不当解雇による支払い請求には時効がある?|解雇無効の主張と解決金の違い
不当解雇をされた場合、会社に対して解雇の無効や解決金や給料の支払いを求めることができます。
しかし、数年前に解雇された方のなかには「そもそも、不当解雇の訴えが時効になっているのでは?」と、時効の完成を心配している方もいるかもしれません。
結論からいうと、不当解雇の訴え自体には時効はないので、何年も前の解雇であっても無効を主張できます。
しかし、不当解雇の訴えに伴う一部の請求には時効があるほか、解雇から年数が経過すればするほど訴えが通らなかったり、請求金額を受け取れないリスクがあるため注意が必要です。
本記事では、不当解雇の時効や過去の訴えが通りにくくなるリスクを紹介します。
不当解雇をされた方や、不当解雇の訴えを検討している方はぜひ参考にしてください。
不当解雇と訴えること自体には時効はない
まず、不当解雇を受けた場合、その解雇が不当であると訴えることに関して時効はありません。
不当解雇が何年前であろうと、以前の勤務先に対して不当解雇が無効であることや、解決金の支払いを請求することができます。
解雇の無効の主張には時効はない
不当解雇が無効であることを主張すること自体には、時効はありません。
何年前の解雇であっても、それが不当解雇だと感じるのであれば、無効を主張できます。
解雇された直後は生活のことで頭が精一杯になったり、精神的に落ち込んで泣き寝入りになったりしてしまう傾向があります。
しかし、解雇から数年経って「あの解雇はおかしい」と考えて、解雇の無効を主張する方も少なくありません。
労働契約法第16条では、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない解雇は無効であるとしており、労働者に著しく不利益がある解雇は無効であるとして争うことが可能です。
不当解雇の無効の主張とは、会社側が解雇権を濫用しているものとして、「解雇は無効だから社員としての地位を確認したい」と、「地位確認請求」をおこなうことから始めます。
解雇が無効であるとして地位確認ができたら、①解雇の撤回による復職、もし会社に戻りたくない場合には②金銭による解決を求めて話し合いがおこなわれます。
解雇の解決金の請求には時効がない
解決金の支払いによって不当解雇を解決する場合にも、時効はありません。
解決金とは、不当解雇を争っている際、労使間で話し合った結果受け取れる金銭です。
不当解雇の訴えには時効がなく、解決策として以下2つの方法があります。
- 復職
- 解決金の支払いによる金銭の解決
不当解雇の訴えには時効がないため、その解決策である「復職」「解決金の支払い」にも時効がないことになります。
不当解雇を訴えている元従業員の方のなかには、「不当に解雇されたことには納得できないが、いまさら会社には戻りたくない」と、考える方も多いのではないでしょうか?
そして、会社も「いまさら復職させるくらいなら、お金で解決したほうがよい」と考えるケースもあります。
この思惑が一致した際に、金銭による解決の合意が可能になります。
【関連記事】【労働者向け】不当解雇が突然撤回された場合の対処法は?
不当解雇を争うときに同時に求めることのできる金銭の請求には時効がある
不当解雇の主張や解決金の請求には時効はありません。
しかし、不当解雇を争うときに同時に求めることのできる以下の請求には時効があるため注意しましょう。
- ●慰謝料
- ●退職金
- ●給与・残業代
- ●解雇予告手当
それぞれの時効期間がどの程度なのか、詳しく解説していきます。
慰謝料の時効は3年または5年
不当解雇は、以下の2つを根拠にして慰謝料を請求することもできます。
- 不法行為:不当解雇は労働契約法違反
- 債務不履行:会社が従業員に対する安全配慮義務を怠った
不法行為を根拠として慰謝料を請求するのであれば、時効は不法行為から3年です。
不法行為による慰謝料請求は「損害および加害者を知ったときから3年間」と決められており、不当解雇の場合には会社も従業員も不当解雇があったことを知っているため、「不当解雇から3年」で時効になります。
一方、債務不履行を根拠として慰謝料を請求する場合の時効は5年です。
理由なく解雇したり嫌がらせなどによって解雇した場合、会社が従業員を安全に働かせる義務(安全配慮義務)を怠ったと考えられることから、「権利を行使することができることを知ったときから5年間」が時効となります。
退職金の時効は5年
会社から解雇されても退職金を受け取れる可能性があります。
この請求をおこなう場合の時効は5年です。
ケースによっては、会社が「懲戒解雇のため退職金の支払いはしない」と、主張することがあります。
しかし、懲戒解雇であったとしても「不支給規定がない」などのケースでは、退職金が受け取れる可能性もあります。
そもそも、解雇が無効であると主張するのであれば、退職金の支払いを求めることは自然なことです。
退職金の時効は、ほかの賃金よりも長く設定されているため、受け取れる退職金がいくらなのかは会社の退職金規定などで確認しておきましょう。
給与や残業代の時効は3年
給与や残業代の時効は3年です。
なお、2020年4月の改正民法の施行にともない、2020年3月31日までの給料の時効は2年、2020年4月1日以降の給料の時効は5年(当面の間は3年)となっています(労働基準法115条、同法附則143条3項)。
不当解雇によって解雇が無効であるならば、解雇された日から現在までは雇用が継続されていることとなるため、その間の給与の支払いが必要になり、この分の給与(バックペイ)を請求できます。
不当解雇は何年前のものでも争えるものの、受け取れる給与は3年分だけですので注意しましょう。
また、不当解雇をする会社は働いていた期間の残業代も未払いである可能性があります。
残業代も労働基準法における「賃金」に含まれるため、給与と同じく時効は3年です。
支払われていない残業代がある場合には、3年以内に請求しましょう。
解雇予告手当の時効は2年
解雇予告手当を受け取れる場合、その時効は2年間です。
解雇予告手当とは、従業員が予告なしで解雇された場合などに、会社が従業員へ支払わなければならない金銭のことです。
会社が従業員を解雇するには、原則として30日前に該当する従業員へ予告しなければなりません。
しかし、30日よりも前に解雇を予告した場合や予告なしで解雇した場合、従業員には30日に不足する日数分の解雇予告手当の支払いが必要になります(労働基準法第20条1項)。
たとえば、予告なしで解雇した場合は30日分、15日前に予告した場合は15日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
不当解雇は予告なしで解雇されているケースも多いため、解雇予告手当を受け取れる可能性があります。
この場合の時効は、退職金や給与よりも短い2年だけですので、早めに請求したほうがよいでしょう。
【関連記事】不当解雇の時効|あわせて知りたい・残業代・慰謝料・退職金請求の時効
不当解雇に関する請求は速やかに
不当解雇の訴えには、時効がありません。
しかし、時効がないからといって、請求を放置することには以下のようなリスクがあるため、できる限り早く請求したほうがよいでしょう。
ここでは、不当解雇の請求が遅くなることで起こりうる3つのリスクについて、詳しく解説していきます。
- 解雇に同意したとみなされる
- 証拠がなくなる
- 元勤務先の資金繰りや業況が悪化する
時間が経過しすぎると解雇に同意したとみなされる
不当解雇から時間が経過してから訴えても、会社から「解雇に同意している」と、主張されることがあります。
裁判になった場合も、時間が経過しているほうが不利になる可能性があります。
裁判官から「なぜ、ここまで時間が経つまで争わずに放置していたのか」と質問される可能性があり、この際に合理的な説明ができないと不利な評価をされる可能性があります。
不当な解雇があったのであれば、速やかに「不当である」と意思表示があるのが自然なことですので、時間が経てば経つほど不利になってしまうリスクがあります。
証拠がなくなり請求できなくなるおそれがある
不当解雇から時間が経ってしまうと、不当解雇を証明する証拠がなくなってしまう可能性があります。
不当解雇を争う場合の証拠の多くは、会社に保管されているのが一般的です。
しかし、不当解雇を示す証拠がいつまでも会社に残って居るとも限りません。
- ●当時のタイムカードを廃棄した
- ●不当解雇の事実を知る従業員が退職してしまった
このように、時間が経過すればするほど、不当解雇を示す証拠が失われてしまう可能性が高くなります。
将来的に解雇を争う意思があるのであれば、解雇された際にメールやLINEは保存しておいたり、タイムカードのコピーをとっておいたりするなど、証拠の保全に努めましょう。
請求先の会社が支払える状態とは限らない
解雇から時間が経ってしまうと、会社の経営が傾いているリスクもあります。
会社が倒産してしまったり、経営状態が悪かったりするような場合には、たとえ不当解雇が認められたとしても、解決金や未払いの給料を受け取れるとは限りません。
また、復職したとしても、会社の経営状態が悪ければ給料が支払われない可能性もあるでしょう。
従業員を不当に解雇する会社は、経営状態の悪化から人件費カットを目的として、従業員を解雇しているケースも少なくなりません。
このような会社は、解雇から時間が経てば経つほど経営状態がさらに悪化して、不当解雇を訴えたときには会社が倒産している可能性もあります。
会社に支払い能力のあるうちに、早めに請求しておいたほうが無難です。
不当解雇による支払い請求と時効に関するFAQ
ここでは、不当解雇による支払い請求と時効に関してよくある質問を紹介していきます。
請求の時効が迫っている場合、どうすればよいでしょうか?
時効が迫っている場合には、更新と完成猶予という方法を使用して、時効の進行をストップさせましょう。
- ●更新:これまで進んでいた時効がリセットされて新たに時効がカウントされること
- ●完成猶予:時効の進行が一時的にストップすること
催告をすれば完成猶予となり、時効は一時的にストップします。
催告は内容証明郵便でおこなわれ、不当解雇の場合には「不当解雇があったため、賃金の支払いを求める」などの書類を会社へ送付すれば催告となります。
そして、完成猶予期間中に更新をおこなうのが一般的です。
時効の更新事由は、以下の3つです。
更新事由 |
具体例 |
裁判上の請求 |
・裁判上の請求 ・支払督促 ・和解または調停の申立て(法律に基づくもの) |
強制執行 |
・強制執行 ・担保権の実行 ・担保権の実行としての競売 ・財産開示手続 |
承認 |
会社が債務の存在を承認する(不当解雇を認める) |
不当解雇の場合には、会社が不当解雇を認めることで時効は更新されます。
まずは、会社に対して内容証明郵便で催告し、時効の進行をストップさせましょう。
会社への請求はどのようにおこなえばよいでしょうか?
会社への請求は、内容証明郵便でおこないます。
請求する方法について法的な決まりはありません。
しかし、催告をおこなったことを証明するため、内容証明郵便でおこなうことが一般的です。
内容証明郵便とは、「いつ・どのような内容の書類を送付したのか」を郵便局が証明する書類です。
内容証明郵便で請求をおこなうことによって、会社側が「催告は来ていないから時効の完成猶予が成立していない」と主張しても、客観的に催告をおこなったことを証明できるため、時効の完成猶予を成立させることが可能です。
まとめ|不当解雇されたら早めに弁護士に相談しよう
会社から不当解雇された場合には、弁護士へ相談するのがベストです。
不当解雇の訴えは、まずは会社側との交渉になるため、立場の弱い解雇された側の従業員が単独で会社と交渉しても、会社が不当解雇を認める可能性はそれほど高くありません。
また、解決金の金額も交渉になるため、弁護士へ依頼したほうが高額になる可能性があります。
さらに不当解雇は賃金の計算など、複雑な専門知識が必要になります。
不当解雇に時効はありませんが、訴えをするのが遅くなればなるほど、従業員側には不利になる傾向があります。
不当解雇を認めさせて有利な条件で和解するためにも、また、慰謝料や給料をしっかりと受け取るためにも、不当解雇をされてしまったらとにかく早めに弁護士へ相談しましょう。