過失割合はどう決まる?事故別の相場・決まらない場合の対処法まとめ
交通事故における『過失割合』とは、当事者間に生じた事故発生の責任を割合で表したものです。
事故発生には当事者のどちらにも何かしら過失があるのが通常で、それを通知で表したものが過失割合なのです。
0から100までのパーセンテージを当事者間で割り当てて「50:50」「20:80」「0:100」のように表現するのが一般的です。
また、パーセンテージではなく割合に従って「5:5」「2:8」「0:10」と表現することもあります。
過失割合は、事故後の賠償額に影響を与えます。
交通事故で発生した損害については相手方に請求できますが、過失割合に応じて、損害賠償額が減額されてしまうのです。
相手の過失割合が高く自分には過失がない場合は得られる賠償金も十分なものになりますが、自分に高い過失割合が認められてしまう場合は十分な補償が得られないばかりか、かえって相手に賠償金を支払うこともあります。
だからこそ、どのくらいの過失割合になるのかは、交通事故の当事者にとって大きな関心ごとです。
ところが、実際には保険会社から一方的に告げられるだけで、誰が、いつ、どうやって決めているのかわからないというケースも多々見受けられます。
そこでの記事では、交通事故の過失割合はどうやって決めるかといった基本的な内容を解説したあと、事故形態別の過失割合の基準、保険会社から告げられた過失割合に納得できない場合の対処法などを紹介します。
過失割合の決め方|誰が・いつ・どう決める?
まずは、過失割合は誰がどのように決めるのかといった、基本的な内容について確認しておきましょう。
過失割合は当事者同士で割合を出す
過失割合は、原則、交通事故の当事者同士の話し合って決めるものです。
警察が決めると考えている人もいるかもしれませんが、警察は事故の事実について記録をとるだけで、過失割合の決定に介入することはありません。
しかし、ほとんどの当事者は「自分は悪くない」「相手が悪い」と主張するので、お互いの意見は噛み合わないでしょう。
そこで、多くのケースでは、保険会社や弁護士などの代理人を通じて協議を進めることになります。
最終的な過失割合はあくまでも当事者相互の合意で決定するので、基本的に「いつの間にか不利な過失が割り当てられていた」といった事態は起きません。
過去の裁判例と個別事情をもとに決める
過失割合は根拠のない話し合いによって決められるものではありません。
そこで、過去に同じような状況で発生した交通事故の裁判例を参考に、実際の事情を加味して過失割合を決めるのが原則です。
裁判例は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」や「別冊判例タイムズ」に記載があり、実務ではこれを参照にしながら過失割合を決定します。
決まる時期は原則損害額の確定後
過失割合を決めるタイミングに法律などによる定めはありませんが、一般的には損害額が確定したタイミングで決めることになります。
事故後は、まずは治療や後遺障害などの認定を行います。
その後、治療費や休業損害、慰謝料などを算定したのちに、示談のときにまずは過失割合を決めて、そののちに賠償金の合意に至るのが通常です。
過失割合が付くとどうなる?
過失割合が決定されると、その割合に応じて過失相殺といって賠償金について減額されることになります。
ここでは過失相殺とその計算例について確認しておきましょう。
過失相殺が適用される
過失相殺とは、過失割合に応じて受け取れる賠償額が減額されることです。
交通事故で被害を受けた場合であっても、事故発生について過失があったのであれば、それに応じて賠償金が減らされてしまうのです。
つまり、交通事故によって発生した損害は、過失割合に応じてお互いが責任を負担することになります。
もし、相手方に事故について100%の過失が認められるなら損害賠償の全額をうけとれますが、自分にも過失が認められてしまう場合には相手方に損害賠償の全額の請求はできません。
過失相殺の計算例
ここでは、相手方が80%、あなたが20%の過失割合が認められた場合についての過失相殺を例として計算してみましょう。
仮に損害額が1,000万円だった場合、あなたの過失は2割ですから、損害額から2割減額され、800万円が相手方に請求する金額となります。
よくある自動車同士の事故での過失割合
ここでは、一般的に発生しやすい形態の交通事故における過失割合をみていきましょう。
交差点における直進車同士の事故
次のグラフは、道路形状別に人身事故が発生した件数を表したものです。
交通事故の54%は交差点において発生しています。
信号機による規制のない見通しの悪い交差点では出会い頭の事故が、信号機による規制があっても信号無視による衝突事故が起きる危険もあるので、交差点における安全確認は欠かせません。
【信号機あり】青信号車と赤信号車の事故
このケースの過失割合は、A:B=0:100です。
青信号に従って交差点に進入したAに赤信号を無視したBが衝突した場合、信号無視をしたBに100%の過失が割り当てられます。
Bに重大な交通違反があるため、Aの過失割合はありません。
なお、このケースのように過失割合が100:0の事故では、過失なしと認められた側は自身の保険会社に交渉を代行してもらうことができません。
保険会社は実際の当事者に代わって賠償を尽くす立場です。
過失がない事故では被害者に賠償責任がないため、保険会社は賠償金を支払うこともなく、無関係な存在となるのです。
つまり、過失のない事故では、あなた自身で相手側の保険会社と交渉を進めなければなりません。
【信号機なし】道幅が同程度の交差点での事故
このケースの過失割合は、A:B=40:60です。
このケースでBの過失の方が高いのは、道路交通法上の『左方優先』の原則と関係あります。
道路における走行の優先順位は「幅員が広い一方」にあり、幅員が同じ程度だと「お互いが譲り合う」のが基本です。
すると、幅員が同じ程度の道路における交差点での直進車同士の事故では「お互いさま」のように感じられますが、道路交通法には『左方優先』の定めがあります。
つまり、上の図でいえばAから見たBは右方、Bから見たAは左方となるため、Aが優先されるわけです。
【信号機なし】一方に一時停止規制がある交差点での事故
このケースの過失割合はA:B=20:80です。
信号機のない交差点では、標識・標示によって一方の道路だけに一時停止の規制が敷かれていることがあります。
この場合、一時停止の規制を受ける一方は、停止線の手前で一時停止をして安全を確認したうえで交差点に進入しなければなりません。
また、一時停止の規制を受けていない一方にも、交差点に進入する際には安全を確認する義務があります。
図のようなケースでは、一時停止の規制を受けているBに高い過失が割り当てられますが、たとえ一時停止を無視したBと衝突しても、Aには「Bが飛び出してくるかもしれない」という注意義務が課せられます。
右直事故
交差点で右折する際にも事故が多発しています。
上記のグラフは、車同士による人身事故の件数を事故類型別にあらわしたものです。
追突・出会い頭に次いで多発しているのが「右左折時」の事故ですが、とくに右折する車と直進する車の『右直事故』は過失割合で争いが生じやすくなります。
【信号機あり】どちらも青信号での事故
このように、直進するAの進行を右折するBが妨げたかたちで事故が発生した場合の過失割合はA:B=20:80です。
交差点に進入する車同士が、一方は直進、もう一方は右折する際に衝突した場合、どちらも青信号に従っているので違反がないようにみえます。
しかし、道路交通法は右折する車に対して「直進車・左折車の進行を妨げてはならない」と定めているため、このような状況では直進車が優先です。
ただし、直進車にも前方に確認できる右折車が「右折を始めるかもしれない」と予測する義務があるため、直進車にも一定の過失が生じます。
信号機がない交差点での事故
このケースの過失割合はA:B=20:80です。
信号機のない交差点でも、原則として直進車優先です。
図のケースでは、右折車Bは直進車Aの進行を妨げてはならないため高い過失が割り当てられますが、直進車Aにも右折車Bに対する危険予測の義務があります。
信号機のない交差点に横方向から進入した場合の事故
このケースの過失割合はA:B=10:90です。
優先道路に交差する道路から信号機による規制のない交差点に進入する場合は、優先道路を走行する車が優先です。
センターラインや車線が交差点の中を通り抜けている側の道路は優先道路で、優先道路を走行している車の注意義務は低いとされています。
図のケースでは、優先道路を走行する直進車Aの注意義務は低く、優先道路に進入する右折車Bには高い注意義務が求められるので、右折車Bの過失割合が高くなるのは明らかです。
センターオーバーによる事故
引用元:対向車同士の事故|ソニー損保
このケースの過失割合はA:B=0:100です。
車が道路を走行するときは、道路の中央から左側部分を左に寄って通行しなければなりません。
いわゆる『キープレフト』の原則です。
よそ見や居眠りなどで注意が散漫になっていたり、無謀な追い越しをしかけたりした対向車がセンターラインを超えてきて衝突した場合、直進車に過失はありません。
ただし、対向車Bの左側に十分な広さがない、対向車Bが走行する側の車線で道路工事をしていたといったケースでは、Aにも一定の過失が割り当てられます。
進路変更車と後続直進車の事故
このケースの過失割合はA:B=30:70です。
道路を走行している車は、みだりに進路を変更してはいけません。
また、進路変更によって後続車が減速・回避しなければならない状況では、進路変更が禁止されています。
図のように後続車Aとその前方へ進路を変更した先行車Bが衝突したケースでは、進路変更をした先行車Bに高い過失が割り当てられるのが原則です。
ただし、後続車Aにも、前方でウインカーを点けて進路を変更しようとしている先行車Bの存在に気づいているはずなので、一定の注意義務が課せられます。
なお、先行車Bがウインカーを点けなかった、後続車Aが制限速度を大幅に超えて走行していたといったケースでは過失割合が変動します。
駐停車車両への追突事故
このケースの過失割合は、A:B=100:0です。
駐停車中の車に後方から走行してきた車が追突した場合、駐停車していた車に過失はありません。
後方から走行してきた車には危険を回避する義務があるため、一方的に過失が割り当てられます。
なお、道路交通法では駐停車を禁じている場所があります。
標識・標示によって駐停車禁止が示されている場所はもちろん、次に挙げる場所は駐停車禁止です。
- 軌道敷内
- 坂の頂上付近や勾配の急な坂
- トンネル内
- 交差点内とその端から5メートル以内の場所
- 道路の曲がり角から5メートル以内の場所
- 横断歩道内とその端から前後5メートル以内の場所
また、夜間であれば、駐停車の際には前照灯・車幅灯・尾灯・ハザードランプなどを点灯させてその存在を周囲に知らせる義務があります。
つまり、駐停車している車でも、これらの違反があれば「過失なし」というわけにはいきません。
とくに、通常の注意を払っても駐停車している車の存在に気づくことは難しかったと判断された場合は、高い過失が割り当てられることもあります。
過失割合が納得できない・決まらない場合の対処法
過失割合は交通事故の当事者同士が話し合って合意したうえで決定します。
しかし、交通事故の実務では、お互いの保険会社同士が、あるいは保険会社と一方の事故当事者が話し合って決定するのが一般的です。
つまり交通事故の当事者は、自分の事故の過失割合を保険会社の担当者の口から伝えられることになります。
多くの当事者が「保険会社が決めたことだから正しい」「不満を伝えても覆らない」と考えていますが、その考え方は正しくありません。
とくに、相手が加入している保険会社は、できるだけ賠償額を抑えたいと考える立場なので、あなたにとって不利となる過失割合を示している可能性があるのです。
もしかすると、相手の不利になる点を無視して不当な過失割合を主張しているかもしれません。
納得できない過失割合を提示された、話し合いによっても過失割合が決まらないといった場合はどうすればよいのでしょうか?
証拠を用意して交渉をおこなう
過失割合は過去に起きた同様の事故の判例を基準に決まります。
ただし、判例はあくまでも『基準』であって、かならず判例のとおりになるとは限りません。
実際には、個々の事故状況を考慮して過失割合が修正されます。
これを修正要素とよびます。
基準となる過失割合は0:100でも、事故の場所や時間、運転していた状況など事故の個別事情を考慮して、過失割合に反映させるのです。
このような修正要素が認められるには、客観的な証拠が欠かせません。
ドライブレコーダーや周辺の防犯ビデオカメラの映像、周囲の目撃者の証言、事故現場や事故車両の写真などを用意したうえで交渉を進めると、有利な結果を得られる可能性が高まるでしょう。
ADRや調停を利用する
当事者同士の交渉では決着がつかない場合は、第三者を介した話し合いを進めることになります。
まず考えられるのが、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターによる『ADR』の利用です。
ADRとは裁判外紛争解決手続の略称で、センターが公平な立場から当事者同士の和解をあっせんする手続きです。
一方、裁判所を通じた「民事調停」を利用して解決するという方法もあります。
民事調停では、同じように公平な第三者をはさんで話し合いを進めます。
裁判所の調停委員を介して話し合い、双方が合意すれば判決と同じ効力をもつ調停調書が作成されます。
裁判で決着をつける
ADRや裁判所の調停でも決着がつかない場合は、裁判を起こして裁判官に過失割合を判断してもらうしかありません。
もっとも、あなたが望む過失割合が認められるには、適切な事故類型を選ぶことのほか、正しく事故の状況を主張・立証する必要がある点に注意が必要です。
過失割合の交渉で弁護士に依頼するメリット3つ
どの程度の過失割合で和解するのかは、交通事故の賠償額を決めるうえできわめて重要な問題です。
交通事故の相手方と過失割合の交渉を進める際は弁護士にサポートを求めましょう。
ここでは、弁護士に依頼することのメリットを3つ紹介します。
適正な過失割合を把握できる
過失割合は、過去の判例を基準に個々の状況を加味して決定します。
判例の読解や修正要素がどのように影響するのかを個人で判断するのは難しいので、弁護士に相談しましょう。
交通事故の解決実績が高い弁護士なら、実際の事故状況と判例・修正要素を照らして適正な過失割合を算出できます。
保険会社と対等に交渉できる
交通事故の相手が任意保険に加入している場合、交渉の相手は保険会社です。
保険会社の担当者は、これまでに数多くの交通事故の交渉を経験しているため、こちら側に優位になるよう交渉を進めていくのは容易ではありません。
また、過失割合に応じて支払われる損害賠償額が減額されることもあり、被害者にとって不利な過失割合を認めさせたいというインセンティブが働くのも事実です。
保険会社が提示する過失割合が適切であるという保証は一切ありません。
保険会社との交渉が難しいと感じたら、弁護士に代理人を務めてもらいましょう。
弁護士が相手になっただけで、驚くほどに保険会社の姿勢が軟化するケースもめずらしくありません。
交渉を一任できる
交通事故における過失割合は、治療費や修理費などの損害額や後遺障害等級が確定するまで決めないのが原則です。
ところが、まだ治療中の段階でも相手の保険会社はできるだけ早く決着をつけようとして交渉を進めてきます。
保険会社との交渉や対応は、全て弁護士に任せたほうが安全です。
弁護士に一任すれば、あなたにとって不利を招くタイミングでの決着を避けながら交渉を進めてくれます。
とくに、事故によるけがを治療している最中の交渉対応は負担が大きいので、弁護士に任せて治療に専念しましょう。
まとめ
交通事故の過失割合は、相手方から支払われる賠償額に影響を与えます。
不当な過失が割り当てられてしまうと必要な賠償が得られないおそれがあるので、過失割合の交渉は弁護士に一任するのが最善です。
とはいえ、弁護士への依頼には弁護士費用の負担が発生するため、相談・依頼をためらってしまう方も多いでしょう。
万が一の交通事故に備えるなら、弁護士費用の負担を補償する『ベンナビ弁護士保険』へのご加入がおすすめです。
交通事故はいつ、誰が巻き込まれてしまうのかもわかりません。
万が一の事態に備えて、ベンナビ弁護士保険へのご加入をぜひご検討ください。