遺産相続を長男に独り占めされた!相続人がとるべき対応と弁護士に相談するメリット


「両親の遺産を長男が独り占めしようとしている…。」「話し合いにならず、自分にはどうすることもできない…。」と、途方に暮れていませんか?
実は、相続で長男が遺産を独り占めすることは認められないケースがほとんどです。
独り占めしようとする相手に対して適切に対処すれば、自分の取り分を確保できます。
本記事では、長男の独り占めにどう対処すればよいのか、具体的な解決策を紹介します。
また、弁護士に相談することで得られるメリットについても詳しく解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
法律上、遺産相続で長男が独り占めをすることは認められていない!
かつての日本では、戦前の民法に基づき、長男がすべての遺産を相続する「家督制度」が存在していました。
しかし、時代にそぐわないとされ、戦後の法改正によって廃止されることとになりました。
よって、現在では長男が遺産を独占することは、原則として認められていません。
現行の民法では、相続人同士が遺産を一定の割合で分け合うことが規定されています。
例えば、遺言書が存在する場合には、その内容に従って遺産分割をおこないます。
一方、遺言書がない場合には、民法第900条で定められた「法定相続分」に基づき、法定相続人に遺産が分配されるのが基本です。
法定相続人の状況 | 法定相続分 | |||
---|---|---|---|---|
配偶者 | 直系卑属 (子・孫など) |
直系尊属 (父母・祖父母など) |
兄弟姉妹・甥姪 | |
配偶者のみ | 全て | |||
配偶者と子 | 1/2 | 1/2 | ||
配偶者と直系尊属 | 2/3 | 1/3 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 | ||
直系卑属のみ | 全て | |||
直系尊属のみ | 全て | |||
兄弟姉妹のみ | 全て |
配偶者がいる場合は、必ず法定相続人になります。
そのほかの血族には以下のように相続順位がつけられており、最も順位の高い血族だけが法定相続人になることができます。
- 第一順位:直系卑属(子・孫など)
- 第二順位:直系尊属(父母・祖父母など)
- 第三順位:兄弟姉妹・甥姪
つまり、配偶者がいる場合には配偶者と高順位の血族、配偶者がいない場合には高順位の血族だけが遺産を相続することになります。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
遺産相続は相続人同士の話し合いで自由に決められますが、法定相続分をベースに相続するケースが一般です。
そのため、ほかに法定相続人がいるにも関わらず、長男が遺産を独り占めすることは基本的に認められません。
例外的に遺産相続で長男が独り占めできるケース3選
法定相続分が規定されているとはいえ、特定の条件下では長男が遺産を独占できるケースも存在します。
ここでは、主なケースを3つ解説します。
1.相続人が長男しかいない場合
被相続人の配偶者がすでに亡くなっているなど、相続人がもともと長男一人しかいない場合は、当然ながら遺産は全て長男が取得します。
具体的には、「被相続人に配偶者がおらず、子ども長男だけ」のケースが該当します。
また、ほかに相続人がいたとしても以下のような理由で相続権を喪失した場合は、長男が唯一の相続人となるため遺産を全て取得することになります。
- ほかの相続人全員が相続放棄を選択した
- ほかの相続人が被相続人に虐待や著しい侮辱などをおこなって、相続権を剥奪された
2.遺産分割協議で相続人全員の合意を得た場合
相続人が複数いる場合でも、遺産分割協議で法定相続人全員が「長男に全ての遺産を譲る」と合意をしたとき長男が全ての遺産を取得します。
遺産分割協議とは、相続人同士で遺産の分け方について話し合い、決定する手続きのことです。
遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、特定の相続人に遺産を集中させたり、特定の財産のみを特定の相続人が引き継いだりすることも可能になります。
もっとも、相続人の一人が反対すれば遺産分割協議は成立しないため、特定の相続人が遺産を独占することはありません。
3.長男に全財産を相続させる旨の遺言があった場合
被相続人が生前に「全財産を長男に相続させる」と明記した有効な遺言書を作成していた場合、被相続人の意思として尊重され、法定相続分に優先する効力を持ちます。
ただし、ほかの相続人の「遺留分」に注意する必要があります。
遺留分とは、相続人が相続によって最低限確保できる財産の割合を指します。
法律上、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、法定相続分の2分の1または3分の1が遺留分として保障されています(民法第1042条)。
被相続人が遺言書や生前贈与によって遺留分を侵害した結果、遺留分を侵害された相続人は、生前贈与を受けた人や遺産を受け取った人に対して、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することが可能です(民法第1046条)。
よって、「遺産を長男だけに相続させる」とする内容の遺言書が存在していたとしても、ほかの相続人は長男に対して遺留分侵害額請求をすることができます。
また、長男を含め、相続人全員が合意すれば、遺言書に記載された方法以外で遺産分割をおこなうことも可能です。
遺産相続で長男が独り占めされた際にほかの相続人がとるべき対応
長男が遺産を独占しようとしている場合、ほかの相続人は以下のような対策を講じることが重要です。
1.被相続人の銀行口座を凍結させる
口座名義人が亡くなると自動的に口座が凍結されるのではなく、金融機関が名義人の死亡を確認した時点で口座が凍結されます。
よって、被相続人が亡くなったら、まずは銀行口座を速やかに凍結する手続きを進めましょう。
口座を凍結することで、長男を含む特定の相続人が被相続人の銀行口座から無断で資金を引き出すことを防止できます。
口座凍結の手続きには、以下の書類が求められる場合があります。
ただし、必要な書類は金融機関ごとに異なるため、事前にホームページや電話で確認しておきましょう。
【口座凍結手続きに必要な書類】
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本
- 申請者の戸籍謄本
- 申請者の顔写真付き本人確認書類
なお、被相続人がどの金融機関と取引していたのかわからない場合は、まず金融機関の特定作業から始める必要があります。
自宅で通帳やキャッシュカードが見つかれば特定するのは比較的容易ですが、すでに長男などのほかの家族が保管している可能性も考えられます。
もし通帳やカードが見つからない場合は、以下のような手がかりを探してみてください。
【金融機関を特定するための手がかり】
- 金融機関から受け取った粗品
- 金融機関から送られてきた郵便物
- 金融機関から届いたメール
- パソコンやスマートフォンにインストールされているアプリ
なお、被相続人が複数の口座を所有している場合には、全ての銀行に問い合わせをおこない、遺産全体の状況を確認することが大切です。
資産の全体像を把握することで、適切な分配や協議が可能になります。
2.取引履歴や残高証明書を取得する
長男による遺産の独り占めを防ぐには、取引履歴や残高証明書を取得することも重要です。
取引明細書は、過去の口座取引履歴を一覧化した書類です。
通帳が見つからない場合には、取引明細書を取得することで、生前の財産隠しや使い込みなどを確認できる可能性があります。
残高証明書は、特定の日付時点の口座残高を証明する書類です。
取得することで、財産隠しや不正な引き出しを発見できる場合があります。
例えば、亡くなった日付時点のものと申請日のものをそれぞれ取得すれば、死亡後に口座から資金が引き出されたかどうかを確認できます。
仮に長男が遺産を使い込んでいた場合には、取引明細書や残高証明書を証拠に返還を求めるようにしましょう。
3.相続問題が得意な弁護士に相談・依頼する
相続人間での話し合いは感情的な対立を引き起こすことが多く、当事者だけで解決するのは難しい場合があります。
このような場合には、相続問題を得意とする弁護士に相談・依頼するのもよいでしょう。
例えば、次男や三男などほかの相続人が、長男に遺産を独占やめるよう主張しても耳を貸さない場合があります。
こうした状況でも、第三者である弁護士が長男に対して直接話をすれば、専門家の意見であれば聞いたほうがよいと、長男が態度を変える可能性があります。
長男による相続財産の独り占めを弁護士に相談・依頼するメリット
遺産相続において相続人の一人が財産を独占しようとしている場合、弁護士に相談することでさまざまなメリットを享受できます。
ここでは、主なメリットを解説します。
1.遺言書の有効性について判断してくれる
被相続人が「長男に全ての遺産を相続させる」といった内容の遺言書を残していた場合でも、遺言書が法律で定められた記載内容や形式に従っていなければ、無効となります。
遺言書が無効になる主な原因は、以下のとおりです。
- 作成日が記載されていない
- 署名や押印がない
- 内容が不明確である
- 偽造されたものである
- 被相続人が認知症を抱えているなど、遺言能力がない状態で作成している
法律的な知識がなければ、遺言書の有効性を適切に判断することは難しいでしょう。
安直な判断で長男に意見をぶつけると、余計なトラブルに発展するおそれもあります。
そのため、遺言書の有効性に疑義が生じた場合は、弁護士に相談・依頼し、法的な観点から確認してもらうことが重要です。
2.遺産分割協議などの相続手続きを任せられる
遺産分割協議においては、遺産分割の対象となる財産の範囲や、使い込まれた財産の返還などについて相続人間で交渉をおこない、協議をまとめる必要があります。
しかし、相続人同士の意見が対立したり、感情的な衝突が起きたりすることも少なくありません。
こうした状況では、第三者である弁護士を代理人として間に入ってもらうことで、円滑に話し合いを進められます。
また、弁護士に依頼しておけば、適切な条件で遺産分割協議をまとめられることもできるでしょう。
3.遺留分侵害額請求や損害賠償請求などを任せられる
遺留分を侵害された相続人は、ほかの相続人に対して遺留分侵害額請求ができます。
ただし、遺留分侵害額請求権は「相続開始と遺留分侵害の事実を知った日から1年」の期間制限があるのでスピード感のある対応が求められるうえ、具体的な遺留分の計算は複雑です。
弁護士に依頼することで、遺留分の計算から相手方への遺留分侵害額請求の手続きまでを一任できます。
また、長男が被相続人の財産を使い込んでいた場合などは、不当利得返還請求や損害賠償請求を検討しなければなりません。
弁護士に依頼することで、これらの法的手続きを代行して、相続人の権利を守るための最大限のサポートをおこなってくれます。
さいごに|ほかの相続人に遺産を独り占めされたら早めに弁護士へ相談を!
相続人が遺産を独り占めした場合、感情的な対立が深まりやすく、冷静な話し合いが難しくなる場合があります。
遺留分侵害額請求や損害賠償請求をするにあたっても、個人で対応するのは困難を伴うでしょう。
相続人間で「トラブルが発生しそう」と感じた場合には、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
法律の専門家である弁護士の力を借りて、遺産相続問題を円滑かつ適切に解決しましょう。