示談金の相場はいくら?決め方や高すぎるときの対処法を解説



刑事事件を起こして加害者になってしまった場合、被害者との示談が成立すれば逮捕や前科を回避できたり、執行猶予を獲得できたりする可能性が高まります。
被害者との示談交渉が成立した際は示談金を支払うことになりますが、示談金額は犯罪の種類や被害状況などによって大きく異なります。
できるだけ納得のいく形でスムーズに交渉を済ませるためにも、示談金はいくらが妥当なのか知っておきましょう。
本記事では、事件ごとの示談金相場や示談金の決め方、刑事事件で示談をするメリット、示談金が高すぎる・支払えない場合の対処法などを解説します。
【事件別】示談金の相場
刑事事件で支払われる示談金のおおよその目安としては、以下のとおりです。
事件内容 | 示談金相場 |
---|---|
暴行事件・傷害事件 | 10万円~60万円程度 |
盗撮事件 | 10万円~50万円程度 |
痴漢事件・セクハラ | 10万円~100万円程度 |
強姦事件(不同意性交等罪) | 100万円~300万円程度 |
窃盗事件・強盗事件 | 5万円~50万円程度 |
風俗トラブル | 5万円~50万円程度 |
名誉毀損・誹謗中傷 | 10万円~100万円程度 |
詐欺事件・横領事件 | 数十万円~数百万円程度 |
交通事故・死亡事故 | 数万円~1億円程度 |
ここでは、事件ごとの示談金相場について解説します。
なお、示談金はお互いに話し合いをおこなって決めるものであり、被害の程度や被害者の処罰感情などによっても変動します。
場合によっては上記の範囲を超えることもあるため、あくまでも以下で解説するものは参考程度に留めてください。
暴行事件・傷害事件の示談金相場:10万円~60万円程度
暴行事件・傷害事件における示談金の相場は10万円~60万円程度で、一般的には20万円~50万円程度で収まるケースが多いです。
なお、被害者側の心情などによっても実際に支払われる金額は異なりますが、参考までに事件ごとの示談金の目安としては以下のとおりです。
- 夫婦けんかで夫が妻を殴った:10万円
- 駅構内でトラブルになり、ほかの利用客の胸ぐらを掴んだ:45万円
- 路上でトラブルになり、女性を拳で殴った:50万円
- スタンガンで暴行をした:60万円
- 全治1週間の肩の打撲を負わせた:40万円
- 全治1週間の頭部損傷を負わせた:150万円
- ノコギリで殴って全治2週間のけがを負わせた:25万円
- 頭突きをして全治2週間のけがを負わせた:50万円
盗撮事件の示談金相場:10万円~50万円程度
盗撮事件の示談金相場は10万円~50万円程度です。
ただし、悪質性の高さや被害の程度などによっても金額は異なり、以下のようなケースでは示談金が高額になることもあります。
- これまでに何度も盗撮をおこなっていた
- 盗撮の被害者が複数人いる
- カメラを設置するために家などに忍び込んだ
- 盗撮した映像を販売していた など
痴漢事件・セクハラの示談金相場:10万円~100万円程度
痴漢事件・セクハラの示談金相場は10万円~100万円程度です。
痴漢やセクハラの行為態様が悪質なほど、示談金も高額になりやすい傾向にあります。
なお、以下のように行為の内容によって成立する犯罪は異なります。
- 電車内で女性の胸を触った:迷惑防止条例違反
- 強引に抱き着いてキスをした:不同意わいせつ罪
- 性的な発言をした:名誉毀損罪・侮辱罪
- セクハラによって被害者がうつ病などを患った:傷害罪
強姦事件(不同意性交等罪)の示談金相場:100万円~300万円程度
強姦事件の示談金相場は100万円~300万円程度です。
ただし、個々の事案によって金額は異なり、以下のようなケースでは示談金が高額になる可能性があります。
- 被害者が入院・通院せざるを得ない状態になった
- 性交等が複数回おこなわれた
- 計画的に犯行がおこなわれた など
窃盗事件・強盗事件の示談金相場:5万円~50万円程度
窃盗事件・強盗事件の示談金相場は5万円~50万円程度です。
基本的には被害金額に慰謝料などを加えたものが示談金となり、たとえば3万円相当の洋服の万引き事件では「3万円+5万円=8万円」の示談金が請求されたりします。
なお、同じ店で何度も万引きを繰り返すなどして悪質性の高いケースでは、示談金が高額になることもあります。
また、強盗事件の場合、暴行脅迫の内容次第で示談金は高額になることもあります。
風俗トラブルの示談金相場:5万円~50万円程度
風俗トラブルの場合、示談金相場は5万円~50万円程度です。
風俗トラブルの例としては、盗撮・本番行為の強要・18歳未満の従業員によるサービスなどが該当します。
この中で、本番トラブルの場合は、示談金が高額になる傾向があります。
なお、風俗トラブルでは不当に高額な示談金を請求されたり、示談書にサインするように脅しを受けたりすることもあります。
弁護士なら、いくらであれば妥当か判断してくれるうえ、示談交渉を依頼することもできるので、トラブルになった際は相談してみることをおすすめします。
名誉毀損・誹謗中傷の示談金相場:10万円~100万円程度
名誉毀損・誹謗中傷の示談金相場は10万円~100万円程度です。
名誉毀損とは「公然と事実を摘示し、社会的評価を低下させる行為」を指します(刑法第230条)。
示談金の目安として、個人に対しておこなわれたものであれば10万円~50万円程度、企業に対しておこなわれたものであれば50万円~100万円程度と言われています。
ただし、誹謗中傷の内容や被害状況などによっても変動し、悪質性が高く大きな損害が生じた場合などは示談金が100万円を超えることもあります。
詐欺事件・横領事件の示談金相場:数十万円~数百万円程度
詐欺事件・横領事件の示談金相場は数十万円~数百万円程度です。
窃盗事件・強盗事件のように、基本的には被害金額に慰謝料などを加えたものが示談金となります。
被害金額が大きいほど示談金も高額になるおそれがあり、被害者側の処罰感情などによっても変動します。
交通事故・死亡事故の示談金相場:数万円~1億円程度
交通事故・死亡事故の示談金相場は数万円~1億円程度で、被害状況によって以下のように異なります。
- けがのない物損事故の場合:数万円~30万円程度
- 被害者がけがを負った人身事故の場合:数十万円~100万円程度
- 被害者に後遺症が残った人身事故の場合:数百万円~数千万円程度
- 被害者が亡くなった死亡事故の場合:数千万円~1億円程度
交通事故の示談金は、積極損害(治療費や車の修理代など)・消極損害(休業損害など)・慰謝料の3つで構成されています。
なお、交通事故では当事者双方の過失割合の大きさによって支払う金額が変わり、被害者側にも事故の責任がある場合はそのぶん示談金が減額されます。
過失割合が10対0の事故での示談金相場
もらい事故のように被害者側に一切の過失がない事故の場合、加害者側は被害者に生じた損害分を全て支払う必要があります。
たとえば「被害者側の損害額:500万円、過失割合:10対0」というケースでは、加害者側が500万円を支払うことになります。
過失割合が9対1の事故での示談金相場
被害者にも過失がある事故の場合、加害者側は損害額の総額から被害者側の過失分を差し引いた金額を支払うことになります。
たとえば「被害者側の損害額:500万円、過失割合:9対1」というケースでは、被害者側にも1割の過失があるため500万円から50万円を差し引き、加害者側が支払う金額は450万円になります。
刑事事件で示談をするメリット
示談とは、被害者と加害者が話し合いをして事件を解決させることを指します。
ここでは、被害者と示談することでどのようなメリットがあるのかを解説します。
捜査が終了して逮捕されずに済む可能性が高まる
被害者と示談することで、刑事告訴や被害届を取り下げてもらえる可能性があります。
たとえば、名誉毀損罪や侮辱罪などは被害者が告訴しないと起訴できない「親告罪」であり、起訴前に示談が成立して告訴が取り下げられれば、刑事裁判にかけられることなく捜査終了となります。
また、暴行罪や不同意わいせつ罪などは被害者の告訴なしで起訴できる「非親告罪」ですが、これらについても示談が成立して被害届が取り下げられることで、捜査が打ち切られたり逮捕を回避できたりする可能性が高まります。
不起訴処分となって前科が付かずに済む可能性がある
当事者間で示談が成立したり被害届が取り下げられたりすることで、警察や検察などの捜査機関側の判断に大きな影響を与えます。
示談の成立は加害者側に有利な事情として考慮されるため、すでに捜査手続きが進んでいても不起訴処分となって身柄が解放され、前科も付かずに済む可能性が高まります。
起訴されて裁判になっても実刑の回避が望める
事件によっては、示談が成立していても起訴されて刑事裁判にかけられることもありますが、刑事裁判でも示談の成立は加害者側に有利な事情として考慮されます。
たとえば、実刑判決ではなく執行猶予が付いたり、懲役刑ではなく罰金刑が科されたりする可能性が高まります。
ただし、刑事事件では被害者が加害者に対して強い怒りや恐怖心を抱いていることも多く、直接示談交渉しようとしても拒否されるケースもあります。
弁護士が間に入ることで交渉に応じてくれたり、スムーズに話がまとまることもあるので、刑事事件を起こしてしまった際はまず弁護士に相談するのが有効です。
示談金の決め方
示談金は、原則として被害者が受けた損害額を基準に決定しますが、被害状況・被害者側の心理・加害者側の立場なども考慮されます。
ここでは、示談金を決める際の主な要素について解説します。
被害の範囲・大きさ
たとえ同じ種類の犯罪でも、被害の範囲や大きさなどが異なれば示談金額も変わります。
たとえば、同じ傷害罪でも「被害者が打撲で済んだ場合」と「被害者が骨折をした場合」では示談金額が大きく異なります。
また、詐欺罪や横領罪であれば「被害額が10万円の場合」と「被害額が100万円の場合」では大きく異なり、生じた被害が大きいほど示談金も高額になる可能性があります。
被害者の処罰感情
「被害者が加害者に対してどれほどの処罰を望んでいるのか」によっても示談金額は変動します。
示談金は、被害者から許しを得るための謝罪金としての性質もあり、被害者と加害者の関係性や事件の経緯などによっても金額が異なります。
被害者側の処罰感情が強い場合は、高額な示談金を提示されたりして交渉が難航するおそれもあります。
被害者が負った精神的苦痛
示談金には慰謝料の要素も含まれています。
したがって、被害者が負った精神的苦痛が大きいほど示談金額も高額になる可能性があります。
なお、精神的苦痛の度合いは個人それぞれの感情の部分になるため揉めることもあり、被害者側の心情にも寄り添いながら交渉を進めることが大切です。
加害者の社会的立場・経済状況
加害者の社会的立場や経済状況なども示談金額に影響します。
たとえば「中学教師が児童に対してわいせつな行為をした場合」と「会社員が児童にわいせつな行為をした場合」では、前者のほうが示談金が高くなりやすい傾向にあります。
加害者の犯罪歴
加害者の犯罪歴なども示談金額に影響します。
たとえば、加害者に犯罪歴があって重い刑事処分が科されそうなケースでは、示談金が高額になる可能性があります。
示談金が高すぎる・払えない場合の対処法
なかには、示談交渉の際に被害者から高額な示談金を提示されたりして対応に困ることもあります。
そのようなケースでは、以下のような対応を検討しましょう。
弁護士に相談して減額交渉してもらう
被害者から高額な示談金を提示された場合は、弁護士への相談が有効です。
弁護士であれば、これまでの知識や経験などを活かして「被害者側の提示額が妥当かどうか」を判断してくれますし、示談交渉を代行してもらうこともできます。
弁護士なら被害者側の心情にも寄り添いながら、適切な示談金額を提示して的確に交渉を進めてくれるため、当初の提示額よりも減額できる可能性が高まります。
当事者同士で直接交渉すると感情的になったりしてトラブルになることもありますが、第三者である弁護士が間に入ることでスムーズな示談成立も望めます。
被害者と交渉して分割払いにしてもらう
刑事事件の示談金は一括払いが原則ですが、すぐには支払えない場合は分割払いにしてもらうという選択肢もあります。
ただし、示談金を分割で支払うには被害者の了承を得なければならず、被害者が拒否した場合は一括で支払う必要があります。
被害者が分割払いを了承してくれた場合は、最初にある程度のまとまった金額を支払ったのち、残りの金額を分割で支払っていくことになります。
示談を拒否された場合は贖罪寄付を検討する
被害者から示談を拒否された場合は、贖罪寄付を検討しましょう。
贖罪寄付とは、刑事事件の加害者が反省の気持ちを形にするため、弁護士や慈善団体などに寄付することです。
贖罪寄付をして謝罪の意思などを示すことで、加害者側に有利な事情として考慮されることもあります。
ただし、贖罪寄付が刑事処分に影響するかどうかはその事案の性質や担当検察官などの考え方によっても左右されるため、そもそも寄付するべきかも含めて弁護士に一度相談することをおすすめします。
示談金を支払うまでの流れ
刑事事件で示談金を支払うまでの基本的な流れとしては、以下のとおりです。
- 警察や検察に示談の意思を伝える
- 警察や検察が被害者に確認する
- 示談交渉を開始する
- 示談内容をまとめた示談書を作成する
- 示談金を支払う
刑事事件では、被害者と直接交渉しようとしても拒否されるケースもあります。
また、被害者の連絡先を知らない場合は警察や検察に問い合わせる必要がありますが、基本的に加害者本人には教えてくれません。
弁護士が間に入ることで、被害者が交渉に応じてくれたり、被害者の連絡先を教えてくれたりすることもあるので、示談を成立させたい場合は速やかに弁護士に依頼しましょう。
示談金に関するよくある質問
ここでは、示談金に関するよくある質問について解説します。
示談金はどうやって決める?
刑事事件の示談金は、当事者間の話し合いで決定します。
たとえ相場から離れた金額であっても、当事者双方が合意していればその金額で示談成立となります。
示談金を支払わないとどうなる?
示談金を支払わないと、逮捕されて身柄拘束が長期間続いたり、起訴されて刑事裁判にかけられたり、裁判で実刑判決が下されたりする可能性が高まります。
被害者が示談交渉に応じてくれなかったり、被害者から高額な示談金を提示されたりしていても、弁護士のサポートを得ることで解決できることもあります。
被害者との示談交渉が難航している場合は、一度弁護士に相談してみましょう。
示談金は慰謝料や被害弁償と何が違う?
示談金と混同されやすいものとして「慰謝料」や「被害弁償」などがあります。
まず、被害弁償とは「被害者が負った実損害を弁償するもの」で、たとえば万引き事件では被害品の買取、傷害事件では治療費の支払いなどが該当します。
次に、慰謝料とは「被害者が負った精神的苦痛に対する賠償金」のことで、これは痴漢事件や盗撮事件などの実損害のないケースでも支払われます。
そして、示談金とは「和解のために必要な全てのお金」のことで、被害弁償や慰謝料だけでなく、被害者の許しを得るための謝罪金などの性質も含まれています。
さいごに|示談交渉は刑事事件に強い弁護士に相談を
刑事事件の示談金は当事者双方の合意のうえで決まるものであり、被害状況・被害者の処罰感情・加害者の社会的立場・加害者の犯罪歴など、さまざまな要素をもとに決定します。
被害者との示談が成立すれば刑事処分の軽減が望めますが、なかには被害者が不当に高い金額を提示してきたり、示談交渉を拒否されたりすることもあります。
弁護士なら適切な示談金額を判断することができますし、代理人として示談交渉を進めることもでき、刑事事件の加害者にとって心強い味方になってくれます。
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