる行為が該当します。
- 暴言罵声を浴びせる
- 無視をする
- 人前で馬鹿にする
- 子どもに危害を加えると脅す
- 親族や友人に会うことや外出を禁止し、社会的に孤立させる
- 大切にしているものを捨てる、壊す
- 大声で怒鳴る
- 長時間にわたり執拗に説教する
精神的DVは外傷がないことから、周囲は気づきにくいという特徴があります。
性的DV
性的DVはパートナーが嫌がっているのにもかかわらず無理やり性行為を強要する、妊娠中絶を強要する、避妊に協力しないような行為をいいます。
たとえ夫婦間でも、暴力や脅迫を用いた性交は許されません。
なお、性的DVには次に挙げる行為が該当します。
- 性行為の強要
- 無理やり性行為の動画を見せる
- 嫌がっているのに裸の写真や動画を撮る
- 子どもができないことを一方的に責める
- 自分の浮気を無理やり認めさせる
たとえ夫婦間の性行為であったとしても、刑法の不同意性交等罪に該当する可能性があります(刑法177条)。
経済的DV
経済的DVは、夫婦間で経済的に優位な立場にある方が家庭のお金をコントロールし、相手を経済的に追い詰め支配する行為です。
金銭的に自由を与えられず、厳しい束縛を受けるなど金銭的な自由が奪われます。
なお、経済的DVには次に挙げる行為が該当します。
- 生活費を渡さない
- 仕事をさせない、辞めさせる
- 買いものの決定権を与えない
- ギャンブルや自分の趣味などに収入の大半を使う
- 家計の使い方を細かく確認する
- 相手のお金を取り上げる
- 相手の貯金を使い込む
- 相手名義で借金をさせる
経済的DVの被害者は専業主婦や夫のどちらかががお金を管理している家庭に多く、生活費が足りずに借金をする事例もあります。
また、経済的状況は家庭によって異なるため、被害者自身が被害を自覚しにくいケースは少なくありません。
離婚手続きで必要になるDVの証拠
話し合いや調停の場で離婚の成立に至らなかった場合、最終的に裁判で争います。
なお、裁判によりDVによる離婚と慰謝料を認められるためには、DV被害の客観的な証拠が必要です。
ここからは、離婚手続きで必要になるDVの証拠について解説します。
医師の診断書・受診歴
医師の診断書や医療機関への受診歴は、DV被害を証明するうえで非常に有力な証拠となります。
診断書や受診歴はDVを受けていた期間・頻度・けがの程度・行為の悪質性などを証明できるため、些細なけがでも、DVを受けた証明として医師からの診断書を取得しておきましょう。
また、外傷だけでなく暴力や暴言などが原因でうつ病や不眠、過呼吸、PTSDなどの精神疾患を発症した場合も、精神科や心療内科を受信して医師からの診断書を取得しましょう。
けがが複数ある場合は、小さなものでも全て医師に申告してください。
あわせて、要治療期間も記載してもらいましょう。
そして、医師にはDVが原因であることを必ず伝えましょう。
本当の理由を伝えず「自転車で転んだ」などと嘘の理由を申告した場合、そのまま診断書に記載されてしまい、けがとDVの因果関係がないと判断されてしまいかねないため注意してください。
被害状況がわかる写真や動画
暴力をふるわれたり、ものを投げられたりした場合、どんなに小さいけがでも撮影して写真や動画で残しておきましょう。
けがの箇所と自分の顔が一緒に写るように撮影すると、証拠としての信用度が高まります。
そして、相手が壊したものや暴れたあとの部屋の様子や、殴って壁に穴を開けた写真なども必ず撮影しておいてください。
また、このような写真や動画は医師の診断書と組み合わせることで、裁判官にとってDVを受けていた事実、被害内容、程度、悪質性などを推定するための有力な材料になり得ます。
メール・SNSでのやりとり
メールやSNSのやりとりの中での暴言はもちろん、相手方からの謝罪メールやLINEなども、DVを受けたことやDVをおこなったことを示す証拠になる可能性があります。
証拠となり得るやりとりを削除されないよう、こまめにスクリーンショットなどで残しておきましょう。
電話の録音データ
相手方がDVを認めていたりDVに対して謝罪している様子や、そして自分に対して怒鳴ったり高圧的に接している様子の録音データがあれば有力性の高い証拠となり得ます。
しかし、録音をしていることが相手にばれてしまうと相手を怒らせてしまい、より一層酷いDVを受ける可能性はゼロではありません。
そのため、録音を試みる場合は身の安全を第一に考え、相手に気づかれないよう細心の注意を払いながらおこなってください。
メモや日記に残した記録
DVを証明するためにメモや日記に相手にされたこと、あるいは言われたことを詳しく記録しておきましょう。
しかし、メモや日記だけではDVの証拠となる可能性は低く、ほかの証拠の有力性を補助するものに過ぎません。
具体性のないメモや日記は信用性が低いと判断されかねないため、「いつ・誰が・どこで・誰に・どのようなことをしたか」というポイントを押さえて作成しましょう。
また、DV被害を受けた日とは別に普段の様子についても記しておくと、DVの継続性やモラハラ度が確認しやすいでしょう。
なお、日記やメモの内容をあとで加筆修正すると、証拠としての信ぴょう性が大きく損なわれてしまうため注意しましょう。
公的機関への相談記録
DVを受けている事実を警察や公的機関に相談した場合は、その記録も残しておきましょう。
相談先から相談カードや相談記録などの署名を出してもらうことで、相談日時や内容などを証明することができます。
DVを理由に離婚する場合の一般的な流れ
DVの加害者はまともな精神状態ではない場合が少なくないため、当事者だけでの話し合いは困と考えられます。
では、DVを理由に離婚する場合、どのような流れで進めていくのでしょうか。
ここからは、一般的な流れを紹介するので参考にしてください。
弁護士などを介して夫婦で話し合う
DVが原因で離婚する場合は夫婦の話し合いだけで成立させることは難しいため、弁護士への相談がおすすめです。
DV被害者が加害者に対して離婚を申し出ると相手を逆上させ、より壮絶な暴力をふるわれ命に関わるトラブルに発展する可能性も否めません。
そのため、物理的な距離を置いたうえで弁護士を挟んだ話し合いを進めましょう。
離婚調停を申し立てる
DVを証明する証拠が揃ったら、離婚調停を申し立てます。
いきなり離婚裁判を申し立てることは調停前置主義の原則から認められていないため、まずは離婚調停を申し立て、交渉をおこないます。
離婚調停は、夫婦の間に調停委員を挟んで話し合いをおこないます。
調停での話し合いは全て調停委員らを仲介しておこなわれ、相手と直接顔を合わさずに済むことから被害者の身の安全が確保されているため、冷静に自分の意見を主張してください。
なお、離婚調停の申し立てに必要な書類は次のとおりです。
- 夫婦関係調整調停申立書
- 夫婦の戸籍謄本(3ヵ月以内に発行されたもの)
- 事情説明書
- 子についての事情説明書(未成年の子どもがいる場合)
- 進行に関する照会回答書
- 連絡先等の届出書
- 年金分割のための情報通知書(年金分割について話し合う場合)
上記書類が用意できれば、どちらかの居住地の家庭裁判所、もしくは相手方と合意した家庭裁判所に持参・郵送します。
離婚裁判を起こす
離婚調停の場で相手の合意が得られず調停不成立となった場合、離婚裁判を起こします。
離婚調停はあくまで話し合いの場であるため、解決しなければ最終的に裁判で離婚や慰謝料の額などについて決着をつけます。
なお、離婚裁判では裁判官が当事者の主張や提出された証拠を総合的に考慮して、離婚の可否や慰謝料の額について最終的な判断を下します。
故に、DVの事実を証明する有力な証拠が多いほど離婚を認められる可能性が高く、慰謝料の額も高額になる可能性があります。
離婚手続きを円滑に進めるためのポイント
DVに苦しむ被害者が離婚を検討している場合、手続きを円滑に進めるうえで次のポイントを押さえておきましょう。
別居する
DVを理由に離婚を切り出すと、加害者が炎上してひどい暴力をふるうケースが見受けられます。
離婚を切り出す際は身の安全を確保するため、必ず事前に別居しておきましょう。
別居の準備は相手に勘付かれないように、かつ相手に居住先を知られないよう細心の注意を払い進めなければなりません。
しかし、別居をすると証拠を集めることが難しくなるため、事前に集めておくのが賢明です。
必要に応じて保護命令を申し立てる
別居後は、必要に応じて保護命令を申し立てます。
保護命令とは、被害者の生命や身体に危害が及ぶことを防止するため、DV被害者からの申し立てにより裁判所が接近禁止や自宅からの退去を命令するものです。
なお、保護命令には次の5つが挙げられます。
- 接近禁止命令
- 電話等禁止命令
- 子への接近禁止命令
- 親族等への接近禁止命令
- 退去命令
保護命令は相手方の行動によって検討してください。
仮に保護命令に違反した場合は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律により、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。
第二十九条 保護命令(前条において読み替えて準用する第十条第一項から第四項まで及び第十条の二の規定によるものを含む。第三十一条において同じ。)に違反した者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
専門機関に相談する
DV被害は身近な方だけでなく、専門機関にも相談しましょう。
別居や離婚の手続きを進めるためには、専門機関の相談窓口・警察・弁護士など第三者の加入が必要不可欠です。
たとえば、配偶者暴力相談支援センターでは配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護などを目的に、DV被害者とその子どもの一時保護や生活支援、さらにはカウンセリングや法的措置の情報提供などをおこなっています。
DVで離婚する際に請求できるお金
ここからは、DVが理由で離婚する場合に加害者へ対し請求できる慰謝料額について解説します。
慰謝料|50万円~300万円程度
DVを受けたことに対する慰謝料の相場は、50万円〜300万円程度です。
しかし、長期間にわたりDVを受けている、DVの頻度が高い、内容がひどいなどといったケースでは慰謝料が高額になる可能性があります。
できる限り高額な慰謝料を獲得するためにも、なるべく早い段階で有力な証拠を多く集めておくことが大切です。
また、身体的DVだけでなく精神的DVでも、程度によっては同等の慰謝料請求が可能となる可能性があります。
養育費|離婚しなかった場合と同程度の生活水準を維持できる金額
夫婦に子どもがいる場合は養育費を請求できます。
養育費とは、子どもの生活や教育、医療など、子どもを育てるために必要な一切の費用であり、子どもの福祉のためのお金です。
DV被害の慰謝料とは異なるため、DV被害者が子どもの親権者となる場合は、加害者に対して慰謝料と養育費を別に請求できます。
なお、養育費算定の根幹にある考え方は親と子どもが一緒に生活している場合と、同一の生活水準を確保するというものです。
そのため、離婚しなかった場合と同程度の生活水準を維持できる金額を請求することができます。
婚姻費用|別居中の生活に要した費用
DV被害において一方に収入がない場合、生活費を失うため別居できないという認識をもつ方がいるかもしれませんが、相手に収入がある場合は別居後でも婚姻費用を請求できます。
婚姻費用とはいわゆる生活費のことで、夫婦が分担すべき費用です。
収入がある側が生活費を支払わなければならないため、離婚が成立するまでの間は別居中に要した生活費の支払いを請求できます。
財産分与|原則2分の1ずつ
慰謝料とは別に、財産分与として婚姻期間中に夫婦が築き上げた財産の分配を求められます。
分与の割合は原則として2分の1ずつと定められており、これは専業主婦にも同様に適用されます。
財産分与は婚姻中に築いた財産に応じて金額が決まるため、DVがあったからと増額請求できるわけではありません。
しかし、相手に慰謝料の支払いを拒まれた際は、財産分与の一環として慰謝料に相当する金額を上乗せして請求できます。
DVを理由に離婚手続きを進める際の注意点
DVを理由に離婚手続きを進める際、さらなるDVにも注意しなければなりません。
ここからは、自身と子どもを守りながら慎重に対応するためにも、離婚手続きを進める際の注意点を紹介します。
配偶者と物理的な距離を置く
まずは身の安全を確保するため、配偶者と別居して物理的な距離を置きましょう。
相手に知られない場所に賃貸住宅を借りる、あるいは実家に逃げるなどがおすすめですが、仮にそれらが危険を伴ったり賃貸住宅を借りる余裕がなかったりする場合は、警察や専門機関に相談して公的施設やNPO法人が運営するDVシェルターを紹介してもらいましょう。
DVシェルターには子どもも連れていけるため、生活をしながら弁護士に相談してください。
なお、別居中の生活費は相手に請求ができ、仮に生活費が支払われない場合は生活保護の受給が認められる可能性もあります。
【関連記事】DVシェルターとは?入れる期間や利用条件、その後取るべき対応を解説
直接話し合わない
離婚手続きを進める際は、DV加害者と直接話し合わないようにしましょう。
日常的にDVをしている場合、離婚を切り出されることに逆上し感情的になってしまうおそれがあるため、第三者を交えて離婚の話を進めるほうが賢明です。
DVや離婚問題は弁護士に介入してもらうことで、交渉や条件決めを有利に進められます。
また、法的手段を取るという強気な姿勢を見せることで、今後のDV被害を防止する効果も期待できます。
DVと離婚に関するよくある質問
ここからは、DVと離婚に関するよくある質問を紹介します。
スムーズに離婚手続きを進めるためにも、ぜひ参考にしてください。
DVでの離婚が認められにくいケースは?
DV行為の程度が軽い場合、離婚を認めてもらえない可能性があります。
これは、裁判で離婚が認められる婚姻を継続し難い重大な事由に該当しないと判断されるからです。
婚姻期間・DVの頻度・内容・けがの程度など、さまざまな事情を総合的に勘案して判断されるため、一度だけ平手打ちをされた、言い争いの際に一度だけクッションなどを投げられたといったケースは、離婚が認められるほどのDVには該当しない可能性が高いと考えられます。
DVを理由に離婚を希望する人はどのくらいいる?
法務省が発表した「協議離婚に関する実態についての調査研究業務」報告書によると、DVを理由に離婚を希望する方は女性が全体の約33%、男性が約13.6%というデータが出ています。
配偶者のDVによる離婚は、男女問わず深刻な問題となっていることがうかがえます。
さいごに|DVを理由に離婚を検討する場合は弁護士に相談を!
本記事では、DVを受けている場合は離婚できるかについて解説しました。
DV被害を受けている場合、心身共に危険が及ぶ可能性があるため、放置しておくべきではありません。
日常的に暴力や暴言を受けている場合、脅迫により萎縮してしまうかもしれませんが、相手よりもまずは自分のことを考えてください。
特に、離婚事件の場合は慎重に対応しなければ暴力が繰り返されて、さらにひどい被害に遭うおそれがあるため、適切な方法で離婚手続きを進めなければなりません。
なお、DVを理由に離婚を検討する場合は法律のプロである弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に相談することで法的観点からアドバイスをもらうことができ、保護命令に関する相談もできます。
また、脅迫や恐喝のリスクを回避できるため、精神的なストレスも大きく軽減されるでしょう。
無料相談や電話相談が可能な弁護士も少なくないため、DV被害に遭っている、あるいは今後離婚を考えている方は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。