自転車事故の加害者が保険未加入!よくあるトラブルと解決策


自転車事故の被害者になったとき、加害者側が「自転車保険」に加入していないとどうなるのでしょうか。
加害者側が任意保険に入っていれば保険会社が保険金を支払ってくれますが、未加入の状態なら、加害者本人に対して直接法的措置をとらなければいけません。
自転車事故の被害が数百万円以上になることも少なくありません。
そのため、加害者本人に十分な資産・収入がないときには、慎重に示談交渉などを進める必要があるでしょう。
本記事では、自転車事故で加害者が保険未加入だったときによくあるトラブルや、その対処法を解説します。
交通事故の加害者が保険未加入で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
自転車事故の加害者が保険未加入だった場合によくあるトラブル
まずは、自転車事故の加害者が自転車保険に未加入だったときに生じる可能性があるトラブルを4つ紹介します。
損害賠償額を支払ってもらえない
自転車事故の加害者が自転車保険に加入していない場合、被害者に生じた損害は任意保険で賄うことができません。
そのため、加害者側が自転車保険未加入なら、自転車事故に関する損害賠償請求は加害者本人の財産から支払ってもらう必要があります。
ただし、自転車事故の被害に遭ったときの損害賠償額が高額になることも多いです。
そのため、加害者本人の所有財産や給与だけでは充分な賠償額を捻出できないリスクが生じます。
自転車事故の加害者が任意保険に加入していないと、損害賠償請求権や慰謝料請求権を行使しても実際の回収ができなかったということにもなり得ます。
過失割合や損害賠償額で相手ともめ、示談交渉がすすまない
自転車事故の加害者が自動車保険に加入していれば、相手方の任意保険会社との間で示談交渉を進めることができます。
しかし、加害者が任意保険に加入していない場合には、被害者と加害者本人との間で直接示談条件について話し合いを進めなければいけません。
とはいえ、交通事故の実務に詳しくない被害者と加害者との間で交渉を進めようにも、損害賠償額や慰謝料額などの相場についての理解が乏しい分、現実的な条件での合意形成は難しいでしょう。
また、示談交渉では交通事故当時の状況を踏まえて当事者双方の過失割合を認定する必要があります。
しかし、当事者はそれぞれ自分の過失を認めようとはしないので、合意形成に至る可能性は低いといえるでしょう。
示談交渉が難航したままでは、いつまでも自転車事故で生じた被害は補償されません。
示談で和解契約締結に至らない場合、民事裁判で決着を付ける必要がありますが、どちらにせよ紛争の長期化・深刻化は免れられないでしょう。
後遺障害の賠償額を算定するのが難しくなる
自動車事故の被害に遭って後遺症が残ったときは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という公的機関が後遺障害等級認定を審査します。
公的機関による認定手続きなので、客観性を保った等級認定を受けることができます。
一方、自転車事故には「自賠責保険」という制度が設けられていないので、後遺症が残ったとしても、賠償額・慰謝料額を決定するときに公的機関の判断を頼ることができません。
つまり、自転車事故の加害者が自転車保険に加入していない状況だと、被害者と加害者本人との話し合いのなかで、後遺症に関する損害賠償額・慰謝料額を決定しなければいけないということです。
逸失利益や後遺障害慰謝料の算出は難しいので、納得できる賠償額での合意には相当の時間を要するでしょう。
加害者が未成年だと損害賠償請求が更に難しくなる
自転車には自動車のような運転免許制度が存在しないので、未成年者が自転車事故の加害者になるケースも少なくありません。
そもそも、未成年者は、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときには不法行為責任を追及されない、というのが民法上のルールです。
(責任能力)
第712条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
引用元:民法|e-Gov法令検索
また、未成年者が自己の行為による法的責任を理解できる知能を有していたとしても、自転車事故の加害者が未成年者の場合には、実質的に不法行為責任を追及できない可能性があります。
なぜなら、未成年者は余程特殊な事情がない限り、自分名義の財産はほとんど保有していないことが多いからです。
つまり、未成年者が自転車事故の加害者になった場合、未成年者が被保険者となる自転車保険に加入していない限り、損害賠償請求権や慰謝料請求権を行使しても空振りに終わる可能性が高いということです。
なお、自転車事故の加害者が未成年者の場合、親などの監督義務者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使できる可能性があります。
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第714条第1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
引用元:民法|e-Gov法令検索
そのため、小学生が自転車事故の加害者になったときには親に対して不法行為責任を追及することを検討することができます。
もっとも、「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであった」ときには請求は認められません。
請求が認められるのは、未成年者が日常的に危険な自転車運転を繰り返しており、親として運転を止めさせるべき状況にあったような例外的な場面に限られます。
自転車事故の加害者が保険未加入だった場合の対処法
ここからは、自転車事故の加害者が任意保険に加入していないときの対処法を解説します。
公正証書で示談書を作成する
自転車事故の加害者が自転車保険に加入していない以上、加害者本人に対して損害賠償請求や慰謝料請求をするしかありません。
当事者間の示談交渉で賠償金額について和解契約が成立したときには、加害者に損害賠償義務があることを客観的に証明するために、必ず示談書(和解契約書)を作成してください。
示談条件を記載したうえで当事者双方のサインがある示談書を作成しておけば、加害者が合意どおりに賠償金を支払わないときにも民事訴訟を有利に進めやすくなるでしょう。
なお、示談書は「公正証書」の方式で作成するのがおすすめです。
公正証書は、公証役場で所定の手続きを経て作成される証明力の強い文書なので、後日賠償金の支払い条件で紛争が蒸し返されたときにも役立つでしょう。
また、示談書の内容に執行受諾文言を付しておくことも検討してください。
これにより、万が一の際に民事訴訟を提起することなく、いきなり加害者本人の不動産・預貯金・給与などに対して強制執行をかけることができます。
公正証書の形式で示談書を作成するには、事前に予約をしたうえで公証役場まで訪問をする必要があります。
公証役場でも示談書の内容について相談をすることはできますが、より被害者の立場に立って有利な内容の示談書を作成したいなら、弁護士に相談・依頼をするのがおすすめです。
相手が損害賠償を支払えない場合は分割払いを許容するか検討する
自転車事故の加害者が自転車保険に加入していない以上、損害賠償請求や慰謝料請求は加害者本人から取り立てる必要があります。
しかし、自転車事故の状況次第では、損害賠償請求や慰謝料請求が非常に高額になることが多いです。
たとえば、損害賠償額が数百万円以上になるケースでは、加害者側が事故について反省をしていたとしても、現実的に一括で支払うことができない以上、加害者側が示談書にサインできないという事態になりかねません。
示談交渉での紛争解決を目指すのなら、損害賠償金の支払い方法に履行可能な条件を付けるのも選択肢のひとつです。
たとえば、加害者側の支払い能力に応じて損害賠償金の分割払いを認めると、示談交渉がまとまる可能性が高まるでしょう。
なお、分割払いとする場合は先に見た公正証書の作成はほぼ必須となります。
支払わない場合は裁判を起こす
自転車事故の加害者との間でおこなわれた示談交渉が成立せずに終わったときには、民事訴訟を提起して、相手方の不法行為責任を追及するしかありません。
民事訴訟で損害賠償請求が認められれば、仮に加害者本人が判決内容どおりに賠償義務を履行しなかったとしても、強制執行によって加害者本人の預貯金・不動産・給与などを差し押さえて、損害賠償請求権に充当することが可能です。
なお、民事訴訟で加害者本人の不法行為責任を追及するには、裁判所に訴状を提出したうえで、複数回の口頭弁論期日に出廷する必要があります。
被害者本人だけでは書面や証拠を準備するのが難しいので、可能な限り交通事故トラブルを得意とする弁護士へ依頼をしてください。
弁護士に加害者との示談交渉を依頼する
自動車保険未加入の加害者との示談交渉は難易度が高いです。
被害者側としては、適切な損害賠償額・慰謝料額を請求したいというのが本音でしょう。
しかし、確実に賠償額を回収するには、加害者本人の資産・収入に配慮しながら、示談条件を提示する必要があるのも事実です。
自転車事故の加害者相手の示談交渉では、損害賠償額・慰謝料額を正確に算定して相手方に請求するだけではなく、個別具体的な事情、時々刻々と変化する示談交渉の流れを踏まえて臨機応変に対応しなければいけません。
そのため、自転車事故に関する示談交渉をおこなうときには、交通事故トラブルを得意とする弁護士へ依頼することをおすすめします。
自転車事故の加害者が保険未加入だった場合は弁護士に依頼したほうがよい理由
自転車事故の加害者が任意保険未加入の場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談・依頼したほうが良いでしょう。
その理由として以下2点が挙げられます。
- スムーズに示談交渉を進めることができる
- 適切な賠償金額を獲得できる可能性が高まる
それぞれについて、以下で詳しくみていきましょう。
示談交渉をスムーズにすすめられる
自転車事故の加害者との示談交渉は弁護士に代理してもらったほうがスムーズに進められるでしょう。
なぜなら、弁護士は加害者本人の経済力や賠償意思などを総合的に考慮したうえで、現実的な示談条件を提示してくれるからです。
また、加害者側が不法行為責任を認めない姿勢できたとしても、自転車事故発生時の客観的状況を示す証拠を用意して、有利な過失割合での合意形成を目指してくれるでしょう。
自転車事故をめぐるトラブルは、示談交渉の段階で解決を目指すのが理想です。
民事訴訟までトラブルが発展すると、賠償金の受け取り時期が遠のく一方だからです。
できるだけ早いタイミングで弁護士に依頼をして、示談交渉段階での紛争解決を目指してもらいましょう。
適切な賠償金額を相手に請求できる
交通事故トラブルを得意とする弁護士に相談をしたほうが、適切な金額で損害賠償請求をおこなうことができます。
まず、自転車事故の加害者に対して損害賠償請求をする際には、被害者側に生じた損害項目をひとつずつピックアップする必要があります。
治療費、通院交通費、逸失利益、休業損害、慰謝料など、自転車事故との因果関係が認められるものをひとつずつ計上したうえで、各損害額を算出しなければいけません。
被害者本人だけでは正確な項目・金額を導き出すのは難しいでしょう。
次に、自転車事故の加害者に対して損害賠償請求をするには、事故に関する過失割合について相手方と争う必要があります。
被害者側の過失割合が大きくなるほど受け取る賠償額は低くなるので、被害者側に有利な過失割合認定に役立つ証拠を収集しなければいけません。
このように、自転車事故の加害者に対して損害賠償請求をするには、生じた損害に対して適切な補償を受けることができるような準備が必要です。
弁護士に相談・依頼をすれば、交通事故実務の知識を活かしてできるだけ有利な賠償額を加害者側に請求してくれるでしょう。
自転車事故の解決を弁護士に依頼する場合の費用
自転車事故被害にあったときに弁護士に相談・依頼をするには、弁護士費用を負担しなければいけません。
ここでは、自転車事故の解決を弁護士に相談・依頼したときの費用について解説します。
弁護士費用の目安
交通事故トラブルの弁護士費用の相場は以下のとおりです。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
相談料 | 5,500円~11,000円/30分(初回相談無料の法律事務所有り) |
着手金 | 15万円~30万円 |
報酬金 | 経済的利益の15%~20%程度(経済的利益の考え方や割合は法律事務所によって異なる) |
実費・日当 | 事案による |
なお、法律事務所によって弁護士費用は異なります。
詳細については、相談・依頼を検討している法律事務所まで直接問い合わせてください。
自転車事故でも弁護士費用特約を利用できる
弁護士費用特約とは、交通事故トラブルに関する弁護士への相談料・着手金・報酬金などを任意保険会社が保険金で支払ってくれる任意保険の付帯サービスのことです。
弁護士費用特約は、以下2類型に区分されます。
- 自動車事故型:自動車事故に関する法律トラブルの弁護士費用のみが対象
- 日常生活・自動車事故型:自動車事故だけではなく日常生活で生じた事故に関する法律トラブルの弁護士費用が対象
現在加入している任意保険に付帯されている弁護士費用特約が「自動車事故型」の場合、自転車事故に関する弁護士費用を保険金で賄うことはできません。
一方、「日常生活・自動車事故型」の弁護士費用特約を付帯させている場合には、任意保険会社が弁護士費用を負担してくれます。
自動車事故の被害に遭ったときには、被害者本人やご家族が加入している任意保険の保険証書で「日常生活・自動車事故型」の弁護士費用特約が付帯されているかを確認してください。
弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用の負担なしで弁護士に依頼が可能です。
具体的な場面で弁護士費用特約が使えるのかどうか不明な場合は、保険会社の担当者に確認をしましょう。
自転車事故で被害者が請求できる賠償金はどのくらい?
ここでは、自転車事故に巻き込まれた被害者が加害者側に請求できる賠償金額について解説します。
自転車事故の損害賠償額は自動車事故と同程度
自転車事故の損害賠償金額は、自転車事故と同じ考え方で算出します。
加害者に対して実際に請求できる損害賠償項目は自転車事故の内容によって異なりますが、一般的には以下のような賠償項目が計上されます。
- 治療費
- 通院交通費
- 装具・器具の購入費
- 付添費用
- 介護費用
- 入院雑費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害逸失利益
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
- 葬儀費用 など
交通事故トラブルを得意とする弁護士に相談をして、正確な金額で損害賠償請求をしてもらいましょう。
自転車事故の過去の裁判例と賠償額
自転車事故による高額賠償事例を紹介します。
裁判所・年 | 賠償金額 | 事故の概要 |
---|---|---|
神戸地判平成25年7月4日 | 9,520万円 | 坂道を下ってきた小学5年の少年(11歳)の自転車が、歩行中の女性(62歳)と衝突し、歩行者の女性が意識不明の重傷を負った事例。 子どもの親に対する高額の賠償責任が認定された。 |
東京地判平成平成20年6月5日 | 9,266万円 | 自転車運転中の男子高校生が車道を斜めに横断したところ、対向車線を自転車で直進してきた会社員男性(24歳)と衝突し、会社員男性に言語機能喪失などの重大な後遺症が残った事例。 |
東京地判平成19年4月11日 | 5,438万円 | 日中、成人男性が赤信号を無視してスピードを出したまま自転車で交差点に進入したところ、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突し、被害女性が頭蓋内損傷などが原因で11日後に死亡した事例。 |
このように、自動車事故であったとしても、数百万円~数千万円の損害賠償請求が認められるケースは少なくありません。
「ただの自転車事故だから」という理由で遠慮をする必要はないので、被害者側に生じた損害はしっかりと加害者側に請求しましょう。
自転車保険に入っていない割合は約35%
au損害保険株式会社の調査では、2024年段階で、「自転車保険の全国加入率は65.6%、未加入者は約35%」というデータが出ています。
つまり、街中で自転車を走行している人のうち、3人に1人は自転車保険未加入の状態だということです。
自転車事故に巻き込まれたときには、加害者側が保険未加入のケースが当然にあり得るということを念頭に置いておきましょう。
【参考】「au 損保、自転車保険加入率を調査」
各都道府県で自転車保険の加入義務化がすすんでいる
自転車事故発生時に被害者・加害者双方が損害賠償トラブルで大きなリスクに晒されないようにするために、各都道府県では自転車保険の加入義務化が進んでいます。
令和6年4月1日段階における自転車保険に関する条例の制定状況は以下のとおりです。
条例の種類 | 都道府県 |
---|---|
義務 | 宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、新潟県、静岡県、岐阜県、愛知県、三重県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 |
努力義務 | 北海道、青森県、岩手県、茨城県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、佐賀県 |
なし | 島根県、長崎県、沖縄県 |
【参考】国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進」
自転車保険への加入義務が制定されていない自治体、努力義務しか定められていない自治体も、これから加入義務化が進んでいくことが想定されます。
自転車保険に入ってないとどうなる?罰則はある?
現在、自転車保険に入っていない状態で事故を起こしたとしても、条例で罰則が定められている自治体は存在しません。
そのため、罰金刑などの心配はないといえるでしょう。
しかし、自転車保険未加入の状態で交通事故を起こすと、加害者本人の財産から賠償金を支払わなければいけません。
被害者が死亡したり重篤な後遺症が残ったりすると、損害賠償額は数千万円になるので、加害者本人の資産から捻出するのは不可能に近いです。
自転車を使用する場合には、必ず自転車保険に加入したうえで、いつ自分が交通事故の加害者になっても大丈夫なように備えることが大切です。
さいごに|保険未加入の自転車事故のトラブルは弁護士に相談を
自転車事故に巻き込まれたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談をしてください。
交通事故トラブルを得意とする弁護士に相談・依頼をすれば、自転車保険未加入の加害者に対しても適切な金額で損害賠償請求をおこなってくれるでしょう。
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