年俸制で残業代が出ない場合は損している!残業代の計算方法と請求方法を解説
年俸制は、業務で獲得した成果を直接反映できる給与体系であるため、多くの企業に導入されています。
そのため、給与体系が年俸制の企業で働いている方も多いことでしょう。
しかし、年俸制の場合、残業代は支払われるのか、気になる方もいることでしょう。
原則として、年俸制でも残業代は支払われますが、一部例外がありますので、注意が必要です。
そこで本記事では、残業代が支払われるケース・支払われないケース、不当に支払われなかった場合の対処法を解説していきます。
年俸制でも残業代はもらえる!
年俸制であっても、残業代は支払われることが一般的です。
まずは、年俸制がどのような制度なのかを見ていきましょう。
年俸制とは|1年間の給料を決めておく給与形態
年俸制は、あらかじめ1年間の給料を決めておく給与体系のことを指します。
主に、2つの方法があります。
- 年額の給与を12ヵ月で割った金額を1ヵ月の給与にする方法
- 年額を16ヵ月で割った額を1ヵ月の給与にし、4ヵ月分は賞与にする
①の場合、月給制と似たような支払われ方になりますが、月給制は毎月の給与を決めて支払われるため、考え方が異なります。
また、年俸制の場合は前年に大きな成果・利益を上げていれば、翌年の年俸が高くなる可能性があるという点も異なります。
年俸制の場合の残業のルール
年俸制であっても、法定労働時間は月給制などの場合と同じで、1日8時間、週40時間と決められています。
そのため、労働時間を超えた場合、会社は残業代を支払う必要があります。
よく「年俸制は残業代が出ない」などと誤った認識をされることがありますが、これは間違いのため、注意しましょう。
年俸制で残業代が出ない場合もある
一方で、特定のケースの場合は残業代が支払われません。
ここでは、残業代が支払われない理由をケースごとに解説します。
みなし残業制(固定残業制)で残業時間がみなし残業時間内の場合
みなし残業制(固定残業制)とは、一定の時間の残業代をあらかじめ含めた賃金あるいは手当を設定する制度のことです。
みなし残業制が採用されていれば、設定された残業時間を超えない限り、残業代が支払われることはありません。
裁量労働制で労働時間が法定労働時間内で収まっている場合
裁量労働制とは、あらかじめ労働時間を決めておき、その労働時間に対応した給与が支払われる制度です(労働基準法第38条の3、第38条の4)。
この、あらかじめ決めた労働時間が法定労働時間内(1日8時間以内)であれば、通常の法定労働時間を超えても残業代は発生しません。
ただし、あらかじめ定めた労働時間が法定労働時間を超える場合であれば、超えた部分の残業代が発生します。
管理監督者である場合
管理監督者とは、「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法第41条2号)のことをいいます。
具体的には、労働条件を決めたり、その他労務管理に関して経営者と一体的な立場で管理したりする社員のことを指します。
管理監督者の場合、労働基準法に定められた労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、残業代が支払われることはありません。
年俸制の残業代はいくら?勤務形態別の計算方法
ここからは、実際の残業代計算方法を勤務体系別に解説します。
年俸制の残業代の計算方法
年俸制の残業代は、下記の手順で算出していきます。
【年俸制の残業代の計算手順】
- 年俸金額を12ヵ月で割って月額賃金を算出
- 月額賃金を1ヵ月の所定労働時間で割って時給を算出
- 時給に時間外の割増率および実際に働いた残業時間をかける
すなわち、計算式は「年俸額÷12÷1ヵ月の所定労働時間×割増率×残業時間」となります。
年俸制でみなし残業制(固定残業制)の場合の残業代の計算方法
年俸制でみなし残業制(固定残業制)の場合は、次の手順で算出することになります。
【年俸制でみなし残業制(固定残業制)の残業代の計算手順】
- みなし残業として定められている時間を超過した時間に上記で算出した1時間の残業代や割増率をかける
具体的な計算方法は、「年俸額÷12÷1ヵ月の所定労働時間×割増率×(実際の残業時間-みなし残業時間)」となり、実際の残業時間からみなし残業時間を引く点が異なります。
年俸制で裁量労働制の場合の残業代の計算方法
年俸制で裁量労働制の場合の残業代は以下のように計算します。
- 1時間あたりの基礎賃金×割増率×(みなし労働時間-8時間)
1時間あたりの基礎賃金は、「年俸額÷12÷1ヵ月の所定労働時間」の計算式で求めます。
割増率は、短時間の残業、深夜の残業、休日労働などによって異なります。
年俸制で残業がある場合の残業代の計算例
年俸制で残業がある場合の残業代の計算例は、以下のとおりです。
【計算例】
・年俸額:800万円
・1ヵ月の所定労働:時間が176時間
・1ヵ月20時間の残業をおこなった場合
(800万円÷12÷176時間)×1.25×20時間=9万4,700円(1円未満切り上げ)
残業代の計算については年俸制で残業代が出ない場合は損している!残業代の計算方法と請求方法を解説をご覧ください。
年俸制で残業代をもらっていない場合の請求手順
ここでは、年俸制で残業代をもらっていない場合の対処法を見ていきましょう。
残業代未払いに関する証拠を集める
年俸制で残業代を請求する際は、未払いの証拠を準備する必要があります。
証拠になり得るものには、以下のものが考えられます。
- 実際の勤務時間がわかるもの(タイムカード、勤務時間表のコピー、PCログ記録、施設の入退館記録、交通ICカードの通過履歴 など)
- 就業規則や賃金規定が記載された雇用契約書や労働条件通知書
- 労働時間が記載されている給与明細
未払い残業代の証拠について詳細は未払い残業代を企業に請求する手順と必要な証拠とは?をご覧ください。
在職中なら会社と直接交渉してみる
在職中であれば、未払いの残業代について会社と交渉してみるのもよいでしょう。
証拠と残業代の金額を提示すれば、スムーズに交渉を進められます。
交渉によって残業代が支払われるため、一度交渉してみましょう。
退職後なら会社へ内容証明郵便を送る
すでに会社を退職してしまっている場合は、会社へ内容証明郵便を送りましょう。
直接交渉の場合は「聞いていない」とはぐらかされる可能性があります。
しかし、内容証明であれば受け取りの記録が残るため、言い逃れはできません。
また、残業代請求には3年の時効がありますが、内容証明郵便には一時的に時効を停止するという効果もあります。
残業代を会社に請求しても応じもらえない場合の対処法
残業代を会社に請求しても、必ずしも応じてもらえるとは限りません。
ここでは、請求に応じてもらえない場合の対処法を見ていきましょう。
労働基準監督署に相談する
残業代を請求したにもかかわらず会社が支払いに応じてくれない場合は、労働基準監督署に相談するのがおすすめです。
労働基準監督署は、残業代の未払いなど会社に労働基準法に違反する事実がある場合には、調査や是正勧告・指導などを行う権限を有しており、証拠があれば優先的に動いてもらえます。
また、証拠をもとに残業代の計算もしてもらえます。
正しい金額の残業代を請求するためにも、一度相談してみるとよいでしょう。
労働組合に相談する
残業代の請求に会社が応じてくれない場合は、労働組合に相談するのもひとつの方法です。
企業組合は、従業員しか加入できませんが、一般労働組合は誰でも加入できます。
また、請求の代行を任せられるというメリットもあります。
労働審判を起こす
「労働審判」とは、労働トラブルを解決させるために裁判所の労働審判委員会が介入する法的手続きです。
問題の早期解決を目的としており、訴訟よりも短期間での解決が期待できます。
労働審判でおこなわれる会社側と労働者側の話し合いは、原則として3回までです。
双方の事情を聴いたうえで、労働審判委員会が解決方法を検討します。
ただし、3回の話し合いで解決しなかった場合には、労働審判が下されます。
通常訴訟を提起する
会社が残業代の支払いに応じてくれない場合は、訴訟提起も視野に入れましょう。
訴訟であれば、以下の請求も可能です。
- 割増賃金と同額の付加金
- 遅延損害金
ただし、自分で訴訟の対応をするのは困難です。
法的根拠や証拠に基づく主張のハードルが高いことや、解決までに時間がかかってしまう可能性があるため、不安な場合は弁護士に相談しましょう。
労働問題が得意な弁護士に相談する
会社が年俸制における残業代請求に応じてくれないなら、弁護士に相談するのがおすすめです。
証拠集めや正確な残業代の計算、会社との交渉代行などを全て任せられます。
年俸制で残業代を請求する際には、証拠はもちろん、的確な交渉も必須です。
ご自身では難しい場合がありますが、弁護士に依頼すれば専門知識や経験を活かしながら有利に交渉を進めてくれます。
残業代請求を弁護士に依頼するメリットをまとめると、下記のとおりです。
【残業代請求を弁護士に相談・依頼するメリット】
- 残業代が支払われる可能性が高まる
- 早期解決の可能性が高まる
- 裁判手続きを利用する場合も任せられる など
残業代請求の相談窓口は残業代請求の相談窓口|無料相談できる窓口や弁護士に相談するメリットを解説をご覧ください。
残業代の請求を弁護士に依頼する場合の費用相場
残業代請求を弁護士に依頼する際にかかる費用の項目と金額の目安は、下記のとおりです。
【残業代請求を依頼した場合の弁護士費用】
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まとめ|まずは残業代を請求できるか確認を!
年俸制であっても、一部の例を除いて残業代を支払われるのが基本です。
「長時間労働なのに残業代が出ず、時給換算すると悲しくなる…」という方は、証拠を用意したうえで、然るべき機関や専門家に相談しましょう。
残業代請求を有利かつスムーズに進めるなら、残業代請求や労働問題を専門にする弁護士に相談することをおすすめします。