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退職代行で損害賠償請求って本当?事例からわかる対処法も解説

弁護士監修記事
労働問題
2024年10月25日
2024年10月25日
退職代行で損害賠償請求って本当?事例からわかる対処法も解説
この記事を監修した弁護士
杉本 隼与弁護士 (銀座パートナーズ法律事務所)
お話を真摯な姿勢でお聞きすることを大切にしています。単に法的なアドバイスを提供するだけではなく、まずはカウンセラーのように、丁寧にお話を伺うことから始めます。ご遠慮なくお悩みをお聞かせください。
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「会社に退職したいと伝えたら、今辞めると損害賠償を請求すると言われた」「退職代行を使いたいけど、損害賠償請求をされないか心配…」という方のため、退職代行を使って安全に会社を辞める方法や、退職代行を使った際に損害賠償請求をされるリスクを軽減する方法を解説します。

本人に代わって退職届を提出してくれるなど、退職の手続きを代行してくれる退職代行を使えば、余計なストレスを感じなくて済みますが、適切な退職方法を把握していないと、損害賠償を請求されるかもしれません。

本記事では、「退職代行を使うと損害賠償請求をされるのか」「損害賠償請求をされた際の対処法は?」などの疑問を解消するための情報をお伝えします。

損害賠償請求をされる可能性がある事例も解説するので、適切に退職するためにお役立てください。

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退職代行を利用しただけでは損害賠償請求をされる理由にはならない

退職代行の利用のみでは損害賠償請求をされる理由になりませんが、労働者自身が退職する際、何らかの注意義務違反をしたり、退職の仕方が不適切であったりする場合は、損害賠償を請求される恐れがあります。

ここからは、退職代行利用時に損害賠償を請求されるケースや判例などを紹介していきます。

突然の退職によって企業に損害を与えた場合は例外も考えられる

前提として、退職代行の利用有無にかかわらず、退職すること自体が損害賠償の対象になることは基本的にありません

しかし、退職に際して企業に損害を与えた場合、損害賠償を請求される可能性があります。

たとえば、自社の利益の大半を占める顧客を担当しており、何の引き継ぎもなく突然退職し、納期を大幅に過ぎたあとに問題が発覚し、会社がその責任を問われて顧客を失った場合などには、損害賠償を請求される可能性があります。

つまり、退職代行の利用や退職すること自体が損害賠償の対象になるのではなく、退職時に重要な情報を共有しないなど、不適切な辞め方をして、会社に損害を与えた場合、損害賠償請求の対象になります。

突然の退職により、実際に損害賠償請求をされた判例

労働者の突然の退職により、損害賠償請求をされた判例として、ケイズインターナショナル事件があります。

X社はY社と3年のビルインテリアデザイン契約を結び、その契約を履行するため、常駐担当者としてAさんを新たに採用し配置しました。

しかし、Aさんは入社して間もなく病気を理由に欠勤し、辞職しました。

その結果、X社はY社との契約が解約され、X社は得るべきであった1,000万円の利益を失ったとし、Aさんとの交渉を経て、月末までに200万円を支払う旨の念書を取り付けましたが、これが支払われないとして、裁判になりました。

裁判の結果、東京地裁は「経費を差し引けば実損額はそれほど多額ではない」「労務管理に問題点があった」「Aさんの対応にも問題がある」などを勘案し、200万円の3分の1にあたる70万円と年5%の遅延損害金の支払いを命じました。

このように労働者の退職にいたる経緯が業務違反に該当し、会社に具体的な損害が生じたと認められると、退職時の損害賠償請求が認められるケースがあります。

【参考】7-1 「辞職」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|裁判例|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省

退職代行の利用後に損害賠償請求をされる可能性がある事例

労働者は会社より弱い立場にあるとされており、民法や労働基準法で労働者の権利が守られているなどの点から、退職時の会社からの損害賠償請求が認められる事例は、それほど多くありません。

ただし、債務不履行・不法行為など、法的に問題のある辞め方をした場合は、損害賠償請求が認められます。

ここからは、退職代行の利用後に損害賠償請求をされる可能性がある事例を紹介します。

【事例1】長期的に無断欠勤を続けていた

長期的に無断欠勤を続ける、あるいは出社を一方的に拒否したあとに退職すると、損害賠償が認められる恐れがあります。

休む日数が増えるほど業務が滞りやすくなり、会社の損害が大きくなりやすいからです。

無断欠席は労働者による債務不履行に該当しますが、2週間以内であれば悪質性は低いと考えられることがあります。

しかし、無断欠勤が2週間を超えると悪質性が高いと判断されやすくなり、会社から損害賠償が認められる可能性が高まります。

無断欠勤の悪質性を判断する際の「2週間」という期間は、裁判で解雇が認められやすくなるなどの理由から考えられる目安である点もおさえておきましょう。

なお、退職の意思を伝えて有休消化を取得している場合は、無断欠勤でありません。

退職代行は退職と共に有休消化の申し出についても代行してくれるケースがあるため、代行業者経由で会社に有給休暇の取得を申請して認められた際には、適切に仕事を休めます。

【事例2】引き継ぎを一切しないことで会社に大きな損害を与えた

退職時に引き継ぎをしないことによって会社に大きな損害を与えた場合、損害賠償請求をされる可能性があります。

具体的には、「引き継ぎをしなかったために会社に大きな損害が出た」「引き継ぎをしなかったことと損害の発生に因果関係がある」とみなされた場合、損害賠償請求が認められます。

しかし、引き継ぎをしなかったことによって損害賠償請求が認められる可能性は、それほど高くないと考えられます。

なぜなら、引き継ぎをしなかったことで損害が発生したと立証することが難しいためです。

ただし、取引先を担当する業務の場合、引き継ぎを一切しないと、損害賠償請求の一部が認められることがあります。

【事例3】会社に大きな損害を与えるようなトラブルを起こしていた

以下のような、明らかに会社に大きな損害を与えるトラブルを起こした場合、退職時に損害賠償を請求される可能性があります。

【退職時に損害賠償を請求されうるトラブルの例】

  • ほかの従業員に暴力をふるった
  • 社内の備品を私物化して返却しない
  • 備品を紛失したり破損したりした
  • 取引先や顧客との関係を悪化させて会社の業績に悪影響を与えた
  • 上記のようなトラブルを解決しないまま退職代行を利用して一方的に辞めた

上記のトラブルを起こした場合、退職時には損害賠償請求をされるリスクがありますが、状況によって異なるため、心配な場合は弁護士に相談してみましょう。

【事例4】SNSなどで会社の名誉を傷つけた

SNSを利用して会社の悪口を投稿したり、内情を暴露したりすると、退職代行利用後に損害賠償を請求される恐れがあります。

会社の評判を下げると顧客が減るなどの損害が生じるため、名誉毀損での損害賠償が認められるかもしれません。

ほとんどの会社では入社時の契約で秘密保持に関する条項が含まれており、会社の内情を暴露すると契約違反になるケースがあるため、真実でも公表してはいけません。

匿名アカウントで投稿しても、相手が情報開示請求をすると投稿者を特定できる点も把握しておきましょう。

【事例5】機密情報を外部へ持ち出した

退職時、会社の機密情報を外部へ持ち出すと損害賠償が認められる可能性があります。

たとえば、特許を取ろうとしていた商品の情報や得意先名などがわかる顧客情報データなどの機密情報を漏らすと、秘密保持の契約内容違反になり、損害賠償請求の対象になります。

機密情報を競合他社に渡した場合、不正競争防止法違反に該当し、賠償金額が高額になる恐れがあります。

具体例としては、競合他社へ転職する際に前職の情報を持ち出すなどが挙げられます。

機密情報を外部へ持ち出すことは不正競争防止法違反にもなるため、賠償金額が高額になりやすくまた顧客リストなどの個人情報を持ち出すと、個人から訴えられる可能性もあります。

【事例6】研修や留学を終えてすぐに退職をした

会社の出資によって実施された研修や留学を終えた直後に退職した場合、損害賠償を請求される可能性があります。

その理由は、会社側からすると研修や留学にかかった費用が無駄になり、今後その人物が勤務してくれることによって得られるはずであった利益が失われたと考えられるためです。

この場合、研修や留学にかかった費用から減額されたうえで請求されるケースがあると考えられます。

労働基準法第16条では、事前に会社と社員で違約金や損害の罰金を決めることは違法ですが、「留学や研修において終了後5年間の勤務で返還義務は免除」などの誓約書を任意で交わしている場合、費用の返還義務が発生する可能性があります。

もし、留学や研修に関する返還義務などに関する契約を交わした場合は、退職前に内容を確認しておきましょう。

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退職代行を使って損害賠償請求をされるリスクを軽減する方法

退職代行の利用は、損害賠償請求の直接的な対象にはなりませんが、状況によっては請求が認められる可能性もあります。

ここからは、退職代行を使って退職をする際に損害賠償請求をされるリスクを軽減する方法を紹介します。

会社の就業規則をしっかり確認して退職する

退職代行を使って退職する際の損害賠償請求リスクを軽減するためには、会社の就業規則をしっかり確認することが大切です。

事前に会社が定めている就業規則の内容を確認したうえで退職すれば、基本的に損害賠償請求はされません。

そのため、できる限り就業規則に則って退職手続きを進めましょう。

なお、故意に会社の規則に違反したことが原因で会社に損害を与えた場合、退職代行利用の有無にかかわらず、退職時に損害賠償請求を受ける可能性があります。

「退職は○ヵ月前に申し出ること」という就業規則があった場合は?

民法第627条1項は、2週間前までに退職の意思表示をすればよいとしています。。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

引用元:民法 | e-Gov 法令検索

従って、就業規則などで「退職は○ヵ月前に申し出ること」と書かれていても、2週間前までに退職したい旨を伝えれば、会社側は拒否できない可能性があります。

また、退職の申し出から退職日までの期間が極端に長い場合は、当該就業規則そののが無効となり、民法第627条1項に基づいて退職が認めらえる可能性が高くなります。

就業規則で退職代行を禁止しているケースがある

なかには就業規則で退職代行サービスの利用を禁止している会社があり、特に管理職やプロジェクトの責任者など、一定の役職に就いている従業員は禁止されている可能性があります。

そのため、就業規則で全従業員に対して退職代行サービスの利用を禁じられていないか、自身が就いている役職や地位が利用禁止の対象になっていないかを確認しましょう。

会社と交渉が可能な権限をもつ退職代行を選ぶ

会社と交渉できる権限をもつ弁護士に退職代行を依頼すると、スムーズに退職できない場合の法的手続きにも対応してくれる点からおすすめです。

弁護士は法的根拠をもって交渉できるため、会社が違法な対応をしても、適切に対処してくれます。

反対に、弁護士ではない非弁業者に退職代行を依頼すると、退職の意思を伝えて退職手続きをするのみとなるため、トラブルになった際の対応は期待できません。

このような点から退職代行を使って損害賠償請求をされないようにするためには、弁護士への依頼がおすすめです。

最低限の引継ぎはする

できる限り円満に退職して損害賠償のリスクを抑えるため、最低限の引き継ぎをしておきましょう。

基本的には仕事の引き継ぎをしなくても損害賠償の請求をされることはないと考えられますが、多くの会社は引き継ぎなく従業員に辞められると困ると考えられるからです。

後任者への引き継ぎが難しい場合、できる範囲内で引継書を作成するなどの配慮をして、円満に退職できるようにしましょう。

できる限り無断欠席はしない

無断欠席によって損害が出たことを理由にとして、訴えられる可能性が高まるため、注意しましょう。

業務内容や人間関係に限界を感じて無断欠席をしたいと考える方もいますが、会社からの印象が悪くなりやすいため、おすすめできません。

なお、退職代行を使って退職の意思を伝えてもらい、有休消化を申し出たうえで欠勤することは無断欠勤になりません。

このような点から、無断欠席をするのではなく、早めに退職代行に依頼することが得策といえます。

会社の機密情報を持ち出すのはNG

退職時、会社の機密情報を持ち出してはいけません。

転職後に必要だからといって機密情報を持ち出すと、不正競争防止法違反となり、損害賠償請求や利益侵害行為の差止請求などをされる恐れがあるため、退職時には顧客の個人情報や会社独自のマニュアルなどの機密情報を持ち出さないようにしましょう。

研修や留学直後の退職は避けるべき

会社支援による研修や留学直後に退職をすると、費用の返還を請求される可能性があるため、避けましょう。

研修・留学などの制度を利用した場合、「研修などの終了後、○年間辞めずに働くと、研修費用の返還義務を免除する」などの決まりがないかどうかを確認しましょう。

万が一損害賠償請求をされてしまった場合の対処法

退職代行を使って退職したあとに損害賠償請求をされた場合、どのような対処法が望ましいの?」という方のため、3つの対処法を解説していきます

できるだけ早く弁護士に相談・依頼する

損害賠償を請求されると、労働者個人での解決は難しいため、できるだけ早く適切に解決できるよう、弁護士に相談しましょう。

仮に、会社から届いた損害賠償請求の内容証明郵便を放置した場合、、会社が訴訟を提起する可能性があります。

また、退職条件として損害賠償請求をされている場合は、正しく対応しなければ退職できません。

非弁業者の退職代行サービスで退職を会社に伝えたとしても、非弁業者では法的根拠をもって反論できないため、できる限り早く弁護士に相談することをおすすめします。

不当な損害賠償請求であれば、反対に損害賠償請求を行うこともできる

損害賠償請求をされたとしても、何も根拠がないことが客観的に明確である場合、訴えられた方は不当な請求をされたことを理由に損害賠償を請求できる可能性があります。

この場合、自身の力だけで対処することは難しいですが、弁護士のサポートを受けられるとスムーズに手続きを進めてもらえます。

弁護士に依頼すると、さまざまな点から安心して退職手続きを進めてもらえることを把握しておきましょう。

法的な手続きにのっとった損害賠償請求を無視するのはNG

会社から法的な手続きに則った損害賠償請求をされた場合、無視することはおすすめできません

裁判所からの訴状を放っておくと裁判が進められ、言い分はないものとして判決が下され、会社の要求どおりに損害賠償を支払う必要が生じるかもしれません。

このような状況を避けるためにも、正式な請求は無視せず、弁護士に相談しましょう。

さいごに | 会社からの損害賠償請求が不安な場合は弁護士に相談を!

本記事では、退職代行を使うと損害賠償の請求をされることは本当なのかを解説しました。

最近では退職代行を使う方がいるため、上司からのパワハラや職場の人間関係、劣悪な労働環境に悩んだ末に利用したいと考えるケースもあるかもしれません。

なお、非弁業者の退職代行サービスでは、対応範囲に限りがあるため、退職時の損害賠償請求が不安な場合は、弁護士への相談をおすすめします。

損害賠償請求を受ける心当たりがある、パワハラや未払い残業代などが発生している場合、弁護士に退職代行を依頼すると、適切な手続きを経て退職できます。

また、根拠のない損害賠償請求をされた際は、反対にあなたが損害賠償を請求できる可能性がある点も把握しておきましょう。

この場合も、弁護士が味方にいることで、より有利に交渉を進めてもらえるため、会社から損害賠償請求の話があった際は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

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編集部
本記事はベンナビを運営する株式会社アシロが企画・編集をおこないました。
  • ※ベンナビに掲載されているコラムは、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。
  • ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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