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パワハラの加害者を訴える流れ|必要な証拠や慰謝料相場なども解説

弁護士監修記事
労働問題
2024年05月22日
2024年05月22日
パワハラの加害者を訴える流れ|必要な証拠や慰謝料相場なども解説
この記事を監修した弁護士
藤田 大輔弁護士 (梅田日輪法律事務所)
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厚生労働省が公表する「令和2年度・職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間でパワハラを経験した人は調査対象全体の31.4%でした。

パワハラがあった職場の対応としては、「特に何もしなかった」が全体の47.1%、パワハラ認定後に「行為者に謝罪させた」が28.5%となっています。

政府はハラスメントの撲滅に向けた施策に取り組んでいますが、各企業で十分に展開されているとはいえない状況です。

パワハラを会社に相談しても解決できないときは、訴訟も検討してみるべきでしょう。

本記事では、パワハラの加害者を訴える方法や、訴訟のメリット・デメリットなどをわかりやすく解説しています。

【参考元】令和2年度・職場のハラスメントに関する実態調査の主要点

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パワハラの加害者を訴えるときのポイント

パワハラには以下の定義があり(1~3の全てを満たす場合)、具体的な類型も定められています。

  1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
  3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

加害者を訴えるときは証拠を揃えなければなりませんが、以下の類型に該当するかどうかも必ずチェックしておきましょう。

パワハラに該当するかどうかチェックしておく

パワハラは6つの類型が定められているので、加害者の言動が該当するかどうか、以下の項目をチェックしてください。

定義や類型を理解しないまま加害者を訴えると、自分が名誉棄損などに問われてしまう可能性があるので要注意です。

身体的な攻撃

身体的攻撃とは、殴る、たたく、蹴る、ものを投げつけるなどの暴行行為です。

ものを投げつけた場合、被害者に当たったかどうかに関係なく、身体的攻撃のパワハラに該当する可能性があります。

また、お茶や水をかける、腕や襟首をつかむ、服を強く引っ張るなどの暴行行為や、被害者を負傷させる暴力行為もパワハラになります。

上司が部下を強く指導するときにありがちなケースですが、暴行や暴力行為には合理性がないため、「つい感情的になった」などの言い訳は通用しません。

精神的な攻撃

精神的攻撃とは、暴言や脅迫、名誉棄損や侮辱などの人格を否定する言動です。

たとえば、朝礼時に大声で叱責する行為や、「存在価値がない」などの発言を何度も繰り返している場合、精神的攻撃のパワハラに該当する可能性があります。

「○○は役に立たない」などのメールを大勢に送信し、被害者を侮辱する行為もパワハラに該当します。

ただし、指導しても遅刻が改善されない部下に対し、強めに注意するケースはパワハラに該当しません。

人間関係からの切り離し

人間関係からの切り離しとは、仲間外れにしたり無視したりする行為です。

気に入らない社員だけ別室で仕事させる行為や、社内イベントに参加させない、または挨拶しているのに返事をしないなど、人間関係からの切り離しはパワハラに該当します。

また、本来の業務があるのに資料整理やコピーばかりさせるなど、意図的に孤立する状況をつくった場合もパワハラに該当する可能性があります。

過大な要求

過大な要求とは、達成不可能なノルマや業務スピードなどを要求する行為です。

現実的ではないノルマを長期にわたって課す行為や、数日かかる業務を半日で仕上げるように命令するなど、過大な要求はパワハラに該当する可能性があります。

業務上必要性がない事務ばかりさせる行為や、経験がなければ処理できない業務を新人に丸投げする行為も、過大な要求に該当する可能性があります。

過小な要求

過小な要求とは、気に入らない社員を退職に追い込む目的などで、合理的な理由なく本来の実力や地位に見合わない仕事を与えるような行為です。

たとえば、課長などの管理職を受付業務に就かせる、または資料整理だけを命じる行為があれば、パワハラに該当する過小な要求に該当する可能性があります。

営業職に誰でもできる雑用を与え、本来の業務をさせない行為もパワハラに該当する可能性があります。

個の侵害

個の侵害とは、簡単にいうとプライバシーの侵害です。

業務とは関係ない家族関係や恋人などの情報、宗教や思想などをしつこく聞こうとする行為があれば、社員の個を侵害するパワハラに該当する可能性があります。

社内外で継続的に監視する行為や、本人が承諾していないのに勝手に写真を撮影する、またはスマートフォンを勝手に操作する行為も個の侵害といえます。

証拠は早めに集めておく

パワハラの加害者を訴えるときは、早めに証拠を集める必要があります。

身体に損害を被った場合は「損害及び加害者を知った時から5年以内、かつ、不法行為から20年以内」、精神に損害を被った場合は「損害及び加害者を知った時から3年以内、かつ、不法行為から20年以内」が損害賠償請求権の消滅時効期間となっており、期限を過ぎると請求権が時効により消滅します。

侮辱的な内容が書かれたメールや、入退室データはパワハラの証拠になりますが、加害者にサーバーの管理権限がある場合、消去される恐れがあるので注意してください。

同僚にパワハラを証言してもらうときも、時間が経過すると記憶が曖昧になり、加害者の責任を追及できなくなる可能性があります。

金銭による解決を望まず、パワハラだけやめさせたい場合でも、証拠がなければ「業務上必要な指導をしただけ」などと言い訳されるので、いずれにしても証拠は重要です。

退職や転職も検討してみる

加害者がパワハラをやめないときは、退職や転職も検討してください。

パワハラの被害によってうつ病などを発症した場合、仕事の継続はもちろん、転職も難しくなるため、メンタルを病む前に会社を離れたほうがよいかもしれません。

そもそも、加害者にはパワハラをしている自覚がない場合もあるので、上部からの指導で侮辱などの行為が止まっても、役員交代があればすぐに再発する恐れがあります。

また、同じ職場に「かつての加害者」がいると、お互いの関係がぎくしゃくするため、仕事の連携にミスが出てしまう可能性もあるでしょう。

パワハラの被害を受けているときはカウンセリングなどを利用し、精神疾患を発症しそうであれば、退職や転職を検討してみるべきです。

パワハラを訴える2つの方法

パワハラの加害者を訴える場合、効果的な方法は「労働局への訴え」と「法的措置」の2種類です。

具体的な効果は以下を参考にしてください。

労働局に訴える

パワハラを労働局に訴えると、会社に対して助言や指導をおこなってもらえます。

助言や指導に効果がなかった場合、専門家のあっせんも利用できるので、会社や加害者と和解できる可能性もあるでしょう。

あっせんでは弁護士や社会保険労務士などが当事者の間に入り、加害者に解決金を支払わせるなど、具体的な和解策を提示してくれます。

ただし、あっせんの解決策には法的拘束力がないため、会社が従わない可能性もあります。

労働局に訴えてもパワハラの解決に至らなかったときは、訴訟などの法的措置を検討してください。

法的措置で訴える

パワハラを法的措置で解決する合、以下のような方法があります。

  • ●民亊調停
  • ●民事訴訟

民亊調停は裁判所を介した手続きになっており、調停委員会を交えて話し合いでの合意を目指しますが、裁判官が判決を下すわけではないので、当事者の合意が成立しなければ成立しません。

民事訴訟は自分が原告となり、加害者を被告として法廷で争うため、最終的には裁判官の判決が下されます。

慰謝料の支払いなど、強制的に実現したい要求があるときは訴訟を起こしたほうがよいでしょう。

なお、パワハラは労働審判で解決できるケースもありますが、あくまでも会社に責任を追及する場合が対象です。

単パワハラの加害者のみを相手方とする場合、労働審判は使えないので注意してください。

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パワハラの加害者を訴えるときの流れ

パワハラの被害を受けているときは、まず社内で解決を図り、効果がなければ法的措置へ移行することがよいでしょう。

具体的な流れは以下のようになるので、証拠集めからスタートしてみましょう。

パワハラの証拠を集める

パワハラを解決するときは、以下の証拠を集めてください。

  • ●侮辱や誹謗中傷などが書かれたメールやLINE、メモや付せんなど
  • ●パワハラを撮影した動画や音声データ
  • ●超過勤務命令簿
  • ●業務日誌や日報
  • ●タイムカードや入退室のデータ
  • ●自分で作成した日記やメモ
  • ●病院の診断書
  • ●同僚や退職者の証言

超過勤務命令簿や入退室のデータがあると、深夜まで残業していた事実がわかるので、過大な要求によるパワハラの立証に役立ちます。

動画や音声データは有力な証拠になりますが、「指導の一部を切り取られただけ」と反論される可能性があるため、できれば一部始終を録画・録音しておきましょう。

録画や録音が断片的になるときは、前後の状況を日記やメモに記録してください。

社内のハラスメント相談窓口に通報する

各企業にはハラスメント相談窓口の設置義務があるので、パワハラの被害は社内で解決できる場合があります。

相談担当者には事実関係の調査や対応策の検討が義務付けられており、守秘義務もあるため、一般的には相談者が不利益を被ることはありません。ただし、相談担当者が十分な研修を受けていなかった場合、パワハラの解決に至らないばかりか、相談したことが加害者に伝わってしまうケースもありうるので要注意です。

社内のハラスメント相談窓口に通報するときは、パワハラ防止を注意喚起しているかどうか、過去に解決できた人がいるかどうかチェックしておきましょう。

社外の相談窓口を利用する

社内でパワハラを解決できないときは、社外の相談窓口も利用してください。

パワハラの悩みは以下の窓口に相談できます。

みんなの人権110番は法務局や地方法務局に設置されており、法務局職員や人権擁護委員がパワハラの相談に乗ってくれます。

かいけつサポートはADRによる話し合いでの解決の場を提供してくれます。

公的機関や第三者の介入があれば、会社もパワハラ防止を真剣に考えてくれるでしょう。

パワハラ内容を内容証明郵便で会社に通知する

パワハラをすぐにやめさせたいときは、内容証明郵便の送付が効果的です。

会社に内容証明郵便を送付すると、文面を郵便局が証明してくれるので、「パワハラの相談など受けていない」といった言い逃れを防止できます。

文面には以下の内容を記載しておくとよいでしょう。

  • ●パワハラを受けた期間
  • ●パワハラの具体的な内容
  • ●加害者名
  • ●要求する対策と期限
  • ●会社側が対応しなかったときの措置

内容証明郵便のあて先を会社名だけにすると、誰が開封するかわからないので、必ず代表者あてに送付してください。

調停を申し立てる

社内の相談窓口が機能していないときや、内容証明郵便にも効果がなかったときは、調停を申し立ててみましょう。

ただし、口頭のみでパワハラの被害を訴えても効果は乏しいため、証拠を揃えておく必要があります。

調停はあくまでも合意による解決を目的としており、証拠が不十分だった場合は被害者に譲歩を求めるなど、パワハラの根本的な解決には至らないケースがあるので要注意です。

調停の結果に納得できないときは、訴訟の提起を検討してください。

民事訴訟を起こす

民事訴訟を起こすと、強制力のある判決文が下されます。

慰謝料の支払いなどを求めるときは、民事訴訟の提起が有効手段になるでしょう。

ただし、パワハラは自分で立証しなければならないため、証拠が不十分だった場合は敗訴する可能性もあります。

審理中は月1回程度の口頭弁論があるので、裁判所へ出廷する際は有給休暇の取得も必要になるでしょう。

なお、パワハラで訴訟を起こした場合、判決が出るまでの平均審理期間は2ヵ月半~3ヵ月程度ですが事案によってはもう少しかかる場合もあります。

パワハラの加害者を訴えるメリット・デメリット

パワハラの加害者を訴えるときは、以下のメリットやデメリットを考慮してください。

証拠が揃っていない場合、自分が名誉棄損や誹謗中傷で訴えられる可能性があるため注意が必要です。

パワハラの加害者を訴えるメリット

パワハラの加害者を訴えると、以下のようなメリットがあります。

  • ●会社がパワハラ防止を措置してくれる
  • ●パワハラの被害がなくなる
  • ●慰謝料を支払ってもらえる

会社がパワハラを認めた場合、加害者に降格処分などを下す場合があるので、暴言や侮辱が繰り返される可能性は低いでしょう。

慰謝料請求は加害者に金銭的な負担が生じるため、十分な反省を促す効果もあります。

パワハラの加害者を訴えるデメリット

パワハラの加害者を訴えるときは、以下のデメリットも必ず考慮してください。

  • ●証拠が不十分だったときは自分が名誉棄損で訴えられる可能性がある
  • ●慰謝料の請求を拒否される可能性がある
  • ●加害者に報復される可能性がある
  • ●会社にいづらくなる可能性がある

客観的にみて確実なパワハラ行為であっても、証拠がない状況で加害者を訴えると、自分が名誉棄損に問われたり、事実上の報復をされたりする恐れがあります。

結果的に会社にいづらくなり、自分から退職することにもなりかねません。

加害者を訴える場合、パワハラの証拠を確実に押さえておきましょう。

さいごに|パワハラの加害者を訴えるときは証拠を集めておきましょう

パワハラは重大な人権侵害になるため、会社全体で防止に取り組む必要があります。

しかし、社内の相談窓口が正常に機能していないケースもあり、社内で解決できるとは限りません。

また、法的措置では証拠が重要視されるため、メールや動画、メモなどを提示できるかどうかがポイントになるでしょう。

パワハラの加害者を訴えるときは、まず証拠集めからスタートしてください。

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編集部
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