遺留分侵害額請求に審判はある?協議や調停で合意に至るためのポイント
被相続人の配偶者、子ども、直系尊属といった法定相続人には、最低限の遺産を受け取れる「遺留分」が認められています。
また、もし遺留分を侵害されてしまった場合は、遺留分権利者はその侵害している人たちに対して協議、調停、訴訟といった方法で「遺留分侵害額請求」をおこなうことができます。
この記事では、遺留分侵害額請求を検討している方に向けて、遺留分侵害額請求の基礎知識、審判手続きの有無、主な請求手続き、協議や調停で合意に至るためのポイントなどを解説します。
また、遺留分侵害額請求をする際にも弁護士に相談・依頼することはできるため、弁護士に任せるメリットや探し方についても紹介します。
遺留分侵害額請求の場合は審判に移行しない
家庭裁判所の裁判手続きにおける審判とは、家事事件の紛争を解決するために、裁判官が当事者から提出された書類や調査官が実施した調査結果などの資料に基づいて、判断・決定する手続きのことを指します。
審判の対象となる事件は多岐にわたりますが、相続関連でいえば遺産分割、相続放棄、遺言書の検認、遺言執行者の選任などが対象となっています。
しかし、遺留分を侵害された法定相続人がその権利を回復させるために行使できる「遺留分侵害額請求」は、この審判の対象にはなっていません。
そのため、遺留分に関する協議や調停で和解に至らなかった場合は、審判には移行せずに調停不成立で終了となります。
もしその結果に不服がある場合は、地方裁判所の裁判(訴訟)に移行して争うことになるでしょう。
遺留分侵害額請求をする前に知っておくべき基本知識
遺留分とは、配偶者、子ども、直系尊属といった法定相続人に対して認められている、遺言によっても奪うことができない財産のことをいいます。
もし遺留分を侵害されてしまったら、侵害している受遺者や受贈者に対して遺留分侵害額請求権を行使することができます。
ここでは、遺留分侵害額請求権の概要と大まかな流れを確認しましょう。
遺留分侵害額請求権とは何か?
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された法定相続人が、遺留分を侵害している受遺者や受贈者に対して、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利のことです。
民法改正に伴い2019年7月1日から新しく導入された権利で、民法第1046条に規定されています。
旧法の遺留分減殺請求権では相続・遺贈された財産そのものを返還してもらうというものでしたが、新法の遺留分侵害額請求権では金銭での支払いを求めることができます。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。引用元:民法|e-Gov法令検索
遺留分侵害額請求の大まかな流れ
遺留分侵害額請求は、遺留分が侵害されていることを知ったときから1年以内に行使しないと時効が成立してしまいます(民法第1048条)。
そこで遺留分侵害額請求をする際は、一般的に内容証明郵便を使って権利を行使するという意思表示をおこないます。
その後の遺留分を回収するまでの大まかな流れは以下のようになっています。
- 遺留分侵害額請求権の行使の意思表示をする
- 協議(話し合い)により解決を目指す
- 協議でまとまらなかった場合は遺留分侵害額調停をする
- 調停でまとまらなかった場合は遺留分侵害額訴訟をする
- 遺留分を回収する
遺留分の時効については遺留分の時効はいつまで?時効が迫っているときの対処法を解説をご覧ください。
審判以外にできる遺留分侵害額請求の3つのやり方
遺留分侵害額請求には審判手続きが存在しないため、協議(話し合い)、調停、訴訟のいずれかで侵害された遺留分の回復を目指すことになります。
ここでは、それぞれの請求方法の特徴や手続きを確認しましょう。
1.協議(話し合い)
侵害された遺留分の回復を目指す場合は、まず受贈者、受遺者、その他の相続人を交えて協議(話し合い)をおこないます。
話し合いで遺留分に関する意見がまとまった際は、後からのトラブルを防止するために「遺留分侵害額についての和解書(合意書)」を作成します。
ほかのやり方と比べると、最も穏便な解決方法といえるでしょう。
2.遺留分侵害額調停
話し合いで意見がまとまらない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申し立てをおこないます。
調停とは、裁判官や調停委員が当事者双方から主張を聞いて、解決策の提示や必要な助言などをしてくれる手続きのことです。
この調停で合意が取れた際は、裁判の確定判決と同じ効果が認められる「調停調書」を作成します。
調停回数にもよりますが、決着がつくまでに平均で1年程度は必要になるといわれています。
3.遺留分侵害額訴訟
調停でも意見がまとまらなかった場合は、被相続人の住所地を管轄する地方裁判所に遺留分侵害額訴訟を提起することになります。
訴訟となった場合は、受贈者や受遺者に権利を侵害されているという証拠を用意する必要があります。
そして裁判所に権利侵害が認められれば、裁判所が相手方に対して遺留分侵害額の支払い命令を出してくれます。
裁判に発展した場合は、さらに1年程度の期間が必要になるでしょう。
審判がない遺留分侵害額請求をするときのポイント
遺留分侵害額請求には審判手続きがないため、調停が不成立になると裁判(訴訟)へ移行することになります。
訴訟になってしまうと、書面と証拠による専門手続のため、時間も労力も必要になり、大きな負担になってしまうでしょう。
そこでできる限り遺留分侵害額請求の協議や調停の段階で和解できるよう、遺留分侵害額請求をおこなうときのポイントを紹介します。
1.遺留分と侵害額などを調査する
遺留分侵害額請求をおこなう際は、必ず以下のようなことを確認しておきましょう。
万が一、以下の内容に間違いや不備があった場合は、遺留分侵害額請求が認められなくなってしまうので注意してください。
遺留分の金額の算出の際によく問題となるのは、預貯金の使途不明金、不動産の評価額、生前の贈与(特別受益)などがあります。
また、これらの事実を証明できる証拠がある場合は用意しておくことをおすすめします。
- 本当に自分が遺留分権利者であるか
- 自分の遺留分の割合はどれくらいか
- 時効期間内に請求しているか
- 請求できる侵害額はいくらか
2.文章や音声などで記録を残す
遺留分に関する協議が始まったら、そこで話し合った内容を記録に残しておきましょう。
記録の残し方にはノートに書く、ボイスレコーダーに録音するといった方法があります。
このような記録を残しておくことで後から「言った・言ってない」という水掛け論を防ぐことができます。
また、内容についても、具体的な日時、金額等数字をきちんと記載しておくことが重要です。
3.適切な妥協点を決めるようにする
遺留分を侵害されている場合、適切な妥協点を決めるのもひとつの方法です。
相手方に全ての侵害額を請求することもできますが、それで合意に至るまでには時間や手間が多くかかる可能性があります。
そこで相手方と請求金額や支払い期限などを話し合い、折り合いをつけるということも検討してみましょう。
遺留分侵害額請求は弁護士に任せるのもおすすめ
遺留分侵害額請求をする際は、弁護士に相談・依頼するとよいでしょう。
遺留分に限らず相続トラブルは感情的になりやすいため、第三者である弁護士が介入することで冷静に話し合いを進めることができます。
また、遺留分侵害額請求は調停や訴訟に発展しやすいため、そのような裁判手続きにも対応してもらえるでしょう。
遺留分侵害額請求のことを弁護士に相談・依頼したい場合は「ベンナビ相続」を利用するのがおすすめです。
「お住まいの地域」と「相談したい内容」を入力することで、お近くの相続問題を得意としている弁護士事務所を探すことができます。
初回無料相談に対応している事務所もあるため、まずは相談から始めてみるとよいでしょう。
まとめ|遺留分侵害額請求は審判以外の手続きでおこなう
遺産分割であれば、調停が不成立になれば審判へ移行します。
しかし、遺留分侵害額請求では調停が不成立になっても審判へ移行することはないため、不服がある場合は裁判(訴訟)で争うことになるでしょう。
裁判(訴訟)に発展すると時間や手間が多くかかってしまうため、できる限り協議(話し合い)や調停で和解に至るのが望ましいです。
必要に応じて弁護士に相談するなどして、納得のいく条件で和解できるように目指しましょう。