残業代請求には証拠の確保が重要|有効な証拠・会社が証拠を開示しない場合の対処法
会社に対して残業代を請求する際には、残業の事実を立証できる証拠の確保が重要となります。
残業に関する有効な証拠を確保することで、会社との交渉や労働審判・訴訟を有利に進められます。
残業代請求に当たっては、多角的な観点から、できるだけ多くの有効な証拠を収集することが大切です。
必要に応じて弁護士のアドバイスを受けつつ、残業代請求に向けた準備を周到に整えましょう。
今回は、残業代請求における証拠の重要性・有効な証拠の例・会社が証拠を開示しない場合の対処法などを解説します。
残業代請求の際に証拠が重要な理由
会社に対して未払い残業代を請求する場合、どのような手続きによるとしても、残業の証拠を確保することが重要になります。
労働審判・訴訟では残業の証拠の提出が必須
残業代請求について、会社との間で交渉がまとまらない場合、法的手続きである労働審判や訴訟を通じた解決を目指すことになります。
労働審判では、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労使の主張を公平に聞き取ったうえで審判をおこないます。
労働審判委員会に対して、労働者側の主張を正当と認めてもらうためには、客観的な証拠を提出することが重要です。
訴訟では、判断権者である裁判官が、やはり客観的な立場から労使の主張を聞いたうえで判決を言い渡します。
残業の事実については労働者側に立証責任があり、証拠に基づく立証が不十分だと、残業代請求が棄却されてしまいます。
そのため、労働審判の場合以上に、訴訟における残業の証拠の重要性は高いといえます。
このように、労働審判・訴訟のいずれにおいても、残業の証拠の提出が必須となります。
労働審判や訴訟をできる限り有利に進めるため、労働者側としては残業の十分な証拠を確保することが大切です。
残業の証拠は、会社に対する交渉・説得の材料にもなる
法的手続きの前段階として、会社と残業代の支払いに関する交渉をおこなう際にも、残業に関する証拠が有力な交渉・説得の材料となります。
会社としては、「労働審判や訴訟ではどのような結論になるか」という点を念頭に置いて、残業代請求交渉への対応方針を決定するのが一般的です。
残業の証拠がきちんと揃っていれば、会社は「労働審判や訴訟になったら負ける可能性が高い」と認識するでしょう。
労働審判や訴訟にまで長引かせた結果、巨額の残業代請求が認められてしまうと、会社にとっては大きなダメージになってしまいます。
そのため、残業の動かぬ証拠を提示すれば、会社が早期に残業代支払い義務を認めて和解するという判断に至る可能性が高まります。
残業の事実を立証するために有効な証拠の例
残業の立証に役立つ証拠には、想像以上にさまざまな種類があります。
一見して残業の証拠がないように思えても、よく検討すれば利用可能な証拠が見つかる場合がありますので、一度弁護士に相談してみるのがお勧めです。
残業の事実を立証するために有効な証拠として、代表的なものをいくつか紹介します。
タイムカード・タイムレコーダーの記録
タイムカードやタイムレコーダーは、出退勤の時刻を機械的に記録するシステムです。
会社にタイムカードやタイムレコーダーが導入されている場合は、その記録を取得すれば、残業の客観的な証拠として活用できるでしょう。
ただし、タイムカードやタイムレコーダーが導入されていない会社も多いほか、テレワークの場合はタイムカードやタイムレコーダーによる勤務時間の記録ができないケースもあります。
これらの場合には、別の方法によって残業の事実を証明しなければなりません。
社内システムのログイン・ログアウト履歴
デスクワークに従事する労働者は、勤務の際に会社のシステムへログインすることが多いでしょう。
会社のシステムにログインしている時間帯については、原則として仕事をしていることが推認されます。
そのため、会社のシステムのログイン・ログアウト履歴を、残業の証拠として用いることができます。
ただし、会社のシステムのログイン・ログアウト履歴は会社側が管理しているため、開示請求や証拠保全などの手続きが必要になるでしょう。
会社オフィスの入館・退館履歴
会社オフィスの入館・退館履歴も、残業の証拠として用いることができます。
会社のシステムにログインしている時間帯と同様に、会社のオフィスにいる時間については、仕事をしていることが推認されるからです。
会社オフィスの入館・退館履歴については、会社が管理しているケースもあれば、会社とは別のビル管理会社が管理しているケースもあります。
いずれにしても開示請求等が必要になりますが、会社以外の第三者が管理者となっている場合には、比較的開示を受けやすいことが予想されます。
交通系ICカードの乗車履歴・タクシーの領収書
会社への通勤に用いている交通系ICカードの乗車履歴や、深夜残業時のタクシーの領収書なども、残業の証拠として用いることができます。
特に、連日遅い時間の乗車記録が残っている場合には、まとまった時間数の残業が認定される可能性が高いです。
ただし、業務以外の理由(飲み会など)で帰宅が遅くなった可能性があるなどの反論が、会社側から提示されるかもしれません。
会社側に反論の余地を与えないためには、業務メール等の別の証拠を組み合わせて利用することが効果的です。
業務メール等の送受信履歴
業務上のメール等の送受信履歴は、残業の有力な証拠として活用できます。
特に短時間で何通もメールを送信している場合や、複雑な内容のメールを送信している場合には、その時間帯に仕事をしていたことが高度に推認されます。
また、出勤報告・退勤報告をメールでおこなっている場合には、その内容も残業の証拠として用いることが可能です。
特にテレワークの場合、残業の客観的な証拠に乏しいケースが多いため、業務メール等を用いた立証の成否がポイントになるでしょう。
残業の指示を含むやり取りの記録
上司などから残業の指示を受けた際の記録が残っていれば、残業の有力な証拠となります。
たとえば、終業時刻間近になって「急いで対応してほしい」という指示があった場合には、その日に残業がおこなわれたことが高度に推認されます。
口頭で残業指示がおこなわれた場合には、その録音データなども残業の証拠として活用できます。
録音することはなかなか難しい面もありますが、理不尽な残業指示が恒常化している場合には、録音を試みることもひとつの選択肢でしょう。
期間中に対応した業務の内容・量を示すファイル
残業代請求の対象となる期間中に、どの程度の業務内容・業務量について対応をおこなったのかを示す資料も、残業を推認させる証拠としては重要です。
業務負荷があまりにも重く、所定労働時間の範囲内では到底終わらない程度に及んでいる場合、残業の事実が高度に推認されます。
たとえば具体的な残業指示が含まれていなくても、個々の業務をアサインする指示メールを集めれば、残業の証拠として活用できる可能性があります。
労働者自身が作成した業務ファイルなどについても、分量や内容次第では、残業の証拠として用いることができます。
これらの資料は、単独では残業の事実を証明する力が弱いため、できるだけ多くの資料を集めておくことが重要です。
業務日誌・メモ
業務に関する日誌やメモについては、労働者の自己申告であるため証拠価値が低いように思われますが、具体性があれば証拠として活用できる可能性があります。
たとえば具体的な残業時間や業務内容、上司からの指示のタイミングや感じたことなどを克明に記載しておけば、残業に関するリアルタイムの証拠として一定の証明力が認められます。
会社に提出するものである必要はなく、自分用に記録した日記のようなものでも構いません。
特に、客観的な証拠の確保が難しいことが想定される場合には、できるだけ詳細に業務日誌等を記録しておくことをお勧めいたします。
残業に関する家族への連絡メッセージ残業に関する家族への連絡
メッセージも、残業を証明するための証拠として、一定の証明力をもつ場合があります。
たとえば「今から帰る」「遅くまでお疲れ様」などのやり取りは、遅い時間帯まで職場で残業がおこなわれていたことを推認させます。
また、残業の辛さを家族に対して吐露するメッセージなども、具体性があれば残業の事実を一定程度推認させる力があります。
残業代請求の際には、たとえ些細に思える証拠であっても、できる限りたくさん集めておくことが重要です。
残業代請求の際に必要となるその他の証拠
残業代請求をおこなう際には、残業の事実のみならず、未払い残業代の金額を労働者側が立証しなければなりません。
未払い残業代の金額を立証するためには、残業の事実を示す証拠の他に、以下の証拠が必要となります。
給与明細・源泉徴収票
給与明細や源泉徴収票は、実際に支給された賃金の金額を明らかにすることに加えて、1時間当たりの基礎賃金を立証する証拠として用いることができます。
残業代は、以下の計算式によって求められます。
「残業代=1時間当たりの基礎賃金×残業時間数×割増賃金率」
※基礎賃金:給与計算期間中に、労働者に対して支給されたすべての賃金(残業代および以下の手当を除く)
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
1時間当たりの基礎賃金は上記のとおり、実際に支給された賃金をベースに計算されるので、支給額が記載された給与明細や源泉徴収票の証拠提出が必要となるのです。
労働契約・就業規則の写し
労働契約や就業規則の写しは、所定労働時間や勤務形態などを証明するための証拠として用います。
残業代が発生する労働(残業)は、所定労働時間を超えた部分です。
したがって、残業時間数を求めるには所定労働時間を明らかにする必要があり、そのために労働契約や就業規則の写しを参照します。
また、休日労働の残業代を請求する際には、会社の法定休日がいつであるかを示さなければなりません。
その際にも、労働契約や就業規則の写しが参照されます。
さらに、勤務形態によっては、残業代の計算に関して特殊なルールが適用される場合があります。
どのような勤務形態を前提として残業代を請求するのかは、やはり労働契約・就業規則の写しを用いて示すことができます。
残業の証拠を会社が開示しない場合の対処法
残業の証拠の中には、タイムカードやシステムのログイン・ログアウト履歴をはじめとして、会社側が管理・保管しているものが多いです。
会社が自発的にこれらの証拠を開示すれば問題ありませんが、開示を拒否されるケースも想定されます。
もし会社から証拠開示を拒否された場合には、以下の方法によって証拠の獲得を試みましょう。
弁護士を通じて会社に開示を求める
弁護士を通じて証拠開示を求めると、会社が態度を変えて、開示に応じるケースがあります。
弁護士が代理人に就任すると、法的手続きに発展することが現実的になります。
仮に法的手続きに発展した場合、証拠開示にあらかじめ応じた方が裁判所からの印象が良いため、会社は自発的に開示に応じることも多いのです。
ご自身で証拠開示を求めても、会社の反応が芳しくない場合には、弁護士に開示請求を依頼してみるのもひとつの選択肢でしょう。
裁判所に文書提出命令を申し立てる
残業代請求訴訟では、会社が保有する残業に関する文書について、裁判所に文書提出命令を申し立てることができます(民事訴訟法221条)。
残業に関する文書は、労使間の法律関係について作成された文書であるため、文書提出義務の対象です(民事訴訟法220条3号)。
したがって、立証趣旨を明らかにして文書提出命令を申し立てれば、残業に関する文書の提出命令が発せられる可能性があります。
会社が頑なに証拠開示に応じない場合には、早期に残業代請求訴訟へと移行して、文書提出命令による証拠開示を求めることも検討すべきでしょう。
残業代請求の証拠収集を弁護士に相談するメリット
残業代請求に関する証拠収集については、弁護士に相談してアドバイスを求めることをお勧めいたします。
残業代請求の証拠収集について、弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
多角的な観点から証拠を収集できる
これまで紹介したように、残業の証拠には非常に多様な種類があります。
弁護士に相談すれば、依頼者の状況に応じて利用可能な証拠を、多角的な観点から収集することができます。
充実した証拠収集をおこなうことができれば、残業代請求を有利に進められるでしょう。
訴訟での立証をイメージしながら証拠を収集できる
残業代請求における証拠収集に当たっては、訴訟に発展した際に、証拠をどのように利用するかを念頭に置いておく必要があります。
弁護士は訴訟対応の専門家として、訴訟における立証活動を具体的にイメージしながら、計画的に残業の証拠を収集するためのアドバイスをしてくれます。
会社に対する開示請求等もスムーズ
証拠開示に関する会社との交渉や、裁判所に対する文書提出命令の申立ても、弁護士が代理人として対応すればスムーズです。
あらゆる手段を用いて証拠を収集できる点は、残業代請求を有利に進めることに繋がります。
残業代請求全般に関するサポートを受けられる
弁護士に依頼すれば、残業の証拠収集に限らず会社との交渉から法的手続きに至るまで、残業代請求全般に関して一貫したサポートを受けられます。
法的根拠に基づいた適正な残業代請求をおこなうことができ、さらに準備や対応にかかる時間や労力を省ける点は、弁護士に依頼することの大きなメリットといえるでしょう。
まとめ
残業代請求を成功させるには、残業の事実を示す証拠を十分に収集することが非常に大切です。
残業の証拠には、タイムカードやタイムレコーダーの記録をはじめとして、実にさまざまな種類があります。
多角的な観点から利用可能な証拠を収集し、残業代請求を有利に進めましょう。
残業代請求の証拠収集については、弁護士に相談すれば、状況に応じた適切なアドバイスを受けられます。
会社との交渉や法的手続きへの対応も、弁護士に一任できるので安心です。
会社に対して未払い残業代を請求したい場合は、一度弁護士まで相談してみてください。
残業代請求の相談窓口は残業代請求の相談窓口|無料相談できる窓口や弁護士に相談するメリットを解説をご覧ください。