株式の相続に必要な手続きは?証券会社別に具体的な手続きと問い合わせ窓口を解説


親が亡くなって遺産を整理している際、相続財産のなかに株式が含まれていることが発覚し、どう対応したらいいかわからない方も多いのではないでしょうか?
株式の相続は、預貯金などの相続とは異なる手続きが必要なため、正しい知識を身に着けておくことが大切です。
そこで本記事では、相続財産に上場株式・非上場株式が含まれていた場合の手続き方法について詳しく解説します。
証券会社別に必要な手続きや問い合わせの窓口も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
被相続人が所有していた株式は相続財産に含まれる!
結論からお伝えすると、被相続人が保有している株式は全て相続財産に含まれます。
東京証券取引所の発表によると、2024年時点での個人株主の数は10年連続で増加し、7,000万人を超えていることがわかっています。
こういった背景からも、亡くなった両親や親族が株式投資をおこなっているケースは多く、相続の際に株式の相続が問題になる可能性は高いです。
非上場株式も相続財産に含まれる
株式には、証券会社を通して取引される上場株式以外に、親族や知人などの会社に直接出資するという形で株を売買する「非上場株式」も含まれます。
亡くなった親族が生前に「株をやっている」と発言していた場合は、一般的には上場株式の取引を指しているケースがほとんどです。
上場株式については預金通帳の履歴や証券会社からの通知などから株式を保有していることを見つけられますが、非上場株式については証券取引所を介していないため、そもそもの発見が遅れるおそれがあります。
生前に「どこかの会社に出資をしている」という話をしていた場合は、非上場株式を何らかの形で保有している可能性が高いため、故人の遺した荷物や書類を入念にチェックしておきましょう。
上場株式を相続する際の大まかな流れ|5ステップ
ここからは、上場株式を相続する際の流れについて詳しく解説します。
上場株式を相続する際は、大まかに以下の5ステップに沿って手続きを進めましょう。
- 上場株式の有無を確認する
- 上場株式の評価額を計算する
- 遺産分割協議で相続方法を決める
- 株式の名義変更・移管をおこなう
- 相続税の申告・納付をおこなう
なお、非上場株式の相続については上場株式とは異なる手続きが必要になるため、以下の記事を参考にしてください。
【関連記事】相続財産に非上場株式があったら?株式の評価方法や名義変更の流れを解説
1.上場株式の有無を確認する
相続が発生した場合、まず故人が所有していた上場株式の有無を確認する必要があります。
上場株式を所有しているかどうかは、故人の郵便物や証券会社からの取引明細書、口座管理通知などの書類を確認することで把握できます。
加えて、故人の金融機関口座から証券会社への振込履歴がないか調査することも有効です。
また、証券会社に直接問い合わせることで、故人名義の口座が存在するか確認するのもよいでしょう。
故人が利用していた証券会社がわからない場合は、証券保管振替機構(通称:ほふり)に問い合わせれば取引していた証券会社を見つけられます。
株式が複数の証券会社に分散している場合もあるため、漏れがないよう慎重に調査を進めることが重要です。
2.上場株式の評価額を計算する
遺産分割の準備として、上場株式の相続発生日の評価額を計算しましょう。
また、複数の銘柄を保有している場合は、それぞれについて個別に評価額の計算が必要です。
評価額の算出にあたっては、証券会社から提供される残高証明書を活用すると効率的ですが、正確な評価額を計算するためには、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
3.遺産分割協議で相続方法を決める
上場株式をどのように分けるかは、遺産分割協議で決定します。
株式は現金や不動産と異なり、価格が変動する資産であるため、分割方法を慎重に決めなければなりません。
なお、株式の分割方法としては、以下の3つの選択肢が挙げられます。
- 現物分割:株式をそのまま引き継ぐ方法
- 換価分割:株式を売却し、その売却代金を分割する方法
- 代償分割:株式を相続した人が、ほかの相続人に代償金を支払う方法
現物分割で株式を引き継ぐ場合は、株数が適切に割り切れずに中途半端になる場合もあるため、銘柄ごとに取得者を決めるなど、柔軟な対応が必要になるでしょう。
また、遺産分割協議で決まった内容については、分割方法や銘柄の配分などの詳細を遺産分割協議書に明記し、全相続人が署名・押印するようにしてください。
分割内容について相続人同士で合意できない場合は、家庭裁判所で調停をおこなうことも選択肢の一つです。
4.株式の名義変更・移管をおこなう
遺産分割協議が終わり、誰がどの株式を相続するかが決まったら、証券会社で株式の名義変更や移管手続きをおこないます。
この手続きには、相続人の本人確認書類や遺産分割協議書、戸籍謄本などが必要となるケースが一般的です。
また、株式の移管手続きをおこなう際には、相続人が新たに証券口座を開設しなければならない場合もあります。
手続きが完了すると、相続人の証券口座に株式が反映され、以降の配当金や株主優待なども新名義人に対して支払われるようになります。
名義変更や移管が完了するまでには、数週間から1ヵ月程度の時間がかかるケースが多いでしょう。
5.相続税の申告・納付をおこなう
株式の相続が完了したあとは、相続税の申告と納付をおこないます。
相続税の申告は、相続発生を知った日の翌日から10ヵ月以内におこなう必要があります。
この際、上場株式の評価額や他の相続財産をもとに相続税額を計算します。
相続税の計算では、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が適用されるため、課税対象は控除額を超える部分のみです。
また、納税方法は現金一括納付が原則ですが、納税資金が不足する場合には、延納や物納を検討しましょう。
期限内に申告・納付をおこなわないと、延滞税や加算税が発生するため、税理士に相談のうえで早めに対応することが重要です。
【証券会社別】株式を相続する際の必要手続きと問い合わせ窓口
上場株式を相続する際に必要な手続きや準備するべき書類は、証券会社ごとに少しずつ異なります。
ここでは、以下の代表的な5つの証券会社について、株式を相続する際の手続きと問い合わせ窓口を紹介します。
- 野村證券
- 大和証券
- SMBC日興証券
- みずほ証券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
1.野村證券
野村證券での手続きの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 取引店に連絡・資料取り寄せ
- 必要書類の確認・準備
- 野村證券へ提出
- 相続手続き完了
野村證券での相続手続きをする場合は、故人が取引をしていた口座の野村證券の店舗に連絡すれば、相続対象の株式情報を確認できます。
「野村證券で取引をしていたことはわかったが、取引店や口座番号がわからない」といった場合は、ご意見・苦情ダイヤル(0120-56-8604)に問い合わせましょう。
窓口の指示にしたがって、故人の戸籍謄本および住民票除票の写しや相続人の戸籍謄本などを提出すれば、口座情報を教えてもらえます。
また、相続手続きの際、基本的には以下の書類が必要になります。
- 被相続人の死亡診断書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本および印鑑証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 野村證券所定の書類 など
野村證券の株式を相続するためには、野村證券の口座開設が必要となるため、現在口座を持っていない方は開設手続きも一緒にしておきましょう。
【参考】相続のお手続き - 野村證券
2.大和証券
大和証券での相続手続きの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 大和証券の本・支店へ連絡
- 用意する書類の確認
- 必要な書類の記入・提出
- 移管の手続き
- 手続き完了
故人が大和証券で取引をしていたことがわかった場合は、大和証券の本・支店またはコンタクトセンター(0120-010101)に問い合わせましょう。
相続トータルサービスを利用すれば、相続発生後のスケジュールや戸籍謄本など必要書類の集め方など、専門の相続コンサルタントによるサポートが受けられます。
必要書類は状況によって異なりますが、基本的には以下の書類を求められるでしょう。
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本および印鑑証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 検認調書
- 大和証券所定の書類 など
証明書類の提出および大和証券所定の書類の記入・提出が済んだら、順次株式の移管手続きがおこなわれます。
通常移管は3日〜2週間程度の期間がかかりますが、資産の内容によっても異なります。
【参考】相続手続きのご案内 - 大和証券
3.SMBC日興証券
SMBC日興証券に口座を持っている方が亡くなり、相続人となった場合はSMBC日興証券のホームページからインターネット上で相続手続きが可能です。
インターネットでの手続きで故人の口座を止められるほか、その後の資産の引き継ぎについても書類の郵送は不要で、簡単に手続きを進められます。
4.みずほ証券
みずほ証券での相続手続きの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 相続手続きの依頼
- 担当者から手続きに関して案内を受ける
- 戸籍謄本等書類の提出
- みずほ証券所定書類の提出
- 相続財産の振替
- 手続き完了
みずほ証券では、故人の取引店舗に手続きを依頼する必要があります。
取引店舗がわからない場合は、最寄りのみずほ証券の店舗または、はじめてダイヤル(0120-555-324)に問い合わせましょう。
みずほ証券での相続手続きに必要な書類は状況によって異なります。
一例として、遺言書が存在し、その中でみずほ証券の資産を引き継ぐ方が決定している場合は、以下の書類が必要です。
- 遺言書の写し
- 遺言執行者選任の審判書の写し
- 亡くなられた方の死亡の事実を確認できる書類の原本(除籍謄本、住民票除票、死亡診断書など)
- 遺言執行者の「印鑑証明書」の原本
また「相続財産等の処理にかかる届出書」など、みずほ証券所定の書類への記入・提出も必要となります。
【参考】相続手続き完了までのお客様と当社の流れについて - みずほ証券
5.三菱UFJモルガン・スタンレー証券
三菱UFJモルガン・スタンレー証券での相続手続きの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 被相続人の取引店に連絡
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券から送付される相続手続書の返送
- 遺産分割協議書など必要書類を用意
- 準備した必要書類および三菱UFJモルガン・スタンレー証券から送付される相続資産受取依頼書などを返送
- 相続資産の振替
故人が三菱UFJモルガン・スタンレー証券に口座を持っていた場合は、取引店舗への問い合わせから手続きを開始します。
取引店舗が不明な場合は、相続事務センター(0120-78-3234)に連絡しましょう。
取引店に連絡したあとは、基本的には担当者から送付される書類に必要事項を記入し返送する流れです。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券から送られてくる書類以外に自分で準備する書類は、遺言書の有無などによって異なります。
担当者に確認するのが確実ですが、一例として以下のような書類の準備が必要になるでしょう。
- 分割協議書
- 法定相続人全員分の印鑑証明書
- 戸籍謄本一式
- 相続手続代理人の委任状
上場株式を相続する際に知っておくべき2つの注意点
上場株式を相続する際は、以下の2点に注意しましょう。
- 準確定申告が必要になる可能性がある
- 株式の名義変更を放置すると不利益が生じる可能性がある
それぞれについて、詳しく解説します。
1.準確定申告が必要になる可能性がある
上場株式を相続する際、準確定申告が必要となる可能性があります。
準確定申告とは、被相続人が生前に得ていた所得に対する所得税を、相続人が代わりに申告して納税する手続きです。
被相続人が株式の売買で収益を得ていた場合や、配当金を受け取っていた場合、それらの所得が課税対象となるため、申告によって所得に応じた税額を相続人が納めなくてはいけません。
準確定申告は、被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、原則として亡くなってから4ヵ月以内におこなう必要があります。
準確定申告を怠ると、延滞税や加算税が発生する可能性があるため、注意が必要です。
例外として、被相続人が特定口座を利用していた場合には、確定申告が不要なケースもあります。
しかし、一般口座で取引をおこなっていた場合や配当金があった場合は、準確定申告が必要になる可能性が高いです。
また、複数の相続人が存在する場合は、相続人全員が連名で申告をおこなうため、事前に遺産分割協議などで手続きを円滑に進められる準備をしておくことが重要です。
2.株式の名義変更を放置すると不利益が生じる可能性がある
上場株式の名義変更を放置すると、相続人にさまざまな不利益が生じる可能性があります。
株式の相続は、名義変更をすることによってはじめて有効になります。
そのため、相続人でも名義変更をしていないと、株式に関する配当金を受け取る権利や、株主としての議決権を得られません。
配当金が受け取れない場合、未受領の配当金は会社側で3年〜5年間ほど保管されますが、その期間を過ぎると権利が失効してしまいます。
また、株式を売却したい場合も、名義が被相続人のままだと取引ができず、資産を現金化できないという問題が生じるでしょう。
さらに、名義変更を長期間放置すると、相続税の申告や納税にも影響を与え、追加の延滞税や加算税が課されるリスクがあります。
名義変更を放置しているとさまざまな不利益が生じるため、できるだけ早く手続きをおこなうことが重要です。
株式の相続に関してよくある質問
さいごに、株式の相続に関するよくある質問とその回答を紹介します。
Q.相続は株式と現金のどちらが得?
相続財産の中に株式があった場合は、株式のまま相続するか換金してから現金として相続するか悩む方も多いはずです。
株式と現金のどちらを相続するのが得かは、株式以外も含めた相続財産の内容や相続人の目的によって異なります。
株式を相続すると、値上がり益や配当金といった収益が期待できる一方、株価が下落するリスクや経済状況に左右される不確実性も伴います。
また、株式の相続では名義変更などの手続きが必要となり、手間がかかる場合があるでしょう。
一方、現金を相続すれば、自由に使える資金を得られるため、生活費や他の投資に活用しやすい利点があります。
しかし、現金は株式とは異なり額面100%が課税対象となるため、相続税負担が大きくなりやすいデメリットがあります。
株式をそのまま相続するか、現金にしてから相続するかはどちらもメリット・デメリットがあるため、弁護士や税理士などの専門家の助言を受けながら、将来的な資金計画やリスクなどを考慮して決定するべきです。
Q.紙の株券がある場合の相続手続きは?
2009年以降、上場株式は全て電子化されているため、紙の株券を所有していても取引はできません。
遺産の中に紙の株券がある場合、まず証券会社に相談し、株券を電子化する手続きが必要です。
手続きの流れとしては、株券の発行元である証券会社で相続人が口座を開設し、相続することになります。
Q.株式に未受領の配当金があった場合はどうなる?
被相続人が受け取る予定だった配当金が未受領の場合、相続人がその配当金を請求する権利を持ちます。
配当金の請求手続きは、株式を管理している証券会社や株式発行会社の窓口でおこないましょう。
この際、相続関係を証明する戸籍謄本や遺産分割協議書、被相続人の死亡届出受理証明書などの書類が必要となります。
未受領の配当金は、会社法などに基づき一定期間保管される仕組みになっていますが、その期間を過ぎると請求権が失効します。
請求可能な期限は一般的に3年〜5年程度です。
相続手続きの早い段階で未受領の配当金があるか確認し、期限内に請求することが重要です。
さいごに|株式の相続は弁護士に相談することでスムーズに進められる!
本記事では、株式の相続について詳しく解説しました。
株式の相続手続きにおいては、株式のまま相続するのか現金化して相続するのかなど、複数の選択肢があるうえ相続手続きのために用意する書類も多いです。
また、株式の相続に伴う相続税の申告には10ヵ月以内という期限があるなど、相続手続きはできる限り速やかにおこなう必要があります。
株式の相続手続きは複雑になりやすいため、弁護士などの専門家に相談して進めるのがおすすめです。