自己破産の手続きを自分で進めるには?注意すべきリスクと手続きのポイントなどを解説


自己破産を検討しているものの、弁護士や司法書士に依頼すると費用がかかるため「できるだけ自力で手続きを進めたい」と考えている方もいるのではないでしょうか?
自己破産の手続きは、弁護士や司法書士に依頼せずに自分で進めることも可能です。
ただし、手続きに不備があると、裁判所からの免責許可が下りず、結果的に時間や労力が無駄になってしまうかもしれません。
そのため、もし自分で手続きを進める場合は手順をしっかりと理解して、正確に進めることが重要です。
本記事では、自己破産の手続きの流れや必要となる書類について、詳しく解説します。
自分で手続きを進める際のポイントや注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
なお、確実に自己破産を成功させるには、自分で手続きをするのではなく、弁護士へ相談・依頼するのがおすすめです。
自己破産の手続きは自分でできる!ただし、割合は1%にも満たない
自己破産の手続きは自分だけでおこなうこともできますが、多くの必要書類を準備する必要があったり、裁判所とのやり取りも複雑だったりと、容易ではありません。
日本弁護士連合会が実施した「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、調査対象となった1,240人のうち、弁護士・司法書士などの申立代理人をつけずに自己破産の手続きをおこなった人はわずか9人(不明・アンケートへの記入漏れの14人は除いています。)で、割合でみると0.73%にとどまりました。
調査結果からも、自力で手続きを進めるのは現実的ではない、ということがわかるでしょう。
もし今、自分だけで自己破産手続きを進めようとしている場合は、まずは一度弁護士へ相談してみてください。
相談だけなら無料のケースも多いので、弁護士に自分で手続きできるかどうかを確認してみるとよいでしょう。
自己破産の手続きを自分でやる前に知っておくべき3つのデメリット
自己破産手続きは弁護士に依頼するケースがほとんどだという現状を踏まえたうえで、自分で手続きを進めることに決めた場合、以下の3つのデメリットが発生することを理解しておきましょう。
1.手続きに多くの手間と時間がかかる
自己破産の手続きを自分で進める場合、書類の準備や手続きに膨大な時間がかかることを覚悟しておきましょう。
多くの人にとって自己破産は初めての経験になるので、必要な書類の種類や記入方法を一から学ぶ必要があります。
専門的な知識や経験がない状態で、内容を理解するのは容易ではありません。
また、申し立て後に書類の不備や不足が見つかると、裁判所から追加の書類提出や修正を求められることがあります。
その際の対応が遅れてしまうと、手続きが遅延し、借金の免責が先延ばしになってしまうリスクもあるのです。
2.管財事件で手続きが進む可能性がある
自己破産の手続きを自分で進める際、「管財事件」として取り扱われる可能性が高くなります。
管財事件になると、裁判所に納める費用が高額になるうえ、手続きも長引くため、結果的に弁護士に依頼したほうが費用や時間を節約できるケースもあります。
なお、自己破産の手続きは同時廃止事件、管財事件、少額管財事件の3種類に分類されます。
同時廃止事件 | 管財事件 | 少額管財事件 | |
---|---|---|---|
適用されるケース | 債務者が売却して債権者に分配できるような財産を持っていない場合 | 債務者が一定の価値がある財産を所有しており、それを売却して債権者に分配できる場合 | 管財事件に該当するケースで、債務者が弁護士に手続きを依頼している場合 |
裁判所費用 | 1万円〜3万円程度 | 50万円~ | 20万円程度 |
期間 | 3ヵ月~6ヵ月程度 | 6ヵ月~1年程度 | 3ヵ月~6ヵ月程度 |
なかでも手続き費用が安く、期間が短い「同時廃止事件」として取り扱われるためには、財産状況や破産の経緯、債権者に関する詳細な調査をおこない、配当すべき財産がないことを証明しなければなりません。
しかし、これを自分だけで準備するのは非常に難しいのが現実です。
また、弁護士に依頼しない場合には、「少額管財事件」として取り扱われることはありません。
その結果、「管財事件」として処理され、高額な裁判所費用がかかる可能性が高いでしょう。
3.免責許可を受けられない可能性がある
自己破産を自分で申し立てると「免責不許可事由」に該当し、かつ「裁量免責」が認められないことが多いので、免責許可を受けられなくなる可能性が高まります。
つまり、自己破産に失敗する可能性が高くなるのです。
そもそも自己破産の制度は、できる限り公平に借金を整理することを目的の一つとしています。
そのため、以下の「免責不許可事由」に該当するような、自己破産制度の趣旨にそぐわない行為が認められると、免責を受けることは難しくなります。
- 浪費やギャンブルによって多額の債務を負った
- 自分の財産を故意に隠した、または他人に贈与した
- 借金があることを隠して、新たに借り入れをおこなった
もっとも、免責不許可事由がある場合でも、裁判所の裁量によって免責が認められる「裁量免責」が適用されることがあります。
裁量免責が認められるかどうかは、免責不許可事由の悪質性、破産者の反省の程度、手続きへの協力姿勢、経済的更生の可能性などが総合的に判断されます。
弁護士に依頼すれば、免責不許可事由に該当するかどうかの判断や、裁量免責を得るための主張について専門的なアドバイスを受けることが可能です。
一方で、自己破産の手続きを自分で進める場合、これらの判断や主張を自分でおこなわなければならないので、免責許可を受けられる可能性が低くなってしまうでしょう。
自己破産の手続きを自分でおこなう際の流れ|6ステップ
自己破産の手続きを自分でおこなう際は、以下の手順に沿って対応しましょう。
- 自己破産で必要な書類を準備しよう
- 管轄の地方裁判所に対して申し立てをしよう
- 裁判所で面接(破産審尋)を受けるようにしよう
- 破産事件受理証明書を債権者に対して送付しよう
- 裁判所で面接(免責審尋)を受けるようにしよう
- 裁判所から免責許可決定通知書を受け取ろう
ここからは、それぞれの手順について詳しく解説します。
1.自己破産に必要な書類を準備しよう
自己破産の申し立てを自分でおこなう場合、申立書などの書類の提出が必要です。
自己破産では、一般的に以下のような書類が必要になります。
【自己破産をする際の必要書類一覧】
- 申立書
- 陳述書
- 住民票・戸籍謄本
- 給与明細など収入が分かる書類
- 預貯金通帳の取引明細のコピー
- 源泉徴収票・課税(非課税)証明書・確定申告書など
- 居住地が分かる証明書
- 資産目録
- 債権者一覧表
- その他、事情を説明する上で必要な書類
ただし、必要書類は裁判所によって異なる場合があるため、管轄の裁判所に事前に確認したうえで、準備を始めましょう。
2.管轄の地方裁判所に対して申立てをしよう
必要書類一式を揃えたら、管轄の地方裁判所に提出して、自己破産の申し立てをおこないます。
申立書類が問題なく受理されると、「破産事件受理証明書」を申請できます。
この証明書は、「4.破産事件受理証明書を債権者に対して送付しよう」の際に必要なので、忘れずに申請しておくのがよいでしょう。
なお、申請は裁判所の窓口または郵送でできますが、それぞれ以下のものが必要となります。
窓口申請 | 150円の収入印紙 運転免許証・保険証などの身分証明証 認印 |
---|---|
郵送申請 | 150円の収入印紙 110円切手(返信用) 返信先の記載のある返信用封筒 |
3.裁判所で面接(破産審尋)を受けるようにしよう
申立書類が裁判所に受理されると、裁判官との面接(破産審尋(はさんしんじん))が実施されます。
破産審尋では、どのような経緯で借金を負ったのか、現在の生活状況はどうかなどを詳しく聞かれます。
裁判官は、聞き取った情報をもとに、申立人の財産状況や借金の背景を総合的に判断し、手続きを「同時廃止事件」とするか、それとも「管財事件」として進めるかを決定します。
同時廃止事件となれば、手続きが短期間で終結することが多いです。
一方で、管財事件となれば、手続き完了まで時間がかかり、発生する費用も増えてしまいます。
なお、自己破産を弁護士に依頼した場合は、破産審尋も弁護士が対応してくれるので、申請者本人が対応する必要はありません。
4.破産事件受理証明書を債権者に対して送付しよう
裁判所に事件が受理されたら、取得した破産事件受理証明書のコピーを債権者へ送付しましょう。
弁護士に自己破産を依頼した場合には、受任から数日以内に弁護士が債権者へ「受任通知」を送付するのが通常です。
この通知を受け取った債権者は、法律上、取り立て行為ができなくなります。
しかし、自分で自己破産を申し立てた場合には、自動的に取り立てが止まるわけではありません。
何も対応しなければ、債権者からの督促が続く可能性があります。
そのため、破産事件受理証明書を自分で債権者に送付して、取り立ての停止を求める必要があるでしょう。
5.裁判所で面接(免責審尋)を受ける
申し立てから1ヵ月〜2ヵ月後には、裁判官との面接(免責審尋(めんせきしんじん))を受けます。
免責審尋では、同じ時期に申し立てをおこなった複数の申立人が集まり、集団審尋という形式で手続きが進められることが一般的です。
ただし、債務者審尋の際に裁判官と直接面接をおこなった場合は、その場で免責に関する審尋も併せて実施されることが多いので、免責審尋はおこなわれないのが通常です。
免責審尋では、担当裁判官から以下のような事項について質問されます。
あらかじめ質問事項を確認しておいたうえで、裁判官の質問に対して簡潔かつ誠実に答えるようにしましょう。
- 氏名や住所、本籍地に誤りや変更がないか
- 提出した書類に間違いがないか
- 免責制度について正しく理解しているか
- 生活の立て直しに向けた意識や今後の方針
6.裁判所から免責許可決定通知書を受け取ろう
免責が決定すると、数週間以内を目途に、裁判所から「免責許可決定通知書」が届きます。
免責許可決定通知書とは、裁判所が免責を許可したことを正式に示す書面です。
生活保護申請時など、自己破産が認められた事実を証明しなければならないタイミングに使用できます。
ただし、免責許可決定通知書は、免責が許可されたことを知らせる書面にすぎず、借金の支払い義務が正式になくなるのは、免責許可決定通知書が届いてから1~2週間後の免責許可決定が確定したときからです。
免責の確定前に債務が消滅するわけではないので、勘違いしないようにしましょう。
自己破産を自分でおこなったあとに必要になる手続き
裁判所から免責を認めてもらえた場合でも、別途自分でおこなうべき手続きがあります。
以下、詳しくみていきましょう。
1.免責許可決定確定証明書を発行してもらう
免責許可決定が確定すると、「免責許可決定確定証明書」を発行できるようになります。
免責許可決定確定証明書は、免責が確定したことを正式に示す書面です。
免責許可決定確定証明書には、免責の事実や免責確定日が具体的に記載されているので、免責許可決定通知書よりも証明力が強いといえます。
免責許可決定確定証明書は、主に以下のようなタイミングで使用できます。
- 自己破産後に生活保護を申請するとき
- 自己破産手続きにおいて債権者が抜けていた際、その債権者に対して免責決定の事実を示すとき
- 免責から一定期間が経過しても信用情報機関の事故情報が消えておらず、免責の事実や日時を証明して事故情報の削除依頼をするとき
ただし、債務者宛に自動的に送付される書類ではないので、自分で発行申請をおこなわなければなりません。
申請は裁判所の窓口または郵送でできますが、それぞれ以下のものが必要となります。
窓口申請 | ●150円の収入印紙 ●運転免許証・保険証などの身分証明証 ●認印 |
---|---|
郵送申請 | ●150円の収入印紙 ●110円切手(返信用) ●返信先の記載のある返信用封筒 |
2.宅建士など一部の資格について再登録をする
破産手続開始決定が下されると、以下のような一定の職業の資格を一時的に使用できなくなります。
そのため、自分で再登録しなければなりません。
- 宅地建物取引士、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士などの士業
- 警備員
- 後見人・後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人
- 公証人
なお、一部の資格については、自己破産を申し立てたことを管轄機関に届け出る義務があるので、忘れないようにしましょう。
たとえば、宅地建物取引士の場合、破産手続開始決定後30日以内に、登録している都道府県知事に届け出をしなければなりません。
届け出をすることで、一時的に資格の登録が取り消されます。
ただし、取得した資格そのものが無効になるわけではないので、試験を受け直す必要はありません。
免責許可決定が確定したあとに再登録申請をすれば、資格を使用できるようになるのが通常です。
自己破産の手続きを自分でおこなう際の2つのポイント
弁護士に依頼せず、自分で自己破産の手続きをおこなう場合、手続きの過程で何らかのミスをしてしまう可能性が高いです。
とくに、以下で紹介する2つのポイントを念頭に置きながら、手続きを慎重に進めましょう。
1.裁判所のWebサイトなどでよく情報を確認する
申請に必要な書類は、個々の状況や裁判所の運用によって異なりますが、裁判所のWebサイトにアクセスすれば、状況別の必要書類や、書類作成時の注意点を確認できます。
逐一確認しながら、書類に不備が生じないように注意しましょう。
2.法テラスなどの無料相談を使って弁護士に相談する
費用に余裕がない方でも、法テラスなどの無料相談を利用すれば、弁護士に無料で相談できます。
手続きを自分で進める中で疑問や不安が生じた際には、弁護士から適切なアドバイスを受けることで、安心して手続きを進められるでしょう。
以下、自己破産について弁護士と無料で相談できる主な窓口を4つ紹介するので、ぜひご活用ください。
【自己破産について弁護士と無料相談ができる窓口】
- ベンナビ債務整理:債務整理を得意とする弁護士を、地域別に簡単に検索できるWebサイト
- 法テラス(日本司法支援センター):一定の収入・資産基準を満たした場合に無料で弁護士へ相談できる窓口
- 弁護士会の法律相談センター:全国の弁護士会が運営する相談窓口
- 自治体の無料法律相談:都道府県や市区町村などの自治体が定期的に開催する相談会
さいごに|自己破産を自分でおこなうかどうかは慎重に判断しよう
自己破産の手続きは自分で進めることもできますが、時間や手間がかかるうえに、同時廃止事件や少額管財事件として扱われにくくなるリスクがあります。
最悪の場合、自己破産自体に失敗する可能性もあるでしょう。
実際、弁護士に依頼せずに自己破産手続きを進めた人の割合はかなり少ないので、本当に自分だけで自己破産の手続きおこなってよいのか、改めて慎重に判断しましょう。
それでも、自分でおこなうと決めた場合は、手続きの流れや注意点をしっかりと確認したうえで、正確に進めるのが大事です。
そして、手続きの途中で少しでも疑問点が生じれば、早めに弁護士に相談してください。
費用が気になるときは、「ベンナビ債務整理」などの無料相談窓口を利用して、自分にあった弁護士を見つけましょう。