妊娠し中絶した場合の慰謝料の相場は?弁護士費用や依頼の流れを解説
望まない妊娠で中絶をした女性は、相手から慰謝料を請求できるか疑問に感じますよね。
本記事では、中絶によって相手の男性から慰謝料を受け取れるケースや相場、請求までの流れなどについて解説します。
中絶は女性にとって悲しい決断ですが、必ずしも慰謝料が受け取れたり、自分が負担した費用を請求できたりするわけではありません。
最後には弁護士に依頼するメリットについても紹介するので、中絶によって一人で悩んでいる女性はぜひチェックしてください。
妊娠し中絶した場合の慰謝料は100万円前後
妊娠して中絶した場合の慰謝料は100万円前後が相場です。
ただし、男女が合意のもとで性行為をした場合、精神的苦痛を受けたとして女性が男性側だけに責任を問うことはできません。
一般的に、女性が請求できるのは、中絶費用の半分が妥当です。
ただし、女性が妊娠し中絶に至った経緯によっては、男性側の対応に問題があるとして慰謝料の請求対象になります。
合意でなかった場合だけでなく、合意であっても慰謝料を請求できる可能性もあるので、まずは慰謝料請求の対象かどうかをチェックしましょう。
妊娠中絶が高額になる4つのケース
女性が中絶によって妊娠させた相手から慰謝料を請求する際、次の4つのケースは特に慰謝料相場が高くなる傾向にあります。
自分のケースと照らし合わせて、相場を確認してください。
ケース1. 強姦された|相場は50万〜200万円
強姦はそもそも合意の性行為ではないため、被害者と加害者という立場になります。
被害者である女性が中絶した場合は、精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求できます。
強姦に対する慰謝料額は50万円から200万円くらいが相場ですが、ケースによって金額は異なるでしょう。
また、強姦を刑事事件として訴えれば、慰謝料請求だけでなく、強制性交等罪や強姦罪で処罰できます。
ケース2. 暴力(DV)によって中絶を強要された|相場は50万~300万円
女性は出産を希望しているにもかかわらず、男性が暴力による脅しが理由で中絶した場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
たとえば、中絶しなければ殴ると脅された場合や、実際に中絶しろと殴られたケースでは慰謝料の相場は50万円から300万円程度です。
ただし、慰謝料を請求する際にはDVや脅迫に該当することを証明する証拠を提出しなければなりません。
ケース3. 避妊していると嘘をつかれた
妊娠や出産は女性自身に決定する権利があるため、女性をだまして避妊をしなかった場合、自己決定権の侵害とみなされます。
男性が避妊していると嘘をついて女性が妊娠した場合、女性は自分の意志に反して中絶しなければなりません。
男性が女性をだまして中絶に至った場合、慰謝料請求の対象となります。
ケース4. 男性が妊娠や中絶に対し配慮すべき義務を怠った
妊娠できるのは女性だけですが、妊娠に至るまでの責任は男女どちらにもあると考えられます。
中絶する場合は、女性が心身的にかかる負担や不利益に対して、男性は必要な配慮をする義務があります。
男性が女性への配慮を著しく怠ったことが原因で、女性が法的に保護されるべき利益が侵害された場合、慰謝料が発生する可能性は低くありません。
たとえば、次のケースで中絶に至った場合は、男性が女性への配慮を怠ったとみなされます。
- 合意の性行為にもかかわらず、出産するかどうかの話し合いを男性が避けた
- 中絶しようとする女性に対して男性が攻撃的な態度をとり、苦痛を広げた
- 妊娠後、不当に婚約破棄をした
原則として、妊娠や中絶は女性だけの問題ではなく、男性も同等の責任があるという前提で対応しなければなりません。
裁判の判例で見る妊娠中絶の慰謝料ケース3つ
実際に、裁判では妊娠・中絶による慰謝料を請求できたケースがあります。
ここでは裁判の判例で見る妊娠中絶の慰謝料のケースについて3つ紹介します。
ケース1. 婚約を不当に破棄された
妊娠後に婚約を不当に破棄するのは、男性の義務放棄として慰謝料請求の対象となります。
実際に、平成27年7月31日に、350万3,520円の慰謝料の支払いを命じられたケースがあります。
裁判年月日 平成27年 7月31日 文献番号 2015WLJPCA07318020 |
女性の妊娠が発覚したあとに不当に婚約を破棄し、女性に対して冷たい態度をとり精神的苦痛を与えたとして、男性に慰謝料と医療費の支払いが命じられました。
上記の金額は中絶に対する慰謝料だけでなく婚約破棄の慰謝料も含まれているため、中絶自体の金額はより低いでしょう。
ケース2. 男性が話し合いを避けた
妊娠・出産の話し合いを避けるのは、男性の義務放棄として慰謝料請求の対象となります。
実際に、平成21年5月27日に、114万2,302円の慰謝料の支払いを命じられたケースがあります。
裁判年月日 平成21年 5月27日 文献番号 2009WLJPCA05278009 |
女性が合意の性行為で男性の子どもを妊娠したにもかかわらず、男性が出産や中絶の話し合いを避けて、女性にのみ判断をゆだねました。
中絶にかかる心身的な負担を女性にのみ押し付けたとして、慰謝料を請求できました。
ケース3. 男性が攻撃的な態度だった
女性が中絶をする場合、男性は女性に寄り添い配慮しなければ、男性の義務放棄として慰謝料請求の対象となります。
平成27年9月16日、実際の事件として37万1,465円の慰謝料を請求できた判例があります。
裁判年月日 平成27年 9月16日 文献番号 2015WLJPCA09168023 |
交際中の妊娠・中絶にもかかわらず、男性は協力せず、女性に対して攻撃的な態度を取り続けて精神的苦痛を与えたことが慰謝料請求に繋がりました。
不倫で妊娠した(させた)ときの慰謝料は50万~300万円が相場
相手と正式に交際している場合以外に、不倫相手との子どもを妊娠・中絶するパターンも考えられます。
正式に付き合っている相手と不倫相手では、中絶に対する慰謝料相場は異なります。
ここでは、不倫で妊娠した(させた)ときの慰謝料相場について解説します。
不倫相手が中絶しても慰謝料を支払う義務はない
そもそも、不倫相手である女性が中絶しても、男性は慰謝料を支払う義務はありません。
不倫自体が悪質な関係性であることを承知したうえで男女が合意で性行為をしているため、どちらにも責任があると考えられるためです。
ただし、不倫相手である女性に対して男性が中絶の慰謝料を支払わなくていいのは、男性が慰謝料請求の対象となる言動をしていないケースのみです。
不倫相手の妊娠発覚後に話し合いの機会を避けたり、中絶を強要して暴力をふるったりすると、慰謝料請求の対象となる可能性もあるでしょう。
このような場合で仮に慰謝料を支払う場合は、相場は50万円から300万円と考えられます。
中絶にかかる費用は妊娠期間によって異なる
慰謝料のほかにも、病院に支払う中絶費用があります。中絶費用は妊娠期間によって金額が異なります。
原則として妊娠期間が長くなるほど費用が高くなる傾向にあるので、もし中絶を検討するのであれば、できる限り早く対応しましょう。
妊娠8週目未満 |
12万~13万円 |
妊娠9~10週目 |
15万~16万円 |
妊娠11~12週目 |
18万~19万円 |
妊娠13週目以上 |
30万~50万円 |
ただし、女性が働いていた場合、妊娠や中絶によって休業を余儀なくされていた期間によっても金額が変わります。
休業損害は、その女性の職業や給与、休業期間によって左右します。
妊娠・中絶による心身的負担は女性にしか負えないため、男性は金銭的負担は全部請け負うほうが無難かもしれません。
中絶費用は男女で折半すべきという裁判例もありますが、中絶によるトラブルを少しでも回避したい場合は、男性が全額負担したほうがいいでしょう。
慰謝料に中絶費用は含まれない!請求できる費用の内訳
中絶に対する慰謝料を請求できても、その中に中絶費用は含まれないという点に注意してください。
中絶に対して請求できる費用には、次のようなものが挙げられます。
- 中絶手術の費用
- 妊娠中の診療費、交通費
- 中絶でかかった診療費、入院費、交通費
- 休業損害(会社を休んだ場合)
- 治療費、慰謝料(後遺症が残る場合)
もし中絶による慰謝料を請求できてもこのような費用は含まれないため、請求額によっては自己負担額が大きくなる可能性もあるため注意が必要です。
合意のうえで妊娠した場合であれば中絶費用を折半できる可能性があります。
慰謝料や中絶費用を請求するまでの流れ
ここでは、慰謝料や中絶費用を請求するまでの流れについて解説します。大きな流れとしては、次の3つにわけられます。
1.示談交渉により請求
示談とは当事者間での話し合いによる解決を図る方法で、まずは男女二人で納得できる話し合いを心がけましょう。
示談で話し合う内容として、中絶費用の負担割合や取り決めなどが挙げられます。
あくまでも当事者間の話し合いとなるため、必ずしも自分にとって有利な条件で慰謝料やお金を貰えたり、相手が交渉に応じたりするというわけではありません。
また、示談で成立した内容は、口約束ではなく必ず書面(和解書)を作成しましょう。
和解書の決まったテンプレートはありませんが、万が一支払いが滞って裁判に進む場合などに、示談の内容が第三者に伝わることが大切です。
2.民事調停で裁判所で話し合う
民事調停も話し合いのひとつの手段ですが、当事者間だけではなく、裁判官と調停委員という第三者を仲介する方法です。
裁判所に申し立てる必要はありますが、裁判よりも費用や時間、労力を抑えられるというメリットがあります。
民事調停で相手の合意を得られれば、この時点で中絶費用や慰謝料を請求できるため、裁判までは進みたくないと考えている方におすすめの方法といえるでしょう。
民事調停で決着が付かない場合は、慰謝料や中絶費用の請求をあきらめるか、裁判に進むかの二択となります。
3. 話し合いで決まらなければ裁判
示談や民事調停での話し合いで決まらなければ、最終手段として裁判に進むことになります。
裁判は判決をもって白黒を付けるため、必ず請求の有無が決まります。
ただし、裁判はさまざま法的知識や経験が必要となり、自力で全て対応するのは簡単ではありません。
自分に有利な条件で慰謝料や中絶費用を請求したい場合は、中絶の慰謝料問題を得意とする弁護士に依頼することをおすすめします。
中絶の慰謝料問題を得意とする弁護士の探し方2つ
不倫が原因の中絶は自分と不倫相手だけでなく、それぞれの家族も巻き込む可能性もあり、慎重に慰謝料請求を進める必要があります。
自分だけで対応するのは簡単ではないため、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
ここでは中絶の慰謝料問題を得意とする弁護士の探し方について2つ紹介します。
インターネット検索をする
インターネットで弁護士・中絶・自分が住んでいるエリア名などをセットにして検索すると、近所の中絶の慰謝料問題を得意とする弁護士を見つけられます。
各弁護士のホームページなどをチェックして、中絶問題を取り扱っているか確認しましょう。
また、コストやスタッフの対応、口コミなどもチェックしておくことが大切です。
正式に依頼する前にコストや自分にとって依頼しやすいかを確認したい場合は、無料相談をうまく活用してください。
ベンナビ離婚で検索をする
ベンナビ離婚とは、離婚に関するさまざまな問題解決を得意とする弁護士のみ集めたポータルサイトです。
相談内容や住んでいるエリアで絞ると、通いやすく、中絶に絞った相談ができる弁護士を一度に複数社検索できます。
コラムや解決事例などのコンテンツも豊富なので、中絶の慰謝料や中絶費用について調べたい方も、ぜひ一度チェックしてください。
妊娠中絶の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
インターネットやベンナビ離婚などで弁護士を探しても、実際に弁護士に依頼してもいいのか迷う方もいるでしょう。
妊娠中絶の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットとして、主に次の4つがあります。
メリットを感じたら、ぜひ弁護士への依頼を検討してください。
1. 知識と経験が豊富なので慰謝料請求の戦略を練ってもらえる
中絶の慰謝料といっても、どのくらいの金額が貰えるか、そもそも慰謝料請求の対象になるかなどケースはさまざまです。
自分だけで対応すると、本来貰えるはずの慰謝料を十分に受け取れないリスクもあるでしょう。
弁護士に依頼すると、豊富な知識や経験を活かして、慰謝料請求の戦略を練ってもらえます。
2. 必要な書類の作成や提出など法的なサポートをしてもらえる
中絶によって慰謝料請求する場合、和解書のほかにも内容証明郵便や裁判に関わる書類など、さまざまな書類の作成が必要になります。
弁護士に依頼すれば、必要書類の作成や提出だけでなく、法的なサポートをしてもらえるメリットがあります。
公的な書面は裁判に進んだ場合は有効な証拠として使えるので、必ず用意しておきましょう。
どのような内容にすればいいかわからない、どのような書類を用意すればわからない場合でも、弁護士は代理で用意してくれるため心配ありません。
法的な知識や経験に自信がない方は、最初から弁護士に依頼するほうがスムーズに中絶に対する慰謝料を請求できるでしょう。
3. 希望どおりの慰謝料を請求できるように対応をしてもらえる
自分だけで対応すると、相手が交渉に応じなかったり、適切な金額の相場がわからなかったりすることで十分な慰謝料を請求できない可能性もあります。
弁護士は中絶の慰謝料相場を熟知しているので、無理に高額な金額を示すことなく、相手が支払いに応じそうな金額を提示してくれるでしょう。
また、相談者のケースにおいて最大の慰謝料を請求できるように動いてくれるため、確実に適切な慰謝料を請求したい方は弁護士へ依頼することをおすすめします。
4. 自分で対応することが少なくなるのでストレスが減る
弁護士は相手との交渉や裁判の出廷など、代理で対応してくれます。
相手と連絡が取りにくい場合や、相手と顔を合わせたくない場合、弁護士が代理でやり取りしてくれる点は大きなメリットになるでしょう。
特に裁判まで進んだ場合、裁判には多くの時間や労力がかかります。
全てを自分で対応するのは簡単ではないため、相手との話し合いがスムーズに進まないと想定される場合は、最初から弁護士に慰謝料請求を一任することをおすすめします。
妊娠・中絶の慰謝料に関するQ&A
最後に、妊娠・中絶の慰謝料に関するよくある質問について4つまとめます。妊娠・中絶に関して悩んでいる方は、ぜひチェックしてください。
Q 中絶したので慰謝料請求しようと思います。相場はいくらですか?
慰謝料相場はケースによってさまざまですが、相場は100万円程度です。
強姦された場合や男性が不誠実な対応をした場合などは、慰謝料相場が高くなる傾向があります。
Q 不倫で妊娠し中絶させられました。慰謝料はいくらになりますか?
原則として、不倫は男女両者が承知のうえで性交渉をしたという前提なので、慰謝料は発生しません。
ただし、男性が女性の出産・中絶の話し合いを避けた場合や、中絶を強要した場合などは、女性が精神的苦痛を与えたとして慰謝料を請求できる可能性もあります。
不倫による中絶の慰謝料相場は、50万円から300万円程度でしょう。
Q 別れた後に妊娠がわかり中絶。慰謝料を請求できますか?
双方が合意のうえで性行為をしていた場合、別れたあとに妊娠・中絶しても慰謝料請求が認められる可能性は低いでしょう。
ただし、中絶費用を請求したにもかかわらず、相手が誠実な対応をしなかったことで精神的苦痛を与えた場合は、慰謝料請求の対象になる可能性もあります。
Q 相手が慰謝料を拒否しています。弁護士費用の相場を教えてください。
中絶問題に対する弁護士費用はケースによってさまざまですが、相場は50万円前後だと考えられます。
内訳は相談料・着手金・報酬金・日当・実費があり、相手への請求額に応じて変動する項目もあります。
事前に費用の見積もりを知りたい方は、必ず弁護士への正式な依頼の前に確認しておきましょう。
まとめ
本記事では、中絶によって相手の男性から慰謝料を受け取れるケースや相場、請求までの流れなどについて解説しました。
中絶に関する慰謝料はケースによってさまざまで、無理やりな性交渉だった場合や男性が不誠実な対応をした場合などは高額になる傾向にあります。
当事者間だけで慰謝料や中絶費用の金額を話し合うことも可能ですが、決着が付かない場合は弁護士への依頼がおすすめです。
中絶問題を得意とする弁護士に依頼すれば、法的な知識や経験で、自分に有利なように慰謝料を請求してくれるでしょう。
また、弁護士は代理で動いてくれるので、相手と顔を合わせたくない方にとってもメリットがあります。