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相続預金の仮払い制度とは?遺産分割前にお金を受け取る方法を解説

弁護士監修記事
遺産相続 遺産分割
2025年06月23日
2025年06月27日
相続預金の仮払い制度とは?遺産分割前にお金を受け取る方法を解説
この記事を監修した弁護士
小林 洋介弁護士 (弁護士法人IGT法律事務所)
私がとくに得意としているのは、遺産に不動産、非上場株式が含まれる遺産分割案件、遺留分侵害額請求案件、遺言書作成案件です。解決までの道筋が見えるだけでも安心です。まずはお気軽にご相談ください。
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大切な家族を失い、経済的な不安を抱えていませんか?

長年、被相続人の収入に頼って生活をしてきた方にとっては、遺産分割が終わるまでの間、生活費が確保できないなどの状況に陥るケースも少なくありません。

そんな状況で活用したいのが「相続預金の仮払い制度」です。

この制度を利用すれば、遺産分割協議が終了する前でも一定額を受け取ることが可能です。

遺産分割手続きに時間がかかる場合でも、生活費や緊急の支払いに充てられる資金を確保できるため、経済的な不安を軽減することができます。

本記事では、仮払い制度の具体的な内容や活用方法、注意点についてわかりやすく解説します。

制度を正しく理解し、有効に活用することで、今後の生活に役立てられるでしょう。

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目次

相続預金の仮払い制度とは?遺産分割前に預金を引き出せる制度のこと

2019年7月1日に施行された民法改正により、新たに預貯金の仮払い制度が導入されました。

(民法第909条の2)

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)

第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。

この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

引用元:民法 | e-Gov 法令検索

預貯金の仮払い制度とは、法定相続人全員の合意や遺産分割協議が完了する前でも、一定の限度額までであれば、相続人による被相続人名義の預貯金からの出金を可能にする制度です。

預貯金の仮払い制度を利用すれば、急な支出が発生しても対応できるため、遺族の金銭的負担の軽減につながります。

相続預金の仮払い制度の3つの特徴|凍結された預金でも引き出せる!

以下、相続預金の仮払い制度の主な特徴を3つ解説します。

1.遺産分割前に一定金額まで相続預金を引き出せる

通常、金融機関が名義人の死亡を確認した時点で、預貯金口座は凍結されます。

そのため、遺産分割協議が完了し、凍結解除に必要な書類が揃うまでは、原則として預金を引き出すことはできません

しかし、仮払い制度を利用すれば、遺産分割協議が終了する前でも、一定金額までであれば相続預金を引き出せるようになります。

2.相続人単独でも相続預金を引き出すことができる

以前は、相続預金を引き出す際に相続人全員の合意が必要でした。

よって、相続人間の関係が良好でない場合や疎遠な関係にある場合には、全員の同意を得ることが難しく、預金の引き出しがほぼ不可能になるケースも少なくありませんでした。

しかし、仮払い制度の導入により、相続人単独でも速やかに一定額を引き出せるようになり、遺産分割協議の長期化による不便が緩和されるようになりました。

3.引き出したお金の利用目的は問われない

仮払い制度で引き出したお金は、特定の利用目的に制限がないので、自由に利用できます。

日常の生活費や、被相続人に関する費用の支払いなど、さまざまな使用用途が考えられるでしょう。

ただし、引き出した資金を浪費したり、不透明な用途に使用したりした場合、ほかの相続人に不信感を与え、相続トラブルに発展する可能性があります。

そのため、適切な目的で使用することが重要です。

以下は、仮払い制度の活用例です。

仮払い制度の活用例
  • 遺産分割協議終了までの自分の生活費の支払い
  • 被相続人の入院費用や葬儀費用などの支払い
  • 未払いの家賃や公共料金などの支払い

使用金額や用途について記録を残しておくと、後の遺産分割協議がスムーズに進むだけでなく、ほかの相続人への説明もしやすくなるでしょう。

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仮払い制度で出金できる相続預金の額|3つのケースでシミュレーション

仮払い制度では、次のいずれか低いほうの金額を上限として預金を引き出すことができます。

  • 死亡時点での預貯金残高×法定相続分×1/3
  • 150万円

預貯金口座が複数の金融機関に存在する場合、計算式は、口座ごとではなく金融機関ごとに適用されます。

なお、法定相続人の状況別の「法定相続分」は、以下のとおりです。

法定相続人の状況 配偶者の法定相続分 子どもの法定相続分 直系尊属(父母等)の法定相続分 兄弟姉妹の法定相続分
・配偶者と子どもがいる 1/2 1/2
(複数いる場合は均等に分割、以下同じ)
- -
・配偶者がいる
・子どもがいない
・直系尊属(父母等)がいる
2/3 - 1/3 -
・配偶者がいる
・子ども、直系尊属がいない
・兄弟姉妹がいる
3/4 - - 1/4
・配偶者がいない
・子どもがいる
- 1 - -
・配偶者がいない
・子どもがいない
・直系尊属がいる
- - 1 -
・配偶者がいない
・子ども、直系尊属がいない
・兄弟姉妹がいる
- - - 1

計算式だけをみてもわかりにくいので、具体的なケースでシミュレーションをしてみましょう。

1.A銀行に1,000万円、相続人が配偶者と子ども1人の場合

相続人の法定相続分
  • 配偶者:2分の1
  • 子ども:2分の1
配偶者の出金可能額
  • 1,000万円×1/2×1/3=約7万円
  • 150万円
    → 約7万円>150万円
子どもの出金可能額
  • 1,000万円×1/2×1/3=約7万円
  • 150万円
    → 約7万円>150万円
相続人 出金可能額
配偶者 150万円
子ども 150万円

2.A銀行に1,000万円、相続人が配偶者と子ども2人の場合

相続人の法定相続分
  • 配偶者 2分の1
  • 子ども 4分の1(一人あたり)
配偶者の出金可能額
  • 1,000万円×1/2×1/3=約7万円
  • 150万円
    → 約166.7万円>150万円
子ども一人あたりの出金可能額
  • 1,000万円×1/4×1/3=約3万円
  • 150万円
    → 約83.3万円<150万円
相続人 出金可能額
配偶者 150万円
子ども 約83.3万円

3.A銀行に500万円、B銀行に600万円、相続人が配偶者と子ども2人の場合

相続人の法定相続分
  • 配偶者:2分の1
  • 子ども:4分の1(一人あたり)
配偶者の出金可能額:A銀行の場合
  • 500万円×1/2×1/3=約3万円
  • 150万円
    → 約83.3万円<150万円
配偶者の出金可能額:B銀行の場合
  • 600万円×1/2×1/3=100万円
  • 150万円
    → 100万円<150万円
子ども一人の出金可能額:A銀行の場合
  • 500万円×1/4×1/3=約7万円
  • 150万円
    → 約41.7万円<150万円
子どもの出金可能額:B銀行の場合
  • 600万円×1/4×1/3=50万円
  • 150万円
    → 50万円<150万円
相続人 出金可能額
配偶者 A銀行:約83.3万円 B銀行:100万円
子ども A銀行:約41.7万円 B銀行:50万円

相続預金の仮払い制度の利用方法|金融機関で直接引き出す際の流れ

次に、仮払い制度を利用し、金融期間から直接お金を引き出す際の基本的な流れを説明します。

1.被相続人が利用していた金融機関を特定する

当然ながら、相続預金の仮払い制度を利用するにあたっては、被相続人が生前に利用していた金融機関を特定する必要があります。

被相続人の預貯金口座を全国の金融機関に一括照会する方法はありません

そのため、預貯金口座の有無や残高を確認するには、各金融機関に直接問い合わせることとなります。

全ての金融機関に問い合わせるのは現実的ではないので、被相続人が利用していた可能性の高い金融機関の絞り込みが重要です。

金融機関を特定するためには、以下のようなものが手がかりになります。

  • 被相続人の通帳やキャッシュカード、取引明細書
  • 金融機関から受け取った粗品(タオル・ティッシュなど)

金融機関の絞り込みができたら、預貯金照会や残高証明書の発行手続きなどによって預貯金を確認します。

手続き方法は金融機関によっても異なりますが、一般的には以下のような書類が必要です。

  • 被相続人の戸籍(除籍)謄本
  • 申請者が相続人であることを証明する戸籍謄本
  • 申請者の印鑑証明書・実印
  • 申請者の本人確認書類(免許証やパスポートなど)

なお、高齢者の場合、「ゆうちょ銀行」に預金があるケースが非常に多いとされています。

よって、ゆうちょ銀行の預貯金口座は漏れなく調べるようにしましょう。

2.相続預金の仮払い制度に必要な書類を集める

一般的に、金融機関に仮払いを依頼する際には以下の書類が必要です。

仮払い制度の必要書類
  • 申請者の本人確認書類
  • 申請者の印鑑証明書
  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書

もっとも、金融機関によって必要書類が異なる場合もあるので、事前に問い合わせておくことをおすすめします。

3.金融機関の窓口に行って仮払い制度の利用を申し出る

必要書類を揃えたら、実際に金融機関の窓口で仮払い制度の利用を申し出ます

窓口の担当者に仮払い制度を利用する旨を伝えて、用意した書類を提出しましょう。

また、金融機関によっては所定の申込書に必要事項を記入して提出を求められることがあります。

4.書類の確認が終わると金融機関から預金が支払われる

書類を提出したあとは、金融機関にて必要書類の確認がおこなわれます。

提出した書類に不備がなければ、金融機関から仮払いが実行されます。

なお、相続預金の払い戻しまでには一定の時間を要するので、時間に余裕をもって手続きを進めるようにしましょう。

お金が足りない場合は家庭裁判所へ申し立てることも可能

払い戻しできる金額が不足しそうな場合には、家庭裁判所へ申し立てて審判を得ることで、上限額を超えた金額の払い戻しを受けられます(家事事件手続法200条3項)。

もっとも、家庭裁判所を通じた手続きとなるため、時間と費用がかかってしまうほか、以下の条件を全て満たす必要がある点には注意が必要です。

  1. 家庭裁判所に遺産分割の審判または調停が申し立てられていること
  2. 相続預金の仮払いの必要性が認められること
  3. ほかの相続人の利益を害しないこと

相続預金の仮払い制度を利用する際の注意点

相続預金の仮払い制度を利用するにあたっては、いくつかの注意点があるのでしっかりと押さえておきましょう。

1.預金が遺贈等されている場合は利用できない可能性がある

該当する預貯金について遺贈又は特定財産承継遺言によって、受遺者又は相続人に相続させた場合は、原則として仮払いの対象外となります。

金融機関が遺言書の内容を把握している場合には、払戻し請求は認められません。

一方で、金融機関が遺言書の存在を知らない場合は、払戻しが認められる可能性があります。

ただし、独断で払戻しをおこなうと、受遺者を含め、ほかの相続人から反発を受けるおそれがあるため、手続きを進める際には了承を得るようにしましょう。

2.仮払いされた金銭は遺産分割をおこなう際に調整される

仮払い制度を利用して引き出された預金は、遺産分割協議において仮払いを受けた相続人が取得した財産とみなされます。

例えば、100万円の仮払いを受けた相続人が、遺産分割協議の結果120万円を相続することになった場合、すでに引き出した100万円を差し引いて、残りの20万円を相続する形となります。

逆に、100万円の仮払いを受けた後に、遺産分割協議の結果により80万円の相続が決定した場合、差額の20万円をほかの相続人に返還する必要があります。

このように、仮払いを受けることで、遺産分割協議後に貰える金額が変わります。

特に法定相続分とは異なる割合で遺産分割がおこなわれる場合は最終的に取得できる遺産を正確に見込めないため、仮払いの申請について慎重に検討したほうがよいでしょう。

3. 相続預金の仮払い制度を利用すると相続放棄ができなくなる

相続の場合、相続人は「単純承認」・「限定承認」・「相続放棄」の3つの手段を選択できます。

  • 単純承認:被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐ
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナス財産を引き継ぐ
  • 相続放棄:財産を相続しない

被相続人の財産状況をもとに最適な手段をとるべきですが、預貯金の払戻しを受けた場合、現金の使い道によっては単純承認とみなされ、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。

例えば、生活費を工面するために仮払い制度を利用するなど、相続人自身のために使用した場合には、単純承認とみなされる可能性が高いです。

一方で、引き出した現金を被相続人の葬儀費用や借金返済に使用した場合は、単純承認とみなされる可能性は低いといえます。

仮払い制度を活用して出金した金銭は使用用途が重要視されるので、留意しておきましょう。

さいごに|遺産分割前にお金が必要なら相続預金の仮払い制度を利用しよう

相続預金の仮払い制度は、葬儀費用や生活費などの急な出費に対応するために非常に役に立つ制度です。

必要性があれば、積極的に活用するのがよいでしょう。

ただし、利用する際には注意点があるほか、必要書類の準備や各種手続きが必要になります。

手続きを進める際に少しでも不安が残るようであれば、弁護士に相談したうえで手続きを進めるようにしましょう

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