不退去罪とは?逮捕にいたる条件や刑罰の内容と弁護士の探し方を解説
不退去罪は、罪を犯しているという自覚がないうちに犯罪になってしまっていることがある犯罪です。
また、近年のカスタマーハラスメントへの問題意識などから、店舗経営者、自営業者など職業柄、どのような犯罪なのか知っておきたいと思う方も多いでしょう。
本記事では、不退去罪とは何かについて詳しく解説します。不退去罪が成立する条件や、住居侵入罪との違い、対処法などについても詳しく解説します。
犯罪とは縁がない方でも、時と場合によっては犯してしまう可能性がある犯罪であるため、ぜひこの記事を参考にしてください。
不退去罪とは?
不退去罪とは、住居権者の承諾を得て適法に、又は過失で住居などに入った者が、その住居などから出ていくように要求を受けたにもかかわらず、退去せずにそのまま居座り続けることで罪が成立する犯罪です。
住居侵入罪と共に刑法で次のように定められています。
第百三十条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
たとえば、ある店を訪れてクレームを言っていると知らないうちに警察が来て逮捕される、というようなことが考えられます。
自分では罪を犯している自覚がない場合でも、不退去罪によりその行為が犯罪となっている場合があるため注意しなければなりません。
なお、そもそもクレームを言うためにお店に立ち入る場合には、建造物侵入罪が成立する可能性があります。
建造物侵入罪が成立したあとで、退去しないでそのまま滞留した場合には、建造物侵入罪のみが成立することとなります。
不退去罪により逮捕・勾留されると、最長で20日間の身柄拘束を受ける可能性があり、起訴されると罰金や懲役などの刑事罰を受ける可能性があります。
不退去罪が成立する条件
ここからは、不退去罪が成立・条件について紹介します。
職業によっては、どのような行為が不退去罪としての処罰の対象かということを知っておくべき方もいますので、しっかり確認しておきましょう。
1. 居住者や従業員が退去を要求する(退去要求)
退去要求が出来るのは、その立ち入りに有効な承諾を与えることが出来る者と解されており、住居ではその住居者です。
邸宅や建造物等においては看守者とされているので、店舗であれば店長などが考えられます。
なお、退去要求の権限は事前に委任することも可能ですので、店長に委任された従業員が、対象者に対し退去を要求した場合、対象者がその退去要求に従わなければ不退去罪の成立条件に当てはまります。
また、退去要求は正当なものでなければなりません。
もし退去要求を受けた場合でも、行為者に正当な理由がある場合には、不退去罪は成立しません。
そして、退去要求が正当であるかどうかの判断は、対象者の滞留目的や退去要求の相当性、居住者・看守者の意思に反する程度、不退去の間における対象者の行動(立ち入ったあとの状況や退去しない理由など)、侵害される利益の程度、といった観点から判断されます。
実際に退去要求をする際には、施設や店舗の場合、店長や従業員が何度か対象者に対して退去要求を実施し、それでも対象者が退去しない場合に警察に通報する、という流れが一般的です。
また、退去要求は、口頭だけでなく、身振りといった動作で伝えることも可能ですが、相手が明確に覚知できる方法でなければなりません。
2. 退去に必要な時間がすでに経過したタイミングで成立する
不退去罪は、退去要求を受けた直後に成立するわけではありません。
退去に必要な時間が経過したタイミングで成立します。
退去するために合理的に必要とされる時間が経過した後に成立するため、たとえば、所持品を持ち帰るために整理する、そこに滞在するために脱いだ上着を着る、靴を履く、といったように退去に必要な準備を進めている時間は、不退去罪の対象にはなりません。
もっとも、退去に必要な時間を合理的に超えている場合、もしくは故意に退去しない場合は不退去罪が成立し、処罰の対象になります。
もし合理的な時間が経過し不退去罪が成立すると、退去するまで犯罪が継続することになります。
不退去罪が成立する場所とは?対象となるのは4つ
「出ていってほしい」「帰って欲しい」という要望に応じず、その場に居座るという場面は、日常生活においてどのような場所で発生するのか、気になる方も多いでしょう。
普段の生活で起こりやすい状況を考えながら、不退去罪が成立する場所を4事例、紹介します。
1. 人の住居|戸建て住宅・マンション・アパート
まずは「人の住居」です。
戸建て住宅やマンション、アパートなど、人の起床寝食に使用される建造物のことをいいます。
人が日常生活の拠点としている場所と考えてください。
また、その使用は一時的な物であってもよいので、ホテルの一室も住居にあたります。
2. 人の看守する邸宅|自宅だけでなく庭なども含む
次は「人の看守する邸宅」です。
邸宅とは、人が住むように住居として建てられたものの、日常生活のために利用されていない建築物のことをいいます。
人が住んでいない空き家や、閉鎖中の別荘などが邸宅にあたります。
また、自宅を含む建築物だけでなく、庭なども邸宅に含まれます。
マンションやアパートの共用部分も邸宅にあたると考えられます。
3. 人の看守する建造物|人が事実上管理・支配する建造物
次の「人の看守する建造物」です。
建造物とは、店舗や事務所、会社、役所、商業施設、学校、駅など、住居と邸宅以外の建造物一般のことを指します。
4. 人の看守する艦船 |軍艦及び船舶
最後に「人の看守する艦船」です。
艦船とは軍艦だけでなく、軍事用、非常時用問わず船舶全般を意味するため、通常の船も含まれます。
もっとも、人が侵入できる構造でなければなりません。
不退去罪と住居侵入罪の違いを解説
不退去罪と同じような意味で、住居侵入罪という罪があります。
住居侵入罪は、正当な理由がないのに、住居や建造物などに侵入した場合に成立する罪です。
また、住居侵入罪が成立した場合、重ねて不退去罪が成立することはない点もポイントです。
これは住居侵入罪が成立した場合、退去するまで犯罪行為が継続するとみなされるため、不退去罪が成立する余地がないためです。
そのため、不法に侵入したうえでさらに退去の要求に応じなかった場合には、住居侵入罪のみが成立し不退去罪は成立しません。
住居侵入罪が成立した場合には、不退去罪と同じく3年以下の懲役、又は10万円以下の罰金が規定されています。
最初から不法な目的を持って侵入した場合には「住居侵入罪」、不法な目的ではなく適法にまたは過失で立ち入った後に退去要求に応じず滞留した場合には、「不退去罪」が成立します。
不退去罪で逮捕されたときの流れ
不退去罪で逮捕されるケースの多くは、退去要求権者の退去要求に応じず、通報を受けて現場に駆けつけた警察によって「現行犯逮捕」されるということです。
不退去罪で逮捕されてしまったときの流れを詳しく解説します。
- 逮捕される
- 検察庁に送致される
- 勾留される
- 勾留が延長されることも
- 刑事裁判が行われる
- 判決がいい渡される
1.逮捕される
通報により、不退去罪で現行犯逮捕されると、警察署内の留置所へ収容される手続きが取られ、取り調べがおこなわれます。
原則として逮捕されてから48時間以内には検察庁に送致されます。
ただし、一定の軽微な事件の場合、もしくは被疑者に逃亡や罪証隠蔽の恐れがないと判断した場合は、警察限りで刑事手続きが終了し釈放されるということもあります。
釈放されるまでの生活の拠点は基本的に留置所になります。
2.検察庁に送致される
逮捕され、警察限りで刑事手続きが終了しなかった場合は、事件は逮捕後48時間以内に検察庁に送致されます。
さらに、検察官に留置の必要があると判断された場合、検察官は、送致された被疑者を受け取った時から24時間以内に勾留請求をおこないます。
もし検察官が勾留する必要がないと判断した場合にはそのまま釈放され、任意捜査となる場合があります。
3.勾留される
検察官が勾留請求をした場合には、裁判官が身柄拘束の必要性を審査します。
そして裁判官が「勾留の理由」と「勾留の必要性」があると判断すれば、原則10日間の身柄拘束が続きます。
4.勾留が延長されることも
勾留が延長される場合があることも忘れてはいけません。
勾留期間の10日間が経過した後であっても、「やむを得ない事情がある場合」には、さらに最大10日間の勾留が延長され、身柄を拘束したまま捜査を続けられることがあります。
なお、不退去罪で逮捕される場合には、それ以外にも、店員への暴言や暴力などをおこなっている場合があります。
この場合には、余罪について再逮捕がなされることがあり、この場合にはさらに勾留期間が続くことになります。
5.刑事裁判がおこなわれる
検察官が刑事裁判を求めて起訴した場合には、被告人勾留(起訴後勾留)となります。
起訴されると保釈請求が可能です。
保釈が許可されると保釈金を納付することで身柄が釈放されます。
【参考】保釈金とは?出られる条件・流れ・金額の相場・没収されるケースを解説
6.判決がいい渡される
刑事裁判がおこなわれたあとは、判決が言い渡されます。
判決宣告後、懲役刑などの実刑がいい渡された場合以外には、釈放されます。
不退去罪の刑罰は3年以下の懲役または10万円以下の罰金
不退去罪の刑罰は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
一般的には、前科がなくよほど悪質であると判断された場合以外、執行猶予付きの懲役刑もしくは罰金刑となる場合が多いでしょう。
被害者との示談が成立している場合や、適切な身元引受人による監督が期待できる場合などには、不起訴処分となり、裁判がなされない可能性も高いです。
不退去罪で逮捕されたときの対処法3つ
不退去罪で逮捕されてしまった場合の対処法を3つ紹介します。
万が一の時のために覚えておきましょう。
1.弁護士に依頼をする
不退去罪で逮捕されてしまうと、身柄拘束期間が長期化してしまう場合があるため、それを避けるためにもできるだけ早い段階で弁護士に依頼しましょう。
不退去罪に限らず、逮捕されてしまった場合は誰でも一度だけ無料で弁護士を呼べる「当番弁護士制度」があります。
まずはその制度を利用し、今後の流れと取り調べについてのアドバイスを受けましょう。
なお、当番弁護⼠の派遣は、家族でも依頼することができます。
ご家族が当番弁護⼠の派遣を依頼する場合は、逮捕された場所の弁護⼠会に電話をしてください。
なお、当番弁護士は一度しか接見できないため、その後の示談交渉や弁護活動に関しては、国選弁護人や私選弁護士に依頼する必要があります。
【参考】当番弁護士とは?当番弁護士を利用する際の注意点と連絡方法を解説
2. 被害者と示談の交渉をする
不退去罪などの刑事事件では、被害者と示談の交渉をおこなうことが望ましいです。
刑事事件では、被害者の処罰感情が重要な判断材料になるため、被害者と示談交渉をしておくことで、今後の手続きが有利になる可能性があることを覚えておきましょう。
被害者が不退去罪で取調べを受けている犯人からの連絡を直接受けることは通常はなく、また、示談金などの内容の決定も弁護士でなければ難しいので、示談交渉をおこなう場合には、弁護士に依頼することが一般的です。
被害者と示談が成立すれば、早期釈放される可能性が高まるので、弁護士に依頼して示談交渉を進めてもらいましょう。
3.弁護士に捜査関係者との交渉をしてもらう
不退去罪で逮捕された場合、逮捕直後の数日間は刑事弁護において非常に重要な時間です。
検察官の勾留請求を回避し、裁判所には勾留を認めないよう(あるいは勾留を認めた判断を取り消すよう)働きかけることで、身柄の釈放をするためにも、早期に弁護士に弁護活動を依頼してください。
刑事事件はスピードが重要な鍵となるため、できるだけ早く依頼することがおすすめです。
不退去罪に関するよくある質問Q&A
不退去罪に関するよくある質問を紹介します。
不退去罪は、日常生活において誰しもが無自覚に罪を犯してしまいやすいので、もしものときのためにしっかり覚えておきましょう。
Q.不退去罪とは何ですか?
不退去罪とは、適法な理由で住居や施設に立ち入った場合であっても、その居住人や店舗の責任者、代理人により、「出ていってほしい」「帰ってほしい」などの退去の要求を受けたにもかかわらず、これに応じなかった場合に成立する可能性がある犯罪です。
罪を犯しているという自覚がないうちに犯罪になってしまうこともあることから、犯罪と縁がなかった方であってもときと場合によって犯してしまう可能性があります。
Q不退去罪と建造物等侵入罪の違いを教えてください
不退去罪と建造物等侵入罪は、そもそもの目的によりまったく異なる犯罪です。
不退去罪は、住居や建造物などに立ち入る許可を得ている(あるいは過失により立ち入ってしまった)ものの、その後、退去要求権者より退去を求められているにも関わらず、それに応じず居座る行為を罰する犯罪です。
それに対して建造物等侵入罪は、住人や管理者の意思に反して不法に侵入する犯罪です。
住居や建造物に不法に侵入すれば、その時点で建造物等侵入罪が成立しますが、不退去罪は住居や建造物に立ち入っただけでは成立しません。
また、不法侵入したうえで、さらに退去要求に応じなかった場合は、建造物等侵入罪のみが成立します。
たとえば盗撮目的でトイレに立ち入り、その後閉店時間等により店舗が閉まり、そのまま隠れていたところ、警備員に発見されたという事案であれば、警備員からの退去要求を受けていないので不退去罪は成立せず、建造物侵入罪のみが成立することとなります。
Q不退去罪にはどのような刑罰がありますか?
不退去罪は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金を科せられます。
なお、不退去罪は刑法132条「未遂規定」があるため、形式的には未遂罪の成立が考えられます。
しかし、不退去罪は退去に必要な時間を経過した時点で既遂と判断されるため、実際には未遂罪が成立することは想定しがたいです。
まとめ
本記事では、不退去罪について詳しく解説しました。
不退去罪は、店舗での迷惑客はもちろん、飲食店など店舗でのクレームや、交際相手に対するストーカー、訪問販売や布教活動などの勧誘行為や営業行為、デモ活動でも、成立する可能性がある犯罪です。
不退去罪により逮捕されると、そのまま勾留が続き、長期間身体拘束を受ける可能性があるため、もし自分・家族が逮捕されてしまった場合にも、早期に弁護士に依頼することが重要です。
そして示談交渉や身体解放などのサポートを受けるには、弁護士への依頼する必要があります。
不退去罪は一般的な社会生活の中で罪に問われる可能性もあり、他方では、近年増加するカスタマーハラスメントなどへの対処法としても注目されています。
ぜひこの記事を参考になさってください。