侮辱罪で訴えるには?訴えるための方法や、起訴に必要な準備を解説


侮辱罪で訴えるには刑事告訴と損害賠償請求の2つの方法があります。
侮辱罪で訴えるためには、どのような場合に侮辱罪が成立するかを把握したうえで、証拠を集めたり相手を特定したりしなければなりません。
この記事では、侮辱罪の成立要件や名誉毀損との違いについて具体例を交えながら解説したうえで、侮辱罪で訴えるための手続きを紹介します。
弁護士に依頼するメリットや費用などの疑問にも回答していますので、どうぞ最後までご覧ください。
侮辱罪で訴える方法とは?
相手を侮辱する行為は刑法上の犯罪になり、被害者には精神的な苦痛も伴うため、刑事と民事の両方で加害者に責任追及できます。
匿名掲示板やSNSの投稿は侮辱罪にあたるケースがあるので、加害者を訴えたいときは以下のように対処してください。
警察に告訴する
侮辱罪の加害者を訴えたいときは、警察への告訴を検討してください。
警察が告訴状を受理した場合、加害者に対する捜査や取り調べがおこなわれるため、状況によっては逮捕されるケースがあります。
侮辱罪は2022年7月7日から厳罰化されているので、検察官が起訴する可能性も十分認められるでしょう。
ただし、加害者を特定できていない、または加害者が住所不定の場合は警察が告訴状を受理しない可能性が高いので、ネット上の侮辱は刑事告訴が難しいかもしれません。
具体的な対処法は後述しますが、掲示板やSNSの管理者に加害者情報の開示請求をおこない、加害者の特定を行う必要もあります。
民事上の損害賠償請求をする
侮辱によって精神的な損害を被ったときは、加害者に対して民事上の損害賠償を請求できます。
ただし、民事上のトラブルには警察の介入がなく、当事者同士の交渉で損害賠償請求しなければならないため、以下の問題をクリアする必要があります。
- 加害者を特定する必要がある
- 具体的な損害を証明する必要がある
- 適正な慰謝料を請求する必要がある
いずれも専門知識が必要になり、膨大な時間と労力もかかるので、損害賠償請求は弁護士のサポートを受けたほうがよいでしょう。
侮辱罪とは何か?成立要件や名誉毀損との違い
侮辱罪には以下の成立要件があるため、悪口がすべて侮辱に該当するとは限りません。
また、侮辱は名誉棄損と混同しやすいので、それぞれの違いを理解しておきましょう。
侮辱罪の成立要件
侮辱罪は刑法231条に規定されており、「事実を指摘せずに、公然と侮辱する行為」が成立要件になります。
但し、「侮辱」とは全ての悪口を意味するものではなく、単に「バカ」、「ブス」、「ケチ」などと言われても、侮辱罪には該当しない可能性が高いです。
社会通念上の受忍限度を超えた悪口が「侮辱」に該当すると考えられています。例えば以下のような内容です。
- ○○はブスな上に性格も悪く見るに耐えない
- ○○はバカで役立たずであり、生きている価値がない
なお、侮辱罪の対象には法人も含まれており、法人に対する侮辱行為も侮辱罪を構成します。
侮辱罪と名誉毀損との違い
名誉棄損は刑法230条に規定される犯罪となり、「事実の摘示」が侮辱罪との大きな違いです。
掲示板やSNSに以下のような具体的事実が書かれていた場合、名誉棄損が成立します。
但し、投稿された内容が真実であり、公共性や公益性が認められる場合は、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しません。
- ○○は上司の○○さんと不倫関係だ
- ○○は窃盗罪で捕まったことがある前科者だ
- ○○は○○さんの財布からお金を抜き取っている
侮辱罪と名誉棄損は以下のように刑事罰も異なっているので、どちらに該当するかよく確認しておかなければなりません。
- 侮辱罪:1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留や科料
- 名誉棄損罪:3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
なお、特定の相手に向けたメールやダイレクトメッセージは「公然」に該当しないので、侮辱罪や名誉棄損罪は成立しないことになります。
但し、この場合であっても、民事上、名誉感情の侵害として、違法となる場合があります。
名誉毀損の裁判費用については名誉毀損の裁判に必要な費用は?名誉毀損による損害賠償請求の事例も紹介もご覧ください。
侮辱罪は親告罪
告訴がなければ検察官が起訴できない犯罪を親告罪といいます。
侮辱罪も親告罪になっており、被害者本人による告訴、または被害者が未成年者だった場合は父母などの法定代理人が告訴しなければなりません。
侮辱罪の時効
親告罪の告訴は「加害者を知った日から6ヵ月以内」が期限になっています。
また、侮辱罪には公訴時効もあり、侮辱行為から3年経過すると検察官は起訴できなくなるので、被害に気付いたタイミングも重要になるでしょう。
侮辱罪が認められた裁判例
刑事裁判では以下のような事例を侮辱罪として認めており、有罪判決を下しています。
【侮辱罪の裁判例1】
インターネット上の掲示板に「昔、どっ突かれては泣きながら猫パンチして笑われ者だった○○(被害者名)は、自分の稼ぎで自分の家族を住まわせる住まいすら持てなくて豚女房の 親が買ったボロ家で情けねー住み着き生活している廃品クズ野郎(笑)」などと掲載したもの。
【侮辱罪の裁判例2】
インターネット上の掲示板に「○○(被害者名)って金も無いし女も居ないし友達もいない童貞だろ?裏で悪口言われまくりなの知らないのは本人だけだ。ワキガと口臭どうにかして接客しような?」などと掲載したもの。
いずれも掲示板やSNSへの投稿ですが、判決はすべて9,000円程度の科料となっているため、ほかの犯罪に比べて軽い刑事罰といえます。
但し、悪質なケースでは、罰金数十万円というケースも散見されるため、ケースバイケースといえます。
なお、科料の処分でも前科者にはなるので、加害者に刑事罰が必要な場合は告訴を検討してみるべきでしょう。
侮辱罪で訴える流れと必要な手続き
民事と刑事で侮辱罪を訴えるときは、以下の流れで対応してください。
ただし、刑事告訴や損害賠償請求は、一般の方にはハードルの高い手続きになるため、弁護士にサポートしてもらうことをおすすめします。
証拠を集める、相手を特定する
ネット上で侮辱された場合、加害者がわからなければ損害賠償請求できず、告訴を受理してもらえる可能性も低くなるため、まず証拠を集めて相手を特定する必要があります。
侮辱罪の証拠は掲示板やSNSへの投稿内容になるので、以下の方法で証拠を保全してください。
対象のURLが必要となるため、スマートフォンでのスクリーンショットのみでは証拠として不十分であるため、注意が必要です。
- スクリーンショットで画面を保存する
- 投稿画面を印刷しておく
- ウェブ魚拓をとる
- 投稿ページのURLを保存する
次にサイト管理者へ投稿者情報を開示請求しますが、匿名掲示板の場合は掲示板の管理者にIPアドレスを請求し、次に投稿者の使用したプロバイダへ住所・氏名を請求する流れになります。
ただし、プロバイダが個人からの開示請求に任意に応じる可能性は極めて乏しいため、裁判所を介した開示請求命令の仮処分手続き、または訴訟を起こすケースが一般的です。
申し立てや訴訟はプロバイダの本社所在地を管轄する裁判所又は東京地方裁判所もしくは大阪地方裁判所になるので、地方在住の方は開示請求が難しいかもしれません。
また、加害者を特定していない状況では告訴を受理してもらえる可能性も低いため、自分で開示請求に対応できないときは弁護士に依頼してください。
刑事告訴
加害者の特定に成功したら告訴状を作成し、証拠を揃えて警察署に刑事告訴します。
ただし、犯罪捜査規範63条では告訴を受理するように定めていますが、人命に関わるような緊急事態でもない限り、警察が積極的に告訴を受理するケースは少ないようです。
また、加害者を知った日から6ヵ月以内であることや、犯罪事実の証明も必要になるので、弁護士に協力してもらったほうが告訴は受理されやすいでしょう。
弁護士は事件解決の進展もチェックしてくれるので、捜査の遅延も防止できます。
民事上の損害賠償請求
民事上の損害賠償請求をおこなう場合、加害者と直接交渉して以下の項目を決定します。
- 慰謝料の金額
- 慰謝料の支払日と支払い方法
- 約束を破ったときの罰則
しかし、ネットの投稿者は素性がわからないため、住所・氏名を特定したことや、慰謝料を請求したことで逆恨みされる可能性が考えられます。
相手との交渉に不安があるときは、弁護士に代理人を依頼しておきましょう。
相手が交渉に応じないときや、慰謝料を支払わないときは民事訴訟も検討してください。
侮辱罪で訴える以外の対処法
ネットの情報は拡散スピードが早いため、侮辱罪にあたる投稿を放置すると別サイトに転載される可能性があります。
また、侮辱罪の被害者には心情的な問題も発生するので、以下のように訴訟以外の対処も必要になるでしょう。
削除依頼をする
侮辱にあたる投稿は匿名掲示板などの利用規約に違反しているので、専用フォームから削除依頼できるケースがほとんどです。
ただし、削除するかどうかはサイト管理者の判断になるため、必ずしも削除依頼に応じてもらえるとは限りません。
確実に削除してもらいたいときは、400~500文字程度で違法性や削除の妥当性を証明する必要があるので、文面も工夫しなければならないでしょう。
また、サイト管理者が犯罪に関わっているわけではないので、「早く削除しろ!」などの高圧的な依頼は避けなければなりません。
侮辱にあたる投稿を削除したい場合、弁護士名で削除依頼してもらったほうが成功率は高くなります。
Twitterの削除依頼についてはTwitterの書き込みやアカウントを削除依頼するには?削除依頼の方法を解説もご覧ください。
侮辱罪で訴える際によくあるQ&A
侮辱罪で加害者を訴えるときは、以下のQ&Aも参考にしてください。
侮辱があったこと、侮辱により被害を受けたことは被害者が立証しなくてはならないため、証拠の残し方もよく理解しておきましょう。
刑事告訴と損害賠償は同時にできますか?
同時対応は可能です。ただし、以下の作業を同時進行させなければなりません。
- 証拠保全
- 仮処分命令や訴訟手続きへの対応による加害者の特定
- 告訴状の作成
- 損害賠償請求の段取り
自分1人で対応すると、告訴の期限や加害者を特定するために必要なアクセスログというプロバイダが保有する情報の保存期限を過ぎる可能性が高いので注意してください。
アクセスログの保存期間は3~6ヵ月程度になっており、削除された場合は加害者の特定が困難になります。
加害者を特定できたとしても、民事のトラブルには警察が介入しないため、損害賠償請求をする日時や場所を自分で調整しなければなりません。
時間に余裕がある方でも対応が難しいので、同時に刑事告訴と損害賠償請求をしたいときは弁護士のサポートが必要になるでしょう。
侮辱罪の証拠にはどのようなものがありますか?
侮辱罪の証拠には以下のようなものがあります。
- 侮辱内容の投稿画面と投稿ページのURL
- 侮辱行為がわかる音声や映像
侮辱にあたる書き込みと一緒に音声や映像が投稿されていた場合、可能であればダウンロードして保存しておきましょう。
弁護士に依頼するメリットは?
弁護士に依頼すると以下のメリットがあるので、刑事・民事ともに問題解決できる可能性が高くなります。
- 侮辱の証拠集めを依頼できる
- 開示請求の手続きを依頼できる
- 告訴手続きにも対応してくれる
- 加害者との示談交渉を任せられる
- 誓約書や和解契約書などの作成を依頼できる
犯罪の立証責任はすべて被害者側にあるため、対応が遅れると告訴期間を経過してしまい、告訴を受理してもらえなくなります。
しかし、弁護士は依頼者の意向が実現するようにフルスペック対応してくれるので、刑事告訴が受理されやすく、損害賠償請求も有利な展開になるでしょう。
弁護士に依頼するとどのくらいの費用がかかりますか?
侮辱罪の刑事告訴や損害賠償請求を弁護士に依頼すると、一般的には以下のような費用がかかります。
【開示請求や損害賠償請求などの民事関係】
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【刑事告訴を依頼したときの弁護士費用】
刑事告訴1件につき20~50万円程度
弁護士に依頼した場合は法律相談料として30分5000円〜1万円、1時間1万円〜2万円程度の費用もかかりますが、多くの弁護士は初回の相談料を無料にしています。
交通費などの実費も発生するので、無料相談を活用して費用体系をしっかり聞いておくとよいでしょう。
名誉毀損の裁判費用については名誉毀損の裁判に必要な費用は?名誉毀損による損害賠償請求の事例も紹介もご覧ください。
まとめ|侮辱罪で訴えたい方は弁護士に相談を
侮辱罪の加害者を訴えたいときは、まず弁護士に相談してください。
ネット上の犯罪は加害者の特定が難しく、被害に気付いたときには告訴手続きの期限が間近に迫っているケースもあります。
タイミングを逃したために開示請求が間に合わず、泣き寝入りする被害者も少なくないため、侮辱罪はスピーディかつ的確に対応しなければなりません。
しかし、弁護士に依頼するとすべて対応してくれるので、まず無料相談だけでも活用してみましょう。