パワハラ解決を弁護士に依頼するメリットとデメリット|弁護士費用もわかりやすく解説
厚生労働省が委託事業で実施した「職場のハラスメントに関する実態調査・令和2年度報告書」によると、過去3年間のパワハラ内容は以下のようになっています。
- 精神的な攻撃:全体の74.5%
- 人間関係からの切り離し:20.6%
- 過大な要求:16.9%
- 個の侵害:15.5%
- 身体的な攻撃:13.3%
- 過少な要求:6.3%
- その他:5.4%
上記のようにパワハラの内容はさまざまあり、どれをとってもパワハラを受けた側の精神的苦痛は計り知れません。
パワハラの内容や攻撃を受けた期間によっては精神を病んでしまう方もいらっしゃるはずです。
本記事では、パワハラ被害を弁護士に相談するメリットやデメリット、弁護士費用などをわかりやすく解説していくので参考にしてください。
【参考】令和2年度厚生労働省委託事業・職場のハラスメントに関する実態調査報告書
パワハラの解決を弁護士に依頼するメリット
パワハラ解決のために弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
早期解決を目指したいときは、ひとまず弁護士に相談しておくとよいでしょう。
パワハラの証拠集めに協力してもらえる
弁護士に依頼すると、パワハラの証拠集めに協力してもらえます。
会社はパワハラの実態を認めないケースが多いため、証拠集めを察知された場合、隠ぺいや改ざんのリスクがあるので要注意です。
しかし、弁護士からの開示請求は会社も無視できないので、請求どおりの書類が確実に揃うでしょう。
また、被害状況を具体席に説明できれば、何が証拠になるのかアドバイスを受けられるため、パワハラを立証しやすくなります。
パワハラの解決方法は数パターンありますが、すべて証拠が重要になるので、まず弁護士に相談しておくとよいでしょう。
代理人として会社側と和解交渉してくれる
弁護士は依頼者の代理人となり、会社側と和解交渉してくれます。
社内でパワハラを解決する場合、交渉相手は加害者本人、または所属部署の責任者になるため、自分で対応すると大きなストレスになるでしょう。
また、「成長してもらうための指導だった」などの言い訳がよくあるので、専門知識がなければ加害者側の主張を切り崩せません。
パワハラの被害を食い止めたいときは、弁護士に和解交渉を依頼してください。
未払いの給料や残業代を回収してくれる
未払いの給料や残業代がある場合、弁護士に回収を依頼できます。
パワハラがエスカレートすると給料から罰金を差し引いたり、サービス残業を強要されたりする場合もありますが、回収するときは金額を計算しなければなりません。
また、口頭の請求では支払ってもらえない確率が高いので、書面で請求する必要があるでしょう。
弁護士に依頼すると、未払い給料や残業代だけではなく、給料の支払日以降に発生した損害遅延金も回収してくれるので依頼するメリットは大きいでしょう。
損害賠償請求を依頼できる
弁護士には、損害賠償請求も依頼できます。
パワハラは精神的な苦痛を伴い、場合によっては療養のために仕事を休むケースもあります。
精神的な苦痛が生じた場合は慰謝料や治療費、休職中に収入が減少したときは休業損害を加害者に請求しましょう。
慰謝料や治療費などの総称を賠償金といいますが、根拠のない金額を請求しても支払いを拒否されるので、計算や請求は弁護士に任せたほうが確実です。
不法行為にもとづく損害賠償請求には時効もあるため、加害者および損害を知ってから3年以内に請求しなければなりません。
数年前からパワハラの被害を受けている場合、時効が迫っているケースもあるので、損害賠償請求は早めに弁護士に依頼してください。
刑事告訴の手続きを依頼できる
パワハラは暴行罪や傷害罪になる可能性があり、刑事告訴が必要になります。
自分で警察に刑事告訴をする場合、告訴状を作成して資料も準備しなければなりません。
しかし、弁護士に任せておけばすべて対応してくれるためとても安心です。
刑事裁判によって有罪判決が下された場合、加害者には前科が付くので、ほぼ確実に懲戒解雇されます。
刑事告訴は加害者の人生にも大きく影響するので、まずは弁護士とよく話し合うようにしましょう。
パワハラの解決を弁護士に依頼したときのデメリット
パワハラを弁護士に解決してもらう場合、以下のデメリットを考慮しておく必要があります。
あくまでも状況次第なので、弁護士とよく話し合っておきましょう。
社内で孤立する可能性がある
弁護士が代理人になると、会社側は「徹底して争う気だな」と判断する場合が多いので、対立関係が生じるでしょう。
周囲からも距離を置かれてしまい、社内で孤立する可能性があります。
弁護士は会社側の責任者とコンタクトを取るため、本来は限られた人しか知らない話ですが、弁護士が乗り込んでくる状況はすぐに社内へ広がるかもしれません。
パワハラが解決したあともしばらくは噂が続くので、話題が風化するまで待つしかない状況も考えられます。
職場に居心地の悪さを感じたときは配置転換を希望するなど、環境を変えてみる必要もあるでしょう。
賠償金よりも弁護士費用が高くなる可能性がある
パワハラの賠償金は30万~200万円程度が相場なので、被害の程度によっては弁護士費用のほうが高くなります。
賠償金が100万以下の場合、弁護士費用を支払うと赤字になってしまう可能性があるでしょう。
なお、弁護士にパワハラの被害状況も正確に伝えると、獲得可能な賠償金を推測してもらえます。
ある程度の証拠が揃っていれば、大まかな弁護士費用もわかるので、ひとまず手持ちの資料だけでも見てもらうとよいでしょう。
パワハラについて相談できる弁護士の探し方
各弁護士には注力している分野があるので、パワハラを相談したいときは以下の窓口を利用してみましょう。
各都道府県の弁護士会に相談する|知り合いの弁護士がいない方
知り合いの弁護士がいない方や、近くに法律事務所がない方は、各都道府県の弁護士会に相談してみましょう。
弁護士との相談方法は直接面談のみとなっており、電話番号「0570-783-110」またはネットで面談日を予約できます。
ただし、「パワハラに詳しい弁護士と相談したい」といった個別のリクエストはできないため、担当弁護士の注力分野が異なっているかもしれません。
また、各弁護士会では全国約300ヵ所に法律相談センターを設置しており、一部の地域のみ無料相談に対応していますが、基本的には30分5,500円の相談料がかかります。
【参考】全国の弁護士会の法律相談センター
日本労働弁護団に相談する|身近な弁護士に相談したい方
日本労働弁護団に相談すると、労働問題に特化した弁護士がパワハラ問題に対応してくれます。
弁護団は全国展開されているので、身近な弁護士にパワハラを解決してもらえるでしょう。
もともとは総評労組の呼びかけで結成された弁護団でしたが、現在は特定労組との関係はなく、国内労働者すべての権利保護などを目指して活動しています。
なお、法律相談は基本的に有料となっており、相談回数が限定されているエリアもあるので注意してください。
【参考】日本労働弁護団
ベンナビで弁護士を探す|自分で弁護士を選びたい方
労働問題に詳しい弁護士を自分で選びたい方は、ベンナビ労働問題を活用してみましょう。
ベンナビ労働問題には労働者の味方になってくれる弁護士が登録されており、以下のような情報もわかります。
- 無料相談できる弁護士
- オンライン面談やLINE相談などに対応している弁護士
- 休日対応の弁護士
- 弁護士の経験年数
- パワハラの解決事例
登録弁護士のほとんどが無料相談に対応しており、給料未払いなどの解決も依頼できます。
サイト内検索では注力する分野と地域を指定できるので、会社や自宅の近く、または最寄り駅の近くなど、相談しやすい弁護士が見つかるでしょう。
パワハラを弁護士に相談するときのポイント
パワハラを弁護士に相談する場合、証拠の提示が重要なポイントになるので、以下を参考にしてください。
弁護士費用がネックになっている方は、保険の加入状況もチェックしておきましょう。
パワハラで負傷したときは病院で診断書をもらう
加害者からの暴力で負傷した場合、病院で治療したときは必ず診断書をもらってください。
診断書はパワハラを立証する証拠や、治療費請求の根拠になります。
ただし、診断書だけではパワハラとの関係性を疑われてしまう可能性があるので、加害者から暴力を受けたときは、日記やメモなどに記録しておきましょう。
パワハラの状況を録画や録音しておく
映像や画像は有力な証拠になるので、可能であればパワハラの状況を録画または録音してください。
加害者の上司に呼ばれたときや朝礼時など、パワハラが起きやすい状況では、あらかじめスマートフォンの録音をオンにしておきましょう。
録画は難しいかもしれませんが、同僚社員などの協力があれば、パワハラの状況を映像に残せます。
なお、音声や映像は簡単に拡散するため、SNSや掲示板へのアップロードは厳禁です。
個人情報や社外秘情報などがネット上に公開された場合、自分が罪に問われてしまうので注意しましょう。
社内メールは印刷や転送しておく
暴言などが書かれたメールもパワハラの証拠になるので、印刷または自宅のパソコンに転送してください。
紙ベースで証拠を残す場合、メール本文だけではなく、送受信日や発信元がわかるヘッダー部分も印刷しておく必要があります。
受信ボックスがネット上にあるクラウド型の場合、加害者に管理権限があると、消去されるおそれがあるので注意しましょう。
証言の協力を依頼する
同僚社員などの証言があれば、パワハラの加害者を追求できます。
パワハラはいつ自分が被害者になるかわからないので、協力者がすぐに見つかる場合もあります。
証言を断られても、パワハラの状況をメモに記録する、または録音や録画であれば、協力を得やすいでしょう。
弁護士保険の加入状況をチェックしておく
弁護士保険や弁護士費用特約に加入している場合、以下の費用を保険会社が負担してくれます。
- 法律相談料:10万円程度まで
- 弁護士費用:300万円程度まで
パワハラの解決であれば、弁護士費用が300万円を超えるケースはまずありません。
弁護士費用特約は自動車保険や火災保険、クレジットカードなどのオプション契約ですが、弁護士保険は弁護士費用の補償が主契約になっています。
パワハラが発生する職場はセクハラや不当人事、残業代の不払いなども起きやすいので、今後のトラブルに備えたい方はベンナビの弁護士保険をおすすめします。
ベンナビ弁護士保険は保険料の負担が軽く、家族のトラブルも補償されるので、弁護士費用を気にせず法律トラブルを解決できるでしょう。
パワハラを解決してもらうときの弁護士費用
弁護士にパワハラを解決してもらう場合、法律相談料や着手金などの費用がかかります。
一般的な相場は以下のとおりですが、統一基準はないので、弁護士によって若干の差はあるでしょう。
法律相談料
弁護士の法律相談料は30分で5,500円、1時間で1万1,000円が一般的な相場です。
ただし、初回は無料相談になるケースが多く、労働問題のみ相談料を請求しない弁護士もいます。
相談内容の整理と証拠の準備があれば、1回の相談で委任契約を結べる場合もあります。
着手金
着手金は10万~30万円程度が相場になっており、パワハラの解決が失敗となっても返金はされません。
なお、着手金は依頼者が獲得する経済的利益に影響されるので、弁護士に獲得可能な賠償金を先読みしてもらい、正式に依頼するかどうか判断してください。
成功報酬
パワハラを解決する場合、弁護士の報酬金は賠償金の10~16%程度になるでしょう。
賠償金が200万円であれば、報酬金は「200万円×16%=32万円」ですが、依頼内容を実現できなかった場合は請求されません。
日当や実費
弁護士が法律事務所以外で活動するときは日当が発生し、1時間で1万1,000円程度が一般的な相場です。
実費には交通費や通信費、書類の作成手数料などが含まれています。
日当や実費は発生の都度支払う場合があるので、請求タイミングをよく確認しておきましょう。
なお、法律事務所の徒歩圏内に会社がある場合、和解交渉などに出向く際の交通費を請求されない場合もあります。
【参考】労働問題の解決にかかる弁護士費用の相場とできるだけ費用を抑える方法
パワハラの解決を依頼すべき弁護士の選び方
パワハラの解決を依頼するときは、以下の条件に1つでも多く該当する弁護士を選んでください。
相談したい分野に注力する弁護士を選んでおけば、依頼者が望む形でパワハラを解決できます。
休日や夜間でも相談できること
パワハラの被害が深刻なときは、休日や夜間でも相談できる弁護士を選んでください。
うつ病などの精神疾患になると、退職を余儀なくされる場合があるため、曜日や時間帯に関係なく、すぐに相談できる弁護士が理想的です。
法律事務所によっては22時頃まで営業しており、事前予約があれば早朝や深夜でも無料相談できるケースがあるので確認しましょう。
労働問題の解決に注力していること
弁護士が労働問題に注力している場合、パワハラの早期解決を期待できます。
労働問題に詳しい弁護士はパワハラの証拠などを熟知しており、会社や加害者との交渉にも長けています。
さらに、会社側が顧問弁護士を立てた場合でも有利な交渉を展開してくれるでしょう。
弁護士の注力分野は法律事務所のホームページに掲載されているので、労働問題に詳しいかどうかや、解決実績や解決事例もチェックしてください。
弁護士費用をわかりやすく説明してくれること
着手金や報酬金の算出基準、実費などの請求タイミングも丁寧に説明してくれる弁護士であれば、支払いトラブルが起きません。
弁護士費用の概算がわかると、追加費用が発生しても大幅な予算オーバーにはならないでしょう。
なお、費用の説明が大雑把な弁護士に依頼した場合、あとで高額請求されるおそれがあるので注意してください。
依頼者が望む解決方法を提案してくれること
弁護士を選ぶときは、依頼者の意向を尊重してくれるかどうかが重要です。
依頼者が和解を望んでいるにも関わらず、弁護士が損害賠償請求を最優先した場合、加害者との和解は困難になり、会社側とも対立関係になる可能性があります。
依頼者の意向を聞き入れず、勝手に解決方針を決める弁護士は避けるべきでしょう。
まとまった資金がないときは着手金無料の弁護士を選ぶ
着手金無料の弁護士は報酬金が割高になっており、着手金ありのケースと支払総額はあまり変わりませんが、まとまった資金がなくてもパワハラ解決を依頼できます。
また、着手金無料は自信がなければ設定できないため、安心して任せられる弁護士を見分ける目安にもなります。
パワハラの被害を受けたときにやっておくべきこと
パワハラの被害を受けたときは、以下のように対処してください。
弁護士に依頼すると解決してもらえますが、まず被害を食い止める必要があります。
社内の相談窓口に通報する
社内の相談窓口に通報すると、相談員がパワハラに対処してくれます。
ハラスメントの相談窓口は設置が義務付けられおり、相談員も専門的な研修を受けているケースが多いので、効果的な対処法を検討してくれるでしょう。
ただし、相談窓口が「名ばかり」になっており、機能していないときはすぐにでも弁護士に相談してください。
パワハラの差止要求書を送付しておく
パワハラの被害をすぐに食い止めたいときは、会社側に差止要求書を送付してください。
文面には以下の内容を盛り込み、内容証明郵便で送付するとよいでしょう。
- 表題:パワーハラスメント差止要求書
- 作成日
- 会社名と住所および代表者名
- 自分の住所と氏名
- パワハラの実態:加害者名および加害者から受けた暴言や理不尽な要求など
内容証明郵便で送付すると、郵便局が文面を証明してくれるので、パワハラのもみ消しを防止できます。
さいごに|パワハラ問題は1人で悩まずに弁護士に相談しましょう
パワハラの多くは上司から部下に対しておこなわれており、立場的に反論できないことから、1人で悩みを抱え込んでしまう場合があります。
しかし、「部下教育のために必要」や「あなたがオーバーに反応しただけ」など、さまざまな理由でパワハラを認めないケースも少なくありません。
被害が深刻化すると精神を病んでしまう可能性があるので、パワハラ問題は1人で悩まず、早めに弁護士へ相談してください。