婚約破棄の慰謝料はどれくらい?相場や請求できるかを解説
婚約を一方的に破棄されたら、精神的に大きなショックを受けてしまうことでしょう。
せめて慰謝料を払ってもらわないと気が済まないと考えている方は多いのではないでしょうか?
しかし、実際に慰謝料を請求するとなると「そもそも婚約破棄で慰謝料を請求できるの?」「慰謝料の相場がわからない」などの疑問が浮かんでくることでしょう。
この記事を読めば、婚約破棄で慰謝料を請求できるケースや、慰謝料の金額の目安がわかります。
ぜひ、弁護士へ依頼する際の参考にしてください。
婚約破棄とは?|一方的に婚約を取り消すこと
婚約破棄とは、2人で「結婚しよう」と約束をしたにもかかわらず、一方的に婚約を取り消すことです。
似ている言葉で「婚約解消」がありますが、こちらは2人の合意によって婚約を取り消すことを意味します。
つまり、婚約の取り消しに対し、お互いの同意の有無により、概念が異なるのです。
婚約破棄で慰謝料は請求できる!
結婚を目の前にして相手から突然「やっぱりやめよう」と告げられてしまったら、心理的なダメージを強く受けますよね。
そのため、婚約破棄をされた場合は、婚約破棄により受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。
ただし、慰謝料を請求できるケース・できないケースがあるので、自分のケースはどちらに当てはまるのか確認しておきましょう。
正当な理由による婚約破棄
以下の理由で婚約破棄をされた場合、婚約破棄は正当であると判断されます。
- 不貞行為
- DVやモラハラ、侮辱行為
- 経済状況が極度に悪化する
- 社会常識を逸脱した言動・行為
- 健康状態の悪化
- 過去の重大な犯罪歴の発覚
- 性的機能の異常、欠陥、性的不能
- 多額の借金の発覚
婚約破棄が正当と判断された場合、婚約を破棄された側は基本的に慰謝料請求はできません。
場合によっては、婚約を破棄された側が慰謝料を支払わなければいけないこともあります。
正当な理由での婚約破棄と慰謝料請求が認められた裁判例
過去に婚約破棄が正当と判断されたケースには、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、婚約破棄が正当と判断された判例を紹介します。
性交渉ができないほどの肉体的欠陥による婚約破棄(高松高裁昭和46年9月22日)
お見合いをして婚約をしたものの、男性側の身体には性交渉ができないほどの肉体的欠陥があり、女性側が婚約を破棄した事例です。
女性側の婚約破棄には正当な理由があると認められ、女性側が慰謝料を支払う義務はないと判断されました。
男性側の度重なる暴力を理由とする婚約破棄(東京地裁平成15年2月27日)
男性側から度重なる暴力を受けていたことを理由に、女性側が婚約破棄をしたケースです。
暴力・脅迫による精神的な苦痛は大きいものとして、男性側への慰謝料100万円の請求が認められました。
男性側が婚約者以外の女性と肉体関係を持ったことによる婚約破棄(東京地裁平成18年7月26日)
男性側がほかの女性と肉体的な関係をもったことから婚約破棄をした事例です。
当事者2人は結婚式をすでに挙げていたうえ、2人で入居する予定だったマンションを女性名義で購入していました。
婚約破棄の原因は男性側の不貞行為にあるとし、男性側への慰謝料300万円の請求が認められています。
不当な理由による婚約破棄
以下の理由で婚約破棄をされた場合、不当な理由による婚約破棄と判断されます。
- 相手の浮気・不倫
- 性格の不一致
- 価値観の相違
- 気持ちがなくなったなどの心変わり
- 国籍、民族、出身地、門地などによる差別
- 親に反対された
- 相手の親族との折り合いが悪い
- 信仰をやめない
婚約破棄が不当と判断された場合、婚約破棄をされた側は、相手に対して慰謝料を請求することが可能です。
不当な理由の婚約破棄で慰謝料請求が認められた裁判例
婚約破棄が不当と判断された事例には、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、不当な理由で婚約破棄をされ、慰謝料請求が認められた裁判例を紹介します。
信仰をやめないことを理由とする婚約破棄(京都地裁昭和45年1月28日)
信仰をやめないことを理由に妊娠中の女性を家から追い出し、男性が婚約を破棄した事例です。
信仰をやめないことを理由に婚約破棄をすることは不当であるとし、裁判所は男性に対する慰謝料100万円の請求を認めました。
被差別部落出身を理由とする婚約破棄(大阪地裁昭和58年3月28日)
女性が被差別部落出身であることを理由に、男性側の両親から結婚を反対され、男性が婚約破棄をした事例。
女性が結婚のために退職していたということもあり、男性側に慰謝料100万円の支払いを命じました。
不倫していた婚約者からの一方的な婚約破棄(東京地裁平成18年2月14日)
女性がほかの男性と不倫をしていたにもかかわらず、一方的に婚約を破棄した事例です。
女性は、自分に非があるにもかかわらず家族や友人を巻き込んで男性を悪者に仕立て上げ、自らを保身していました。
裁判所は、女性に対して慰謝料300万円を男性に支払うことを命じています。
婚約破棄の慰謝料金額の目安
「婚約破棄で慰謝料を請求したいけど、金額の相場がわからない」という方は多いのではないでしょうか。
ここからは、婚約破棄による慰謝料の金額の目安と、慰謝料が相場よりも高くなるケースを紹介します。
婚約破棄の慰謝料は50万円~200万円が目安
婚約破棄による慰謝料の相場は、50万円〜200万円と考えておくとよいでしょう。
ただし、婚約破棄の理由や、婚約破棄をされたときの状況によっては、相場よりも低くなったり、あるいは高額になることがあります。
必ずしも相場どおりの金額になるとは限らない点には、注意が必要です。
婚約破棄の慰謝料が高額になる要因
婚約破棄の慰謝料が相場よりも高くなるのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここからは、慰謝料が高くなるケースを紹介します。
結婚に向けての準備を進めていた
1つ目は、結婚後の生活に向けて準備を進めていたケースです。
具体的には、以下のような場合が該当します。
- 引っ越しに向けて新居の契約をした
- 結婚式場の予約をした
- 両家の顔合わせを行った
- 職場や友人に結婚報告をした
結婚に向けてすでにお金を払っている場合や、親族や友人に結婚の報告をしていた場合に婚約破棄をされたら、ショックの度合いは大きいでしょう。
そのため、慰謝料の金額は相場よりも高額になる可能性があります。
妊娠中の婚約破棄
2つ目は、子どもを妊娠しているケースです。
婚約破棄の時点で妊娠していた場合、出産や中絶による身体的な負担がかかります。
また、妊娠中は仕事にも制限がかかるため、慰謝料は高額になるでしょう。
実際に、妊娠中の女性に対して婚約破棄をしたことで慰謝料請求が認められた裁判例があります。
この事例の場合、中絶可能な期間を過ぎたあとに男性が婚約を破棄し、出産後も子育てに非協力的でした。
裁判所は、原告が妊娠・出産により仕事に制限がかかったことで家計が圧迫されていると判断し、慰謝料100万円の支払いを命じています。
さらに、妊娠中の体調不良で仕事を休まざるを得なかったことから、妊娠していなければ得られるはずだった収入130万円分の支払いも認めました(東京地判 令和2年2月17日判決)。
交際期間が長い
3つ目は、交際していた期間が長いケースです。
婚約期間を含め長く交際していた場合、婚約破棄による精神的なショックは大きいといえます。
とくに、婚約してからの期間が長い場合、結婚への期待感が高い状態といえるでしょう。
相手に結婚への期待感を持たせておきながら婚約を破棄することは、相手に大きな精神的苦痛を与えます。
そのため、慰謝料が高額になる可能性が高いでしょう。
相手の浮気・不倫が原因の場合
4つ目は、相手の浮気が原因で婚約破棄をされた場合です。
相手が浮気をしていた場合、浮気をしていた側に責任があると考えられるため、慰謝料金額が高額になります。
実際に、浮気による婚約破棄で慰謝料が高額になった判例を紹介します。
この事例では、男性が元妻とその子どもと同居中であることを隠して女性と交際をしていました。
男性は、女性の妊娠が発覚した途端に結婚を拒絶し、女性は中絶を余儀なくされます。
裁判所は、男性の言動が悪質であると判断し、慰謝料300万円の支払いを命じました(東京地判平成22年3月30日判決)。
結婚するために仕事を退職していた
5つ目は、結婚に向けて退職をしていた場合です。
結婚後は専業主婦になる予定で退職をしたのに婚約破棄をされた場合、さまざまな損失を被ることになります。
たとえば、年齢的に再就職のハードルが上がったことで次の職場が見つからなかったり、これまで培ってきたキャリアを失うことが考えられます。
精神的なショックだけでなく、金銭的・社会的な損害も大きいため、慰謝料が高額になる可能性が高いでしょう。
婚約破棄の慰謝料を請求するまでの流れ
婚約破棄による慰謝料を請求するには、どのような流れで進めればよいのでしょうか?
ここからは、婚約破棄の慰謝料請求の流れを紹介します。
婚約破棄してきた相手と交渉する
まずは、婚約破棄をしてきた相手と話し合いをする必要があります。
「慰謝料請求をしようと思っている」という意思と「いくら請求しようと思っているか」という金額を伝えましょう。
直接会って話すことに抵抗がある場合は、電話やメールでも問題ありません。
また、直接連絡を取りたくない場合は、弁護士に代理で交渉してもらうこともできます。
相手とうまく交渉できる自信がない場合や、相手と1対1で話し合いたくない場合は、弁護士に依頼すると心強いでしょう。
交渉が成立しなければ慰謝料請求調停を申し立てる
相手が交渉に応じない場合や、交渉がうまくまとまらない場合は、慰謝料請求調停の申し立てをしましょう。
慰謝料請求調停を申し立てると、婚約破棄に至った背景や婚約破棄の理由などについて、調停員がじっくり話を聞いてくれます。
2人の話を聴取したうえで解決案の提示や助言をおこなってくれるので、相手と直接会って話す必要がありません。
ただし調停は、調停案にお互いが合意しない限り、成立しません。
お互いが納得しない場合や、交渉に時間がかかる場合は不成立(不調)となる可能性があります。
また、調停の申し立てには、収入印紙1,200円分と郵便切手が必要である点も覚えておきましょう。
【参考】慰謝料請求調停|裁判所
調停不成立(不調)になったら裁判を提起する
調停をおこなっても話し合いがまとまらない場合は、裁判に進みましょう。
裁判では、慰謝料請求の主張に説得力をもたせるため、具体的な証拠を用意する必要があります。
婚約をしていたことがわかる証拠・婚約破棄が不当であることがわかる根拠などを提出できるよう準備しておきましょう。
また、裁判には法律に関する専門的な知識が不可欠なので、弁護士に依頼するとよいでしょう。
ただし、弁護士費用がかかる点や、裁判には長い時間がかかる点は覚えておいてください。
婚約破棄に強い弁護士の探し方
慰謝料請求によって、婚約破棄による精神的なダメージを少しでも軽くしたいなら、婚約破棄に強い弁護士に相談するのが近道です。
しかし、弁護士をどのように見つければよいのかわからない方は多いでしょう。
ここからは、婚約破棄の慰謝料請求に強い弁護士の探し方を紹介します。
ベンナビ離婚|柔軟に弁護士を探したい方向け
ベンナビ離婚は、お住まいの地域や悩みにマッチした弁護士を検索できるサイトです。
弁護士の得意分野や過去の解決事例もチェックできるので、自分の悩みを解決してくれる弁護士を探しやすいでしょう。
また、サイト上に匿名で質問を投稿できるので、弁護士にいきなり直接相談するのが不安な人も活用しやすいといえます。
弁護士会|お住まいに近い弁護士を探したい方向け
弁護士会は、都道府県ごとに設置されている弁護士団体のことです。
すべての弁護士は、事務所の所在地を管轄する弁護士会への登録が義務づけられています。
そのため、お住まいの地域で働いている弁護士を簡単に探せるでしょう。
電話やオンラインで無料相談できる弁護士会もあるので、仕事で忙しい人でも相談しやすいといえます。
相談方法や相談できる内容は弁護士会によって異なるため、お住まいの地域の弁護士会の公式サイトでチェックしてみてください。
役所の法律相談|近くの弁護士に無料相談したい方向け
お住まいの地域の役所の法律相談窓口に、無料で相談することも可能です。
役所によって相談できる曜日・時間が異なりますが、なかには夜間や日曜日の相談に対応している役所もあります。
平日や日中は相談する時間がないという方でも活用しやすいでしょう。
ただし、事前に電話か来所で予約をする必要があります。
都合がよい日時がわかったら早めに予約しておきましょう。
法テラス|弁護士費用が心配な方向け
法テラスは、お悩みにあった相談窓口や手続き方法について電話で相談できる窓口のことです。
収入や資産が一定以下の場合は、無料で法律相談ができたり、必要に応じて弁護士費用の立て替えを依頼することもできます。
法律相談は1つの問題につき3回まで相談することができますが、経済的な事情で弁護士費用を安く抑えたい人は利用してみるとよいでしょう。
まとめ|婚約破棄の慰謝料請求は弁護士に相談!
婚約破棄をされた場合、慰謝料を請求することができます。
慰謝料請求をするには相手との話し合いが必要ですが、話がまとまらない場合は慰謝料請求調停や裁判の申し立てをおこないましょう。
相手との交渉に不安を感じる方や、専門家の意見を聞きたいという方は、弁護士に相談することをおすすめします。
婚約破棄の慰謝料請求に得意な弁護士は、ベンナビ離婚や弁護士会などで探すことができます。
婚約破棄の慰謝料を請求したいものの、請求方法がわからず、どうしたらよいのか悩んでいる方は、一度弁護士に相談をして、今後の方針を決めてみるとよいでしょう。