モラハラを理由に離婚はできる?離婚を成立させるポイントとできなかった場合の対処法
- 「パートナーのモラハラに限界を感じている…」
- 「精神的な暴力でも離婚は認められるの?」
このように、配偶者からのモラハラについて悩みを抱えている方は少なくありません。
結論からお伝えすると、モラハラを理由に離婚することは可能です。
ただし、話し合いで離婚が成立するケースもあれば、証拠の有無によって裁判で認められないケースもあり、進め方には注意が必要です。
本記事では、モラハラ離婚を成立させるポイントと、離婚できなかった場合の対処法を解説します。
最後まで読むことで、離婚までの道筋が見えて何をすべきか明確になるでしょう。
配偶者からのモラハラを理由に離婚することはできる?
結論からお伝えすると、配偶者からのモラハラを理由に離婚することは可能な場合があります。
ただし「どういった状況なら離婚が認められるのか」「どんな証拠が必要なのか」によって結果が変わるため、まずはモラハラ離婚の基本的な考え方を押さえておくことが大切です。
そもそも離婚には、大きく分けて以下2つの種類があります。
- 夫婦の話し合い(協議離婚・調停離婚)で合意する方法
- 裁判で離婚を認めてもらう方法(裁判離婚)
協議離婚なら、双方が離婚に同意すればモラハラの証拠は必ずしも必要ではありません。
しかし、相手が離婚に応じない場合は、裁判でモラハラを民法770条における「婚姻を継続し難い重大な事由」として認めてもらう必要があります。
そのため、まずは自分のケースでどちらの方法による離婚が可能かを見極めることが大切です。
もしも「この状況でも離婚は可能なのかな?」と感じている方は、無理に一人で判断せずに弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。
一般的にモラハラを理由に離婚することが難しい理由
一般的に、モラハラでの離婚が難しいといわれる理由は以下のとおりです。
- モラハラの証拠を集めることが難しいから
- 相手が話し合いに応じないことが多いから
- 裁判上の離婚事由として認められにくいから
それぞれの理由について、詳しく見ていきましょう。
1.モラハラの証拠を集めることが難しいから
モラハラによる離婚で最も大きな壁となるのが証拠の問題です。
モラハラは言葉や態度による精神的な攻撃であるため、目に見える形で証拠が残りにくいという特徴があります。
また、家庭でおこなわれることが多く、第三者の目撃証言が得られにくい点も証拠集めが難航しやすい原因のひとつです。
裁判で離婚を認めてもらうためには、一方的な主張だけでなく、証拠が求められます。
例えば過去におこなわれた裁判では、客観的な証拠のない事案に対し、「原告の主張のみを採用することはできない」としてモラハラを認めなかったケースもあります(令和3年11月29日判決・東京地方裁判所)。
そのため、相手がモラハラを否認していたり離婚を拒否していたりする場合、離婚を認めてもらうためには暴言の録音データや侮辱的な内容が書かれたメール、LINEなど、客観的な証拠を用意することが何よりも重要です。
2.相手が話し合いに応じないことが多いから
モラハラによる離婚が難しいもうひとつの理由は、そもそも加害者との話し合いが成立しにくい点にあります。
モラハラ加害者の多くは、自分の言動が相手を深く傷つけているという自覚がありません。
むしろ、自分の言動は指導や教育の一環であると正当化しているケースもあります。
そのため、被害者が勇気を出して離婚を切り出しても、「お前のためを思って言っているのに何が不満なんだ」「離婚なんて世間体が悪い」などと高圧的な態度で一蹴されたり、まともに取り合ってくれなかったりすることがほとんどです。
また、話し合いができても、論点をすり替えたり人格否定や責任転嫁をしたりなど、さらに被害者が精神的ダメージを負うだけで問題解決につながらない可能性も考えられます。
3.裁判上の離婚事由として認められにくいから
モラハラが裁判上の離婚事由として認められにくい点も、モラハラ離婚が難しいといわれる理由のひとつです。
相手が離婚を拒否している場合、裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
しかし、裁判所に離婚を認めてもらうには、民法で定められた5つの法定離婚事由のいずれかに該当することを、証拠に基づいて証明しなければなりません。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用元:民法|e-GOV 法令検索
モラハラは、このうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当てはまる可能性がありますが、該当するかどうかの判断は非常に慎重におこなわれます。
裁判官が重大な事由と認めるのは、単なる夫婦げんかや性格の不一致のレベルを超え、客観的に見て夫婦関係が回復不可能なほどに破綻していると判断できるケースです。
また、身体的なDVや不倫が一度でも離婚事由として認められる場合があるのに対し、モラハラは長期間にわたって継続的・一方的におこなわれていることが求められます。
そのため、被害者がひどいモラハラだと感じていても、客観的な証拠が十分でなかったり加害者がモラハラを否定していたりすると、離婚請求が認められない可能性があります。
モラハラを理由とする離婚を成立させるためのポイント
モラハラ離婚を成立させるポイントは以下のとおりです。
- 調停や訴訟など裁判手続きを活用する
- モラハラの証拠をできる限り集める
- 離婚問題が得意な弁護士に相談する
ここでは、それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
1.調停や訴訟など裁判手続きを活用する
当事者同士での話し合いが難しい場合、家庭裁判所を介した法的手続きを活用する方法があります。
まずは家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停でも合意に至らない場合は最終的に離婚裁判に進みます。
離婚調停は、裁判所の調停委員が間に入り、双方から話を聞きながら合意に向けた調整をおこなってもらう手続きです。
相手と直接顔を合わせずに進められるため、当事者だけで話し合うよりもお互い落ち着いて臨めるでしょう。
一方、裁判では、提出された証拠に基づいて裁判官が離婚を認めるかどうかの判断を下します。
ここでモラハラが法定離婚事由として認められれば、相手の同意がなくても離婚が成立します。
2.モラハラの証拠をできる限り集める
調停や裁判を有利に進めるうえでは、モラハラの証拠があるかどうかが非常に重要です。
具体的には、以下のような証拠をできる限り集めましょう。
- 暴言や侮辱的な発言を録音した音声データ・動画
- モラハラ行為によって壊された物の写真
- モラハラ発言が記録されたメール・LINE・SNS
- モラハラ行為の詳細(いつ・どこで・何をされたか)を記した日記・メモ
- モラハラが原因でうつ病や適応障害などを発症した際の医師の診断書
- 警察や配偶者暴力相談支援センターなどの公的機関への相談記録
このような証拠を集めれば、単なる夫婦げんかではなく長期間にわたるモラハラであることを証明でき、離婚や慰謝料請求を有利に進められる可能性が高まります。
ポイントは、ひとつだけでなく複数の証拠を揃えることです。
単体では証拠として弱くても、複数の証拠を組み合わせることで有力な証拠になる場合があります。
なお、証拠を集めていると知られれば、証拠を捨てられたり消去されたりするおそれがあります。
相手に見つからないよう、音声を録るときは音の出ないボイスレコーダーを使用したり日記を鍵つきにしたりなど、見つからない工夫もしましょう。
3.離婚問題が得意な弁護士に相談する
モラハラという複雑で精神的に負担がかかる問題に、ひとりで立ち向かうのは非常に困難です。
モラハラで離婚成立を目指すなら、離婚問題が得意な弁護士に相談するとよいでしょう。
弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。
- 法定離婚事由にあたるケースか判断してもらえる
- 相手との交渉を代理してもらえる
- 証拠集めに関するアドバイスを受けられる
- 過去の裁判例などに基づき、適正な慰謝料額を算出してもらえる
- 調停・裁判の手続きや対応をサポートしてもらえる
弁護士が味方につくことで、加害者の高圧的な態度が和らぎ、交渉がスムーズに進むケースも少なくありません。
困難な状況を乗り越えるためにも、まずは一度弁護士に相談することをおすすめします。
モラハラを理由とする離婚が認められない場合はまず別居する
離婚が認められない場合、まずは別居して心身の安全を確保しましょう。
正当な理由なく勝手に家を出ると、夫婦の義務である同居義務違反に該当することがありますが、配偶者からのモラハラは別居の正当な理由として認められます。
モラハラから逃れるための別居は、決して責められるものではありません。
また、一定期間の別居は夫婦関係が修復不可能なほど破綻していることを示す客観的な証拠になります。
一般的に、3年前後の別居期間があれば、裁判でも離婚が認められやすくなるでしょう。
もし、別居中の生活費が不安で別居に踏み切れない場合でも、収入の多いほうの配偶者に対して生活費(婚姻費用)を請求する権利があります。
これは法律で定められた権利であり、相手が拒否しても家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てれば、支払いを確保できるケースがほとんどです。
また、離婚成立まで婚姻費用を支払い続けなければならない状況は、加害者にしてみれば大きな負担です。
そのため、「支払いを止めるために早く離婚したい」と相手側から離婚を急ぐようになる可能性もあります。
このように、別居には将来的に離婚が認められやすくなったり、相手に離婚を決断させたりといった効果が期待できます。
「モラハラで離婚したいけれど、離婚が認められず困っている」というときは、まずは別居に踏み切ることを検討するとよいでしょう。
離婚成立までの別居期間や、別居前後のNG行動については、以下の記事を参考にしてください。
【関連記事】離婚が成立する別居期間は何年?別居前後のNG行動も解説|ベンナビ離婚
さいごに|モラハラを理由に離婚する場合はしっかりと証拠を集めよう!
本記事では、モラハラ離婚を成立させるポイントと、離婚できなかったときの対処法について解説しました。
モラハラ離婚が認められるためには、モラハラを裏付ける客観的な証拠が必要です。
法律の専門家である弁護士の力を借りながら、手続きを着実に進めていきましょう。
また、今すぐの離婚が難しい場合は、ひとまず別居するという選択肢があります。
心身の安全を確保し、状況を有利に動かすためには非常に有効な手段です。
配偶者のモラハラによって、「自分が悪い」「他人に相談するのは世間体が悪い」と考えてしまうかもしれません。
しかし、被害者に非はありません。
配偶者から言われたことは置いておいて、まずは信頼できる人や専門家、公的機関など、誰かに相談するところから始めてみてください。
