養育費の先取特権とは?民法改正で養育費を獲得できる仕組みが変わる?
- 「養育費を払ってもらえない」
- 「約束はしたのに、途中から振り込まれなくなった」
離婚後、このような悩みを抱えている方は少なくありません。
養育費は子どもの生活を支える大切なお金ですが、実際には未払いが問題になるケースも多く見られます。
こうした状況を受けて注目されているのが「養育費の先取特権」という制度です。
これまでよりも強い形で養育費を確保できる可能性があるとされ、「何がどう変わるのか」「本当に回収しやすくなるのか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、養育費の先取特権とは何かという基本から、民法改正によって養育費の回収方法がどのように変わるのか、メリットや注意点までわかりやすく解説します。
大切なお子さんの生活を守るために、ぜひ参考にしてください。
養育費の先取特権とは?民法改正で先取特権が導入されると何が変わるの?
先取特権とは、法律で定められた一定の債権について、ほかの債権者よりも優先して弁済(支払い)を受けられる権利のことです。
(先取特権の内容)
第三百三条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
引用元:民法|e-Gov法令検索
通常、債務者の財産が不足している場合、原則として債権者は平等に扱われます。
しかし、生活に直結する重要な債権などについては、特別に保護する必要があるため、例外的に「優先順位」が認められています。
たとえば、従業員の給料などは、法律上の先取特権が認められる代表的な例です。
これらは生活や社会的配慮の観点からとくに重要とされ、ほかの一般的な債権よりも先に回収できる仕組みになっています。
今回の民法改正では、養育費についてもこの先取特権の対象に含め、未払いが発生した場合により強い形で回収を図れるようになるのがポイントです。
先取特権があると強制執行のハードルが下がる
先取特権が認められると、養育費を回収する際の強制執行のハードルが大きく下がります。
通常、相手が養育費を支払わない場合、給与や預金を差し押さえるには「債務名義(判決・審判・調停・公正証書など)」が必要です。
そのため、まず家庭裁判所での手続きや公正証書の作成を経なければならず、時間と労力がかかる点が大きな負担でした。
しかし、養育費に先取特権が認められると、一定の条件のもとで、他の一般債権よりも優先して回収できるだけでなく、債務名義がなくても差押えが可能になる場面があります。
つまり、「判決を取ってからでないと動けない」という従来の壁が低くなるのです。
特に、相手に複数の借金がある場合でも、養育費が優先される点は大きなメリットです。
子どもの生活費という性質を重視し、回収の実効性を高める仕組みといえるでしょう。
養育費の未払いに悩んでいる場合、この先取特権の存在は、実際にお金を回収できる可能性を高める重要なポイントになります。
先取特権で確保できる養育費の金額には上限がある
改正民法で施行される養育費の先取特権については、以下の規定も定められています。
(子の監護費用の先取特権)
第三百八条の二 子の監護の費用の先取特権は、次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権の各期における定期金のうち子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)について存在する。
一 第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二 第七百六十条の規定による婚姻から生じる費用の分担の義務
三 第七百六十六条及び第七百六十六条の三(これらの規定を第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四 第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
引用元:民法改正案|民法等の一部を改正する法律案新旧対照条文
つまり、民法改正によって、子の監護の費用については先取特権による強制執行が可能になるものの、実際の金額は自由に決められるわけではなく、子どもの監護に必要な費用であることや、その他の事情が考慮されるということです。
なお、先取特権が認められる養育費の範囲は、子ども1人あたり8万円までです。
民法改正により「法定養育費」も同時に導入される
法定養育費とは、改正民法において定められた最低限度の養育費のことです。
改正民法では、子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)と定義されています。
ここでは、法定養育費の内容や計算方法について解説します。
法定養育費は離婚時の取り決めがなくても請求が可能
改正前の民法では、離婚協議や家庭裁判所の調停・審判によって養育費の具体的な金額や支払い期限などについて取り決めをしておかなければ、非監護親に対して養育費を請求することはできませんでした。
法定養育費制度が新設されたことで、離婚時に養育費について取り決めをしていなくても、法律が保障する分の法定養育費については、非監護親の財産に対して先取特権に基づく強制執行をかけることができます。
法定養育費の計算方法
法定養育費の金額は、子ども1人につき2万円です。
たとえば、子どもが1人であれば月額2万円、2人であれば月額4万円、3人であれば月額6万円となります。
法定養育費はいつまで請求できる?
法定養育費は、子どもが18歳に達するまで、もしくは養育費の取り決めがなされるまで支払われるのが通常です。
通常の養育費とは支払い期間の考え方が少し異なるので注意しましょう。
なお、法定養育費は制度導入後の2026年4月1日以降に離婚した場合であれば、過去にさかのぼって請求が可能です。
ただし、2026年4月1日以前に成立した離婚については、さかのぼって請求することはできないので注意しましょう。
【関連記事】養育費はいつまで支払えばいいの?期間の目安や取り決めのポイントなどを詳しく解説
法定養育費や養育費の先取特権が導入された背景
ここからは、法定養育費や先取特権が導入された背景について紹介します。
法定養育費制度が導入された背景
法定養育費制度が存在しない改正前民法では、養育費の金額を決めるには、父母間で協議をしたり、家庭裁判所の調停・審判手続きを利用しなければいけませんでした。
ところが、実際の離婚の現場では、以下のデータが示すように、相手方が話し合いに応じなかったり、調停や審判などの手続きを利用するだけの余力がなかったりして、離婚時に養育費の取り決めがされていないケースが多いです。
| 養育費の取り決めをしている | 46.7% | |
| 文書あり | 76.6% | |
| 文書なし | 23.1% | |
| 不詳 | 0.2% | |
| 養育費の取り決めをしていない | 51.2% | |
| 不詳 | 0.2% | |
| 養育費の取り決めをしている | 28.3% | |
| 文書あり | 67.2% | |
| 文書なし | 29.5% | |
| 不詳 | 3.3% | |
| 養育費の取り決めをしていない | 69.0% | |
| 不詳 | 2.1% | |
【参考】令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(17養育費の状況)
法定養育費制度が導入されたことで、養育費について具体的な取り決めをしていないケースでも、非監護親に対して一定額の養育費を請求できるようになりました。
たとえば、DVや虐待、モラハラなどが原因で細かい協議をする余裕なく離婚を決断したケースや、子どもの養育費についてじっくり考える心の余裕がなくて離婚に至ったケースでも、最低限の養育費が保障されるでしょう。
養育費の先取特権が導入された背景
改正民法が施行される前の現在、未払いの養育費を確保するために非監護親の財産を差し押さえるには、公正証書や調停調書、審判書、確定判決などの債務名義が必要です。
しかし、養育費が支払われず、家計がひっ迫しているひとり親世帯にとって、養育費の支払いを求めるために法的措置に踏み出すのは簡単なことではありません。
実際、養育費の受給状況については以下のデータが公表されており、相当数のひとり親世帯が継続的に養育費を受け取ることができていないのが実情です。
| 現在も養育費を受けている | 28.1% |
| 養育費を受けたことがある | 14.2% |
| 養育費を受けたことがない | 56.9% |
| 不詳 | 0.8% |
| 現在も養育費を受けている | 8.7% |
| 養育費を受けたことがある | 4.8% |
| 養育費を受けたことがない | 85.9% |
| 不詳 | 0.6% |
【参考】令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(17養育費の状況)
一定額限度の養育費に限られますが、先取特権が認められたことによって、債務名義がなくても差し押さえ手続きを申し立てることができるようになったので、強制執行に至るまでのプロセスが大幅に簡略化されたといえるでしょう。
法定養育費・先取特権が導入されても養育費の適正額の算出や交渉は不可欠
法定養育費や先取特権が新設されたことで最低限度の養育費をスピーディーに確保しやすくなりました。
しかし、法定養育費の金額は子ども1人あたり2万円と、決して十分な額とはいえません。
子どもの生活や進学、習いごとなどのことを総合的に考えると、父母の収入実態に即した適正な養育費の支払いを受けるべきでしょう。
そのため、離婚をする際には、必ず養育費の金額や支払い方法、支払い期限などの諸条件について相手方と協議をする必要がありますし、父母間で合意形成に至らない場合には、家庭裁判所の養育費調停・審判を利用しなければいけません。
離婚時に養育費についての取り決めをしておけば、民法改正後の法的手続きもより有利に進めることができるでしょう。
法定養育費・先取特権に関する民法改正の時期
令和6年5月17日に、法定養育費や先取特権に関する改正民法(民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号))が成立しました。
そして、令和7年10月31日の閣議決定で、改正民法の施行日が令和8年4月1日に決まりました。
今般の民法改正では、法定養育費や先取特権以外にも、共同親権や面会交流、財産分与、養子縁組など、さまざまなルール変更が定められています。
すでに離婚が成立している父母にも関係がある改正なので、現在の離婚・親子関係などについて不安・疑問を抱いているなら、念のために一度は弁護士までお問い合わせください。
【参考】民法等の一部を改正する法律の施行期日について|法務省民事局
民法改正をふまえ養育費について弁護士に相談するメリット
これから離婚を検討している人、すでに離婚が成立しているものの養育費の未払いトラブルを抱えている人は、念のために一度は弁護士に相談・依頼をしてください。
というのも、民法改正で養育費などのルールが大幅変更される現場において弁護士に相談・依頼をすることで、以下のメリットを得られるからです。
- 改正民法の施行日まで離婚を待つべきかどうかを判断してくれる
- 父母の収入、子どもの年齢、人数、父母が希望する子育ての方法などの個別事情を考慮して、適正な養育費の金額を算定してくれる
- 相手方との養育費に関する交渉を代理してくれる
- 養育費に関するトラブルが調停・審判手続きに移行したときのサポートを期待できる
- 養育費の未払いトラブルが生じたときに、スムーズに強制執行などの法的措置に踏み出してくれる
- 連絡先や行方がわからない非監護親の所在を調査して、未払い養育費を回収してくれる
- 養育費以外の離婚条件、慰謝料などについて、有利な解決を期待できる など
さいごに|民法改正で養育費を獲得しやすくなる!
改正民法が施行されると、法定養育費制度や先取特権制度を利用できるようになるので、非監護親から養育費を回収しやすくなります。
ただし、これらの制度変更がされたからといって、今までのような養育費に関する協議などが不要になるわけではありません。
子どものために適正な金額の養育を確保するには、弁護士の協力を得ながら、相手方と粘り強く交渉を進めて離婚協議書などを作成したり、家庭裁判所の調停手続きなどへ対応する必要があります。
なお、ベンナビ離婚では、最新の民法改正の動向に詳しい弁護士を多数紹介中です。
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