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退職勧奨とは?退職勧告や通常の解雇との違いや企業側のメリット・デメリットを解説

弁護士監修記事
労働問題
2024年05月20日
2024年05月20日
退職勧奨とは?退職勧告や通常の解雇との違いや企業側のメリット・デメリットを解説
この記事を監修した弁護士
(アシロ 社内弁護士)
この記事は、株式会社アシロの『ベンナビ編集部』が執筆、社内弁護士が監修しました。

 

厚生労働省が公表する「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、平成24年度以降の退職勧奨の相談件数は以下のように推移しています。

  1. 平成24年度:2万5,838件
  2. 平成25年度:2万5,041件
  3. 平成26年度:2万1,928件
  4. 平成27年度:2万2,110件
  5. 平成28年度:2万1,901件
  6. 平成29年度:2万736件
  7. 平成30年度:2万1,125件
  8. 令和元年度:2万2,752件
  9. 令和2年度:2万5,560件
  10. 令和3年度:2万4,603件

平成29年度までは減少傾向にあった退職勧奨ですが、平成30年度から上昇に転じており、退職勧奨の相談件数は緩やかな上昇傾向となっています(ただし、令和3年度は前年に比べて相談数はやや減少しています。)

本記事では、退職勧奨のメリット・デメリットや、自己都合退職との違いなどをわかりやすく解説しています。

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退職勧奨とは?

退職勧奨とは、会社が従業員に退職を勧める行為であり、いわゆる肩たたきです。

退職勧奨に応じた場合は自発的な退職になるため、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」とは扱いが異なります。

社員は退職勧奨に応じるかどうか選択できますが、退職理由が失業給付などに影響するので、解雇との違いや会社都合退職の特徴を理解しておくとよいでしょう。

退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨は会社と従業員が話し合い、合意できた場合に退職となります。

一方、解雇は会社側の都合のみで雇用契約を解除するため、従業員の同意を必要としません。

解雇の種類には普通解雇や整理解雇などがあり、以下のように解雇理由が異なります。

解雇の種類

解雇理由

普通解雇

懲戒解雇や整理解雇以外の解雇であり、就業規則や雇用契約に普通解雇事由(傷病等により労働提供が困難になった場合等)が定められ、当該事由に該当した場合の解雇

整理解雇

経営難などの理由で会社が人員削減するための解雇

懲戒解雇

懲戒処分としての解雇

 

普通解雇や整理解雇の場合、失業給付金の申請時の退職理由が「会社都合退職」になりますが、懲戒解雇の場合は「自己都合退職」です。

なお、退職勧奨に応じた場合、退職理由は以下のようになります。

退職勧奨に応じると会社都合退職になる

退職勧奨に応じた場合、会社都合退職として扱われます。

自己都合退職は、「被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」に退職したことをいいます(雇用保険法第33条1項)。すなわち、従業員が懲戒解雇等により解雇された場合や、従業員が転職するため、または結婚・出産や介護のためなど、あくまでも本人の都合による退職の場合です。

一方、退職勧奨は会社側の都合で退職を勧めるものであるため、退職勧奨に応じて従業員が退職条件に合意して退職した場合には、会社都合退職となります(雇用保険法第23条2項2号、同法施行令第36条9号)。

退職勧奨によって退職した場合、「自分で退職を選んだから自己都合退職だろう」と勘違いされているケースがあるので注意しましょう。

職勧奨のメリット・デメリット

退職勧奨に応じる場合、会社と従業員には以下のようなメリットやデメリットがあります。

会社にとって都合のよい労働契約の解除に思えますが、金銭的なデメリットが発生するケースもあるでしょう。

会社が退職勧奨するメリット・デメリット

会社が従業員に退職勧奨する場合のメリットは、トラブルや訴訟リスクの回避ができることです。

労働契約の解除に労使間の合意があると、従業員が労働審判や訴訟を提起するリスクを回避できます。

また、解雇ではないため、従業員が退職勧奨に応じるときは、会社は解雇予告手当を支払う必要もありません。

ただし、従業員を会社都合で退職させた場合、一部の雇用関係の助成金を受け取れなくなるため、金銭的なデメリットが発生する可能性があります。

助成金が受け取れなくなることを回避することが目的で、本来会社都合退職として手続きをすべきケースについて自己都合退職にすると、従業員の失業給付に影響が出てしまうので、従業員から損害賠償請求される可能性もあるでしょう。

従業員が退職勧奨に応じるメリット・デメリット

従業員が退職勧奨に応じる場合、退職金や失業給付の面ではメリットがあります。

退職勧奨はあくまでも会社の都合なので、会社の退職金規程においても自己都合退職の場合よりも有利な支給条件が定められていることが多く、退職金が割増しになるケースがあるでしょう。また、自己都合退職に比べて失業給付金の受給タイミングが早くなり、受給期間も長くなります。

ただし、退職勧奨は会社都合退職になるため、転職活動の際にはデメリットになるかもしれません。

会社都合退職と自己都合退職の違いについては、以下を参考にしてください。

会社都合退職と自己都合退職の違い

会社都合退職と自己都合退職には以下の違いがあるため、会社が従業員に退職勧奨するときや、従業員が合意する際には十分な検討が必要です。

退職時の条件だけではなく、退職後の失業給付も検討してください。

雇用関係の助成金

会社都合で従業員を退職させた場合、以下のような助成金をもらえなくなる可能性があります。

  1. 中途採用等支援助成金
  2. 労働移動支援助成金
  3. 特定求職者雇用開発助成金
  4. トライアル雇用助成金
  5. 地域雇用開発助成金
  6. 産業雇用安定助成金
  7. 人材確保等支援助成金
  8. キャリアアップ助成金 など

雇用関係の助成金制度はほかにも多数ありますが、事業所単位で1,000万円や従業員1人につき100万円を超える助成金など、高額な助成金を受け取っている会社も少なくないでしょう。

地方の会社では、半数近くの従業員が助成金の対象になっているケースもあるので、支給の打ち切りは死活問題になりかねません。

解雇や退職勧奨で雇用契約を解除するときは、助成金の打ち切り要件も必ず確認してください。

退職金の扱い

退職勧奨に応じた場合、退職金制度のある会社は退職金が上乗せになる場合があります。

一般的に、退職規程では、自己都合退職と会社都合退職の支給条件を変えている場合が多くなります。

解決金等の支払い

会社側が従業員に対して退職勧奨を申し入れる場合、退職勧奨に応じてもらうことを目的として、解決金等の支払いや転職支援サービスの利用補助などの提案をすることがあります。

退職者の失業給付

退職勧奨に応じた場合は会社都合退職になるため、自己都合退職と比較した場合、失業給付の扱いが以下のように異なります

 

会社都合退職

自己都合退職

受給開始時期

7日間の待機期間終了後

2ヵ月(※)または3ヵ月間の待機期間終了後

※5年間のうち2回まで

給付日数

30~330日

30~150日

 

会社都合退職は失業給付金の受給開始が早く、最大給付日数も2倍以上です。

ただし、最大330日間の給付は雇用保険の被保険者期間が20年以上あり、かつ失業者の年齢が45歳以上60歳未満の場合に限られます。

給付日数は被保険者期間と年齢によって変わるので、ハローワークで確認しておきましょう。

引用元:https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html

退職者の再就職

退職勧奨に応じた場合、再就職は不利になるかもしれません。

退職理由が会社都合であれば、再就職先の会社は「問題行動があるから退職勧奨されたのでは?」と判断する可能性があるでしょう。

失業給付の条件は優遇されますが、再就職に関しては特にメリットがないので、退職勧奨に応じるかどうかは十分な検討が必要です。

退職勧奨がおこなわれる理由

退職勧奨がおこなわれる主な理由は、社内の調和や会社存続なので、「退職してほしい従業員がいる」ということです。

ただし、経営上の問題が退職勧奨につながっているケースもあるので、これから解説していきます。

従業員の能力に問題がある場合

採用時に申告していた能力を従業員が有しておらず、適切な指導や配置転換でも解消できない場合は、退職勧奨の対象になる可能性があります。

能力不足の従業員には退職してもらい、有能な人材を迎えたほうが会社にとって有益です。

従業員も実力に見合った会社に転職できるので、会社からの期待に応えるプレッシャーがなくなります。

従業員に協調性がない場合

従業員に協調性がなく、トラブルばかり引き起こすときにおいても、退職勧奨が選択される可能性があります。

多くの会社はチームワークで成り立っているため、協調性がない従業員がいると仕事の流れが悪くなり、ミスも起きやすくなります。

協調性のない従業員を建設や医療の現場などに配置すると、人命に関わる重大ミスを引き起こす可能性もあります。

適切な指導をおこない、配置転換しても協調性の欠如が解消されないときは、退職勧奨を検討することが考えられます。

従業員の勤務態度に問題がある場合

正当理由なく遅刻や欠勤を繰り返し、業務命令にも従わない従業員がいる場合、勤務態度の不良が退職勧奨の理由になります。

業務命令に従わない従業員がいると、本人の仕事はほかの従業員に割り振られるため、残業や過重労働が状態化する職場になりかねません。

本人と面談して事情を聴き取り、適切な指導をおこなっても改善されないときは、退職勧奨が一つの選択肢となります。

会社に経営上の問題がある場合

コスト増などの理由で会社が経営難になっている場合、人員削減のために退職勧奨するケースがあります。経営上の問題がある場合には、整理解雇という方法もありますが、整理解雇をするには、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、③被解雇者選定の妥当性、④手続きの妥当性といった要素を満たす必要があるため、これらを満たさない可能性がある場合には、退職勧奨をすることも一つの手段となります。

退職勧奨から退職までの流れ

退職勧奨から退職までは以下の流れになっており、少なくとも1~2ヵ月程度の期間が必要です。

退職条件などの協議もあるので、従業員も勧奨退職の流れを理解しておくべきでしょう。

退職勧奨の方針と対象者の決定

退職勧奨の方針と対象者については、本人の直属上司と人事や総務などとの部署との協議により決定します。

退職金規程に基づき退職金をいくら支払うか、解決金(上乗せ退職金)を支払うかどうか、有給休暇はすべて消化させるか、再就職を支援するかどうかなど、細かい部分もしっかり詰めてください。

従業員から想定される質問への回答も考えておくと、冷静に話し合いを進められるでしょう。

退職はあくまでも従業員が選択するので、退職強要に該当する言動がないように、事前によく従業員との話し合いの際の発言内容を検討しておく必要があります。

会社と従業員の話し合い

従業員に退職勧奨するときは、必ず個室で話し合い、会社側の出席人数が多くならないようにします。従業員が所属する部署の上司と人事部の担当者の2名程度で実施するのが望ましいでしょう。

話し合いの際には、会社側が退職を勧めることになった背景や当該従業員が対象となった理由等について、本人の納得が得られるように真摯に説明する必要があります。

また、1回の話し合いでは結論を出せないため、次回の日程を必ず指定してください。

退職条件の決定

従業員が退職勧奨に応じるときは、本人と話し合って退職条件を決定し、合意します。

有給休暇の消化や買い取り、退職日、退職金の金額や解決金の支払いなど、あらかじめ会社側で確認・検討した提案内容を伝え、従業員に検討してもらいます。従業員から退職条件に関して希望があった場合、可能な範囲で本人からの条件にも応じてください

従業員の意向を無視して強引に話を進めると、後に「会社から退職条件を押し付けられた」などと主張される可能性があるため、一方的な話し合いにならないように注意しておきましょう。

退職の合意と退職届の提出

退職条件が合意に至ったときは、退職条件を記載した退職合意書等を作成し、会社と従業員との間において締結しておくことが望ましいでしょう。

また、退職合意書とは別に、退職届を提出してもらうようにします。

退職届は本人の意思に基づき提出する書面なので、人事部長等が受領した後は撤回できないとされています。また、後に退職の効力を争われた場合においても、退職届が提出されていたことが会社側にとって有利な証拠となります。

退職勧奨が違法になるケース

強引な退職勧奨は違法になるので、以下のようなケースに注意してください。

退職勧奨の進め方によっては、パワハラになる可能性があるでしょう。

退職勧奨を強要した場合

従業員に退職勧奨を強要すると、違法・不当な退職勧奨となる可能性があります。

例えば、以下のような退職勧奨は違法となる可能性があります。

  1. 大勢で取り囲んで退職勧奨をする
  2. 退職勧奨に応じるまで退室を認めない、あるいは長時間にわたって退職勧奨する
  3. 退職勧奨に応じなければ懲戒解雇するなどの発言をする
  4. 従業員が退職しない旨を意思表示しているにも関わらず、しつこく退職勧奨する

退職勧奨はあくまでも「会社からのお願い」だと理解してください。

退職勧奨がパワハラに該当した場合

退職勧奨がパワハラに該当すると、従業員から慰謝料請求される可能性があります。

「早く辞めてくれたらこっちも助かる」や、「役に立ってないから辞めたほうがいいよ」などの発言があれば、従業員から損害賠償請求を起こされる可能性があります。

従業員に退職勧奨する場合、言動には十分な配慮が必要です。

さいごに|違法・不当な退職勧奨になるかどうかをチェックしましょう

会社から退職勧奨された方は、なぜ自分が対象者なのか問い合わせ、合理的な理由があるかどうか、退職に応じるかどうかを慎重に考えてください。退職勧奨の方法に違法性がある場合や、退職理由にも納得できないときは、労働局や弁護士に相談することをお勧めします。

一方会社側は、退職勧奨はあくまで従業員の側に退職に応じるかどうかの選択権があるという点を念頭に置き、退職を強要することは許されないので、気を付けましょう。

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