相続放棄をすると被相続人が借りていた賃貸物件はどうなる?相続人向けの注意点も解説


被相続人が亡くなった場合、生前住んでいた賃貸物件の賃借権も相続財産に含まれます。
そのため、仮に相続人が相続放棄をした場合には、その賃借権も放棄することになります。
それでは賃借権を放棄すると、その後、被相続人が住んでいた賃貸物件や滞納家賃はどうなるのでしょうか。
また、相続放棄をするにあたって、賃貸物件がある場合にはどのような点に注意すればよいのでしょうか。
本記事では、これらの疑問に答えるために、以下の内容について説明します。
- 相続放棄をしたあとの賃貸物件や滞納家賃の取り扱い
- 相続放棄をする相続人が賃貸物件について注意すべきポイント
- 相続放棄後に賃貸物件の滞納家賃を請求された場合の対処法 など
本記事を参考に、相続放棄と賃貸物件の関係や相続放棄後の注意点などについて理解しましょう。
相続放棄をすると被相続人の賃貸アパートはどうなるのか?
相続放棄と被相続人の賃貸アパートに関する基本的なルールは、以下のとおりです。
- 賃借権を失うことになるため住めなくなる
- 賃借権がないため家賃を支払う必要がなくなる
- 場合によっては相続人に管理義務が残ってしまう
ここでは、相続放棄をした場合に被相続人が住んでいた賃貸アパートがどうなるのかについて説明します。
1.賃借権を失うことになるため住めなくなる
相続放棄をすると、その相続人は賃借権を失います。
賃借権を失うため、相続人は賃貸アパートに住み続けることはできなくなります。
なお、相続放棄をした場合でも、ほかの相続人が通常どおり相続し、その人と同居するといった対応は可能です。
2.賃借権がないため家賃を支払う必要がなくなる
相続放棄をすると、被相続人が住んでいた家賃の支払い義務はなくなります。
仮に被相続人が家賃を滞納していたとしても、相続放棄後には支払う必要はありません。
大家や賃貸管理会社などから請求された場合でも、相続放棄を理由に支払いを拒否することができます。
3.場合によっては相続人に管理義務が残ってしまう
本来、相続放棄をすれば、賃貸アパートを管理する義務もなくなります。
しかし、被相続人と同居していた場合などでは、管理義務が生じるので注意しましょう(民法第940条)。
この管理義務はほかの相続人が財産を管理し始めたり、相続財産清算人が選任されたりするまで続きます。
相続放棄をしたら、早めにほかの相続人に連絡をして、管理を引き継いでもらいましょう。
相続放棄をする相続人が賃貸物件について注意すべき3つのポイント
相続放棄を検討している場合は、以下の3つのポイントに注意する必要があります。
- 部屋を解約しない
- 家賃の支払いをしない
- 家具や家電などを処分しない
ここでは、相続放棄を無効にさせないための注意点について確認しましょう。
1.部屋を解約しない
相続人が賃貸契約を解約すると、単純承認行為に該当するため相続放棄ができなくなる可能性があります。
「賃貸物件の解約は保存行為であるため問題ない」という意見もありますが、自ら解約しない方が賢明です。
相続放棄をする予定がない他の相続人が契約を解約するか、相続人全員が相続放棄する予定の場合には、相続財産清算人を選任して、その相続財産清算人に賃貸借契約を解約してもらうべきでしょう。
もしどうしても解約したい場合は、一度、相続問題が得意な弁護士に相談することをおすすめします。
2.家賃の支払いをしない
家賃を支払った場合の基本的な取り扱いは、以下のとおりです。
- 被相続人の財産から支払った場合:単純承認行為として扱われる
- 相続人自身の財産から支払った場合:単純承認行為になる可能性がある
「相続人自身の財産から支払えば保存行為になる」という意見もありますが、支払うことはおすすめできません。
また、そもそも相続放棄をすれば支払う必要がなくなるので、あえて家賃の支払いに応じる必要はないでしょう。
ただし、相続人が被相続人の賃貸物件の連帯保証人だった場合は、連帯保証人としての支払い義務は生じます。
3.家具や家電などを処分しない
以下のような価値のある財産を処分した場合も、単純承認行為になる可能性があります。
- 家具・家電
- 指輪・宝石
- 高級腕時計
- 着物・呉服
- 骨とう品・美術品 など
最終的には裁判所の判断によりますが、基本的には上記に挙げた財産は処分しないほうが望ましいです。
なお、ゴミの処分をしたり、価値のない小物を形見分けとして持ち帰ったりする程度なら問題ないでしょう。
相続放棄後に賃貸物件の滞納家賃を請求された場合の2つの対処法
相続放棄後に滞納家賃を支払うよう請求された場合の対処法は、以下のとおりです。
- 相続放棄申述受理証明書を提出する
- 支払いは連帯保証人などに全て任せる
ここでは、相続放棄後に賃貸物件の滞納家賃を請求された場合の2つの対処法について説明します。
1.相続放棄申述受理証明書を提出する
相続放棄後には、大家や賃貸管理会社に対して相続放棄申述受理証明書を提出しましょう。
相続放棄申述受理証明書とは、相続放棄の申述が受理されたことを証明するための書類です。
相続放棄の手続きをした家庭裁判所に対して、相続放棄申述受理証明書申請書などを提出することで取得できます。
相続放棄申述受理証明書を大家などに提出することで、自分が家賃を支払う必要がないことを証明できるでしょう。
2.支払いは連帯保証人などに全て任せる
相続放棄をした場合、滞納家賃はほかの相続人や連帯保証人に対して請求されます。
そのため、自分では支払いをせずに、連帯保証人などにその後の対応を任せるようにしましょう。
相続放棄と賃貸物件についてよくある質問
最後に、相続放棄と賃貸物件に関するよくある質問に回答します。
Q.どうしても賃貸物件を解約したい場合は?
相続放棄をした人が、積極的に賃貸物件を解約することは難しいです。
そこで、大家や賃貸管理会社などに法定解除されることを待つのがおすすめです。
法定解除とは、家賃滞納などが続く場合に大家が賃貸借契約を解除する手続きのことです。
法定解除の場合は単純承認行為になりませんので、相続放棄が無効になる心配はないでしょう。
Q.大家に遺品の整理や退去を求められたら?
大家から遺品の整理や退去を求められたとしても、相続放棄をする場合は応じる必要はありません。
相続放棄をする前なら大家に事情を説明し、相続放棄をしたあとなら相続放棄申述受理証明書を提出しましょう。
安易に遺品を整理したり、賃貸から退去したりすると、相続放棄に影響する可能性があるため注意してください。
Q.相続人全員が相続放棄をした場合はどうすればいい?
原則として、相続放棄をしたあとに必要な手続きはありません。
しかし、賃貸物件の管理義務を負っている場合などは、相続財産清算人の選任手続きが必要になります。
被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に対して、相続財産清算人の選任の申立てをおこなうようにしましょう。
さいごに|相続放棄を検討しているなら弁護士に相談しよう!
相続放棄をした場合、被相続人が滞納していた家賃の支払い義務は回避できます。
しかし、賃貸の解約や家賃の支払いをしてしまうと、相続放棄が無効になる可能性が高いため注意が必要です。
また、場合によっては管理義務が残ったり、大家から家賃の請求をされたりする点にも注意が必要になります。
もし相続放棄や賃貸住宅に関して気になることがあるなら、相続問題が得意な弁護士に相談するのがおすすめです。
ベンナビ相続には初回無料相談に応じている弁護士も多くいますので、近くの弁護士を探して相談してみましょう。