公正証書遺言がある場合、遺産分割協議書は必要か?不要な理由と手続きの進め方を解説


遺産相続においては、相続人全員で遺産分割協議をおこない、合意内容を遺産分割協議書にまとめるケースが一般的です。
しかし、公正証書遺言が見つかり、遺産の分割方法が記載されている場合にも遺産分割協議書が必要になるのか、気になっている方は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、公正証書遺言がある場合における遺産分割協議書の必要性について解説します。
公正証書遺言がある場合の相続手続きの進め方なども紹介するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
公正証書遺言がある場合、原則として遺産分割協議書は不要
公正証書遺言がある場合には、原則として遺産分割協議書を作成する必要はありません。
公正証書遺言は、証明力や執行力が高い遺言書であり、遺産分割の方法が記載されているケースが一般的です。
そのため、遺言の内容どおりに財産を分ければよく、遺産分割協議書を作成しなくても問題が生じることは基本的にないでしょう。
公正証書遺言があれば、遺産分割協議書が不要となる理由
なぜ、公正証書遺言書があれば遺産分割協議書は不要なのでしょうか。
ここでは、その理由を解説していきます。
遺言書は被相続人の意思として遺産分割協議より優先されるため
遺産相続において遺言者の意思は最優先に扱われるため、公正証書遺言がある場合の遺産分割協議書は不要とされています。
被相続人には財産を自由に処分する権利があり、その意思は死後も尊重されるべきです。
そのため、被相続人の意思が明確に反映された遺言書は、遺産分割において優先されるのが基本的な考え方といえます。
後述するように例外はいくつかありますが、遺言書がある場合はそのとおりに遺産を分割するのが原則であり、あえて遺産分割協議をおこなう必要はありません。
遺言で遺産分割協議を禁止することもできる
民法では、遺言で遺産分割協議を禁止することも認めています。
遺言で遺産分割協議を禁止できる期間は、相続開始から最大5年間です。
例えば、すぐに遺産分割を始めると紛争が予想されるケースや、子どもが数年で成人になるケースなどでは、被相続人があえて遺産分割協議を一定期間禁止する場合があります。
公正証書遺言は法的な執行力を備える遺言書であるため
公正証書遺言は法的な執行力を備える遺言書であることも、遺産分割協議書が不要とされている理由のひとつです。
公正証書遺言は高度な法律知識・経験を備えた公証人が作成し、証人による確認作業もおこなわれるため、法的に無効になることは基本的にありません。
そのため、公正証書遺言の有効性を争うことは難しく、ほとんどのケースにおいて、相続人は遺言内容に従うことになります。
公正証書遺言がある場合の相続手続きの進め方
ここでは、公正証書遺言がある場合の相続手続きの進め方について解説していきます。
1.遺言執行者を選任する
公正証書遺言がある場合の相続手続きでは、はじめに遺言執行者を選任します。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為を担う人物のことです。
遺言を確実に実行するためには、遺言執行者がいたほうが手続きが円滑に進むというメリットがあります。
遺言執行者が遺言書で指定されている場合は、新たに選任する必要はありません。
遺言書で指定されていない場合は、相続人同士で話し合い、適任者を選んでください。
遺言執行者に特別な資格は必要なく、基本的には誰でもなることができます。
弁護士を選任したり、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立たりすることも可能です。
2.公正証書遺言の内容どおりに遺産を分割する
次に、公正証書遺言に記載されている内容どおりに、遺産を分割します。
この際に遺産の名義変更や不動産登記などさまざまな手続きが必要になりますが、これを円滑に進めるのが遺言執行者の役割です。
遺言執行者には幅広い権限が与えられているので、基本的には全ての相続手続きに対応することができます。
ただし、遺言執行者に負担が集中するとトラブルにつながる可能性もあるので、相続人同士でサポートし合うことも大切です。
公正証書遺言があっても、例外的に遺産分割協議書が必要となる場合
原則として公正証書遺言があれば、遺産分割協議書は必要ありません。
しかし、公正証書遺言があっても、例外的に遺産分割協議書が必要になるケースもあるので、詳しくみていきましょう。
1.公正証書遺言に記載のない遺産が見つかった場合
公正証書遺言に記載されていない財産が見つかった場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。
通常、公正証書遺言には相続人ごとに相続する財産について明記されています。
しかし、被相続人が把握しきれていなかった財産や、遺言書への記載をうっかり忘れてしまった財産があとで見つかるケースも少なくありません。
この場合、遺言書のなかで「上記記載以外の一切の財産は長男に相続させる」などの記載がない限り、相続人同士で分割方法を協議し、遺産分割協議書を作成することになります。
2.相続人全員が公正証書遺言を無効とすることに合意した場合
相続人全員が公正証書遺言を無効とすることに合意した場合も、改めて相続人全員で遺産分割協議をおこない、遺産分割協議書を作成します。
ただし、公正証書遺言を無効とすることに一人でも反対した場合には、公正証書遺言を無効にできません。
3.公正証書遺言が無効になった場合
公正証書遺言の効力が無効になった場合には、相続人同士で遺産分割の方法を協議し、遺産分割協議書を作成する必要があります。
公正証書遺言が無効になるのは、以下のようなケースです。
- 公正証書遺言を作成した時点で、被相続人が認知症や精神障害などを患っていて遺言能力がなかった
- 選出した証人が未成年や公証人の関係者など不適格な人物であった
- 公正証書遺言を作成する際に、詐欺や脅迫、錯誤があった
- 公正証書遺言の内容が公序良俗に違反している内容だった
このような場合には、公正証書遺言が無効となるため、改めて遺産分割協議をおこなったうえで遺産分割協議書の作成が必要になります。
とはいえ、公正証書遺言の作成には公証人が関与し、不備・不足がないかを厳しくチェックしているため、無効になることは基本的にありません。
公正証書遺言による相続についてよくある質問
公正証書遺言による相続に関しては、さまざまな疑問を持たれている方も多いでしょう。
ここでは、公正証書遺言に関するよくある質問について解説していきます。
故人が公正証書遺言を残しているかわかりません。
日本公証人連合会の遺言情報管理システムで検索すると、公正証書遺言の有無を確認できます。
遺言情報管理システムは全国の公証役場で利用でき、利用料金は無料です。
公正証書遺言で財産を相続するよう指定された相続人も相続放棄はできますか?
公正証書遺言で財産を相続するように指定された相続人であっても、相続放棄はできます。
相続放棄は、各相続人に与えられている固有の権利です。
公正証書遺言にどのような内容が記載されていようと、相続放棄する権利が奪われることはありません。
相続人全員が同意さえすれば、公正証書遺言に従わなくてよいでしょうか?
相続人全員が同意すれば、公正証書遺言書に記載されている相続内容を、遺産分割協議によって変更できます。
ただし、公正証書遺言に遺産分割協議を禁止すると記述してある場合には、それに従わなければなりません。
また、相続人全員が公正証書遺言に従わないことに同意していても、遺言執行者の同意が得られない場合には、公正証書遺言に従う必要があります。
遺産分割協議後に公正証書遺言が見つかったら、どうすればよいでしょうか?
遺産分割協議後に公正証書遺言が見つかった場合は、公正証書遺言の内容にしたがって遺産分割をやり直すのが原則です。
遺言書の効力は相続人が知っていたかどうかに関わらず、原則として遺言者が死亡した時点で発生しています。
そのため、公正証書遺言の内容を反映していない遺産分割は基本的に無効です。
ただし、相続人全員と遺言執行者が遺産分割協議で定めた内容に不満を持っておらず、そのままでも問題ないと合意しているのであれば、やり直す必要はありません。
このように、ケースによってベストな対応が異なるので、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
公正証書遺言で、もめることはありますか?その場合、遺産分割協議は必要ですか?
公正証書遺言に関しては、以下のようなケースで揉めることがあります。
遺留分を侵害しているケース
公正証書遺言のなかで「長男に全ての財産を相続する」などと、極端に偏った分割方法を指定しているパターンがあります。
この場合でも、基本的には遺言の内容にしたがって相続を進めますが、各相続人の最低限の取り分である「遺留分」を侵害することは認められません。
遺言によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をおこなうことができます。
婚外子が認知されたケース
生前に認知していなかった婚外子は、遺言書のなかで認知することが可能です。
認知された子どもは相続権を獲得しますが、ほかの相続人からすると取り分が減ってしまうため、不満が募り、トラブルにつながりやすくなります。
公正証書遺言の無効が争われるケース
公正証書遺言の内容に錯誤があった場合や、そもそも遺言者に遺言能力がなかった場合などは、公正証書遺言が無効になります。
そのため、公正証書遺言に基づく遺産分割では不利な立場にある相続人が、上記のような理由をつけて無効を主張し、もめてしまうことがあります。
公正証書遺言をめぐる争いが生じた場合は、無効とするかどうかを相続人同士で話し合うことになるでしょう。
そして、全員が公正証書遺言を無効とすることに合意した場合は、遺産分割協議がおこなわれます。
なお、遺産分割協議で意見がまとまらない場合には、調停や訴訟で解決を目指すことになります。
さいごに|遺産分割や相続についてわからないことは弁護士へ
公正証書遺言は確実性が高く、無効になることは基本的にないため、多くの場合はその内容どおりに相続がおこなわれます。
しかし、公正証書遺言があっても、例外的に遺産分割協議書を要するケースがあるなど、単純な仕組みではないので、適切に相続手続きを進めるには法的な知識が欠かせません。
そのため、少しでも不明な点があれば、相続問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。
トラブルへの対応方法や遺産分割における注意点を弁護士からアドバイスしてもらうことで、円滑な相続手続きを実現できます。