成年後見人になるための資格は?親族でもなれるのか、手続き方法についても解説
成年後見人とは、重度の認知症、精神障害等により、自己の判断能力が欠けているのが通常の状態の人(成年被後見人)に代わり、財産管理や身上監護をする人のことを指します。
成年後見人へ就任するときに、何らかの公的な資格が必要であると考える方もおられると思いますが、実際に資格が必要か否か、以下の記事で説明いたします。
なお、法定成年後見制度では、認知症や障害の程度に応じて、成年後見人のほかにも、保佐人、補助人が選任されることがありますが、本記事では、このうち、認知症や障害の程度が重く、より支援を必要とする人(被後見人)をサポートする成年後見人についてみていきます。
本記事では、
- 成年後見人になるための条件
- 成年後見人の欠格事由
- 成年後見人になるために必要な手続き
について詳しく解説します。
成年後見人になるための資格はある?
成年後見人は、成年後見制度に基づいて家庭裁判所より選任される、成年被後見人の財産管理や身上監護(医療、介護、住居の契約手続きなど)をする人のことです。
成年被後見人とは、精神上の障がいにより事理を弁識する能力を欠く常況にある者を指します。つまり、精神障がい等により、単独で有効な判断をできない方に代わって、成年後見人が、医療、介護、住居等といった生活を維持するうえで必要な契約の締結や解除・成年被後見人の財産を管理することができます。
ここでは、成年後見人になるに際して必要な条件をみていきましょう。
特別な資格は不要
成年後見人になるには、成人していること、破産者でないことなど、法律上で定められた一定の制限はありますが、国家資格など特別な資格は必要ありません。
成年後見人は、成年被後見人に以下の事情がある場合、選任されることがあります。
- 本人が重度の知的障害を抱えている。
- 本人が認知症を患っていて、自身で安心した生活を送れない(例えば、いつも同じものを購入してしまうなど、判断能力が常に欠けているケース)
- 判断能力が欠けているため、第三者の財産を無断で持ち去ったり使ったりしてしまう など
欠格事由に当てはまる人は成年後見人になれない
成年後見人としてふさわしくないと判断される欠格事由はいくつかあり、民法に定められています(民法847条)。
成年後見人の欠格事由は、それぞれ以下のとおりです。
- 未成年者
- 裁判所によって法定代理人・保佐人・補助人を解任されたことがある方
- 破産した者(破産後に免責許可決定が下されて復権した場合等は含みません。)
- 成年被後見人を相手方として訴訟を起こした者、訴訟を起こした者の配偶者・直系血族
- 行方不明である者
成年後見人には誰がなることが多い?
成年後見人は、欠格事由に抵触していなければ、親族及び第三者でも選任されることができます。
厚生労働省が発表した「成年後見制度の現状」では、次のような結果となりました。
(引用:厚生労働省「成年後見制度の現状」)
上記のグラフによると、7割以上の人々が、親族ではない弁護士・司法書士などの専門職後見人に任せていることをうかがえます。
ここでは、成年後見人に親族が選任される場合と、弁護士・司法書士などが選任される場合のメリット・デメリットについて、それぞれみていきましょう。
親族が成年後見人になるメリット・デメリット
親族が成年後見人になるメリットとデメリットは、次のとおりです。
メリット |
デメリット |
・報酬の負担がないことが多い ・親族として身近にいるので、被後見人本人の状況をよく理解している |
・被後見人の資産を横領する例がある ・相続人である被後見人に代わり遺産分割協議に参加した場合、法的知識がないために被後見人に不利益を被らせる場合が有り得る |
平成31年に厚生労働省でおこなわれた成年後見制度利用促進専門家会議では、本人の利益を保護する意味から「親族が成年後見人にふさわしい」とする決定がなされています。
報酬の費用負担がない例が多いこと、親族として被後見人本人の状況を理解していることが多く、理にかなった決定といえるでしょう。
ただし、被後見人が預貯金などの資産を管理している場合、親族成年後見人が横領するケースも散見されます。
また、相続人である被後見人に代わって親族成年後見人が遺産分割協議に参加するケースでは、成年後見人が法律上の専門知識を有していない場合、被後見人本人に不利益を被らせる可能性も有り得ます。
弁護士・司法書士を成年後見人に選任するメリット・デメリット
法的な問題を抱えた成年被後見人について、弁護士・司法書士の成年後見人が選任されることは、非常にメリットがあります。
例えば、成年被後見人が当事者の一人となる遺産分割協議において、弁護士・司法書士の成年被後見人は、法的知識を駆使して対応してくれるため、心強い存在となるでしょう。
そのほか、弁護士・司法書士が専門職として公正に財産を管理することにより、被後見人の資産横領のリスクが小さくなることが挙げられます。
ただし、弁護士・司法書士の成年後見人は、選任されるまでは赤の他人なので、被後見人本人の状況を親族ほど把握できていなかったり、後見人に対する報酬負担が発生したりする点は、デメリットとして挙げられるでしょう。
成年後見人になるための手続き
既に判断能力が著しく低下した人のために、家庭裁判所に成年後見開始の審判を申立てる場合は、法定後見制度を利用します。
ここでは法定後見制度を利用して成年後見人が選任される流れをみていきましょう。
医師の診断書や申立書などを準備する
成年後見人を選任するには、被後見人に判断能力がないことを証明しなければなりません。
そのため、次のような書類を用意しましょう。
- 後見開始申立書
- 医師の診断書
- 成年被後見人の戸籍謄本・住民票
- 成年後見の登記がなされていないことの証明書
- 成年被後見人の財産目録
- 成年被後見人の収支予定書
- 申立事情説明書
- 成年被後見人の親族関係図
- 後見人等候補者事情説明書
- 親族の意見書
- 後見人等候補者の住民票
- 本人情報シート など
成年被後見人になる人物の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、成年後見の申立てをおこないます。
上記の必要書類は一例であり、家庭裁判所により異なるため、事前に管轄の家庭裁判所へ必要書類の種類を確認しておきましょう。
受理面接にて成年後見人を申し立てるに至った経緯を話す
成年後見の申立てが受理されたあとは、家庭裁判所は、申立人と後見人候補者に対し、参与員を介して受理面接を行う場合も有ります。
このとき、成年後見の申立ての理由、同申立てに至った経緯、成年被後見人の生活状況などを問われるでしょう。
後見人候補者が親族の場合は、後見制度に関するビデオを視聴し、後見事務について学ぶ時間も設けられています。
家庭裁判所から審理・審判を受ける
申立書や受理面接の終了後、家庭裁判所は、申立ての必要性、申立て理由の適正さ、成年後見人候補者に問題がないか否か、という点を検討します。
家庭裁判所は、申立てを受理した後、成年後見人の選任手続に入りますが、成年後見申立書で挙げられた成年後見人候補者が本件の成年後見人にふさわしくないと判断した場合は、裁判所の判断で、別の人物が成年後見人に選任される場合もあります。
なお、選任された成年後見人に対し、別の者を選任すべきである旨の不服申立てを行うことはできません。
選任された成年後見人は法務局で登記される
成年後見人が選任された後で、法務局で成年後見人が選任されたことを内容とする登記がなされます。
後見登記事項証明書には、成年被後見人および成年後見人の氏名や住所、権限の範囲などが記載されています。
親族が成年後見人になるときの注意点
親族が成年後見人になる場合、次の2点に注意する必要があります。
- 成年後見人選任の申立て後、個人的な理由で取り下げすることはできない
- 親族の反対がある場合、成年後見人にはなれない場合も有る
成年後見人選任の申立て後に個人的な理由で取り下げることはできない
法定後見人を選任するために家庭裁判所に申立てをおこなったあとで、個人的な理由で取り下げることはできません。
家庭裁判所は、誰が成年後見人として適切かを判断して選任します。
家庭裁判所の選任の決定に対し、不服申立てを行うことはできませんし、自分が成年後見人になるつもりだったにもかかわらず、弁護士などの専門職後見人が選任された場合に申立てを取り下げることも出来ません。
親族の反対がある場合は成年後見人になれない場合もある
成年後見人候補者が、成年被後見人の親族から就任に反対されている場合も、成年後見人には不適格として家庭裁判所が認めないケースがあります。
親族間で紛争が起きている状況のなかで(例えば、成年被後見人である親を子らが奪い合うケース等)、成年被後見人職務の公正さを保てる人物でなければ、選任後に親族間での大きなトラブルを引き起こしかねません。
家庭裁判所は、職務の公正さを担保するため、親族からの反対が集中する人物を成年後見人には選任せず、弁護士などの専門職を成年後見人に選任する場合があります。
もし、親族間の仲が悪い状況でも、親族に成年後見人を任せたいのであれば、本人の判断能力が低下する前に、任意後見契約を締結するという方法もあります。
任意後見人は、任意後見監督人の監視下で財務管理などをおこなうので、職務の公平さを比較的保つことができると判断される場合もあるでしょう。
任意後見人になるための手続き
成年被後見人に有効な判断能力があるうちに、被後見人が任意で選任した成年後見人は任意後見人と呼ばれ、法定後見人を選任する場合とは、行うべき手続きが異なります。
本人に有効な判断能力があるうちに任意後見契約を締結しておく
成年被後見人となる人物に有効な判断能力があるうちに、成年被後見人が任意後見人に財産管理などを任せる任意後見契約を締結することができます。
任意後見契約を締結するには、任意後見人となる者と成年被後見人になる者との間で締結された任意後見契約書が必要です。
この任意後見契約書は、公正証書で作成しなければいけません。
この公正証書を作成して任意後見契約が有効に成立した後は、公証人が、任意後見契約が締結されたことを法務局へ登記申請します。
注意したいのは、任意後見契約が締結できたとしても、任意後見人には、家庭裁判所に後見人として選任されるまで代理権がない点です。
任意後見人は、家庭裁判所が成年被後見人に判断能力がないと判断しなければ、正式な任意後見人にはなり得ません。
この状態は任意後見受任者と呼ばれ、状況次第では成年後見人に選任されない場合も有ります。
家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをする
任意後見受任者が任意後見人に就任するには、専門の医師に成年被後見人の判断能力に関する診断書を作成してもらった上で、家庭裁判所に診断書その他必要書類と併せて、任意後見監督人選任の申立てを行わなければなりません。
任意後見人は、任意後見監督人の監視下で任意後見人の業務をおこなうことになります。
成年後見人は弁護士に依頼するのがおすすめ
成年後見人には、職務の公正さが求められます。
親族成年後見人の場合、報酬負担がないケースも多いですが、成年被後見人を中心として親族間でのトラブルが発生した場合、成年後見人の職務の公正さが疑われたり、成年被後見人が損失を被ったりする可能性を否定できません。
そのため、成年後見人の業務を任せられる専門職、特に様々な法的なトラブルへの対応に長けている弁護士への成年後見人就任の依頼をおすすめします。
万が一大きなトラブルになったとしても、弁護士などの専門職後見人は、法律の知識や法的トラブルへの対応の経験を駆使して成年被後見人の財産などを守ることができるためです。
最後に|成年後見人に関する相談は弁護士へ
成年後見制度を利用する人は年々増えており、内容は知らなくてもこの言葉を知っている方も増えてきました。
しかし、実際に成年後見人に選任されるとなると、業務の煩雑さや責任の重さに耐えられない方も出てくるでしょう。
法的な知識を求められる場合も多いので、成年後見の申立費用など、金銭の負担は発生しても、法的知識を有する弁護士にまずは相談するのが得策です。
また、成年後見人は被後見人の財産を守るための重要な人物であるため、社会的にも知識・経験的にも任せられる弁護士へ依頼するとよいでしょう。