交通事故の被害者がやるべきこと|補償される費用や利用できる保険の種類も解説


交通事故の被害者になったときは、速やかに警察に通報をしたうえで、加害者側との示談交渉に向けた準備をしなければいけません。
とはいえ、具体的に何をすればいいかわからず悩んでしまう方も多いでしょう。
そこで本記事では、交通事故の被害者になったときの対応策や注意事項、交通事故の被害者が弁護士に相談・依頼をするメリットなどについてわかりやすく解説します。
事故後の対処によっては、加害者側の保険会社に言いくるめられてしまい、不利な条件での示談が成立してしまう恐れもあるので、本記事で対処法を押さえておきましょう。
交通事故の被害者が事故後にやるべきことの流れ
交通事故の被害者になったあとの流れや、おこなうべきことを解説します。
1.警察に通報する
交通事故の被害にあったときには、その場ですぐに警察に110番通報をしてください。
車の運転者には、事故が発生したときに直ちに警察へと報告する義務が課されています。
報告を怠った場合は、3ヵ月以下の懲役または4万円以下の罰金が科される可能性もあるため、注意が必要です。
また、警察に交通事故の報告をしなければ、交通事故証明書が発行されません。
交通事故証明書は任意保険などの各種手続きで必要になるので、交通事故証明書がなければ保険金の受け取り手続きに支障をきたします。
なお、交通事故の現場では、報告義務に加えて救護義務・危険防止措置義務が課されています。
怪我人がいる場合は119番通報をして救護活動をおこなったり、自動車の部品が道路上に散乱しているときには他車の迷惑にならないように安全を確保しながら片付けをしたりしてください。
2.加害者の情報を聞き取る
警察に通報したあとは、交通事故の現場で加害者と個人情報を交換してください。
相手方の身元や連絡先などがわからないと、その後の示談交渉をスムーズに進めることができません。
たとえば、以下のような情報について必ず交換するようにしてください。
- 加害者の氏名
- 加害者の連絡先(住所、電話番号、メールアドレスなど)
- 加害者の車両に関する情報(ナンバー、車種、ボディのカラー等車体の特徴など)
- 加害者の車両の損傷の程度、損傷箇所の写真
- 加害者が契約している任意保険会社名、電話番号 など
なお、加害者側の車両の写真や動画を撮影するときには、相手方の同意を得てください。
無断で撮影する行為自体が違法になるわけではありませんが、相手方からの印象が悪くなると、今後の示談交渉が円滑に進まなくなる可能性があります。
3.被害状況を記録する
交通事故に巻き込まれたときには、被害者自身でも現場や被害の状況を記録しておくことをおすすめします。
たとえば、以下のような内容を記録しておきましょう。
- 交通事故が起きた現場の道路の状況(交差点の形状、信号・停止線・横断歩道の有無や位置関係、その他道路標識の内容など)
- 事故車両や損傷箇所の写真
- 交通事故現場で交わした加害者との会話内容のメモ・ボイスレコーダー など
これらの記録が手元に残っていれば、任意保険会社に交通事故の状況を説明しやすくなります。
また、加害者側の主張が途中で変わったときにも、発言の齟齬や矛盾を指摘して示談交渉を有利に進められるでしょう。
4.目撃者を探す
交通事故の被害者になったときは、その場で事故を目撃した人がいないか確認してください。
目撃者や救助活動を手伝ってくれた人がいる場合には、これらの人の連絡先を入手しておきましょう。
交通事故の加害者側が示談交渉の段階になって証言を変えたとしても、目撃者の証言があれば被害者側に有利な形で示談交渉を進められる可能性があります。
5.保険会社に連絡する
交通事故の被害にあったときは、警察への通報を終えたあと、できるだけ早い段階で自分が加入している任意保険会社に連絡してください。
任意保険会社には、通常365日24時間対応の緊急ダイヤルが設けられているので、保険証書に記載されている電話番号まで問い合わせましょう。
電話口のオペレーターが以下の事項を順序立てて確認してくれるので、冷静に受け答えをしてください。
- 警察に通報をしたか否か
- 交通事故の状況(日時、場所、事故の経緯・原因など)
- 怪我人の有無、救急車を手配したか否か
- 交通事故当事者が全員その場にそろっているか否か
- 自動車契約の内容(被保険者の情報(氏名・住所・電話番号など)、保険証書番号など)
- 交通事故加害者に関する情報(加害者の氏名・住所・電話番号、加入している任意保険会社名など)
- 目撃者の有無、目撃者の個人情報 など
6.病院で診察を受ける
交通事故の被害にあったときには、事故の時点で自覚症状がなかったとしても、できるだけ早いタイミングで病院を受診するようにしてください。
比較的軽微な交通事故であったとしても、交通事故から数日が経過したタイミングでむち打ちなどの症状が出るケースも多いです。
交通事故後すぐに病院を受診していなければ、仮に数日後にむち打ち症などに悩まされるようになったとしても、交通事故と症状の因果関係が否定されかねません。
結果として、通院をしたときに発生する治療費などを加害者側に請求できなくなる恐れもあるのです。
7.治療を受ける
交通事故が原因で負傷をしたときには、「完治または症状固定」の診断結果が下されるまで、必ず医師の指示どおりに通院を継続してください。
完治と症状固定のそれぞれの意味は、以下のとおりです。
- 完治:治療によって怪我や病気が完全に回復して健康な状態に戻ること
- 症状固定:これ以上治療を継続しても症状の改善・緩和を目指すことができない状態に至ること
完治・症状固定の診断を受ける前に勝手に通院を止めると、加害者に適切な治療費を請求できなくなってしまいます。
また、後遺症が残るケースにおいても適切な後遺障害等級認定が下されず、後遺症の実態に即した慰謝料額などが支払われないリスクも生じます。
なお、交通事故の被害にあったときには、整骨院やカイロプラクティックへの通院を希望する人が多いですが、最初は必ず病院を受診してください。
整骨院・カイロプラクティックでは、医学的な見地に基づく診断を受けることができません。
そのため、まずは病院を受診したあと、整骨院やカイロプラクティックなどに通う旨について、医師や任意保険会社に事前に相談するとよいでしょう。
8.後遺障害が残った場合は後遺障害等級認定を受ける
交通事故で負った怪我が完治に至らず後遺症が残ったときは、後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定を受ければ、認定された等級に応じて慰謝料や逸失利益などを請求できます。
ただし、交通事故が原因で生じた後遺症が全て後遺障害等級認定の対象になるわけではありません。
また、被害者側が希望する等級の認定を必ずしも受けられるわけでもない点に注意が必要です。
さらに、後遺障害等級認定を受けるには、後遺障害診断書などの必要書類を用意したうえで書面審査をクリアする必要があります。
適切な後遺障害等級認定を取得するには、医師の指示どおりに治療を受けながら、認定審査に必要な事項を漏れなく記載した後遺障害診断書を準備しなければいけません。
加えて、後遺障害等級認定申請には、被害者請求と事前認定の二種類の方法が用意されているので、状況に応じて適切な手段を選択する必要があります。
適切な後遺障害等級認定を獲得するには、通院をスタートするタイミングや通院頻度、治療内容や後遺障害診断書の記載内容などの配慮が求められます。
医師のなかには後遺障害関係の手続きに慣れていない人も少なくないので、可能であれば通院をスタートする段階から交通事故に詳しい弁護士からアドバイスを受けるべきでしょう。
9.加害者側の保険会社と示談交渉をおこなう
交通事故によって生じた被害項目や損害額が明らかになった時点で、加害者側の保険会社との間で示談交渉がスタートします。
たとえば、交通事故の過失割合について争う場合は、被害者側が主張する過失割合を根拠付ける証拠や加害者側が主張する過失割合を覆す証拠、基本過失割合以外の修正要素などを準備しなければいけません。
また、加害者側の任意保険会社から治療費の打ち切りを打診されたり、修理額の減額などを求められたりしたときは、被害者側が適切な治療や賠償を受けられるように交渉をする必要もあります。
任意保険会社同士が示談交渉で和解契約締結に至った場合は、示談成立後1週間~2週間で慰謝料などが支払われるのが一般的です。
一方で、示談交渉がまとまらずに紛争が民事訴訟に発展した場合、最終的に慰謝料などが支払われるまで数ヵ月~1年単位の期間を要すこともあります。
これらを踏まえると、適切な主張をおこなって早期の和解を目指すには、専門家である弁護士への相談・依頼が不可欠です。
10.示談不成立の場合はADR・裁判手続きを検討する
交通事故の当事者間での話し合いがまとまらないときには、第三者を交えて交通事故紛争の解決を目指すしかありません。
たとえば、ADR機関を活用すれば、比較的短期間で和解契約を締結できる可能性があります。
ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、ADR機関において弁護士や専門担当員が紛争当事者の間に入って話し合いをサポートし、妥協点を探りながら早期の和解契約締結を目指す手続きのことです。
交通事故事案に特化したADR機関としては、以下のものが挙げられます。
ただし、ADRの手続きはあくまでも当事者の任意の合意を前提とするものでしかあり、強制力をもってトラブルを解決に導くことはできません。
そのため、ADR機関を利用しても合意形成に至らない場合は、民事訴訟を提起して紛争の終局的解決を目指すことになります。
民事訴訟とは、法律上の権利義務に関する具体的な争訟を「判決」という形で解決する手続きのことです。
損害賠償や慰謝料の金額、過失割合、損害項目などについて争っているときも、裁判所の判決が確定した段階で解決に至ります。
ただし、民事訴訟では、訴状や証拠などの必要書類を用意するだけではなく、口頭弁論期日に出席して弁論手続きなどをおこなわなければなりません。
民事訴訟の実務に詳しくないと手続きを進めるだけでも相当の苦労を強いられるので、必ず弁護士に依頼をしてください。
交通事故発生後に、被害者が注意すべきポイント
交通事故の被害者が注意するべきポイントを5つ解説します。
交通事故の現場で、加害者と示談交渉をしたり金銭を受け取ったりしない
交通事故の現場で加害者側から解決金を手渡されたり、解決方法について何かしらの打診をされたりするケースは少なくありません。
しかし、事故の現場で加害者側と紛争の解決方法について何かしらの取り決めをしたり、お金を受け取ったりするのは厳禁です。
たとえば、交通事故の直後に加害者側から金銭を受け取ってしまうと、いざ示談交渉を開始しようとした途端、「すでに示談金は支払い済みだから別途治療費や慰謝料などは支払わない」と主張されて、適切な賠償額を請求できなくなる可能性があります。
また、「お互いに不注意があったから穏便に解決をしましょう」という会話をボイスレコーダーで録音されていると、「被害者本人が自分の過失を認めた」と主張されて不利な過失割合が認定されかねません。
そのため、交通事故の現場では、警察や任意保険会社への連絡、連絡先の交換など、必要最低限の行為をおこなうにとどめることが大切です。
事故の解決に踏み込む内容については、後日保険会社や弁護士に任せるようにしてください。
けがが軽傷でも「人身事故」として届け出る
交通事故の被害にあったときには、可能な限り「人身事故」として届け出をするのが大切です。
そもそも交通事故は、人身事故と物損事故に分類され、それぞれで以下のように取り扱いが異なります。
事故の種類 | 自賠責保険 | 請求できる損害 |
---|---|---|
物損事故 | 適用されない | ・修理代など、物に関して生じた損害のみ |
人身事故 | 適用される | ・修理代など、物に関して生じた損害 ・治療費や怪我の精神的苦痛に対する慰謝料 |
交通事故については、人身事故として扱うほうが、適用される保険や請求できる損害の面でメリットがあります。
「軽傷だから大丈夫」「特に痛みはないから怪我はない」と安易に判断するのではなく、できる限り人身事故として届け出をするようにしてください。
なお、物損事故として届け出た交通事故を途中で人身事故に切り替えることも可能です。
ただし、その場合は警察で手続きが必要なほか、事故から病院を受診するまでの期間が空いてしまうと切り替え手続きを受け付けてもらえない可能性もあります。
適切な治療費や慰謝料を支払ってもらうためにも、はじめから人身事故として処理してもらうのがよいでしょう。
治療に関することは医師の指示に従う
交通事故による怪我で通院する場合は、必ず医師の指示にしたがってください。
たとえば、通院頻度や通院回数、自分でおこなうケアの方法など、医師の指示を無視すると、治療が順調に進まない可能性があります。
前向きに治療する意思がないと判断されると、かかった治療費を請求できなくなる恐れがあるので注意しましょう。
また、交通事故の怪我が完治せずに後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定申請をしなければいけません。
しかし、症状固定の診断を受ける前に治療を辞めてしまうと、適切な後遺障害等級の認定が下りない可能性があります。
適切な慰謝料額・損害賠償額を受け取るほか、後遺障害等級の認定を受けるためには、医師の指示に従って治療に専念しましょう。
加害者側の任意保険会社の言いなりにならない
加害者側の任意保険会社から示談案が提示されても、その内容の言いなりになるのは厳禁です。
加害者側の任意保険会社は、加害者側の証言などを前提とするため、加害者に有利な示談条件を提示してくることがほとんどです。
被害者側にとって不利な過失割合や慰謝料額について、言いなりになってしまうと、適切な賠償金を受け取れなくなってしまいます。
加害者側の任意保険会社は、中立的な立場の存在ではなく「加害者の味方」です。
加害者側の任意保険会社から何かしらのアプローチがあったとしても、言いなりになるのではなく、自分が加入している保険会社や弁護士に相談をして、対応についてアドバイスをもらうべきでしょう。
治療費打ち切りを打診されても安易に応じない
交通事故後に通院を継続していると、加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがあります。
もちろん、治療費打ち切りの連絡がきた時点で完治や症状固定に至っているのなら、打ち切りに同意をしても問題ありません。
しかし、治療を継続している場合、安易に治療費の打ち切りに応じるのはNGです。
加害者側の任意保険会社は、負担する治療費の金額を引き下げる目的で打ち切りの打診をしているにすぎません。必要な治療を受けているのなら、加害者側の保険会社からの打ち切りの打診に応じることなく、医師の指示どおりに治療を継続しましょう。
ただし、加害者側の保険会社から打ち切りについて打診があった以上、相手方の意向を完全に無視することは避けるべきです。
医師に治療継続の必要性を判断してもらったうえで、加害者側の保険会社に対して治療費の支払い延長に関する交渉をおこないましょう。
交通事故の被害者が損害賠償請求できる主な費用
交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償請求をおこなうことによって金銭的な補償を受けられます。
ここでは、物損事故・人身事故のそれぞれについて請求可能な損害項目について解説します。
物損事故の場合
物損事故の被害者になったときには、以下の損害賠償項目について加害者に対して損害賠償請求ができます。
項目 | 内容 |
---|---|
修理代 | 車両に生じた損傷を修理するために要する費用のこと。 修理代は無制限に認められるわけではなく、原則として交通事故当時の車両の時価額までの修理代だけが賠償項目として算入できる。 |
買い替え費用 | 自動車を買い替えるために要する費用のこと。 登録手数料、廃車費用などが含まれる(ただし、自賠責保険料などは算入不可)。 |
代車使用料 | 修理期間、買い替えまでの期間、レンタカーを使用したときに要する費用のこと。 代車使用料は無制限に請求できるわけではなく、代車使用の必要性(使用目的など)や代車使用料の相当性(期間、代車のグレードなど)が認められる範囲に限られる。 |
レッカー代・引き揚げ費用 | 交通事故現場から修理工場などに事故車両を移動させるときのレッカー費用のこと。 任意保険のロードサービスなどを利用すれば無料になることが多い。 |
格落ち損害(評価損) | 事故歴・修理歴がある車両は中古自動車市場での販売価格が落ちるため、この下落分を損害額として計上できる場合がある。 |
休車損害 | 交通事故が原因で営業車などを使用できなくなったケースにおける「当該車両を事業活動に使用したら得られたはずの営業利益」のこと。 トラック、バス、タクシーなどで問題になる賠償項目。 |
保管料 | 修理をするべきか買い替えをするべきかを決定するまでの間、事故車両を修理工場などで保管してもらうために要する費用のこと。 |
その他物損費用 | 交通事故が原因で衣服・貴金属・スマートフォンなどが破損したときに要する修理代や買い替え費用などのこと。 |
なお、物損事故には自賠責保険が適用されないため、これらの賠償項目は「加害者側の任意保険もしくは加害者本人」から支払ってもらう必要があります。
加害者本人が任意保険未加入の場合、加害者本人に対して示談交渉などの法的措置をとる必要があるので、弁護士に相談・依頼をすることを強くおすすめします。
人身事故の場合
人身事故の被害者になったときは、「物損事故の損害項目」に加えて、以下の損害について加害者に対する賠償請求が可能です。
項目 | 内容 |
---|---|
入通院慰謝料 | 交通事故の怪我で生じた精神的損害に対する慰謝料のこと。 1日だけの通院でも請求可能。 |
後遺障害慰謝料 | 交通事故の後遺障害が原因で生じた精神的損害に対する慰謝料のこと。 後遺障害等級認定の認定等級によって請求できる金額が異なる。 |
死亡慰謝料 | 交通事故で被害者が死亡したときに生じる精神的苦痛に対する慰謝料のこと。 被害者が死亡しているため、家族が代わりに請求する。 |
治療費 | 交通事故で負った怪我を治療するために要する費用のこと。 診察料、手術費、投薬料、応急手当費、薬代など、交通事故と因果関係が認められる怪我を治療するために要した実費は全て賠償範囲に含まれる。 |
付添看護費 | 医師からの指示に基づき、近親者やヘルパーなどが通院に付き添ったときに発生する費用のこと。 |
通院交通費 | 通院するために要する費用のこと。 原則として公共交通機関の利用料で算出するが、自家用車のガソリン代、タクシー代などで算出することも可能。 |
器具・装具費 | コルセット、松葉杖、車いす、眼鏡、コンタクトレンズ、義肢など、交通事故が原因で生じた怪我の治療などに要する費用のこと。 |
入院雑費 | 入院をするときに要する費用のこと。 |
葬儀費用 | 死亡事故における通夜・葬儀などの法要費用、墓石や仏壇の設置費用などのこと。 全額が認められることは少なく、弁護士費用を基準にしても原則として上限150万円程度が目安。 |
休業損害 | 交通事故で負った怪我などが原因で仕事を休まざるを得なくなったときの減収分のこと。 給与所得者・自営業者だけではなく、専業主婦や学生などについても休業損害を観念できる。 |
後遺障害逸失利益 | 交通事故の後遺障害が原因で減ってしまう生涯収入のこと。 |
死亡逸失利益 | 交通事故で死亡したことが原因で得ることができなくなった生涯収入のこと。 |
物損事故に比べると、人身事故は損害賠償請求額が高額になることが多く、精神的損害・財産的損害を算出するのにも手間がかかります。
また、加害者側との示談交渉を進めながら、同時に治療やリハビリに力を入れる必要もあるため、精神的にも負担がかかってしまうでしょう。
そのため、人身事故の被害者になったときには、交通事故に詳しい弁護士の力を借りるのがおすすめです。
弁護士に交渉や手続きを任せられれば、被害者は治療に専念することができます。
交通事故の被害者が使える保険の種類
交通事故の被害にあったときには、各種保険から金銭的な補償を受けることができます。
ここでは、被害者側が利用できる保険の種類について解説します。
加害者の保険
交通事故の被害者に生じた損害は、加害者が加入している自賠責保険・任意保険から支払われるのが一般的です。
まず、自賠責保険は全ての車両に加入が義務付けられている強制保険なので、交通事故被害者は加害者の自賠責保険から必ず保険金を受け取ることができます。
ただし、自賠責保険は人身事故被害者を最低限補償する目的で定められた制度であるため、物損のみの事故では補償がありません。なお、稀に自賠責に加入していないケースもあります。
また、死亡保険金3,000万円、後遺障害保険金3,000万円、傷害保険金120万円という上限額が設定されているため、事故の規模次第では、自賠責保険だけでは全ての損害額が補填されない可能性もあるでしょう。
次に、加害者側が任意保険に加入している場合は、自動車保険から保険金が支払われます。
ただし、保険会社や保険商品によっても補償内容は異なるため、物損事故・人身事故で生じた被害額が全額補填されるとは限りません。
そのため、交通事故の被害者になったときには、加害者側がどのような任意保険に加入しているかをよく確認するのが大切です。
示談交渉の過程で加害者側の保険内容を確認し、可能な限り補償を受けられるように交渉を進めましょう。
被害者自身の保険
被害者にも過失割合が認められる場合や、加害者が任意保険に加入していない場合は、被害者が加入している保険から補償を受けることができます。
また、治療を受けるときは健康保険を利用できるほか、業務中の交通事故の場合は労災保険が適用される場合もあります。
事故の被害者になった場合は、自分や家族が加入している自動車保険の補償内容をよく確認するようにしてください。
なお、自動車保険を利用すると、翌年以降の自動車保険料が増額される点に注意が必要です。
たとえば、軽微な物損事故で修理代が少額の場合、自動車保険を使うのではなく、自分で負担をしたほうが最終的な金銭負担が少なく済む可能性もあります。
保険を使うかどうかで迷った場合は、保険会社の担当員にシミュレーションをしてもらったうえで、アドバイスを得るとよいでしょう。
交通事故で家族が亡くなった場合に遺族が対応するべきこと
ここでは、交通事故の被害者が死亡したときに遺族が対応するべきことを解説します。
葬儀・法事における加害者への対応
被害者本人が亡くなった場合、葬儀や法事などをおこなわなければいけません。
交通事故の場合、加害者本人や代理人が葬儀・法事への参列を希望する場合があります。遺族側の意向で参列を辞退して欲しいのなら、加害者側にその旨を伝えましょう。
なお、加害者側の参列を認めるとしても、香典の受け取りについては注意してください。
香典が示談金だと判断されると、その後の示談交渉が困難になる可能性があるからです。
通夜・葬儀の場で加害者側から香典を受け取るときには、あくまでも香典であり示談金とは別物である旨を明確にしておきましょう。
また、あまりにも高額の香典を差し入れられたときには、受け取りを拒否するなどの対応をしたほうが賢明です。
警察の捜査や刑事裁判に対する対応
被害者死亡の交通事故では、加害者側に刑事責任を問うことができます。
刑事事件では、逮捕・勾留・起訴・判決の全段階において、「被害者側の処罰感情」が刑事処分の判断要素のひとつとなります。
そのため、捜査機関の事情聴取や刑事裁判への出廷が必要なときには、誠実な姿勢で対応してください。
相続人の確定
被害者本人が死亡したときは、被害者本人に代わって相続人が損害賠償請求などの民事手続きに対応する必要があります。
また、財産を相続するためにも、速やかに相続人を確定させなければなりません。
なお、死亡事故の示談交渉・民事訴訟は相続人がおこなうことも可能ですが、弁護士に任せることもできます。
弁護士に依頼をすれば、交通事故関係の処理に加えて、遺産相続問題も丁寧に処理してくれるでしょう。
加害者側の保険会社と示談交渉
死亡事故では、亡くなった方の四十九日が過ぎたタイミングで、加害者側の保険会社と示談交渉がスタートするのが一般的です。
死亡事故は慰謝料・逸失利益が高額になるため、加害者側の保険会社はできるだけ示談金を引き下げようと交渉してくる可能性が高いです。
また、ご家族が亡くなった状況で、加害者側と事故処理について話し合いを進めるのは精神的な負担も大きいでしょう。
精神的な負担を避けつつ、被害に対して適切な補償を受けるためには、弁護士に依頼をして示談交渉・民事訴訟などの措置に対応してもらうのが適切といえます。
弁護士に依頼をすれば加害者側との交渉窓口になってくれるので、被害者側の遺族は精神的な負担を大幅に軽減できるはずです。
交通事故の被害者が利用できる相談窓口
交通事故の被害者になったときには、加害者側の任意保険会社と示談交渉などを進める必要があります。
ただし、加害者側の保険会社はできるだけ自分たちに有利な示談条件での合意を迫ってくる点に注意しなければいけません。
交通事故の被害者側は、不利な示談条件を強要されないために、以下のような相談窓口を積極的に活用してください。
被害者側が交通事故関連の知識を備えておくことで、加害者側の保険会社との間で冷静に示談交渉を進めることができるでしょう。
相談窓口 | 相談できる内容・受けられる支援 |
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法律事務所 | 法律相談だけではなく、示談交渉や民事訴訟を依頼できる。 ただし、相談料、着手金、報酬金などの弁護士費用が発生する点に注意が必要(費用は法律事務所によって異なる)。 |
日弁連交通事故相談センター | 交通事故関係の民事紛争について、電話相談・面談相談・示談あっせん・審査などのサービスを提供する窓口。 |
医療安全支援センター | 交通事故後に入通院をしている段階で疑問・不安を抱いたときに相談できる窓口。 |
そんぽADRセンター | 損害保険会社との示談交渉が成立しないときや、保険会社の対応に問題があるときに相談できる窓口。 苦情の受付だけではなく和解案のあっせんなどにも対応可能。 |
法テラス | 経済的な理由が原因で弁護士・司法書士にアクセスできない人を対象に、無料法律相談や弁護士費用立替制度を提供している。 |
交通事故相談所 | 各都道府県、政令指定都市などに設置されており、交通事故をめぐるさまざまなトラブル(示談交渉の進捗、過失割合に関する争訟、保険会社からの圧力など)に対して、専門の相談員がアドバイスを提供してくれる。 |
自治体の法律相談窓口 | 各自治体が用意している法律相談窓口。 開催日時などはお住まいの自治体まで要確認。 |
交通事故の被害者が、弁護士に相談・依頼することが強く推奨される理由
交通事故の被害者になったときには、弁護士への相談・依頼が推奨されます。
交通事故トラブルを得意とする弁護士の力を借りることによって、以下のメリットを得られるからです。
- 「弁護士基準」が適用されるので、慰謝料額などの増額を期待できる
- 適切な後遺障害等級認定を得やすくなる
- 示談交渉や民事訴訟の対応をほとんど全て代理してくれる
- 個別の交通事故の状況を踏まえて、被害者側に有利な過失割合を引き出してくれる
- 治療費の打ち切りなどにも冷静に対応してくれる
- 慰謝料請求、損害賠償請求などの交通事故対応だけではなく、相続問題や刑事手続きなどにも幅広く対応してくれる
このなかでもとくに注目するべきポイントは「慰謝料額などの増額」です。
一般的に、任意保険会社同士の示談交渉では「任意保険基準」が適用されるので、慰謝料額が低額に抑えられてしまいます。
しかし、「弁護士基準」の慰謝料が高額なため、被害者側に有利な条件での合意形成を目指しやすくなるでしょう。
弁護士への依頼によってどれだけ慰謝料額の増額を期待できるかについては、以下のシミュレーターをご活用ください。
【参考】交通事故の慰謝料計算機 | ベンナビ交通事故
さいごに | 交通事故の被害者になったときは専門家のサポートが必要不可欠
交通事故の被害者になった場合、何をしたらいいかわからなかったり、精神的に参ってしまったりして悩んでしまう方も多いでしょう。
被害者がいち早く日常生活に戻るためには、自分一人で戦おうとするのではなく、弁護士のサポートを受けることが大切です。
弁護士は被害者の立場に立ち、有利な条件での示談成立に向けて尽力してくれます。最近では、交通事故の無料相談に対応している弁護士も多いので、まずは一度相談してみるとよいでしょう。
なお、ベンナビ交通事故では、交通事故トラブルを得意とする弁護士を多数紹介中です。
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