人身にしないと保険はおりないの?人身事故扱いでないと治療費も受け取れない?


- 「人身事故にしないと保険がおりないって本当?」
- 「物損事故から人身事故に切り替えたいけど、できる?」
物損事故として届け出た事故について、このような悩みを抱えている方も少なくないでしょう。
交通事故について、物損事故として処理するか人身事故として処理するかでは、おりる保険や相手に請求できる損害賠償も異なります。
保険による補償を受けつつ、適切な損害賠償を請求するためには、それぞれの違いや人身事故として処理するべき理由などを知り、正しく対処することが大切です。
そこで本記事では、事故に遭ったときにおりる保険の種類や人身事故として届け直す重要性、あとからけがが判明した場合にやるべきことを詳しく解説します。
交通事故の被害に遭ったとき、人身にしないと保険はおりないの?
交通事故に遭ったら、自分や相手が加入している保険会社から保険金を受け取ることができます。
しかし、人身事故と物損事故のどちらで処理されているかや、被害の内容によっておりる保険は異なります。
ここでは、人身事故・物損事故のそれぞれでどんな保険がおりるのか、詳しく見ていきましょう。
人身事故扱いにしないと、自賠責保険の対象外
交通事故が物損事故として処理された場合、保険が下りるのは「任意保険」のみです。
自賠責保険から補償を受けることはできません。
自賠責保険は、事故を起こして加害者になったときに、被害者に対して最低限の補償をするために設けられている制度です。
そのため、物損については補償の対象外とされています。
物損事故の場合、任意保険会社に対して損害賠償を請求できますが、加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者本人に賠償を請求しなければなりません。
その場合、加害者に支払い能力がなければ、最悪泣き寝入りせざるを得ない可能性もあるでしょう。
これらを踏まえると、事故に遭った場合は物損事故ではなく、人身事故として届け出るのが賢明といえます。
人身事故扱いでないと、人損損害にかかわるそのほかの保険金もおりない可能性がある
物損事故の場合は、任意保険から補償を受けることができます。
しかし、補償内容は保険商品によって異なります。
けがの治療費などを含む人身傷害保険は、人身事故として処理されている事故でなければ使えないケースも少なくありません。
万が一、加害者からも自身の保険会社からも補償を受け取れなければ、十分な治療が受けられない可能性もあるでしょう。
あとからけがが発覚する可能性も踏まえて、できるだけ人身事故として処理してもらうのがおすすめです。
なお、事故後すぐにけがに気づかず、物損事故として処理してしまった場合でも、改めて人身事故として警察に届け出をし直すことができます。
「人身事故証明書入手不能理由書」の提出でおりることも
事故が物損事故として処理されてしまい、切り替え手続きも認められなかった場合、人身事故証明書入手不能理由書を保険会社に提出することで、補償を受けられる可能性があります。
人身事故証明書入手不能理由書は、通常保険会社の担当者から送られてくる書類の中に入っています。
そのほか、保険会社のホームページからもダウンロード可能です。
人身事故証明書入手不能理由書には、人身事故証明書を入手できなかった理由を詳しく記載しましょう。
なお、選択項目には、次のようなものがあります。
- 受傷が軽微で検査通院のみ(予定を含む)であったため
- 受傷が軽微であり短期間で治療を終了した(終了予定であった)ため
- 駐車場、私有地など公道以外の場所で発生した事故のため
- 事故当事者の事情 など
物損に関する保険金は、人身事故扱いにしなくてもおりる
自動車の一部が壊れたなど、物損に関する保険金だけを請求するときは、物損事故のままでも問題ありません。
物損事故を扱っているのは、加害者側の対物賠償責任保険や被害者側の車両保険です。
へこんだ車体や擦り傷など、物損に関する補償を受けたい場合は、物損事故の交通事故証明書を取り寄せて保険会社に提出しましょう。
交通事故を人身事故扱いにしないデメリット
交通事故に遭い、けがをしたのに人身事故として処理しない場合、さまざまなデメリットが生じます。
人身事故にしないと慰謝料や治療費を支払ってもらえない可能性が生じる
警察が人身事故として処理しなかった交通事故では、たとえ被害者がけがをしていても、保険会社から慰謝料や治療費を支払ってもらえない可能性があります。
なぜなら、けがと交通事故との関係を客観的に証明することができないからです。
交通事故によって負ったけがであることを証明できなければ、人身損害についての損害賠償請求は認められません。
そうなると、治療費を被害者自身で支払わなければならなくなるおそれがあります。
ただし、警察が人身事故として処理してくれない場合でも、人身事故証明書入手不能理由書を提出することで損害賠償請求が可能な場合もあります。
本記事内の「物損事故を人身事故に切り替える手順」などを参考に対処しても人身事故として処理されないときは、人身事故証明書入手不能理由書を提出したり、弁護士に相談したりするのがおすすめです。
実況見分調書が作成されないので、過失割合の交渉で不利になるおそれがある
人身事故として処理されない交通事故では、実況見分調書が作成されません。
実況見分調書がなければ、過失割合の交渉で不利になるリスクがあります。
実況見分とは、警察官が事故現場を確認しながら、以下のような捜査をすることです。
捜査内容は実況見分調書として、まとめられます。
- 実況見分をおこなった日時、場所
- 実況見分に立ち会った方々の名前
- 現場道路の状況
- 運転車両の状況
- 交通事故現場の見取り図 など
実況見分調書は、警察が事故の状況をまとめる分、過失割合を決める際の証拠として非常に有効です。
しかし、物損事故ではそもそも実況見分調書が作成されないので、過失割合の示談交渉で使用することはできません。
加害者の刑事責任や行政責任を問えなくなってしまう
人身事故を起こすと、加害者は自動車運転過失致傷などに問われます。
交通事故には刑事責任が伴うため、刑事罰が科されるのです。
また、行政処分として違反点数の加算もあります。
一方で、人身事故として処理されない場合は、刑事責任や行政責任を問えない可能性が高くなります。
物損事故の場合は、刑事罰が科されることはほとんどありません。
物損の刑事罰としては、器物損壊罪などがありますが、罪に問うには加害者が故意であることが必要です。
しかし、交通事故は基本的に過失によって起こります。
そのため、物損事故で犯罪が成立することはまれといえるのです。
行政上の責任については、物損事故の場合は安全運転義務違反などで違反点数が加算されることがあります。
しかし、人身事故で被害者がけがをさせた場合に比べると加点は少なく済みます。
人身事故なら一度で免許停止や免許取消になるケースでも、物損事故のまま処理されてしまえばすでに加点が多い加害者でない限り、今後も運転し続けられるのです。
被害者側には、交通事故を人身事故扱いにしないことによるメリットはない
被害者にとって、交通事故を人身事故扱いにしないことのメリットはありません。
むしろ、物損事故として処理されるとデメリットだけが残るといえるでしょう。
加害者側から「物損事故として処理したい」と求められても、けがをしているなら受け入れてはいけません。
たとえ、直接賠償すると言われても、人身事故として処理して弁護士などに依頼するほうが高額な賠償金を請求できる可能性は高いです。
物損事故を人身事故に切り替える手順
一度は物損事故として処理した交通事故でも、あとから人身事故に切り替えることが可能です。
以下では、具体的な切り替え手続きについて解説します。
1.医師に診断書を作成してもらう
まずは、医師に診断書を作成してもらわなければなりません。
物損事故を人身事故に切り替えるためには、実際にけがを負ったことを証明する必要があるからです。
診断書には、次のようなことが書かれます。
- 患者の氏名、住所、生年月日
- 病名
- 病状
- 検査結果
- 治療内容
- 発症日
- 受診日
- 治療期間の見込み など
また、物損事故を人身事故に切り替えるには、交通事故が原因で受傷したけがであることを明記してもらう必要があります。
適切な額の賠償を受けるために必要であることを、医師に伝えましょう。
なお、医療機関を受診するのが遅い場合は、交通事故とけがの因果関係を証明することができません。
医師が交通事故によるけがだと書いてくれたとしても、次のステップで警察に認められないおそれがあります。
そのため、交通事故に遭ったときはなるべく迅速に医療機関を受診してください。
2.警察に届け出て人身事故へ切り替えてもらう
次に、医師が作成した診断書を持参して、事故を管轄した警察署の交通課に人身事故への切替えを申し出ましょう。
事故を管轄するのは、事故現場の警察署です。
人身事故への切り替えの申し出は、事故に遭ってから10日以内がよいでしょう。
時間が経ってしまうと事故状況を正確に把握することができず、けがと事故の因果関係がないと判断されてしまうおそれもあります。
なお、切り替え手続きには、医師の診断書以外にも運転免許証・車検証・保険証券・印鑑などが必要です。
実況見分がおこなわれる
人身事故への切り替えが認められると、実況見分がおこなわれます。
実況見分には、原則として被害者も加害者も立ち会う必要がありますが、都合が合わなければ立ち会いなしで実施されます。
しかし、自分の認識をきちんと伝えるためにも、よほどの事情がない限りは立ち会うようにしましょう。
3.加害者側と自分が加入している保険会社へ連絡する
人身事故に切り替えができたら、保険会社に連絡しましょう。
まずは加害者側の任意保険会社に連絡してください。
加害者側の保険会社に連絡しなければ、物損事故としての賠償しか受けることができません。
人身事故に切り替わったら、改めて交通事故証明書などを提出しなければならないため、提出するべき書類を聞いて準備をはじめましょう。
また、損害賠償に関するやりとりを自分が加入している保険会社に代行してもらっている場合は自分の保険会社にも連絡してください。
交通事故を人身事故扱いにするにあたってよくある質問
ここからは、交通事故を人身事故として処理することについてのよくある質問と回答を紹介します。
加害者が「人身事故にしないでほしい」と頼む理由は?頼まれたらどうする?
事故後に、加害者から「人身事故扱いにしてほしくない」とお願いされるケースは少なくありません。
なぜなら、人身事故として処理されてしまえば、加害者には大きなデメリットが生じるからです。
加害者が人身事故にしないでほしいと頼むのには、次のような理由があります。
- 多額の損害賠償を支払わなくて済む
- 刑事罰も受ける可能性がほとんどなくなる
- 免許に大きな違反点数が加算されずに済む
これらは、加害者側のメリットであり、被害者にとってはデメリットでしかありません。
仮に「人身事故扱いにしないでほしい」と言われても、応じないようにしましょう。
事故について、被害者側にも過失があるときは、罪悪感で受け入れてしまいそうになるかもしれません。
しかし、交通事故は当事者だけの問題ではなく、警察などの行政も絡む問題です。
厚意で事故の種類を変更するのはよくありません。
法的に正当な処理をおこなうべきです。
警察に物損扱いにするよう提案されたら?
なかには、警察から人身事故ではなく物損事故として処理することを提案されるケースもあります。
しかし、けがなどを負っている場合は、人身事故として処理すべきです。
警察は、事件が多くて忙しいときや軽微な事故のときに、物損事故として処理しようとすることがあります。
しかし、人身事故として処理されなければ、本来受けられるべき補償などを受けることができず、被害者にはデメリットしかありません。
事故でけがをしたなら、軽微であっても人身事故として処理してもらいましょう。
もしも応じてもらえないときは、弁護士に相談してください。
人身事故への切り替えはいつまで認められる?
物損事故から人身事故への切り替えが認められるのは、事故発生から2週間程度までです。
なぜなら、切り替えを届け出るまでのあいだに別の事情でけがをしてしまう可能性もあり、事故から時間が経つと交通事故とけがの因果関係がわからなくなるからです。
確実に因果関係を証明するためには、迅速に医療機関を受診し、なるべく早く切り替えを申し出ましょう。
軽い接触事故でも人身事故扱いにしたほうがよい?
軽微な接触事故でけがが軽症であっても、少しでもけがをしているなら人身事故として報告してください。
小さなけがでも通院や治療が必要なら、相手側の保険会社に治療費を支払ってもらえます。
しかし、人身事故として処理されなければ、治療費や慰謝料などの損害賠償請求ができません。
また、実況見分調書も作成されないので、万が一相手と揉めてしまったときに不利になる可能性があります。
警察が人身事故への切り替えを認めてくれなかったらどうする?
警察に申し出ても人身事故への切り替えが認められなかった場合、人身事故証明書入手不能理由書を入手しましょう。
様式は各保険会社から送ってもらうほか、インターネットからダウンロードすることも可能です。
ただし、人身事故証明書入手不能理由書の提出によって補償が受けられるかどうかは保険会社の審査によります。
そのため、確実に損害賠償請求をして適切な補償を受けるには弁護士に相談するのが一番です。
さいごに|交通事故でけがをしたら迷わず人身扱いにしよう
交通事故でけがをしたら、人身事故として届け出をおこないましょう。
けがをしているのに物損事故として処理されてしまえば、人身損害に関する保険はおりない可能性が高いです。
また、一度は物損事故として処理されてしまっても、あとから人身事故へ切り替えることもできます。
あとからでも、けがが発覚したのであれば人身事故に切り替える手続きを進めましょう。
ただし、物損事故から人身事故への切り替えは、加害者にとってはデメリットが大きいため、トラブルになることも少なくありません。
加害者との交渉には法的な知識が必要な場面も多く、被害者自身で適切な損害賠償請求をおこなうのは難しいケースもあります。
なるべくトラブルを避け、適正な賠償を受けるためには、交通事故トラブルに精通した弁護士に相談するのがおすすめです。
物損事故から人身事故への切り替えに迷っている方や手続きが不安な方は、遠慮なく弁護士に相談しましょう。