交通事故の被害者が示談に応じないとどうなる?考えられるリスクや対処法を解説


交通事故に遭った場合、相手方と示談交渉をおこないます。
しかし、加害者側から提示された内容に納得できず、示談に応じられない状況が続くことも少なくありません。
そのなかで、このまま示談がまとまらないと、どうなってしまうのか心配な方もいるでしょう。
一度示談に応じて合意をしてしまうと、示談の内容を覆したり、変更したりすることは非常に難しくなってしまいます。
そのため、納得できない条件を加害者側から提示された場合、妥協して示談に応じるべきではありません。
しかし、示談に応じなければ、どのようなことが起こってしまうのかを理解しておく必要もあります。
本記事では、交通事故に遭った被害者の方に向けて、示談に応じなかった場合の考えられるリスクについて解説します。
示談に応じないほうがよいケースや示談に応じないことを決めた場合にできることなども紹介するので、参考にしてみてください。
【被害者側】交通事故の示談に応じないとどうなる?考えられるリスク
交通事故後、加害者側と示談交渉をおこなうのが一般的な流れです。
過失割合や損害賠償額に納得がいかず、示談に応じなかった場合は以下のようなリスクが生じます。
- 賠償金を受け取るまでに時間がかかる
- 時効が完成して損害賠償請求ができなくなる可能性がある
賠償金を受け取るまでに時間がかかる
示談がまとまらなければ、賠償金額も決定しないため、損害賠償金を受け取るまでの時間も必然的に長くなってしまいます。
交通事故の被害者は、病院への通院費や治療費、車の修理費など何かとお金が必要です。
けがで働けなくなった場合は、生活が苦しくなることもあります。
経済的な負担の大きさから、損害賠償金を早く受け取りたいと考える方も多いでしょう。
しかし、示談に応じない状況が続く限りは、基本的に損害賠償を受け取れないので、お金の面で苦労することになるかもしれません。
また、示談交渉以外の方法で解決する場合でも、解決までに時間がかかることを十分に理解しておく必要があります。
例えば、訴訟を提起する場合は、解決までに1年以上かかるケースも少なくありません。
時効が完成して損害賠償請求ができなくなる可能性がある
示談に応じない状況が続くと、時効が完成して損害賠償請求ができなくなる可能性があります。
交通事故に関する時効期限は以下のとおりです。
事故状況 | 事故の被害 | 時効の起算点 | 時効期間 |
---|---|---|---|
加害者がわかっている場合 | 物的損害 | 事故の翌日 | 3年 |
人身事故(傷害部分) | 事故の翌日 | 5年 | |
人身事故(後遺障害部分) | 症状固定日の翌日 | 5年 | |
死亡事故 | 死亡日の翌日 | 5年 | |
加害者がわからない場合 | ひき逃げや当て逃げなど | 事故の翌日 | 20年 |
加害者があとから発覚した場合 | 物的被害 | 加害者が発覚した日の翌日 | 3年 |
人身被害 | 加害者が発覚した日の翌日 | 5年 |
なお、事故からしばらく経過したあとに加害者が判明した場合は、「事故の翌日から20年」もしくは「加害者が判明した日の翌日から物損事故3年・人身事故5年」のうち、いずれか早いほうが経過した時点で時効が成立します。
時効が成立すると、損害賠償を請求できる権利そのものが失われるため、十分注意しておきましょう。
時効期間を完成猶予・更新することは可能
時効が成立してしまうと、請求する権利が失われてしまいますが、時効の完成を食い止める方法が存在します。
具体的には、時効の完成猶予と更新の2つの方法があります。
時効の完成猶予とは、一定の完成猶予事由ができた場合に、時効の完成が先延ばしにされる制度です。
時効の更新とは、一定の更新事由ができた場合に、時効の進行をリセットできる制度です。
時効の完成猶予・更新事由は以下のとおりです。
事由 | 完成猶予の可否 | 更新の可否 |
---|---|---|
裁判上の請求・支払督促等 | 事由終了まで完成猶予 | 確定判決などで権利が確定すると更新 |
強制執行・競売、財産開示手続、情報取得手続等 | 事由終了まで完成猶予 | 事由が終了すると更新 |
仮差押え・仮処分 | 事由終了時から6ヵ月間の完成猶予 | × |
協議をおこなう旨の書面・電磁的記録による合意 | 「合意から1年」「合意で定めた協議期間(1年未満)」「協議の拒絶を通知したときから6ヵ月」のいずれかが経過するまで完成猶予 | × |
催告(裁判外での請求) | 催告したときから6ヵ月間の完成猶予 | × |
債務の承認 | × | 債務者が承認すると更新 |
天災等の事変による裁判上の請求・強制執行不可 | 障害の消滅時から3ヵ月間の完成猶予 | × |
上記のとおり時効の完成を阻止する方法は複数ありますが、基本的には法的な手続きが関係してきます。
そのため、時効期限が迫っている場合は、まず弁護士に相談して、アドバイスを受けることが大切です。
交通事故で示談に応じないほうがよいケース
示談交渉に応じない場合、賠償金を受け取るまでに時間がかかったり、時効によって賠償金の請求権を失ったりするリスクがあります。
ただし、そのリスクを踏まえたとしても、示談交渉に応じないほうがよいケースもあるのです。
示談に応じないほうがよいケースとしては、下記の5パターンが挙げられます。
- けがが完治・症状固定していない場合
- 後遺障害等級の認定結果を争っている場合
- 過失割合に疑義がある場合
- 示談の内容に納得ができない場合
- 示談金額が適切かどうか判断できない場合
示談は一度成立すると、原則変更することができません。
上記の場合、示談に応じるかどうかを慎重に見極める必要があります。
けがが完治・症状固定していない場合
示談交渉は、一般的に治療が終了、もしくは症状が固定によって、損害額が計算できる段階になってから開始します。
完治・症状固定していない状況で示談してしまうと、十分な損害賠償を受けられない可能性があるので注意してください。
治療が終わっていないにもかかわらず、加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを打診されて、示談に応じるように急かされてしまうケースもありますが、治療の終了を決定するのは、保険会社ではなく医師です。
医師の判断で治療を続けているのならば、その治療費は加害者側の保険会社から支払われるべきものです。
そのため、医師からけがの完治や症状固定を診断されていない状況で、治療費の打ち切りや示談に応じることはおすすめしません。
後遺障害等級の認定結果を争っている場合
これ以上治療を続けても症状が改善せず後遺症が残ったとき、後遺障害の等級認定を受けられます。
後遺障害は症状の程度によって1級~14級に分かれており、等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。
そのため、後遺障害等級の認定結果に納得できない状態で示談に応じてしまうと、本来受け取るべき賠償金よりも低い金額で示談が成立してしまう可能性が出てくるのです。
後遺障害の等級認定に納得できず、認定結果について争っている場合は、異議申立ての手続きなどが終わるまで示談に応じないほうがよいといえます。
過失割合に疑義がある場合
交通事故では、当事者双方の責任が「過失割合」として数値化されます。
被害者側にも過失割合がついてしまうと、その分だけ示談金額が減額されてしまいます。
そのため、加害者側から提示される過失割合では、被害者側の過失が高めに見積もられていることも少なくありません。
相手方から提示された過失割合が適切かどうか疑わしい場合は、示談に応じるべきではないです。
とはいえ、被害者自身で適切な過失割合を判断することは困難なので、弁護士などに一度相談してみましょう。
示談の内容に納得ができない場合
示談交渉では、主に下記の項目を加害者と被害者で話し合います。
- 損害賠償の種類:治療費・休業損失・通院交通費・慰謝料など
- 損害賠償額:けがの程度や後遺症の有無などによって算定
- 過失割合:事故に対する双方の過失割合
- 示談条件:支払い方法・支払期日・違約条項など
示談交渉は一度成立すると、内容の変更ができません。
示談が成立したあとに、損害が見つかったとしても、賠償請求できないのが原則です。
そのため、示談の内容で気になることがあれば、時間の許す限り、妥協して応じる必要はありません。
細かいことでも確認や相談、交渉をおこないましょう。
示談金額が適切かどうか判断できない場合
示談金額が適切かどうか判断できない場合も、示談に応じないほうがよいでしょう。
示談金額は積算方法次第で大きく変動するので、正しい知識をもって確認しなければ、損をする可能性があります。
実際、被害者側に十分な知識がないことを前提に、保険会社が相場よりも低い示談金を提示してくるケースは少なくありません。
提示された示談金の積算根拠が不明な場合や、そもそも示談金相場を知らない場合は、示談金額の妥当性を判断できないので、弁護士にアドバイスを求めるようにしてください。
交通事故で示談に応じないことを選んだ場合の対処法
次に、交通事故で示談に応じないと決めた場合の対処法について説明します。
主な対処法としては以下の5つが挙げられるので、それぞれ詳しくみていきましょう。
- まずは弁護士に相談をする
- ADRを利用する
- 調停を申し立てる
- 裁判を起こす
- 自賠責保険に対する被害者請求をおこなう
まずは弁護士に相談をする
交通事故で示談に応じない場合は、まず弁護士へ相談をしてみましょう。
賠償額や過失割合など、示談に応じたくない理由を弁護士に伝えれば、適切な金額や交渉の余地についてアドバイスを受けることができます。
示談交渉はご自身で対応できるものではありますが、加害者側と意見が折り合わず、難航するケースも少なくありません。
また、知識や経験がないなかで示談交渉を進めることは、精神的にも大きな負担になるでしょう。
その点、弁護士に示談交渉を依頼すれば、加害者側に強いプレッシャーを与えることができ、示談がすんなりとまとまる可能性もあります。
示談交渉が進まない場合には、訴訟などの対応をそのまま依頼することも可能です。
ADRを利用する
ADRとは、裁判外で紛争を解決する手続きです。
交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターなどのADR機関が、中立的な立場で紛争解決に向けて仲介してくれます。
裁判を起こしたときと同程度の金額を請求できる可能性があり、人身事故の被害者であれば基本的に誰でも無料で利用可能です。
ただし、ADR機関はあくまで中立公正な立場です。
状況によっては、被害者側にとって不利な判断を下される可能性もゼロではありません。
その場合はADR機関の利用にかかった手間や時間は無駄になってしまうため、よく検討したうえで利用しましょう。
また、下記のケースに該当する場合はADR機関を利用できません。
日弁連交通事故相談センター | 交通事故紛争処理センター |
---|---|
ほかの弁護士に依頼している場合 同様の相談を5回以上している場合 本人・家族以外が申し込んでいる場合 相談内容が刑事処分・行政処分に関するものである場合 |
相手が自動車でない場合 被害者自身が契約している保険に関する紛争 後遺障害等級認定に関する紛争が生じている場合 相手の保険会社が特定できていない場合 申立人が治療中の場合 |
調停を申し立てる
調停とは、当事者間での示談交渉が難航した際に選択できる解決手段です。
裁判官と調停委員が第三者として間に入り、話し合いによる和解を目指します。
話し合いは両者が対面するわけでなく、調停委員が双方の主張を聞いて、解決へと導きます。
加害者や加害者側の任意保険会社と連絡が取れる状況で、示談がまとまらない場合は、調停を申し立てることも有効な手段といえます。
裁判を起こす
示談交渉に応じない場合は、裁判を起こすことも選択肢に入ってくるでしょう。
裁判は示談と異なり、最終的な判断を裁判官に委ねます。
たとえ加害者側が納得していない内容であったとしても、その紛争を解決することが可能です。
そのため、加害者側と徹底的に争いたい場合は有効な手段といえるでしょう。
ただし、裁判はデメリットも多いので、注意が必要です。
裁判をおこなうにあたっても、書類の準備や口頭弁論の出席など手間と時間が圧倒的にかかります。
また、裁判所に払う費用や弁護士費用など、相応の費用負担も生じます。
そのうえ、裁判を実施したとしても、被害者側の主張が認められず、敗訴する可能性もあります。
示談に応じない場合、裁判を起こすという手段はあるものの、決して簡単な手続きではないので、弁護士とも十分に相談することが大切です。
自賠責保険に対する被害者請求をおこなう
自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類があります。
任意保険は運転者の任意で加入する保険である一方、自賠責保険は法律で加入が義務付けられています。
そもそも自賠責保険は、交通事故の被害者に対して最低限の補償を与えられるよう制度化されたもので、交通事故の被害者は加害者の自賠責保険に直接請求することも可能なのです。
これを被害者請求といいます。
加害者に誠意がなくて示談交渉が進まない場合や、保険会社から不利な条件で示談決着を迫られた場合は、加害者の自賠責保険に被害者請求をおこなうのも有効な手段といえます。
交通事故の示談を弁護士に依頼するメリット
事故によるけがの治療をおこないながら、相手方とやりとりを進めていくことは精神的にも身体的にも大きな負担がかかってしまいます。
そのため、交通事故の示談段階から弁護士に代理人になってもらうことが、賢明な判断といえるでしょう。
交通事故の示談を弁護士に依頼するメリットとして、下記4つのメリットが挙げられます。
- 示談交渉を一任できる
- 賠償金が増額される可能性が高まる
- 適切な過失割合を算定してもらえる
- 後遺障害等級認定の手続きを任せられる
示談交渉を一任できる
被害者にとって、加害者側の保険会社とのやりとりは非常にストレスがかかるものです。
耳慣れない法律用語が飛び交い、何度も電話対応に追われます。
そもそも、企業相手に交渉をおこなうこと自体、ハードルが非常に高いと感じてしまう方も多いです。
弁護士に示談交渉を一任すれば、自ら対応する必要がなくなるため治療に専念することができます。
精神的・身体的負担が減ることは、弁護士に相談・依頼する大きなメリットといえるでしょう。
賠償金が増額される可能性が高まる
交通事故の慰謝料や休業損害などを算出するうえでは、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準があります。
自賠責基準 | 法令によって加入が義務付けられている自賠責保険における、交通事故被害者への最低限の補償を目的とした基準 |
---|---|
任意保険基準 | 自賠責保険ではカバーできない損害の補償を目的として、保険会社が独自に設けている基準 |
弁護士基準(裁判所基準) | 過去の裁判例をもとに算定された、弁護士や裁判所が用いる計算基準 |
弁護士基準は、これら3つの基準の中で最も賠償金が高額になりやすいとされています。
示談案の提示段階で、加害者側の保険会社は任意保険基準で賠償金を算出してくるので、弁護士に依頼すれば大幅な増額が期待できます。
適切な過失割合を算定してもらえる
弁護士に依頼すれば、適切な過失割合を算定してもらうことができます。
過失割合は、賠償金額にも大きく影響を及ぼすものです。
しかし、加害者側の保険会社から過失割合を提示されても、本当に正しいのかどうかを判断することは難しいでしょう。
その点、弁護士であれば過去の事例に基づき、正確な過失割合を算定したうえで、保険会社との交渉を進めることができます。
後遺障害等級認定の手続きを任せられる
治療を続けても症状が改善せず、症状固定と診断された場合は、後遺障害の等級認定をおこないます。
そして、認められた後遺障害の等級に応じて、慰謝料や逸失利益といった賠償金額が変動します。
そのため、適切な等級を獲得できなければ、本来受け取るべき補償を受け取れなくなってしまうのです。
弁護士に依頼すれば、後遺障害診断書の準備からほかの手続きまで、一貫して任せることができます。
認定結果に納得できない場合は、異議申立てをおこなうことも可能です。
これらの煩雑な手続きを全て一任できるのも、弁護士に依頼するメリットといえます。
交通事故の示談を進める際に知っておくべきポイント
交通事故の示談は、適切な補償を受け取れるかどうかを左右する重要な局面です。
加害者側と示談を進めるにあたり、下記2つのポイントを押さえておくようにしましょう。
- 示談のやり直しは原則認められない
- 示談拒否をすることが加害者側のメリットになってしまうこともある
示談のやり直しは原則認められない
一度加害者側との示談が成立すればその内容を取り消したり、変更したりできないということをよく理解しておきましょう。
たとえ、あとから後遺症が出てきたり、症状が悪化し後遺障害が重くなったりしたとしても、示談内容は原則として変更できません。
特別な事情がない限り、示談成立後はやり直しがきかないため、焦らず慎重に交渉を進めていくことが重要です。
示談拒否をすることが加害者側のメリットになってしまうこともある
示談を拒否することが、加害者にとってメリットになる場合もあります。
まず、示談が成立しないことで得をするのは、基本的に加害者が加入している保険会社です。
示談が成立しない限り、保険会社が賠償金を支払う必要はなく、裁判に移行してしまえば、原則として加害者本人が賠償金の支払い責任を負うことになるからです。
また、加害者が刑事上の責任に問われる場合、示談を拒否したからといって、必ずしも罪が軽くなるわけではありません。
一般的には、加害者が示談を提案した時点で情状酌量の対象になってしまいます。
示談を拒否し続けることは、被害者にとってメリットはほとんどありません。
提示された示談案に納得できない場合や相手方と直接やりとりしたくない場合などは、弁護士に依頼し示談を進め、難しければ調停や裁判で解決することが、しかるべき補償を受け取ることにつながります。
さいごに | 交通事故の示談に関するトラブルは弁護士に相談を!
交通事故の示談交渉は、被害者にとって非常に重要な局面です。
一度示談が成立すると内容を変更することは難しく、その後の人生に大きな影響を及ぼす可能性があります。
示談内容に納得できない場合は、安易に妥協せず、示談を拒否することも選択肢のひとつです。
ただし、示談に応じない場合は、賠償金の受け取りまでに時間がかかったり、時効のリスクが発生したりする可能性があることを理解しておく必要があります。
示談交渉がうまく進まずに悩んでいるときは、早めに弁護士に相談することが重要です。
弁護士に依頼すれば示談交渉を一任でき、適切な賠償金額での解決を目指すことができます。
さらに、調停や裁判などの法的手段についても、状況に応じて適切なアドバイスを受けることが可能です。
交通事故の示談に関するトラブルは一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談してみましょう。