不当解雇は裁判で解決できる!メリット・デメリットや実際の裁判例も解説
不当解雇は、労働者にとって重大な問題です。
裁判で徹底的に戦ってでも、解雇を撤回させたいと考える方も多いでしょう。
しかし、不当解雇を争う手段は裁判だけではありません。
場合によっては、会社との示談交渉などによって解決できるケースもあるでしょう。
この記事では、会社の解雇理由に納得がいかないという方に対し、実際に不当解雇が認められた裁判例を紹介しつつ、不当解雇の基準や、裁判で解決する具体的方法について解説します。
また、係争中の生活費を確保する方法もいくつかお伝えしますので、裁判中の生活に不安がある方は参考にしてみてください。
不当解雇とは?不当解雇に該当する条件
実行された解雇が「不当解雇」にあたるかは、個別の背景から総合的に判断されます。
しかし、日本では法律で強い解雇規制が敷かれており、一定の要件を満たさない解雇は「不当解雇」と判断される可能性があります。
労働者を解雇するのは難しい
日本では労働者の権利は強く保護されており、会社には厳しい解雇制限が設けられています。
労働契約法には、解雇について以下のように規定されています。
(解雇)
第十六条解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用:労働契約法
会社側が労働者を解雇するためには、社会の常識に照らして、「そのような事情があるなら解雇も仕方ないだろう」と客観的に納得できる理由が必要です。
日本では、解雇は会社側がいつでも自由にできる権利ではなく、あらゆる手段を駆使してもなお解決できなかった場合に、やむを得ずおこなわれる最終手段だといえるでしょう。
要件を満たさない解雇
解雇には、以下の3種類があり、それぞれ有効と認められるための要件があります。
これらの要件を満たさない場合には、裁判によって「不当解雇」と判断される可能性が高くなります。
- 懲戒解雇
- 整理解雇
- 普通解雇
懲戒解雇とは、就業規則に設けられた懲戒処分のうち、最も重い懲罰としての解雇を指します。
懲戒解雇の要件は、以下のとおりです。
- 懲戒解雇事由が就業規則に具体的に明記されていること
- その内容が周知されていること
- 手続きに則って進められていること
- 懲戒解雇をすることに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること(他の類似事案と比較して過度に重い処分ではないこと)
次に、整理解雇とは、会社の経営不振や事業縮小のためにおこなわれる人員整理による解雇です。
会社都合によるものであり、解雇は以下の要件を満たしたうえでやむを得ないと認められた場合のみ、正当な解雇と認められます。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 解雇手続の妥当性
最後に、普通解雇とは、能力不足や協調性の欠如など、労働者が雇用契約を満たす義務を果たせないと判断した場合の解雇のことをいいます。
普通解雇にはさまざまな事情がありますが、争いになった場合には、労働契約法第16条に基づき、以下のような観点から正当な解雇であるかを総合的に判断されます。
- 解雇理由が客観的、合理的か
- 社会通念上相当か
禁止されている理由による解雇
労働者を以下のような理由によって解雇することは、労働基準法により禁止されています。
- 労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
- 業務上の疾病による休業期間及びその後30日間の解雇
- 産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇
- 労働組合員であることを理由とする解雇
- 労働者の妊娠、出産、産前産後休業、育児休業、介護休業を申し立てたことによる解雇
- 労働基準監督署などに会社の違反行為を申告したことなどによる解雇
実際にあった不当解雇の裁判例3つを解説
以上のように、会社が合理的な理由なく労働者を解雇することは禁止されており、裁判によって「不当解雇」と判断される場合があります。
以下で、実際にあった不当解雇の裁判例を3つ紹介します。
能力不足による解雇
【事件の概要】(ブルームバーグ・エル・ピー事件:東京高裁平成25年4月24日判決)
従業員Xは5年間勤務した後に心療内科医のすすめによって1年間休職した後、職場に復帰しました。
会社側はXの能力に不足があるとして、改善プランを複数回実施しましたが、改善が見込まれなかったため、退職勧奨の後、Xを解雇しました。
これに対しXは、会社のした解雇が不当解雇であり無効であるとして、労働契約上の地位確認と賃金の支払いを求めて提訴しました。
【判示】
裁判所は、能力不足により解雇するには、職務能力の低下が雇用を継続できないほど重大なものか、使用者が労働者に改善矯正を促して努力反省の機会を与えたのに改善がなかったか、今後も指導による改善の見込みはないかなどを総合的に考慮したうえで、客観的に合理的な理由が必要だと判示したうえで、会社のおこなった解雇を無効と判断しました。
無断欠勤による解雇
【事件の概要】(紫苑タクシー事件:福岡高裁昭和50年5月12日判決)
約2ヵ月の無断欠勤を理由に、会社がXを解雇したケースです。
厚生労働省の通達では、「原則として2週間以上にわたり、正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促にも応じない場合には、労働者の責めに帰すべき事由となる」としています。
そのため、労働者が14日を超える無断欠勤が発生した場合には、懲戒解雇が認められると通常は考えられています。
ただし、労働者側に正当な理由がある場合には、2週間以上の無断欠勤があったとしても、懲戒解雇は認められません。
このケースでは、無断欠勤の理由が会社の代表による暴力が原因だったことが認められました。
【判示】
裁判所は、「およそ懲戒は、使用者が一方的に課することのできる労働者に対する不利益処分であるから、懲戒事由は使用者の責に帰することのできない事由によって発生し、又は労働者がこれを侵さない選択の自由があるのにあえて犯した企業秩序紊乱行為でなければならない」として、解雇を無効と判断しました。
業務命令違反による解雇
【事件の概要】(日本通信事件:東京地判平成24年11月30日)
社内ネットワークシステムへの管理者権限を不当に有していた従業員Xに対し、Y社が権限抹消を求めたところ、Xがこれを拒否したため、Y社が業務命令違反によりXを懲戒解雇したケースです。
Xはこの懲戒解雇は無効な解雇だとして、Y社に対して地位確認と賃金支払いを求めて訴訟を提起しました。これに対しY社は、Xがおこなった権限のないネットワークシステムへのアクセス等により、ネットワークの再構築を余儀なくされたとして、共同不法行為に基づく損害賠償を、Xに対して請求しました。
【判示】
裁判所は、労働者の業務命令違反による解雇は、「企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは、その現実的な危険性を有していることが必要である」と判示し、解雇を無効としました。
不当解雇で裁判するまでの流れ
不当解雇を争う場合には、任意で交渉する場合と、裁判所でおこなわれる法的手続きによる場合があります。
以下で、不当解雇を理由として労働審判の申し立てや訴訟提起をするまでの流れを解説します。
解雇理由証明書を入手する
まずは会社側に「解雇理由証明書」の交付を求めましょう。
のちに解雇の正当性を争う際の判断材料となります。
「解雇理由証明書」とは、会社側が労働者を解雇した理由を明記した証明書です。
通常、解雇理由に不満がある労働者側から請求され、その理由が正当であるかを判断する際の重要な証拠になります。
ただし、会社側は任意に解雇理由証明書を交付する義務はありません。
しかし、労働者から解雇理由証明書の交付請求があった場合には、会社は遅滞なく交付しなければならないことになっています(労働基準法第22条第1項)。
そのため、不当解雇を疑う場合には、必ず会社側に交付請求をしましょう。
会社と交渉する
解雇理由に正当性がなく、不当解雇が疑われる場合には、会社に対し、解雇を撤回するよう書面で請求し、裁判外で解雇の無効を交渉しましょう。
ただし、労働者自ら交渉すると、立場の違いから不利になる可能性があります。
場合によっては会社側が弁護士を代理人に立てることもあるでしょう。
自分一人で交渉するのが難しいなら、弁護士に依頼して代理で交渉してもらうことで、会社側と対等に交渉ができるでしょう。
労働審判の申し立て
任意での交渉が決裂した場合には、労働審判という手段があります。
労働審判とは、裁判所を介した当事者同士の話し合いです。
中立の立場である労働審判官、労働審判員が、当事者双方の主張を聞き、最終的な和解点を探ります。
手続きは3回以内に終了し、和解できなければ「労働審判」が下されます。
ただし、労働審判の内容に対してどちらかもしくは双方から異議が出れば、通常訴訟に移行します。
訴訟提起
不当解雇を徹底的に争いたい場合には、訴訟提起という手段もあります。
訴訟では、労働者と会社側が原告・被告となって対立し、裁判上で証拠に基づいて主張します。
主張は書面でやり取りされ、最終的には裁判所が判決を下します。
訴訟は最終手段でもありますが、明らかに会社側に交渉を受け入れる見込みがない場合には、任意交渉、労働審判を経ずに、最初から訴訟提起することも可能です。
ただし、訴訟には時間がかかり、1年以上続くことも珍しくありません。
不当解雇で裁判を起こすメリット・デメリット
不当解雇を争う手段は、裁判だけではありません。
以下で、裁判を起こすメリット・デメリットを確認しましょう。
メリット①復職できる可能性がある
裁判に勝訴して、解雇が無効になれば、会社に復職できる可能性があります。
会社に対して解雇の撤回を求める場合、「地位確認」を求めて訴訟提起します。
不当解雇が認められると、雇用関係が継続していることになるため、労働者は会社に戻れます。
今の会社で働き続けたいと希望する場合には、解雇無効による復職できるメリットは大きいでしょう。
メリット②慰謝料や損害賠償金を請求できる
復職を望んでいない場合にも、慰謝料や損害賠償金を受け取るなど、有利な条件で退職ができます。
裁判で地位確認を求める際には、雇用が継続していることを想定した給与の支払いや、不当解雇による慰謝料等を合わせて請求することもよくあります。
裁判に負けたとしても、会社が一度解雇した労働者を再び雇用することには大きな負担を伴います。
そのため、退職を条件に労働者が提示した賠償金等をある程度認めるケースも多いでしょう。
また、労働者側も不当解雇であることが認められれば復職してまで同じ会社で働きたいとは思わないケースが多く、最終的には金銭で解決することもよくあります。
不当解雇の慰謝料相場について不当解雇の慰謝料相場はどのくらい?請求方法や事例を解説をご覧ください。
デメリット①時間がかかる
裁判には時間も手間もかかります。
労働審判で解決すれば、3ヵ月程度で終了しますが、訴訟になれば年単位の時間がかかることも珍しくはありません。
裁判の間に再就職をすれば、会社復帰への意思がないとみなされるかもしれません。
また転職先で得た賃金は、会社から支払われる賃金から差し引かれてしまいます。
裁判中も生活は続きます。年単位で時間がかかれば、たとえ裁判に勝訴したとしても、状況は厳しくなるかもしれません。
デメリット②再就職に不利になる可能性がある
前の会社と裁判中である場合、就職活動に支障が出る可能性もあるでしょう。
たとえ裁判で不当解雇が認められたとしても、会社ともめ事を起こす社員だとみなされ、希望する転職先に敬遠されるかもしれません。
また、裁判が長期化すれば、再就職のタイミングを逃してしまうこともあるでしょう。
不当解雇で裁判を起こす際に生活費を確保する方法
不当解雇で裁判を起こすなら、争いの長期化を覚悟しなければならないでしょう。
そうなると心配なのは生活費です。
雇用保険の失業手当を請求する
整理解雇などの会社都合による離職の場合、7日間の待機期間を経過すれば、雇用保険から失業手当の支給を受けられます。
受け取れる日数は、離職時の年齢や被保険者期間によって90日から最大330日までとさまざまです。
以下で、自分の場合の失業手当額を確認してみてください。
参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
会社側に解雇予告手当を請求する
会社は、従業員を解雇する前には30日以上前に申し出なければなりません(労働基準法第20条)。
会社側から突然解雇を言い渡され、指定された退職日までの期間が30日よりも短かった場合には、会社に対し、解雇予告手当を請求できます。
たとえば、解雇日の10日前に解雇を告げた場合、会社側は20日分の日当を支払わなければなりません。
ただし、会社側がどうしても解雇したい場合には、30日分の解雇予告手当を支給したうえであれば、即日解雇も認められます。
なお、例外として、天災その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能である場合又は懲戒解雇の場合において、労働基準監督署長の認定を受けた場合には、会社は解雇予告をすることなく解雇をすることができます。
賃金仮払い処分の申し立て
賃金仮払い処分の申し立てとは、解雇無効を訴える労働者側が、裁判で地位確認を争っている間の賃金を確保するために、訴訟提起に先立って、係争中の賃金を支払うよう会社に請求する手続きです。
訴訟中、会社から賃金を得られないことで労働者側の生活が切迫し、訴訟継続が困難になる場合に認められます。
ただし、あくまでも仮処分申し立てなので、申立て後遅滞なく本案の訴訟提起をしなければなりません。
まとめ
不当解雇は、裁判で解決できます。
ただし、裁判には時間がかかるうえ、転職に支障をきたす可能性もあります。
訴訟の場合、争いが長期化することを見通して、その間の生活費を確保する手段も検討しておきましょう。
不当解雇を争う手段には、裁判の他にも会社との任意交渉や、労働審判の申し立てがあります。
必ずしも裁判手続きが最適な手段とも限りません。
訴訟提起のメリット・デメリットを考慮のうえ、自分の状況に合った方法を選びましょう。
また、いずれの方法も自分一人で対応するのではなく、弁護士に相談し、代理人として手続きを任せることをおすすめします。
その他の相談先に関しては不当解雇に関するおすすめ相談先5選|無料でよいアドバイスをもらうコツをご覧ください。