示談金の相場はいくら?決め方や高すぎるときの対処法を解説


傷害事件を起こし加害者になってしまった場合、被害者が負った損傷や精神的苦痛に対して示談金を支払い、解決を図ることがあります。
この場合、加害者は被害者との示談に応じて適正な価格で慰謝料を支払うことが望ましいでしょう。
なお、犯した犯罪の内容によって示談金の相場は異なりますが、想定より高額な慰謝料を請求された場合はどうすればよいのでしょうか。
本記事では、示談金の相場や決め方、被害者から提示された示談金が高額だった場合の対処法について解説します。
刑事事件の示談とは?お金を払ってでも示談にするメリット
事件における示談とは、被害者と加害者が話し合いにより事件を解決させることです。
しかし、被害者の立場からすれば、どれほど誠意のある謝罪を受けたとしても簡単には納得できないというケースも少なくありません。
そこで、金銭の支払いにより解決を図ることがありますが、この金銭のことを示談金といいます。
ここからは、刑事事件について、お金を払ってでも示談にするメリットを紹介します。
告訴や被害届を取り下げてもらえる可能性がある
示談にするメリットとして、告訴や被害届を取り下げてもらえる可能性があることが挙げられます。
犯罪の中には、被害者が加害者を告訴してはじめて警察が動き出す親告罪に分類されるものがあります。
つまり、被害者からの告訴が取り下げられると罪には問われません。
事件によっては、被害者との示談が成立して告訴を取り下げてもらえると警察はそれ以上の捜査をすることはなくなります。
示談成立により必ずしも被害届を取り下げてもらえるとは限りませんが、示談が成立している案件であれば処分が軽くなる可能性は高いと考えられます。
不起訴になる可能性が高まる
被害届の取り下げに法的な効力はないものの、当事者間で示談が成立して被害届が取り下げられたとなると、警察や検察の判断に大きな影響を与えます。
捜査の初期段階であれば警察が事件を立件しない可能性があり、仮に検挙されたあとでも不起訴処分により前科を付けずに済む可能性が高まります。
もっとも、被害者との示談が成立していても、必ずしもすぐに無罪放免になるわけではありません。
しかし、示談の成立によって「反省している」と評価されることや、被害者の処罰感情も低くなることから、不起訴処分を獲得できる可能性も高まります。
判決の際に良い影響が出る
事件によっては示談が成立しても有罪は免れられない場合があるものの、示談が成立していれば判決の際によい影響が出ることも考えられます。
たとえば、実刑判決が執行猶予付き判決になる、懲役刑が罰金刑に変わるなどが挙げられます。
検察官は事件の起訴の判断を、さらには犯行態様や手口、計画性、事件結果の重大性、犯罪の社会的な影響、加害者の年齢や前科前歴などのほか、被害者の処罰感情も重要な要素として考慮されます。
そのため、示談が成立しているか否かは刑事処分に大きな影響を与えるのです。
さらに、裁判官も判決の際に同様の要素を考慮して判決を下すため、被害者との間で示談することは非常に重要な意味を持ちます。
しかし、刑事事件は被害者が加害者に対して強い怒りや恐怖心を抱いている場合があり、直接交渉に応じてもらえないこともゼロではありません。
このような状況は弁護士に交渉対応の代行を依頼することで、応じてもらえる可能性が高まります。
【事件別】示談金の相場はいくら?
被害者と示談交渉がうまくいったとしても、示談金を支払わない限り民事上の紛争が解決されたことにはなりません。
示談成立には必ず示談金を支払う必要がありますが、実際にいくら準備すればよいのでしょうか。
ここでは、事件別の示談金の相場について解説します。
暴行・傷害事件の示談金相場は10万円~60万円
暴行や傷害事件における示談金の相場は10万円から60万円で、一般的には20万円から30万円程度になることが多いです。
ただし、これはあくまでも相場であり、けがの内容や被害者の気持ちによって実際の金額は異なり、示談金の相場だけではわからないという実態がありますが、実例を見て示談金を確認してください。
- 夫婦げんか、夫が妻を殴った:10万円
- 駅構内でトラブル、ほかの利用客の胸ぐらを掴んだ:45万円
- 路上でトラブル、女性を拳で殴った:50万円
- スタンガンで暴行:60万円
- 全治1週間の肩の打撲:40万円
- 全治1週間の頭部損傷:150万円
- ノコギリで殴ったことによる全治2週間のけが:25万円
- 頭突きによるけがで全治2週間:50万円
暴行の場合、軽微であれば10万円というケースがありますが、激しいけんかや傷害事件になりかねない危険な暴力の場合は高額となります。
窃盗事件の示談金相場は5万円~30万円
窃盗事件の示談金はケースによってさまざまですが、約30万円以下で収まるケースが少なくありません。
一般的に窃盗事件は万引きの被害金額に追加されますが、同じ店で万引きが繰り返されているなど悪質性が認められる場合には、さらに高額になることがあります。
また、窃盗事件の被害は財布や現金、バッグの置き引きもよくありますが、これらも被害金額に追加されることが一般的です。
しかし、被害者の心情が考慮される事案であるため、非常に高額な示談金となる場合もあります。
交通事故の示談金相場は数万円~数千万円
交通事故の示談金相場は、物損事故で数万円から30万円程度、後遺障害の残らない人身事故で数十万円から100万円程度、後遺症の残る人身事故で数百万円から数千万円程度、死亡事故で数千万円から1億円程度です。
交通事故の示談金は治療にかかった費用を合算する、そして慰謝料を計算して損害総額を算出します。
一般的には示談金の概算が出たあと、当事者間で示談金の金額について話し合います。
なお、交通事故の示談金は加害者の自動車任意保険や自賠責保険でまかなえます。
基本的に示談金額は保険会社が計算しますが、全てを保険会社に任せることはおすすめできません。
刑事事件をスムーズに解決するためには、被害者に加害者の厳罰を求めないという旨を記載した嘆願書を作成してもらうほうがよい場合があります。
しかし、保険会社は被害者から嘆願書を取得しない、かつ加害者を許すという文言を記載した示談書も準備しません。
これらを被害者からもらうには、加害者の反省の意や謝罪の気持ちを代わりに伝えてくれる第三者の存在が必要であり、その役目は弁護士が果たします。
十分に反省している姿勢を相手に伝えて不起訴や刑の減刑に繋げて適正な示談金を支払うためにも、交通事故の示談金に関しては弁護士の弁護活動は必須といえます。
風俗トラブルの示談金相場は30万円~50万円
風俗トラブルの場合、示談金相場は30万円から50万円程度です。
風俗トラブルとは盗撮や本番行為の強要、予定されているサービスに含まれない行為、18歳未満の従業員によるサービスです。
これらは犯罪に代わりないため、示談の場合は示談金を準備しなければなりません。
風俗トラブルは高額な示談金を請求されたり、あとから追加請求を受けたりなど、さらなるトラブルに発展する場合がありますが、弁護士への依頼によってこれらのトラブルに対応してもらえるため、高額請求や追加請求のリスクを回避できます。
名誉毀損の示談金相場は50万円~100万円
名誉毀損の示談金相場は、50万円から100万円程度です。
名誉毀損とは公然と事実を摘示し、社会的評価を低下させるなど名誉を毀損する行為をいいます。
ネット上の誹謗中傷が名誉毀損にあたる場合は、個人で10万円から50万円程度、企業は50万円から100万円程度です。
なお、非常に悪質であれば100万円を超えるほどの示談金が認められる場合もあります。
痴漢の示談金相場は20万円~100万円
痴漢の示談金相場は20万円から40万円程度が最も多く、不同意わいせつ罪を構成するものであれば50万円から100万円の場合があります。
痴漢は迷惑防止条例違反の罪に問われることがあり、痴漢の態様が悪質であるほど示談金の額も上がっていく傾向にあります。
事案によってはさらに高額となるケースもあり、個別の事情によって示談金が変わる点には注意してください。
横領・詐欺の示談金相場は数十万円~数百万円
横領や詐欺事件の示談金相場は、被害金額に加えて数十万円から数百万円ほど追加されることが一般的です。
主に、被害額や被害者の処罰感情、犯罪行為に応じて示談金が決まるため、被害額が高額、あるいは被害者が多数いる場合は示談金もさらに高額になると考えられます。
なお、傾向としては被害額を少し上回る金額に加えて、慰謝料で示談の合意となることが多いです。
初犯あるいは再犯であるかという事情はそこまで考慮されないため、初犯であることから示談金が安くなる訳ではありません。
示談金を決める5つの要素|必ずしも相場どおりにはならない
示談金は原則として被害者が実際に受けた損害額を基準に決められますが、犯罪の状況や被害者の心理、加害者の立場も考慮されます。
なお、示談金は犯罪の種類や規模に応じて決まるため、必ずしも相場どおりになるとは限りません。
ここからは、一般的な示談金を決める5つの要素について解説します。
被害の範囲・大きさ
仮に同じ犯罪の種類でも、被害の範囲や大きさが異なれば示談金の額は変わってきます。
たとえば、同じ傷害罪でも被害者が打撲で済んだ場合と骨折をしてしまった場合では大きく異なります。
そして、詐欺罪や横領罪でも10万円の被害と100万円の被害では示談金が変わるのです。
被害者がどの程度の処罰を望んでいるのか
被害者が加害者に対して、どの程度の処罰を望んでいるかによって示談金は変動します。
事件の責任者が罰せられることを期待して、納得のいく罰の提示で満たされることを処罰感情といいますが、示談金にはこれが大きく考慮されます。
そもそも、示談金は被害者に許してもらうための謝罪金であり、被害者と加害者の関係性や事件の経緯によって金額が異なります。
つまり、加害者が被害者に対して反省の気持ちがまったくなく、それが伝わると示談交渉は難航するおそれがあるのです。
被害者が追った精神的苦痛の程度
示談金には慰謝料の要素が含まれているため、被害者が負った精神的苦痛の程度も考慮されます。
そのため、被害を受けた犯罪による被害者の精神的苦痛が大きいほど示談金に影響します。
なお、精神的苦痛の度合いは個人それぞれの感情の部分になるため、第三者をとおして交渉を重ねる必要があります。
加害者の社会的立場や経済状況
加害者の社会的立場や経済状況も示談金に関与しており、たとえば教師が児童に対してわいせつな行為をした場合と、一般的なサラリーマンが児童にわいせつ行為をした場合を比較すると、教師のほうが示談金が高くなる傾向がございます。
また、同じ犯罪でも加害者が経営者である場合と、一般的な大学生で示談金が同じ30万円である場合、経営者であれば支払いは容易い、一方で大学生は反省したうえでなけなしのお金を出したと捉えられるのは自然なことといえるでしょう。
加害者の犯罪歴
加害者の犯罪歴も示談金に大きく影響し、たとえば加害者に犯罪歴がある場合は更なる罪を犯し刑罰が重くなると考えられます。
この場合、加害者にとって残る手段は示談交渉のみと判断されるため、示談金は高額になる傾向にあるのです。
示談金が高すぎる?払えない場合はどうなる?
早期解決のために被害者と示談できても、高額な示談金が提示され支払えないこともあるでしょう。
仮に示談金を支払わずにいると、被害者側から早く支払うようにという内容の督促状が内容証明郵便で届きます。
そして、何度か督促状が届いても支払わずにいた場合は最終的に裁判へ発展し、罪として裁かれてしまいかねません。
では、示談金が高すぎて払えない場合はどうすればよいのでしょうか。
ここからは、3つの対処法を紹介します。
相場よりも高額な示談金を請求されたら弁護士に相談を
相場より高額な示談金を請求された場合は、弁護士への相談が有効です。
弁護士が示談金を融通してくれることはないものの、支払いに関して相談することで過去にあった同様の事件を扱った経験をもとに有益なアドバイスを受けられます。
そして、提示された示談金が不当に高いにもかかわらず合意しそうになっている場合は、弁護士に相談することで適正な金額で合意できるよう代理交渉が可能です。
なお、原則として一度示談が成立するとやり直しはできません。
そのため、一般的な相場よりも不当に高い示談金を要求されている場合は、相場に基づいた金額を支払う意思を見せたという証拠を残すことで、のちに裁判になった際に考慮してくれる可能性があります。
はじめからこちらが支払えないような金額を請求されないよう、弁護士に交渉を依頼するなどの対策は欠かせません。
示談金を払えない場合は分割払いを交渉する手もある
示談金は即時に一括払いが基本ですが、すぐに支払いができない場合は分割払いを交渉する方法もあります。
もっとも、分割払いが可能か否かは被害者の同意と示談条件次第になります。
刑事事件への影響を考えると、示談成立時に一括払いをすることが最も好ましいですが、分割払いでも確かな支払いの見込みがあれば刑事事件への影響はよくなると考えられます。
分割払いの場合は最初にある程度まとまった金額を支払い、支払えない残りの金額のみを分割にしてもらいましょう。
仮に分割払いの支払いを怠った場合に備え、違約金などの遅延損害金が定められることが一般的です。
示談金の分割払いに関しては弁護士が交渉に臨むことで、よりよい状況へ好転することがあります。
示談をさせてもらえない場合は「贖罪寄付」も検討を
示談をさせてもらえない場合は、示談金相場を参考に贖罪寄付も検討してください。
贖罪寄付とは、刑事事件を起こした加害者が反省の思いを形にするため、弁護士や慈善団体などに寄付して公益活動に役立ててもらうことです。
示談の代わりに贖罪寄付をすると被害者への賠償や謝罪の意思を示すことができ、刑事処分や刑罰の軽減につながる期待がもてます。
しかし、優先すべきことは被害者に対する被害弁償であり、贖罪寄付が刑事処分に影響するかはその事案の性質や担当検察官の考え方にも左右されるため、そもそも寄付すべきかを含め贖罪寄付は弁護士に相談してから実行しましょう。
示談交渉をする流れ
示談が不成立の場合、まずは起訴前の示談成立を目指すのが先決でしょう。
示談交渉をする流れとして、まずは刑事事件となる行為と被害特定して、示談交渉に必要な材料を把握のうえ適切な準備を進めていきます。
そして、被害者と連絡をとって謝罪し、示談整理に向けて話し合いをします。
なお、示談交渉では加害者から示談をしたいという希望を伝え、示談金の内容やそのほかの条件について調整が必要です。
その中で被害者と加害者がお互いに納得できる着地点を見出し示談の合意をすることで、加害者の賠償責任は解消され被害者から許しを得られます。
示談交渉をするうえで重要なのは、被害者の心情を十分に配慮することです。
加害者は示談締結について前のめりになりすぎず、被害者側の準備が整ったタイミングで条件を話し合いましょう。
示談金と慰謝料・損害賠償・弁償はどう違う?
示談金の支払いを検討するうえで、慰謝料や損害賠償、弁償との違いを押さえておく必要があるでしょう。
慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償のことで、痴漢や盗撮など実損害のない犯罪態様では慰謝料が損害賠償となります。
そして、弁償は与えられた実損害を弁償するものです。
たとえば、万引きであれば被害品の買取、傷害事件であれば治療費や休業損害の支払いが該当します。
これらをまとめて損害賠償といい、文字どおり損害に対する賠償を意味します。
なお、損害賠償は示談をしなかったとしても被害者から請求されれば法的に支払わなければならず、被害の弁償や慰謝料はある程度法的根拠に基づいて金額が定められています。
一方、示談は単なる弁償や慰謝料ではなく、損害賠償に加えて刑事事件の示唆には事件を許してもらうことへの対価、かつ形としての謝罪の気持ちを意味するため、これらの違いを十分に理解しておきましょう。
さいごに|示談交渉は刑事事件に強い弁護士に相談を
示談金はあくまでも双方の合意のうえで決まるため、事件や被害の大きさ、被害者の処罰感情、示談により求める結果、加害者側の資力の問題などが影響します。
加害者が不起訴を得て前科を避けたい場合は相手に許してもらう必要性が高いため、ある程度は被害者のいい分どおりに支払うことが一般的です。
しかし、加害者の利益も最大限に守ることも大切なため、示談交渉は刑事事件を得意とする弁護士へ相談しましょう。
経験豊富な弁護士による示談交渉は、被害者に対する十分な誠意を見せて理解を得ながらも、あまり過大で不当な要求をのむことなく適正で公正な金額による成立が期待できます。