退職拒否はパワハラで違法!退職届の出し方やパターン別の対処法を紹介
退職したい旨を会社に伝えたところ、「退職届は受け付けられない」「後任が見つかるまで待ってほしい」と退職拒否をされることがあります。
しかし、会社が従業員の意思に反して退職を引き伸ばそうとしたり、退職を拒否して引き止めたりすることは、いわゆるパワーハラスメント(以下、パワハラ)にあたらないのでしょうか。
この記事では、会社や上司からの退職拒否がパワハラに該当するのかどうかを説明します。
また、パワハラや脅迫で退職拒否をされている場合の対処法や、なかなか会社を辞められないときの解決策などについて解説します。
会社や上司からの退職拒否はパワハラになるか?
会社や上司からの退職拒否は、法律上、問題はないのでしょうか。
ここでは、会社や上司から退職の引き止めをされた際にパワハラに該当するケースや、違法となりうるケースについてそれぞれ解説します。
パワハラとは
そもそも職場でおこなわれるパワハラとは、以下の3点を全て満たす行為をいいます(労働施策総合推進法第30条の2)。
業務上必要かつ相当な範囲内での業務指示や指導については、パワハラには該当しません。
- 役職などの優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えているもの
- 従業員の職場環境を悪化させているもの
退職拒否がパワハラに該当する場合
退職拒否そのものがパワハラにあたるかどうかは、実際の事案によって異なります。
たとえば、退職届を提出したところ、上司が暴力を振るった場合や、上司から「どうしても辞めるというなら、会社から損害賠償請求をするぞ」等と脅し文句を言われた場合で、これらの上司の言動により、従業員が身体的・精神的苦痛を負ったような場合は、パワハラと認められる可能性があるでしょう。
なお、「退職拒否がパワハラに該当するかどうか」に関係なく、会社による退職拒否そのものが法律違反であるため、その退職拒否に従う必要はありません。
退職拒否が違法となる理由
結論から述べると、退職拒否は違法です。
そもそも憲法第22条1項において「職業選択の自由」が認められています。
これを言い換えると、退職の自由も憲法で保障されているということです。
つまり、従業員の退職の申し出を拒否し、会社を辞めさせないことは違法になるわけです。
また、以下のような条文も根拠と考えられます。
【会社の退職拒否が認められないとされる主な根拠】
法律 |
内容 |
職業選択の自由 |
誰でも、公共の福祉に反しない限りは、居住、移転、職業選択の自由を有しています。 |
奴隷的拘束・苦役からの自由 |
誰でも、いかなる奴隷的拘束も受けることはありません。また、犯罪による処罰を除き、本人の意思に反して苦役に服されることも認められません。 |
期間の定めのない雇用の解約 |
退職の意思表示をしてから2週間が経過したら、その労働契約は終了したことになります。 |
強制労働の禁止 |
使用者は、暴行、脅迫、監禁、そのほかの精神・身体の自由を不当に拘束する手段を使い、労働者を強制的に就労させる行為は禁止されています。 |
退職拒否されようと退職届を出せば退職できる
会社から退職拒否をされたとしても、退職届を出せば会社を辞めることはできます。
ただし、以下のように契約期間の有無や給与形態によって退職の意思表示をするタイミングが異なるので注意しましょう。
【契約期間の有無別の退職時期に関するルール】
契約期間の有無と給与形態 |
退職の意思表示をする時期 |
|
無期雇用(雇用期間の定めがない場合) |
原則 |
2週間前までに通知する |
月給制の場合 |
給与計算期間の前半までに通知する |
|
年俸制の場合 |
3ヵ月前までに通知する |
|
有期雇用(雇用期間の定めがある場合) |
原則として満了日まで退職できない |
ここでは、契約期間の有無や給与形態ごとの退職のルールについて確認しましょう。
正社員など無期雇用の場合は原則2週間前までに届け出る
正社員は一般的に、労働契約において雇用期間が定められていません。
このような場合、民法第627条では以下のとおり、退職する旨を2週間前までに申告すれば会社を辞められると認められています。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
契約社員や派遣社員など有期雇用の場合は契約終了を待つ必要がある
通常、契約社員や派遣社員の場合は「3ヵ月間」「6ヵ月間」などの雇用期間があらかじめ設定されています。
そのため、原則として雇用期間が終了するまでは退職することができません。
雇用期間が満了し、契約更新をしなかったタイミングで、その仕事をやめることができます。
ただし、契約期間が1年以上あり、勤続年数が1年以上経過している場合は、契約社員や派遣社員であっても退職する権利が認められます(労働基準法附則第137条)。
また、雇用期間中に病気やけがなどによってやむを得ず働けなくなったなどの事情がある場合は、雇用期間中であっても退職が認められる可能性があります(民法第628条)。
法律と就業規則はどちらが優先されるか?
会社によっては、就業規則で「退職の申し出は1ヵ月前におこなうこと」など、民法で定められた期間よりも長く期間を設定している場合があります。
このような場合には任意規定である民法よりも、雇用契約や就業規則で定められた期間が優先される可能性が高いといえます(ただし、民法第627条を「強行規定」とする判例もあります)。
ただし、その期間が極端に長く設定されている場合は、就業規則の規定は無効となる可能性が高いと考えられます。
【パターン別】パワハラや脅迫で退職拒否をされている場合の対処法
会社を辞めたい意思があるにもかかわらず、パワハラや脅迫に近しい振る舞いによって退職拒否をされている場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
ここでは、パターン別にそれぞれの対処法やポイントを解説します。
「損害賠償請求をする」と脅されている場合
会社が従業員に対して損害賠償請求をするには、従業員が何かしらの不法行為などをしている必要があります。
そのため、正当な理由がないにもかかわらず「損害賠償請求をする」と脅してくる場合は無視して問題ないでしょう。
また、仮に「損害賠償請求をする」「法的措置をとる」などといわれて脅されている場合には、そのメールやチャットなどを保存したり、口頭で言われているなら録音したりしておくとよいでしょう。
これにより、あとから弁護士や労働基準監督署などに相談する際に役立ちます。
なお、会社の備品を破損して賠償しなければならない場合や、そのほかの理由で損害賠償を請求されている場合であっても、それと退職できるかどうかは全く別問題となります。
会社を退職すること自体には影響しません。
労働基準監督署へのメール相談は労働基準監督署にメール相談は効果的?|相談方法について解説をご覧ください。
「残りの給与を支払わない」と言われている場合
たとえ退職によって会社に迷惑がかかるとしても、会社には従業員へ給与の支払いをする義務があります。
また、従業員は退職したあとでも、会社に対して給与の未払い分を請求する権利を持っています。
会社から「残りの給与を支払わない」と言われている場合、その場で言い返すのはおすすめできません。
その場は穏便に済ませるようにし、本当に会社が給料を支払わなかった場合に備えて、雇用契約書や就業規則、タイムカード、日報、給与明細書などの、未払い給料を請求するのに役立つ証拠を集めておきましょう。
「懲戒解雇にしてやる」と言われている場合
懲戒処分に相当する事由がないのにもかかわらず、会社が従業員を懲戒解雇とすることはできません。
ただし、仮に無理やり懲戒解雇をされた場合、一般的な自己都合退職と異なり、退職金の減額・不支給といった不利益を被る可能性があります。
また、再就職時に「懲戒解雇された」と説明する必要があり、不利になるリスクも考えられます。
会社から「懲戒解雇にしてやる」と言われている場合であっても、会社が口だけで実際には懲戒解雇処分にしない場合には、それに従わずに会社を辞めることができます。
また、仮に実際に懲戒解雇処分となってしまった場合には、当該処分を後から争うことが可能です。
ただし、不当解雇に対する慰謝料請求などに備えて証拠資料を集めておくことが重要です。
不当解雇で必要な証拠には雇用契約書、就業規則、賃金規定、解雇通知書、解雇理由証明書、懲戒解雇に関するメールやチャットなどが挙げられます。
年次有給休暇を使わせてくれない場合
年次有給休暇(以下、有給休暇)は、労働者に認められた権利として労働基準法でも定められており、会社が正当な理由なく有給休暇を取得させないことは違法行為に該当します(労働基準法第39条)。
しかし、そもそも有給休暇を取得させてくれないことや、有給休暇の申請をしたにもかかわらず、欠勤扱いにされることなどもありえます。
有給休暇の取得を認めてもらえない場合、「会社を休んでから、未払い給料を請求する」などの選択肢が考えられます。
会社との交渉や専門家との相談に備えて、雇用契約書、勤怠管理表、給与明細書などの、有給休暇の取得条件・取得状況がわかる資料を集めておきましょう。
【パターン別】退職の引き止めや引き延ばしにあった場合の対処法
後任が見つかるまで待つよう会社が説得をおこなう行為などは、従業員の意思が尊重されているため、ただちに違法となるわけではありません。
しかし、退職の引き止めや引き延ばしにあった場合に、対応に困ってしまう方も多いでしょう。
ここでは、退職の引き止めや引き延ばしでよく見られるパターンごとに対処法やポイントを解説します。
「後任が見つかるまで待ってほしい」と言われた場合
後任が見つからないことは、あくまで会社側の事情となります。
そのため、「後任が見つかるまで待ってほしい」と言われた場合でも、従業員がそのような指示に従う必要はありません。
また、従業員には後任者を見つける義務もないため、会社から「後任者を見つけるまで辞めさせない」などと言われても従う必要はないでしょう。
「後任が見つかるまで」という説得は従業員を引き止めるための常套手段ですが、いつまで働けばいいのかが曖昧であり、退職日が先延ばしとなる可能性が高くなります。
引き止めを断っても問題ありませんが、「後任が見つかるまでなら」と説得に応じてもよい場合は、「○月○日まで」と退職日を明確にしたうえで働くようにしましょう。
「給料をアップするから」など待遇の改善を提案される場合
給料アップや残業時間の短縮など、待遇面の改善と引き換えに退職を引き止めようとするケースもあるでしょう。
ただし、これらの改善案は口約束に過ぎないことや、提案した上司に権限がないことも多くあります。
そのため、待遇の改善を期待して残留したとしても、希望どおりにならないリスクがあることは理解しておきましょう。
会社から待遇の改善を提案された場合は、改善内容を書面で残してもらい、冷静に検討する時間を設けることをおすすめします。
「提案内容が現実的か」「悩みが根本的に解消されるか」を検討し、納得がいくなら提案を受け入れるのもひとつの方法です。
一方、断る場合は待遇面以外の理由を伝えつつ、退職の意向を示すようにしましょう。
「君がいないと現場がまわらない」など情に訴えかけてくる場合
中には「君がいないと現場がまわらない」など、情に訴えかけるような方法で退職を引き止められることもあるかもしれません。
良心に付け込むような引き止め方をされると、退職を躊躇してしまう方も少なくないでしょう。
特に責任感が強くて、仕事に対して前向きな方ほど、このような言葉で引き止められてしまうことが多いです。
しかし、会社に対するこれまでの感謝の気持ちと、会社を辞めることは別の話です。
退職を決意したからには「ほかにやりたいことが見つかった」「キャリアアップを図りたくなった」など、何かしらの理由があるはずです。
このような退職する理由と残留する理由をよく比較・検討し、納得のいく判断をするようにしましょう。
パワハラを伴う退職拒否をされてなかなか辞められない場合の対処法
ここまで、パターン別に退職拒否をされた場合の対処法について解説しましたが、それでも会社を辞められない場合もあるでしょう。
そのような場合には、適切な相談機関やサービスを利用することをおすすめします。
ここでは、パワハラを伴う退職拒否をされた際に相談できる機関やサービスを紹介します。
内容証明で退職届を会社に送る
会社に退職届の受け取りを拒否された場合は、内容証明郵便を使って退職の意思表示をするのがおすすめです。
内容証明郵便とは、「誰が、誰に、いつ、どのような内容の郵便を送ったのか」を郵便局が証明してくれるサービスのことです。
この内容証明郵便を使うことで「退職届を受け取っていない」などの反論を防げるようになります。
また、内容証明郵便に「配達証明」のオプションを付けることで、相手に配達された事実についても証明してもらえます。
会社が内容証明郵便を受け取った場合、民法(原則2週間後)や就業規則(通常1ヵ月後)の規定に従い、退職したものとして扱われます。
なお、受け取りを拒否された場合も基本的には意思表示は到達したと判断されます。
【参考記事】内容証明 | 日本郵便株式会社
労働組合・ユニオンに相談する
労働組合やユニオンに加入している場合は、これらの団体に相談するという方法があります。
そもそも労働組合は、組合員(従業員)の就労条件の改善や地位の向上をさせることを目的とした組織です。
会社に退職拒否をされていることを労働組合に相談すれば、団体交渉を通じて退職できるよう働きかけてくれるでしょう。
総合労働相談コーナーに相談する
会社から退職拒否をされた場合は、総合労働相談コーナーへ相談する方法もあります。
総合労働相談コーナーは労働基準監督署や都道府県労働局に設置されており、相談を受け付けるとともに、退職に関する助言や会社への指導をしてくれます。
これにより労働者と会社で話し合いがおこなわれて、円満退職につながる可能性があります。
また労働局への相談はパワハラは労働局に相談できる?労働局の活用方法やその他の解決方法も紹介をご覧ください。
【参考記事】総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省
労働問題が得意な弁護士に相談する
退職拒否をされている場合、労働問題が得意な弁護士に相談するのもおすすめです。
弁護士に相談・依頼すれば、スムーズに退職できるよう働きかけてくれます。
また、パワハラを受けていた場合は不法行為に基づく損害賠償請求をしてくれますし、未払いの給料や退職金などがある場合はこれらの請求にも対応してくれるでしょう。
労働問題が得意な弁護士は「ベンナビ労働問題」で探せる!
職場の退職トラブルやパワハラの解決が得意な弁護士を探しているなら、ポータルサイトの「ベンナビ労働問題」を使うことをおすすめします。
ベンナビ労働問題では相談内容で弁護士事務所を探すことができ、退職代行やハラスメントの解決に注力している弁護士を簡単に探すことが可能です。
また、「初回の面談相談無料」に応じている弁護士事務所も多くあります。まずは近くの労働問題が得意な弁護士を探し、相談することから始めてみましょう。
退職代行サービスを利用する
これまで紹介した方法以外にも、退職代行サービスを利用する方法もあります。
退職代行サービスとは、従業員に代わり、退職代行業者が退職の意思表示をしてくれるサービスのことです。
サービスには、退職の意思を伝えるだけのものや、退職の意思表示と一緒に残業代請求までおこなうものなど、さまざまあります。
会社へ退職の意思表示ができない事情がある場合には、退職代行サービスの利用を検討してみましょう。
なお、退職代行サービスを利用する際は、弁護士が提供しているものを選ぶのがおすすめです。
弁護士以外の業者も退職代行サービスを提供していますが、弁護士法第72条の規定により、弁護士以外の業者は依頼者の代理人として会社や加害者などと交渉することができません。
特に、退職に伴う交渉事がある場合は弁護士に依頼しましょう。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
引用元:弁護士法 | e-Gov法令検索
まとめ|パワハラで退職拒否をされているなら弁護士に相談を
従業員の「退職の自由」は憲法や民法、労働基準法などによって保障されています。
そのため、法律上の制限に当てはまらない場合は、会社が従業員に対して退職拒否をすることはできません。
加えて、退職届を会社に受理されなかった場合であっても、そのような会社の対応は違法である可能性が高く、一定期間(2週間または就業規則で定められた期間)経過後に退職することが可能です。
しかし、「退職の自由」が法律で保障されていたとしても、上司から執拗に引き留められた場合やパワハラをしてくる場合、そのような相手に対して退職の意思表示をするのは負担が大きいでしょう。
そのため、退職にともなう手続きを進めることに不安がある場合や、パワハラによって退職拒否をされている場合には、弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、退職に関するアドバイスをしてくれますし、必要に応じて依頼者の代わりに会社との交渉などにも対応してくれるでしょう。