遺留分を渡したくない!相続させないための方法や請求を受けとった場合の対処法を解説
遺留分とは、相続において最低限認められている相続割合のことです。
遺言書や遺産分割協議で内容に納得できない場合に行使されることが多く、相続の公平性を保つのに役立っています。
一方で、家庭や家族によっては遺留分すら相続させたくないというケースもあるでしょう。
遺留分は非常に強い権利ですが、工夫次第では遺留分を減らすことも可能です。
この記事では、遺留分を渡さないための方法や減額する方法について解説します。
それぞれの注意点や遺留分を請求されてしまったときの対処法も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
遺留分を渡さなくていい方法
そもそも遺留分とは、一定の相続人に対して最低限保障されている財産の取り分のことを指します。
基本的に、遺言書に記載されている内容よりも優先されるため、相続財産の割合が不当に低い場合に行使されます。
遺留分を渡さずに済む方法は、以下のふたつのパターンに分かれます。
- 全ての遺留分を渡さない
- できるだけ遺留分を減らす
ただし、遺留分は非常に強い権利のため①はかなりハードルが高めです。
次以降の見出しでは①②について、遺留分の特徴に絡めて「どう難しいのか」「具体的にどのような方法をとるのか」を解説していきます。
遺留分を全て渡したくないときの対処方法3選
まず、遺留分を全て渡さない方法について、具体的な方法となぜ難しいのかを解説します。
遺留分の相続を放棄してもらう
まず1つ目は、被相続人が亡くなる前に遺留分の放棄をしてもらうことです。
遺留分は民法で放棄することが認められており、家庭裁判所の許可をもらうことで遺留分を請求できなくすることが可能です。
ただし、遺留分の放棄は権利者本人が自分の意思で申請する必要があり、強制することができません。
また、被相続人が存命の間に申し立てをする必要があるので、すでに相続が発生している場合も有効ではないという点に注意が必要です。
相続欠格・相続廃除で相続権を失わせる
2つ目の方法は、遺留分を請求する権利をはく奪する方法です。
具体的には相続欠格と相続廃除という2つのパターンがあります。それぞれどのような方法なのか詳しく解説します。
相続欠格
相続欠格とは、被相続人・相続に対して重大な過失を行った者に対し、相続する資格をはく奪する制度のことです。
民法891条には、具体的に以下のようなことが記載されています。
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者引用元:民法 | e-Gov法令検索
つまり、被相続人を殺害したり詐欺をはたらいたり、または遺言書の記載を偽造するといった不正行為が認められないと相続欠格は認められません。
このようなケースは非常にまれなため、一般的に遺留分を渡さない方法としては使いにくいのが実情です。
相続廃除
相続廃除とは相続欠格と同じく、特定の相続人に対して相続する権利を失わせる制度のことです。
相続欠格は相続する権利を失うような重大な事由に対して行われる制度だったのに対して、相続廃除は被相続人の意思に基づいて行われます。
相続廃除について民法892条では以下のように記載されています。
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
つまり、相続人に対して侮辱や虐待などをおこなうといった著しい非行があったと認められる場合は、被相続人の意思のもと相続する権利をはく奪できるということです。
ただし、相続欠格・相続廃除ともに、相続する権利を奪えるのはそれに該当するおこないをした人物のみです。
そのため、その相続人に子どもがいれば、はく奪された権利がその子どもに移るため、その子どもが遺留分を請求してきた場合は受け入れなければなりません。
いずれの方法であっても、遺留分を請求する権利がある方に対して一切渡さずに済むというにはかなりハードルが高いといえるでしょう。
遺言書の付言事項に遺留分を認めない旨の記載をしておく
遺言書の付言事項に、特定の相続人に相談させない旨を記載する方法もあります。
ただし、法的に遺留分を阻止できる訳はなく、あくまで被相続人の意思を遺しておく程度の効果しかありません。
結局のところ遺留分を請求する権利をもつ本人に納得してもらうしかないため、あまり現実的な方法とはいえないでしょう。
遺留分を渡したくない人の相続分を減らす方法
遺留分はとても強い権利のため、その権利事態をはく奪させることは非常に困難です。
一方で、渡す分を少なくするということはできます。遺留分を減らすには、以下のような処置をとることが有効です。
【遺留分を減らすのに有効な処置】
- 相続する割合を減らす
- 相続する財産を縮小する
それぞれ具体的にどのようなことをすればよいのか、次の見出しで詳しく解説します。
養子縁組を組んで相続人の取り分を分散させる
まず1つ目は、養子縁組を組んで親子関係を結ぶことで、一人当たりの法定相続割合を小さくする方法です。
被相続人に二人の子ども(相続人)しかいなかった場合、遺留分全体で確保できるのは財産の2分の1です。
それを相続人同士で分け合うので、さらに半分の4分の1が一人当たりの取り分となります。
たとえば、このような状況で被相続人が養子縁組を組み子どもが三人になると、遺留分は財産の2分の1をさらに3つに等分するため、6分の1が一人当たりの相続割合となります。
このように、法定相続人の数を増やすことで一人当たりの相談割合を減らすことができるため、結果として遺留分を小さくすることができます。
もし代わりに財産を相続させたい人がいるのなら、こうした方法を活用することで遺留分を減らしつつ、より意向に沿った相続が可能となります。
ただし、養子縁組を組むには実親や法定代理人の同意を得る必要がある場合があったり、養子となる子どもに年齢の制限があったりするため、事前に条件をよく確認しておきましょう。
財産を生命保険に置き換える
生命保険の保険金は受け取り人に対して支払われるものであるため、相続における財産とは別物として扱われます。
そのため、現金で財産を遺すのではなく生命保険に置き換えておくことで、相続する財産を小さくし遺留分として請求できる額も減らすという方法が有効です。
具体的には、一時払いといって保険料を一括で支払っておき、亡くなったタイミングで保険金が支払われるようにしておきます。
そうすることで、相続する財産を減らしつつ保険金で渡したい方にお金を遺せるようになります。
ただし、ある程度の生活費は遺しておく必要があるのと、不動産といった現金化が難しい財産についてはあまり有効でないという点には留意しておきましょう。
また、生命保険金の金額が高く、その相続財産に対する比率が著しく高い場合には、例外的に、生命保険金も遺留分の対象となってしまうこともありますので注意が必要です。
生前贈与と相続放棄を活用する
生前贈与であらかじめ意図した方に財産を渡しておくのも有効です。
相続開始から10年よりも前に贈与された財産は、相続時の財産から控除されます。
そのため、長い時間をかけて相続する財産そのものを減らしておくことで、遺留分を小さくできるだけでなく特定の人物に財産を遺すことも可能です。
ただし、贈与税がかかる場合があるのと、遺留分を削るために不当に贈与がおこなわれたと判断される場合は、この限りではありません。
弁護士など専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
遺留分を請求されてしまった場合の対処方法
遺留分を請求されたが払いたくない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
まずは遺留分の請求が正しいかどうかを確認し、それでも解決しない場合は弁護士に依頼するのがよいでしょう。
ここでは、遺留分を請求されてしまった場合の対処法について、それぞれ詳しく解説していきます。
遺留分の請求が正しいか確認する
まずは、遺留分の請求が正当なものかどうかを確認しましょう。
「遺留分を請求する権利があるか」「金額は妥当か」の2点がポイントです。
相続人 | 遺留分の総額 | 配偶者の遺留分 | 子の遺留分 | 被相続人の父母の遺留分 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | ||
子のみ | 1/2 | 1/2 | ||
配偶者と子 | 1/2 | 1/4 | 1/4 | |
配偶者と、被相続人の父母 | 1/2 | 2/6 | 1/6 | |
被相続人の父母のみ | 1/3 | 1/3 |
遺留分を請求する権利があるか確認する
そもそも遺留分とは、法定相続人全てが主張できる権利ではありません。
基本的に遺留の権利があるのは、配偶者・子ども・孫・父母・祖父母のみです。
そのため、被相続人の兄弟姉妹や甥姪は遺留分の請求ができません。
遺留分の金額が妥当か確認する
遺留分の金額には、決まりがあります。
まず、遺留分として相続人が確保できるのは、遺産総額の半分(2分の1)までです。
この額に対して、それぞれ主張できる権利の割合が決まっており、遺留分として請求できる最終的な額が決まります。
父母のみが相続人となる場合、遺留総額に対して3分の1が父母の遺留分となります。
このように「相続人が誰で」「いくら請求できるか」が決まっているため、遺留分の請求をうけた場合はこの金額に沿っているかどうかを確認しましょう。
弁護士に依頼して交渉してもらう
自分で解決するのが難しいと感じた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分は登場人物が多かったり法律上のルールがたくさん絡んだりと、非常に複雑です。
場合によっては、主張できる権利以上の請求に応じてしまい損をする可能性もあるため、単独で進めず専門家と一緒に手続きをするのがおすすめです。
相続に関する専門家は数多くいますが、交渉を代理できるのは弁護士だけです。
争う相手が身内ということもあり、精神的にも肉体的にも疲労してしまうため、一連の交渉や調整といった業務をすべてお任せできるとより安心です。
弁護士に相談する場合相続を弁護士に無料電話相談する方法|弁護士の選び方や費用の相場も解説をご覧ください。
請求された遺留分を渡さないとどうなる?
遺留分は遺言書よりも優先される権利なので、その請求が妥当だった場合は支払いに応じなければなりません。
そのまま請求を無視していると相手に訴訟を起こされたり、強制執行によって財産が差し押さえされたりする可能性もあります。
もし請求を受けたら無視せず、弁護士に相談するなど適切に対処しましょう。
まとめ|遺留分に関する相談は弁護士に依頼しよう
遺留分は法律で認められている正当な権利のため、基本的には応じなくてはなりません。
工夫次第では遺留分の割合を減らすこともできますが、いずれの方法においても完全に渡さないことができず、法律上の知識が求められます。
そのため、遺留分に関するトラブルに巻き込まれてしまったら、自分で解決しようとせず専門家に頼るのがよいでしょう。
交渉する手間を省けるだけでなく、納得のいく結果につながりやすくなります。
初回の相談料を無料にしている弁護士事務所も多いため、まずはお試しで相談してみるのもよいでしょう。