公然わいせつ罪ってどんな罪?罪に問われるわいせつ行為を解説
『公然わいせつ罪(こうぜんわいせつざい)』とは、不特定多数の人が目撃できる場所で、主に性器の露出・性交などの行為をすると罰せられる罪の名前で、刑法第174条の定めにより、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料の処分が下されます。
下の図は、公然わいせつの検挙件数推移をまとめたものです。認知件数・検挙件数ともに概ね右肩上がりで、毎年2,000件近くが公然わいせつ事件で検挙されています。
引用元:「性犯罪に関する総合的研究|法務省」
『公然』と『わいせつ』するのが具体的にどのようなことを指しているのか、正確に把握している方も少ないと思いますので、どういったことが公然にあたるのか、わいせつ行為に該当する行為など、公然わいせつについて解説していきます。
公然わいせつの定義
公然わいせつを取り締まる法律は刑法第174条に定められ、公然とわいせつな行為をした場合は6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科されます。
(公然わいせつ)
第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用元:刑法第174条
拘留の場合は1日以上30日未満の期間、刑務施設に収監され、科料であれば1,000円以上1万円未満の罰金と定められています。
(拘留)
第十六条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
(科料)
第十七条 科料は、千円以上一万円未満とする。
刑法に記されているわいせつな行為とは具体的にどんな行為を指しているのでしょうか。
わいせつ行為とは
それでは、わいせつ行為とはどんな行為なのでしょうか。
過去の判例から見ますと「わいせつ」とは、
徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの
と定義されており、具体的な行為に関して言及はありませんが、性器の露出・性交・性交類似行為が挙げられます。
過去の逮捕事例には、臀部を丸出しにした例もありましたので、臀部の露出も公然わいせつに含まれるようです。
コンビニエンスストアに下着姿で入り、店員に尻を見せつけるなどした上、大声で騒いだとして、大津北署は公然わいせつと威力業務妨害の疑いで神奈川県茅ケ崎市内の男(23)を、威力業務妨害の疑いで大津市の建設作業員の少年(16)を逮捕し24日、発表した。
引用元:産経WEST
逮捕事例があれば、法的に定められた「わいせつ」であると言えるかもしれません。しかし「わいせつ」の境界線は人や文化・時代によって異なり、しばしば議論を呼んでいます。
「ここまでならわいせつではない」と安易に考えるのは危険であることを留意しておきましょう。
身体の一部を露出した場合
公然の場で性器ではない身体の一部を露出した場合は軽犯罪法違反に該当し、拘留または科料が科されます。
二十 公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
引用元:軽犯罪第1条20号
「公然」とは
公然わいせつの「公然」の定義は「不特定または多数の人が認識することのできる状態」とされています。(昭和32年(1957年)5月22日最高裁判所判決による)
上記にある「不特定または多数」とは
- 不特定(関係性の薄い相手・合意がなされていない相手)であれば人数は問わない
- 合意がなされていても人数が多い
- 合意ある少数相手でも不特定に目撃される可能性がある
- お金を払えば入店可能なお店
などとされています。
個人の邸宅等で限定的な人数であれば不特定多数に該当しないということもありえますが、基準は明確ではありません。
もちろん駅前で不特定多数が目撃するような状況下では常識的に考えても「公然」に当たります。
判例から見る公然性が肯定されたケース
密閉した部屋で特定の客数十名に対しわいせつ行為を見せつけた事件では、密閉した部屋と限られた空間であるのに有罪判決が下っています。(最高裁判所 昭和31年(1956年)3月6日判決)
公然性が肯定された判例では下記の要件が指摘されました。
- 限られた空間の特定の相手であっても数名を超える人数
- 特定の相手であっても関係性が薄いこと
- 一般人が見る可能性が否定されていない
特定と言っても不特定多数を勧誘した結果集まった十数名であり、特定の相手とは言えず公然性が肯定されたというのが理由のようです。
公然性が否定されたケース
似たケースでも上記とは反対に、公然わいせつに当たらないとした判例もあります。
旅館や別荘で麻雀仲間などに陰部を見せたとした事件で、昭和42年(1967年)6月24日に静岡地裁沼津支部で下された判決では
- 露出した相手が親しい間柄であった
- 事件のあった旅館の離れや別荘は、他人の往来が隔絶した密室であった
ことを加味し、公然わいせつには当たらないとしました。
公然性が否定された判例では下記の要件が挙げられました。
- 場所が閉鎖的である
- 関係者同士に個人的な関係があり特定性が濃い
- 実際に目撃した人数が5~6名である
このように閉鎖的な空間で公然のように思えない場所であったとしても、目撃する相手との間柄や人数も関係があるようです。
公然わいせつの『保護法益』とは
『保護法益(ほごほうえき)』とは、法律で守ろうとしている利益を指します。
もし公然わいせつが法律で規制されておらず、いたる場所で誰もが目撃可能な状態でわいせつ行為が行われていては、社会が倫理に反した無秩序な世界になってしまいます。
公然わいせつの保護法益は健全な秩序ないし性風俗であり、この保護法益に反すれば、罪が成立したと言えるでしょう。
公然わいせつで罪となる構成要件
構成要件とは、行為が罪として成立する条件のことです。
- 公然わいせつの実行行為があるか
- 公然わいせつの故意が認められるか
公然わいせつの場合は公然とわいせつな行為(実行行為)をした段階で成立しますので、未遂などはありません。
実行行為に関しては前述した通り、『不特定または多数が認識できる状態や場所で、性器・臀部の露出・性交・性交類似行為を行う』ことです。
公然わいせつが成立する可能性のある行為と実例
公の場で下半身を露出するような行為は間違いなく公然わいせつですが、それ以外にも性交・性交類似行為やわいせつな画像を送信・アップロードする行為が含まれます。
ここでは公然わいせつが成立する可能性のある行為と実際に逮捕された実例をご紹介します。
恋人同士でも公然に性交・性行為類似行為を行えば該当
車や公園、ネットカフェなどで性交・性交類似行為を行えば恋人同士であったとしても、公然わいせつに該当します。
これらは実際目撃されていなくても、目撃される可能性があり、行為を行っている時点で成立するでしょう。
公園や駅前でのキスも公然わいせつ?
インターネットの質問掲示板などでは公園や駅などの人前でキスをする行為も「公然でわいせつな行為をしたとみなされる」という意見がありますが、その程度で罪に問われることは考えられませんので、ある程度の社会常識に当てはめて考えていただくのがよいかと思います。
インターネット上でわいせつ行為を配信
インターネット上でわいせつ行為を配信していたとして男性が逮捕された事件も話題になりました。
被疑者は運営会社のサーバーが海外にあるので大丈夫だと考え配信したそうですが、サーバーが海外にある・海外法人であったとしても国内向けに配信しているので国内法が適用されることになります。
同サイトの運営者もわいせつ電磁的記録媒体陳列(わいせつ物頒布罪)の疑いで逮捕されました。
画像や動画は保存されて永遠に拡散され続ける可能性もあるため、安易なアップロードはもちろん、特定の相手であっても送信することはやめましょう。
ストリップ
意外に思われるかもしれませんが、ストリップ劇場で性器の露出を行うことも、公然わいせつ罪に当たることがあり、踊り子の女性や経営者が逮捕される事件も実際にありました。
踊り子の女性や経営者だけでなく、写真撮影を行った利用客も公然わいせつ幇助(ほうじょ)の罪で逮捕されたケースも存在します。
※幇助(ほうじょ):他人の犯罪行為が実現するよう手を貸すこと。
大阪府警曽根崎署は5日までに、ストリップ劇場で女性ダンサーに下半身を露出させたとして、公然わいせつの疑いで大阪市北区池田町の「天満東洋ショー劇場」経営者(54)を逮捕した。同署は3日、劇場を捜索し従業員やダンサーら計8人を現行犯逮捕。ダンサーを写真撮影した同ほう助の疑いで、大阪市職員の男(56)や京都府職員の男(52)ら客10人も現行犯逮捕した。
引用元:ストリップ摘発の仰天真相
風俗関係者は「一般客は不問で、撮影した客だけ逮捕。ただ、店は露出写真は禁止していて、服を着た踊り子を撮っただけのようだ。それでも、裸を見せて公然わいせつをするストリッパーに金を払って撮影したからには、ほう助になってしまうんでしょう」と語る。
引用元:ストリップ摘発の仰天真相
公然わいせつ以外に問われる可能性のある罪
公然わいせつ以外に問われる可能性のある罪はわいせつなものを公然と頒布(配布する行為)・陳列する行為がわいせつ物頒布罪です。
公然と配布・陳列した者だけではなく、配布目的で所持・保管した者にも適用されます。
(わいせつ物頒布等)
第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
引用元:刑法第175条
例えば不特定多数が閲覧可能なネット上にわいせつな画像を掲載すれば、わいせつ物頒布罪に該当するでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。
公然の範囲は意外と広いですね。
今の時代はどこに防犯カメラがあるかわかりませんので、バレないし大丈夫と行ったことでも発覚し逮捕される可能性もあります。
もし自分の身体の一部の画像やわいせつな動画をインターネット上にアップロードしたり、他人に送ったりすれば永遠に拡散され続けてしまうかもしれません。