土地の時効取得手続きと費用|流れや必要な条件を詳しく解説


長年自分が管理している土地がある場合、時効取得によって所有権を自分に変更できないかと考える方は多いでしょう。
しかし、時効取得にはさまざまな費用がかかるため、手続き前に確認しておくことが大切です。
なお、自分で手続きするなら費用を抑えられますが、弁護士に依頼したときは100万円以上かかるケースもあるため、費用が高額になる可能性があることを念頭に置いておきましょう。
本記事では、土地の時効取得手続きと費用、流れや必要な条件について解説します。
時効取得が「難しい」と言われる理由や依頼すべき専門家についても解説しているので、参考にしてください。
土地の時効取得をするための手続きの流れ
土地を時効取得する際は、以下の流れで手続きします。
- 所有者や相続人などに時効の援用を主張する
- 登記手続きをおこなう
それぞれの手順について、順番に解説します。
1.所有者や相続人などに時効の援用を主張する
土地を時効取得する場合、まず時効を援用し、土地の所有者やその相続人などに時効が完成したことを主張します。
時効の援用とは、時効が完成したことで利益を受ける人が、時効が完成した旨を主張する手続きのことです。
時効を過ぎても、援用しなければ時効の効果が生じることはありません。
たとえ時効を過ぎていても、時効を援用しなければいつまで経っても土地は他人の所有物のままなので注意しましょう。
時効を援用する方法には、裁判上もしくは裁判外の手続きをおこなう方法がありますが、おすすめは土地の現所有者に対して時効援用通知書を送付する方法です。
時効援用の通知は口頭や普通郵便でもおこなえますが、内容証明郵便を用いて送付するのが一番安全でしょう。
内容証明郵便であれば、通知を送ったことを証明できるため、あとになって「そんなものは受け取っていない」という反論されても対応することができます。
時効援用通知書の作成や送付は自分でもできますが、弁護士に依頼することも可能です。
また、土地の所有者がどこの誰かわからない場合は、法務局で登記事項証明書を取得し、登記の状態を調べましょう。
登記事項証明書は、480円~600円で取得できます。
取得方法 | 手数料 |
窓口請求・窓口受取 | 600円 |
オンライン請求・郵送 | 500円 |
オンライン請求・窓口受取 | 480円 |
【参考】登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です|法務局
なお、内容証明郵便を送付しても所有者が応じなければ、所有権移転登記請求訴訟を提起し、訴訟の中で援用したことを主張しましょう。
2.登記手続きをおこなう
時効取得が成立したら、所有権移転登記を申請しましょう。
所有権移転登記とは現在の所有者から新しい所有者に名義を変える手続きのことです。
所有権移転登記をおこなわないと、別の第三者などに先を越されてしまい、所有権を獲得できない恐れがあります。
たとえば、時効取得した土地を土地の前所有者が第三者に売却してしまい、その第三者が自分よりも先に所有権移転登記をしてしまえば、せっかく時効取得が認められても所有権を失ってしまうのです。
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
なお、所有権移転登記は、前所有者と新所有者が共同で申請するのが原則です。
ただし、所有権移転登記請求訴訟で時効取得が認められ、所有権移転登記を命じる判決を得たときは、単独で申請することができます。
土地の時効取得の手続きにかかる費用
土地を時効取得する際の手続きには、以下の費用がかかります。
- 登録免許税|登記手続きで必要
- 不動産取得税|土地の評価額に対してかかる
- 一時所得にかかる所得税・住民税|確定申告が必要
- 訴訟費用 | 訴訟を起こす場合
- 弁護士費用・司法書士費用 | 手続きを依頼する場合
それぞれの費用について、詳しく見ていきましょう。
登録免許税|登記手続きで必要
所有権移転登記を申請する際には、登録免許税がかかります。
金額は、土地の固定資産税評価額に応じて異なります。
登録免許税の計算方法は以下のとおりです。
固定資産税評価額×2% |
たとえば、土地の評価額が1,000万円だった場合の登録免許税は20万円です。
納付方法は以下の4種類から選ぶことができます。
- 金額分の収入印紙を申請書に貼り付けて納付する
- 銀行・郵便局で現金納付し領収証書を申請書に貼り付ける
- 電子納付(ペイジー・ペイジーダイレクト)
- クレジットカード納付
上記のうち、書面申請の場合は収入印紙か現金納付で支払います。
オンライン申請であれば、電子納付かクレジットカード納付です。
収入印紙は郵便局やコンビニだけでなく、法務局の証明書発行窓口でも購入することができます。
【参考】【令和6年1月より運用開始】登録免許税の納付について
不動産取得税|土地の評価額に対してかかる
土地を時効取得すると、不動産取得税もかかります。
金額は、土地の固定資産税評価額に応じて異なり、計算によって算出可能です。
固定資産税評価額×3% |
ただし、取得した土地が宅地評価土地で令和9年3月31日までに取得したものであれば、固定資産税評価額を2分の1の金額で計算できます。
宅地評価土地とは、宅地や宅地並みの課税がされている宅地以外の土地のことを指します。
たとえば、で令和9年3月31日までに取得した宅地評価土地の評価額が1,000万円だった場合の不動産取得税は15万円です。
1,000万円×1/2×3%=15万円 |
一時所得にかかる所得税・住民税|確定申告が必要
土地を時効取得した場合は、一時所得を得たことになるため、所得税・住民税が課税されます。
ほかの所得との合計が50万円を超えるときは確定申告も必要です。
計算方法は以下のとおりです。
時効取得した土地の時価ー時効取得にかかった経費ー特別控除額(最大50万円) |
ただし、課税対象になるのは上記の金額の2分の1です。
以下で、課税対象となる金額の計算例を見てみましょう。
【前提】
・時効取得した土地の時価:1,000万円 |
【課税対象額の計算】
・一時所得額=1,000万円ー100万円ー50万円=850万円 |
上記の一時所得の課税金額に、給与所得や事業所得といったほかの所得を足し、総所得金額を算出します。
さらにそこから基礎控除や所得控除を差し引いた金額が、最終的な課税対象額です。
実際の納税額は、課税対象額に対して税率をかけて算出します。
税率については、国税庁のホームページで確認してください。
なお、住民税は納付書が自宅に届きます。
自治体が計算するため自分で計算する必要はありません。
【参考】No.1493 土地等の財産を時効の援用により取得したとき|国税庁
訴訟費用 | 訴訟を起こす場合
裁判外で時効を援用しても土地所有者が応じず、所有権移転登記請求訴訟に発展した場合、以下の訴訟費用が必要です。
- 収入印紙代
- 郵便切手代
収入印紙の金額は、訴額に応じて以下のように定められています。
訴額(土地の固定資産税評価額の2分の1) | 収入印紙代 |
100万円以下の部分 | 10万円ごとに1,000円 |
100万円超500万円以下の部分 | 20万円ごとに1,000円 |
500万円超1,000万円以下の部分 | 50万円ごとに2,000円 |
1,000万円超10億円以下の部分 | 100万円ごとに3,000円 |
【参考】別表(民事訴訟費用に関する法律別表第1(第3条、第4条関係))|裁判所
郵便切手代は裁判所によって異なります。
裁判所のホームページから、被告の住所地か土地の所在地を管轄する地方裁判所を検索して確認しましょう。
なお、訴訟費用は勝訴すれば被告である前所有者に請求できますが、訴訟を提起した時点では原告である新所有者が納付しておく必要があります。
弁護士費用・司法書士費用 | 手続きを依頼する場合
時効取得の手続きを弁護士や司法書士に依頼したときは、弁護士・司法書士費用がかかります。
それぞれの専門家に対する依頼費用の相場は、以下のとおりです。
弁護士費用 (時効取得の手続き全般) |
・相談料:30分5,500円程度(無料の場合もあり)
・着手金:20万円~100万円程度 |
司法書士費用 (所有権移転登記手続き) |
3万円~5万円程度 |
弁護士も司法書士も、料金設定は事務所によって異なります。
費用が気になる場合は、複数の事務所を比較してみるとよいでしょう。
必要書類の取得費用 | 全てあわせて数千円程度
時効取得の所有権移転登記に必要な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 登記識別情報通知または権利証
- 登記原因証明情報
- 前所有者の印鑑証明書
- 新所有者の住民票または印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書
- 登記事項証明書
- 委任状(専門家に代理申請を依頼する場合)
- 登録免許税相当額の収入印紙
相続財産である土地を時効取得する場合は、さらに以下の書類も必要です。
- 遺産分割協議書または遺言書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
- 被相続人の戸籍附票または住民票除票
- 相続関係説明図
- 相続人全員の戸籍謄本(現在)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 土地を相続する人の住民票
必要書類の取得費用は、全てあわせても数千円程度におさまるのが一般的です。
ただし、相続関係が複雑で戸籍を大量に取得する必要があるときなどは、戸籍の取得代に数万円かかるケースもあります。
なお、住民票や戸籍、固定資産税評価証明書などの発行手数料は以下のとおりです。
- 住民票・住民票除票:200円~300円
- 戸籍謄本(現在):450円
- 除籍謄本・改製原戸籍謄本:750円
- 戸籍附票:200円~400円
- 固定資産税評価証明書:300円程度(登記用を無料で取得できる場合もあり)
- 登記事項証明書:480円~600円
- 印鑑証明書:200~300円
発行手数料は、市区町村によって異なります。
事前にホームページで確認しておくとよいでしょう。
「時効取得は難しい」と言われる理由
時効取得は「難しい」と言われることが多い手続きです。
その理由は、以下4つの要件にあります。
【土地の時効取得が認められる4つの要件】
要件 | 概要 |
所有の意思 |
その土地を所有者として排他的に支配しようとする意思のこと。 |
平穏かつ公然の占有 | その土地の占有を強迫や暴力によって開始しておらず、隠してもいないこと。 占有中も状態の維持が必要だが、前後で占有の証拠があれば占有の継続になる。 |
一定期間の占有 | 他者の土地と知らずに占有していたなら10年(善意無過失)、知りながらの占有は20年間(悪意)の占有期間が必要。 |
時効の援用 |
土地の取得には、時効の援用が必要。 |
上記の要件のうち、よく問題になるのは所有の意思です。
ここでは、「時効取得は難しい」と言われる理由を解説します。
所有の意思が認められにくいため
時効取得が難しいと言われる大きな理由は、所有の意思が認められにくいことです。
所有の意思を認めてもらうには、所有の意思をもって占有している「自主占有」の状態であることが条件ですが、自主占有に該当するかは外型的・客観的に判断されます。
そのため、本人に所有の意思があってもそれが自主占有とみなされるとは限りません。
たとえば、自分の家であるかのように20年以上居住している家でも、その家が借家なら本人には借りている自覚があり、通常であれば賃貸契約書も存在するため、客観的に見て自主占有とはいえないでしょう。
相続財産を時効取得しようとしているケースでも、たとえば遺産分割協議が完了していない親の土地をほかの相続人と共有状態のまま使い続けていると、自主占有にあたらない可能性が高いでしょう。
いくら自分の土地と思って利用していても、その人はほかの相続人にも権利があるとわかっているはずあり、ほかの相続人との共有地を管理しているだけにすぎないと判断されるのです。
例外的に、自分が単独で相続するに違いないと思わざるを得ない事情があるなら、自主占有が認められることもあります。
しかし、極めてまれな例であり、ただ長年占有しただけでは認められないと思っておいたほうがよいでしょう。
相続登記をするには当事者全員の協力が必要となるため
相続登記に当事者全員の協力が必要になる点も、時効取得が難しいと言われる理由の一つです。
相続財産を単独で取得するために必要な遺産分割協議には、相続人全員が参加し、相続財産の分け方について全員が合意しなければなりません。
一人でも参加しなかったり、参加しても反対していたりすると、協議は成立せず相続登記もおこなえません。
そのような場合は弁護士に相談し、対応を依頼するのが一般的ですが、それでもスムーズにいかないケースは少なくないでしょう
当事者に協力してもらえない場合は訴訟で解決する必要があるため
相続登記は、当事者に協力してもらえなければ手続きをおこなえません。
協力してもらえないなら訴訟を提起し、時効取得の成立を主張していくことになります。
訴訟の結果、時効取得の確定判決が得られれば土地の単独登記が可能ですが、訴訟では訴状を作成したり、大量の書類を用意して裁判所に提出したりといった作業が発生するため、非常に負担が大きいでしょう。
土地の時効取得の手続きを依頼できる専門家
土地の時効取得に関する手続きを依頼できる専門家は、弁護士か司法書士のどちらかです。
どちらに依頼すべきかは、争いの有無を基準に決めるとよいでしょう。
- 争いがないなら司法書士へ
- 当事者間で争いがあるなら弁護士へ
それぞれについて、以下で解説します。
争いがないなら司法書士へ
土地の所有者やほかの相続人ともめていないなら、司法書士に依頼するとよいでしょう。
司法書士は、訴訟に関する書類の作成をメインに依頼可能です。
不備のない書類を作成し、スムーズに手続きを進めるサポートをしてもらえるでしょう。
また、弁護士と比べると依頼費用が安く済むのも魅力です。
なお、一部の司法書士なら和解交渉、訴訟の代理業務もできますが、以下のように対応できる範囲が限られます。
- 訴訟の代理業務:簡易裁判所でおこなう140万円以下の案件のみ
- 和解交渉:140万円以下の案件のみ
訴訟の対象が土地の場合、評価額が140万円以下というのは考えにくいため、争いがあるケースで司法書士に依頼しても、訴訟の代理人になってもらえない可能性が高いでしょう。
そのため、土地の所有者やほかの相続人ともめているときは弁護士への相談がおすすめです。
当事者間で争いがあるなら弁護士へ
土地の所有者やほかの相続人ともめているときは、弁護士に相談しましょう。
弁護士であれば、訴訟に関する業務も全て対応してもらえます。
ただし、法律上は弁護士も登記手続きが委任できるものの、事務所によっては取り扱っていない場合やあまり得意ではないケースもあります。
通常は提携している司法書士に弁護士経由で依頼してくれたり紹介してくれたりするため、自分で別途司法書士を探さなければならないケースはあまりありませんが、登記手続きにも問題なく対応してもらえる弁護士や司法書士とも提携している事務所を選んだほうがよいでしょう。
また、弁護士事務所のホームページで時効取得や相続登記に対応しているかどうかを確認することも大切です。
さいごに|土地の時効取得手続きは弁護士に相談でスムーズに!
本記事では、土地の時効取得に関する手続きや費用、流れなどを解説しました。
土地の時効取得は難しいと言われることの多い手続きです。
いくら所有の意思があっても、現在の土地所有者やほかの相続人が納得しなければ話し合いでは解決できず、当事者での解決が難しくなります。
もめそうな場合やトラブルが発生したときは、迷わず弁護士を頼りましょう。
話し合いに応じてくれなかった相手が、弁護士の話なら聞いてくれたというパターンもあるため、手続きをスムーズに進められる可能性があります。
ただし、土地の評価額が高額な場合や複雑なケースなどは、弁護士費用がかさむこともあります。
費用が気になるなら、無料相談で費用について細かく確認したり複数の事務所を比較したりしたうえで決めることをおすすめします。
争いがなく、当事者間の話し合いで解決できそうなときは、司法書士に登記申請を依頼するとよいでしょう。