遺言と遺留分はどちらが優先されるの?侵害が発生した場合の対処法も解説
- 「遺言の内容が遺留分を侵害しているが、どちらが優先されるのだろう」
- 「遺言内容に対して遺留分を請求するには(請求されたら)どうすればいいだろう」
遺言と遺留分はいずれも遺産相続において重要であり、専門家でなければその関係性はわからないでしょう。
遺言が遺留分を侵害していた場合に、どうすればよいか迷うのは当然です。
本記事では遺言と遺留分のどちらが優先されるかや遺留分の計算方法、遺言が遺留分を侵害していたらどうすればいいかをわかりやすく解説しています。
遺留分を請求するとき(されたとき)、損をしないためには正しい知識が不可欠です。
本記事を読めば両者の関係性を理解し、遺言が遺留分を侵害していた場合に正しく対処できるようになります。
遺留分と遺言はどちらが優先されるの?
遺言の内容が遺留分を侵害していた場合、どちらが優先されるのでしょうか。
以下、遺留分と遺言の関係性について見ていきましょう。
遺言より遺留分が優先される
結論から言うと、遺言と遺留分では遺留分が優先されます。
仮に遺言の内容が遺留分を侵害していたとしても、法律で決められた割合の遺留分を請求できなくなるわけではありません。
法律では遺留分によって、相続人が取得できる最低限の遺産割合を保障しています。
被相続人の意思がまとめられた遺言でも、遺留分は否定できないのです。
遺留分を侵害する遺言書が法的に無効となるわけでもない
遺留分を侵害していたからといって、遺言書そのものが法的に無効となるわけではありません。
そのため遺留分が侵害されていたとしても、ひとまず遺言書に従い遺産が分配されることになります。
遺留分の遺産を獲得するには請求の手続きをする必要がある
相続人が遺留分を回復するには、「遺留分侵害額請求」をおこないます。
遺留分侵害額請求とは、より多くの遺産を取得し遺留分を侵害している相続人などに対し、金銭の支払いを求める制度です。
請求された側は、遺留分に相当する額の金銭を支払う義務を負います。
遺言書に「遺留分を認めない」と記載されていても遺留分の請求は可能
遺言書に「遺留分を認めない」と記載されていたとしても、遺留分が優先されるのは変わりません。
侵害された側の相続人は、遺留分侵害額請求をおこなうことができます。
相続人同士のトラブルが起こるのを避けるには遺言作成時に遺留分の考慮をすべき
遺言の内容が遺留分を侵害していると、権利を侵害された相続人が不満を持つのはいうまでもありません。
その相続人が遺留分侵害額請求をすれば、遺言によって遺産を取得した別の相続人なども不満を持ち、争いに発展することが考えられます。
このようなトラブルが発生しないように、遺言書を作成する際は遺留分の考慮をすべきです。
一方で事業承継などの目的で、特定の相続人に対して多くの遺産を渡したいと考えるケースもあるでしょう。
そのようなケースでどうすればいいかについては後述します。
そもそも遺留分でどのくらいの遺産を請求できる/される?
遺留分によって、どのくらいの遺産を請求できる(される)可能性があるのでしょうか。
まず遺留分を請求できる権利を持つ相続人は、配偶者・子どもとその代襲相続人・父母・祖父母です。
兄弟姉妹には、遺留分を請求する権利はありません。
相続人が遺留分として請求できる分の合計は、遺産のうち1/2か1/3です。
それを遺留分の権利を持つ相続人が、それぞれ権利を持つ割合だけ請求できます。
遺留分の割合を決めるのは、遺留分の権利をもつ相続人の組み合わせです。
具体的には、法律で以下のように割合が決められています。

遺留分の計算例
遺留分の計算例を見ていきましょう。
条件は以下のとおりです。
【遺留分計算の条件】
- 被相続人:父親
- 遺産総額:8,000万円
- 相続人:配偶者+子ども2人【長男・長女】
- 遺言内容:愛人に遺産の全てを相続させる
この場合、遺留分の請求ができる相続人の組み合わせが配偶者と子どもなので、相対的遺留分は以下のとおり計算できます。
| 8,000万円×1/2=4,000万円 |
この金額を、配偶者と子ども2人で請求することになるわけです。
子ども2人は、子ども分に確保された遺留分を均等に分け合うことになります。
具体的な遺留分の計算例は以下のとおりです。
- 配偶者の遺留分:4,000万円×1/2=2,000万円
- 長男の遺留分:4,000万円×1/2×1/2=1,000万円
- 長女の遺留分:4,000万円×1/2×1/2=1,000万円
上記のように長男・長女は、子どもが取得できる遺留分をさらに半分ずつ分け合っています。
配偶者・長男・長女は、それぞれ上記金額の遺留分の支払いを愛人に請求できるのです。
遺言書で自分の遺留分を侵害されたらどうすればいい?
遺言書で自分の遺留分を侵害されていたら、どうすればいいでしょうか。
以下、遺留分を請求するための流れを解説します。
侵害した相手に対し話し合いで遺留分侵害額請求をおこなう
遺留分を侵害された場合は、遺留分侵害額請求をおこないます。
遺留分侵害額請求の方法に決まりはなく、必ずしも裁判を起こす必要はありません。
まずは遺産を多く取得し遺留分を侵害していると考えられる相手に対し、話し合いで遺留分の支払いを要求します。
なお以前は遺留分の請求にあたり、金銭以外を求めることも可能でした。
しかし不動産のように分け合うのが難しい財産が請求されると、相手と対立し話し合いでの解決が難しくなるなどの問題があったのです。
そこで2019年7月に施行された遺留分侵害額請求では、相手に請求できるのは遺留分侵害額にあたる金銭だけになりました。
内容証明郵便で請求する
話し合いで相手が支払いに応じない場合は、内容証明郵便にて遺留分侵害額請求書を送りましょう。
内容証明郵便とは「いつ誰が誰にどんな内容の文書を送ったか」を、郵便局が証明してくれるサービスです。
配達証明付きにすれば、相手に届いた日時の証明も可能です。
内容証明郵便は、裁判になった際なども「相手へ遺留分侵害額請求をおこなった」という記録になります。
口頭で請求をおこなった場合と違い、相手が「そんなもの届いていない」と言い逃れすることはできません。
内容証明郵便にて遺留分侵害額請求書を送る場合は、以下を記載しましょう。
- 自分の氏名と住所
- 請求相手の氏名と住所
- 遺留分を侵害している遺言などの内容
- 相手に支払いを請求する具体的な金額
- 支払方法や振込先、支払い期限
話し合いで合意できない場合は遺留分侵害額請求調停を申し立てる
相手との話し合いで合意できなかった場合は、遺留分侵害額請求調停を申し立てます。
調停は裁判所の調停委員を介して、相手方と合意を図る手続きです。
調停委員が申立人と相手方双方の主張を個別に聞き、和解を促すための調停案を提示します。
調停では相手と直接顔を合わせるのでなく、中立的な立場の調停委員に話ができるので、冷静に意見を述べられるでしょう。
そのため当事者だけで話し合うのに比べ、合意しやすくなります。
調停で合意したにも関わらず、相手が約束通り支払わない場合は強制執行が可能です。
調停でも合意できない場合は遺留分侵害額請求訴訟を起こす
調停でも合意に至らなかった場合は、遺留分侵害額請求訴訟を起こします。
調停をせずに、最初から訴訟を起こすことも可能です。
遺留分侵害額請求訴訟では、法廷にて法律的に合理的な主張をしたり、有効な証拠を提出したりしなくてはなりません。
自分だけで有利に訴訟を進めるのが困難な場合もあるので、弁護士に相談・依頼することが強く推奨されます。
特に相手方が弁護士を立てている場合は、自分だけ弁護士なしでは不利な状況に追い込まれる可能性が高いでしょう。
遺言書が無効と主張する方法もある
遺言書自体の有効性が疑われる場合は、遺留分侵害額請求の前に遺言書の無効を主張する方法もあります。
以下に該当するケースは、遺言書を無効にすることが可能です。
- 遺言者が重度の認知症などで遺言能力がなかった
- 遺言書の様式や書き方が、民法で定められた要件を満たしていない
- 遺言書の内容が公序良俗に反している
- 詐欺や強迫によって遺言書が書かれた
- 遺言書が偽造された
遺言書を無効と主張する方法についての詳細は、以下記事でまとめています。
興味があればあわせて参照ください。
【関連記事】
遺言書が無効になるケースを紹介|無効にしたくない/したい場合の対策・注意点を解説
遺言無効確認請求訴訟とは?無効できるケースや裁判手続きの流れを解説
遺言書に反して遺留分を請求されたら?
反対に遺言書に反して、自分が遺留分を請求されたらどうすればいいでしょうか。
以下、基本的な対処法を解説します。
請求に応じる場合の対処法
相手の請求が合理的であり、請求額も適切と判断されるのであれば、支払いに応じることを検討します。
請求された金額が高く、すぐに支払えないのであれば、支払い期限や分割での支払いを提案することも可能です。
請求に応じたくない場合の対処法
請求が妥当でないか、請求額が適切でないと考える場合は、相手方と争います。
まずは話し合いで、その旨と支払いに応じないことを伝えましょう。
こちらの主張に相手が納得せず、請求を続けるのであれば調停や訴訟での解決を目指すことになります。
相手が調停を経ずに、最初から訴訟で争うことも少なくありません。
訴訟になれば、判決までに長い時間がかかることが予想されます。
また訴訟で自分の主張を認めてもらうには、相手の請求に不備があることの合理的な説明とその証拠が必要です。
自分で対応するのが難しい場合は、弁護士に相談・依頼することが強く推奨されます。
特に相手方が弁護士に依頼しているようなケースでは、こちらだけ弁護士なしでは不利になる可能性が高まるでしょう。
遺留分を渡したくない場合はどうする?
- 「家業を継ぐ子どもに、多く遺産を残す必要がある」
- 「何年も連絡してこない長男には、財産を引き継がせたくない」
いろいろな理由で、遺留分を渡したくないケースも想定されます。
それでは、遺留分を渡したくない場合はどうすればよいでしょうか。
被相続人が生前に相手と話し合うなどして遺留分を放棄してもらう
被相続人が生前に相続人と話し合うなどして、遺留分を放棄してもらう方法があります。
遺留分の放棄は被相続人から強制はできないので、応じるか否かは相手の任意です。
被相続人の生前に遺留分を放棄してもらうには、家庭裁判所の許可が必要になります。
ただ裁判所は、無条件で遺留分の放棄を認めるわけではありません。
遺留分放棄の対価に相当するような生前贈与などがおこなわれていないと、裁判所が許可する可能性は低いです。
遺言書の付言事項でメッセージを残す
遺言書の付言事項とは、遺言者の想いを記したメッセージです。
付言事項に法的な強制力はありませんが、遺留分を請求して欲しくない理由や想いを示すことで、相続人がそれを尊重してくれることもあります。
生命保険を活用して特定の相続人に多くお金を渡すようにする
被相続人を被保険者とする生命保険に加入し、保険金の受取人を特定の相続人にする方法です。
死亡保険金は受取人固有の財産となることから、この方法であれば任意の相続人へ多くのお金を渡せます。
死亡保険金は遺留分の対象にもなりません。
ただし、生命保険の金額があまりに多額であると特別受益とみなされ、遺留分の対象になることもあるので注意ください。
遺留分について弁護士に相談・依頼するメリットとは?
遺留分の請求については、自分ですすめるより弁護士に相談・依頼することが推奨されます。
以下、遺留分を侵害された側と請求を受けた側と請求された側それぞれで、弁護士に相談・依頼するメリットを見ていきましょう。
遺留分を侵害された側が相談・依頼するメリット
遺留分を侵害された側が弁護士に相談・依頼するメリットは以下のとおりです。
相手との交渉を一任できる
自分で遺留分侵害額請求をすすめる場合、相手と難しい交渉をしなくてはなりません。
相手に遠慮して、十分に遺留分の権利を主張できないこともあるでしょう。
弁護士に依頼すれば相手との交渉を一任できます。
スムーズに手続きをすすめてくれる
遺留分侵害額請求は、相続開始や遺留分侵害の贈与・遺贈があったときから1年という時効があります。
この期限を過ぎ時効が成立すれば、遺留分を請求できなくなってしまうのです。
弁護士に相談・依頼すれば時効が成立してしまわないように、適切かつスムーズに手続きをすすめてもらえます。
より有利な条件で実現できる可能性が高まる
遺留分侵害額請求の際は、遺産の評価や金銭をいくら請求できるかなど、判断が難しい要素が多く存在します。
弁護士に依頼すれば、依頼者が損をしないように、できるだけ有利な条件で請求を実現できるよう交渉や手続きをすすめてくれるのです。
あとでトラブルにならない合意書を作成してもらえる
遺留分侵害額請求が成功しても、合意書に不備があればあとでトラブルが起きかねません。
弁護士が対応すれば、トラブルを予防できる合意書を作成してもらえます。
遺留分を請求された側が相談・依頼するメリット
遺留分を請求された側が弁護士に相談・依頼するメリットは以下のとおりです。
被相続人の生前に相談・依頼すれば遺留分対策ができる
遺留分対策は、被相続人の生前におこなうことが強く推奨されます。
被相続人の生前に相談・依頼すれば、どのような対策が有効かをアドバイスしてもらうことが可能です。
相手の請求が妥当か判断してもらえる
遺留分の計算は難しいことが多く、正確に計算するには専門的な知識が必要です。
弁護士に相談・依頼すれば、相手の請求が妥当か正確に判断してもらえます。
相手との交渉や調停・訴訟手続きを一任できる
請求に応じたくない場合は相手と交渉をしたり、調停や訴訟などの対応をしたりしなくてはなりません。
自分でそれらをおこなうのは精神的・時間的な負担が大きいうえ、対応を誤れば不利な条件を飲まされる可能性もあります。
弁護士に相談・依頼すれば、これら手続きを任せることが可能です。
これにより負担を大幅に軽減できるうえに、不利な条件を避けられる可能性が高まります。
さいごに|遺留分について疑問や不安があれば弁護士に相談を!
遺言と遺留分を比較した場合、優先されるのは遺留分です。
ただし遺留分を侵害した遺言がただちに無効となるわけでないうえに、遺留分を請求するのには一定の手続きが必要になります。
遺留分の計算は簡単ではなく、遺留分を侵害された側と請求された側の交渉は難航するでしょう。
遺産相続に関する専門的な知識がないと、遺留分を正確に計算して、遺産相続で損をしてしまうのを回避するのは簡単ではありません。
遺留分が侵害されたり遺留分の支払いを請求されたりした場合は、相続問題を得意とする弁護士に相談・依頼することが推奨されます。
弁護士はあなたの味方となり遺留分を正確に計算したうえで、依頼人が損をしないよう対応してくれるでしょう。
