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相続放棄が無効になるのはどんなケース?無効を主張された場合の対処法を解説

弁護士監修記事
遺産相続 相続放棄
2026年06月08日
相続放棄が無効になるのはどんなケース?無効を主張された場合の対処法を解説
この記事を監修した弁護士
杉本 真樹弁護士 (杉本法律事務所)
解決への道筋は一つではありませんので、いくつか選択肢をご提案し、それぞれのメリット・デメリットをしっかりとご説明した上で、一緒に最良の選択肢を考えるように心がけております。
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  • 「相続放棄したのに、なぜか督促状が届いた」
  • 「相続財産から支払いをすると相続放棄が無効になるの?」

相続放棄をしてほっとしていた矢先に「無効だ」と言われ、不安になっている方もいるでしょう。

相続放棄が無効になるのは、主に法定単純承認に該当する行為をした場合です。相続財産を処分・消費したり相続財産で被相続人の債務を支払ったりすると、法定単純承認に該当して相続放棄が無効になる可能性があります。

本記事では、相続放棄が無効とみなされるケースと無効にならないケースの判例、相続放棄が無効になったらどうなるか、債権者から無効を主張されたときの対処法を解説します。

読み終えたあとは、自分のケースが無効になるか判断でき、適切に対処できるようになるはずです。

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相続放棄が無効とみなされる5つのケース・判例

相続放棄は、主に民法第921条に定められた法定単純承認に該当した場合に無効になります。

法定単純承認とは、「遺産を相続する意思がある」とみなされる行為のことです。該当する行動をとると、家庭裁判所で相続放棄が受理されていても、無効と判断される可能性があります。

法定単純承認

以下では、相続放棄が無効とみなされる具体的なケースについて、詳しく見ていきましょう。

1. 相続財産を処分・消費してしまった

相続財産を処分・消費すると単純承認が成立し、相続放棄が無効になります。

処分とみなされる行為は幅広く、たとえば以下のようなケースが該当します。

  • 被相続人の預貯金を引き出して生活費に充てた
  • 被相続人の債権を回収した
  • 被相続人の不動産や車の名義を自分に変更した
  • 被相続人の不動産を売却・解体した
  • 遺産分割協議に参加し、相続財産の取得・分配について合意した

中でも見落としやすいのは、遺産分割協議への参加です。話し合いに加わるだけで直ちに相続放棄が無効になるわけではありませんが、相続財産の取得・分配について合意した場合は、相続財産の処分とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

不動産の解体も同様です。「古いし誰も住まないなら壊さないと」と思うかもしれませんが、法律上は処分行為に該当するので注意しましょう。

実際、相続放棄の手続きをする前に、被相続人の債権を取り立てて自分のものにしたケースでは、「たとえ少額でも、亡くなった人の権利を使ってお金を手に入れる行為は財産の処分にあたる」と判断され、相続放棄が無効とされた判例があります(最高裁判所 昭和37年6月21日判決)。

「少額だから」「他の誰もやらないから」などの理由であっても、単純承認とみなされると相続放棄ができなくなってしまうことを覚えておきましょう。

相続放棄後に相続財産を処分・消費してしまった場合はどうする?

相続放棄後に相続財産を処分・消費してしまっても、内容によっては相続放棄が無効にならずに済むケースもあります。

預金を引き出してしまったときは、そのまま被相続人の口座に戻しましょう。引き出しただけで手をつけていなければ、処分行為にならない場合があります。

口座が凍結されているときは自分のお金とは分けて保管し、決して使わないようにしてください。

また、「1. 葬儀や墓石購入の費用を相続財産から支払った」でも解説しますが、お金を使ってしまった場合でも、葬儀費用や墓石購入費などであれば相続放棄に影響しないことがあります。

レシートや入出金履歴を残しておき、使途や経緯を説明できるようにしておきましょう。

なお、被相続人の代わりに債務を支払った場合、支払い先や相続した人に事情を話して返還してもらえば、処分行為に該当しない可能性があります。

2. 相続財産で被相続人の債務を支払った

相続財産で被相続人の借金や税金、家賃などの未払い金を支払う行為も単純承認にあたるため、相続放棄は無効になります。

相続財産から返済した時点で、法律上は「相続を承認した」とみなされるためです。相続放棄後はもちろん、相続放棄を検討しているなら、債権者から返済を迫られても支払わないようにしましょう。

ただし、相続財産ではなく自分の固有財産から支払ったケースでは、単純承認が否定されています(福岡高等裁判所宮崎支部 平成10年12月22日決定)。

3. 被相続人の高額療養費の還付金を受け取った

被相続人が世帯主、または健康保険の被保険者だった場合、高額療養費の還付金を受け取ると単純承認が成立します。

高額療養費の還付金は被相続人の相続財産に該当し、受け取れば相続財産の処分行為にあたるためです。

還付金の通知が届いても受け取らずに保留するか、弁護士に相談するのがおすすめです。

ただし、相続放棄した人自身が世帯主または被保険者であれば、還付金は自分の固有の権利として扱われます。そのため、受け取っても相続放棄には影響しません。

通知が届いたら、まず「世帯主・被保険者が誰になっているか」を確認してください。

4. 3ヵ月の熟慮期間を過ぎてから申述をした

3ヵ月の熟慮期間を過ぎてから相続放棄の申述をした場合は、相続放棄が認められない可能性があります。

相続放棄は、自分のために相続が開始したことを知ったときから3ヵ月以内に手続きしなければ、単純承認をしたとみなされるためです。

3ヵ月を過ぎてからおこなわれた申述でも、相当の理由がある場合は、以下の判例のように受理されることがあります。

【判例】「財産が全くない」と信じており相続放棄が有効とされた事例
被相続人と長年疎遠で、財産も借金もまったくないと信じていたため期限を過ぎてしまったケース。最高裁は、「財産がないと信じるに足りる相当の理由があるなら、借金の存在を知った時から3ヵ月以内であれば有効」と判断した(最高裁判所 昭和59年4月27日判決)。

しかし、家庭裁判所で受理されても、相続放棄の効力が保証されるわけではありません。

受理後にほかの相続人から相続放棄の無効を主張される可能性もあるため、該当する方は、証拠の整理や対応方針を早めに固めておきましょう。

【関連記事】相続放棄の期限は3か月|期限を過ぎたときの対処法とは?

5. 相続財産を意図的に隠匿した

相続放棄をしたあとでも、相続財産を意図的に隠すと相続放棄が無効になります。

民法第921条第3号では、相続財産の隠匿や悪意で財産目録に記載しない行為を単純承認に該当すると定められています。

隠匿に該当するのは、たとえば以下のような行為です。

  • 通帳を預かっているが、口座の存在をほかの相続人や債権者に教えない
  • タンス預金を自分のものにする
  • 高価な貴金属を隠して申告しない

積極的に隠す行為だけでなく、黙っているだけでも該当する点に注意してください。

錯誤による相続放棄も無効(取消し)になる

単純承認による無効とは別に、相続放棄の申述そのものが錯誤(さくご)によって取り消されるケースがあります。

錯誤とは、簡単に言うと重大な勘違いです。

たとえば、「被相続人にはまったく資産がなく、多額の借金がある」と勘違いして相続放棄をしてしまったようなケースが該当し、実際の判例でも錯誤による無効が認められています(福岡高等裁判所 平成10年8月26日判決)。

なお、以前は「錯誤無効」と呼ばれていましたが、2020年の民法改正により、現在では「錯誤取消し」として扱われるようになりました。

錯誤による取消しが認められるケースは限定的ですが、単純承認だけが無効原因ではないことを知っておきましょう。

相続放棄が無効にならない4つのケース・判例

単純承認に該当する可能性がある行為に身に覚えがある場合でも、以下のように相続放棄が無効にならないケースもあります。

  1. 葬儀や墓石購入の費用を相続財産から支払った
  2. 生命保険金を受け取った
  3. 未支給年金や死亡一時金を受け取った
  4. 経済的価値のない遺品の形見分けをした

ポイントは、相続財産の保存行為にとどまるか、受け取ったものが受取人固有の財産にあたるかどうかです。

ただし、金額や状況次第では判断が分かれるケースもあります。「おそらくセーフだろう」という自己判断は避けましょう。

以下では、それぞれのケースについて詳しく解説します。

1. 葬儀や墓石購入の費用を相続財産から支払った

社会通念上相当と認められる範囲であれば、葬儀費用や墓石代を相続財産から支払っても単純承認にはあたりません。

葬儀は社会的に避けられない儀式であり、相続財産を自分のために消費したとは評価されないためです。

実際、相続人が借金の存在を知らず、遺産の一部を仏壇や墓石の購入費用に充てたケースでは、「身分相応の供養をおこなうのは遺族として自然な行動であり、不当に高額でなければ相続財産の処分にはあたらない」として、相続放棄が認められた判例もあります(大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定)。

ただし、豪華すぎる葬儀や不必要に高価な仏壇の購入など、相当な範囲を超えた場合は処分行為とみなされるリスクがあるため注意しましょう。

【関連記事】相続放棄をしたいのに葬儀代を遺産から引き出しても大丈夫?注意点も解説

2. 生命保険金を受け取った

被相続人以外の人が受取人に指定されている生命保険金は、受け取っても相続放棄に影響しません。

生命保険金は受取人固有の権利として扱われ、相続財産には含まれないためです。つまり、被相続人の財産ではなく受取人自身のお金という位置づけなのです。

実際、死亡保険金(交通事故傷害保険)が相続財産に含まれるか争われたケースでは、「受取人が相続人とされている保険金は相続人の固有財産であり、亡くなった人の相続財産には含まれない」と判断された判例もあります(最高裁 昭和48年6月29日判決)。

ただし、被相続人本人が受取人になっている保険金は相続財産に含まれます。

この場合、生命保険金を相続放棄した人が受け取ると単純承認に該当し、相続放棄が無効になる可能性があるため注意しましょう。

被相続人の生命保険金を受け取る際は、必ず保険証券で受取人を確認してから請求することが大切です。

【関連記事】相続放棄しても生命保険は受け取れる!死亡保険金を請求する流れや相続税のポイント

3. 未支給年金や死亡一時金を受け取った

未支給年金や死亡一時金を受け取っても、相続放棄は無効になりません。

未支給年金や死亡一時金は国民年金法などの定めによって遺族に支給されるものであり、相続財産に該当しないためです。遺族自身の固有の権利として受け取れます。

また、葬儀代や生活費に充てても単純承認にならないため、安心して受け取ってください。

ただし、被相続人が亡くなる前に働いた分の未払い給与は、被相続人自身の労働の対価として遺産に含まれます。

受け取ると処分行為にあたる可能性があるため、年金と混同しないようにしましょう。

4. 経済的価値のない遺品の形見分けをした

市場での経済的価値がほとんどない遺品の形見分けは、単純承認にあたりません。

経済的価値のない物品の引き取りは処分行為にはあたらず、保存行為の範囲内であるとみなされるためです。

何より、相続放棄をすると形見分けもできなくなるというのは酷な話でしょう。

なお、経済的価値のある遺品・ない遺品は以下のとおりです。

経済的価値のある遺品 経済的価値のない遺品
・宝石
・貴金属
・ブランド品
・家電製品
・自動車・バイク
・骨董品・美術品
・現金、預貯金
・有価証券
・趣味の道具(高価なもの) など
・日用品
・写真・アルバム
・手紙
・日記
・古着
・古い家具、家電製品
・趣味の道具(安価なもの)
・位牌 など

しかし、お金になるようなものを持ち帰った場合は、隠匿や処分行為とみなされて相続放棄が無効になるおそれがあります。

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相続放棄が無効になったらどうなる?

相続放棄が無効になると、はじめから相続放棄を選択しなかったことになり、相続人の立場に戻ります。

その結果、以下のようなリスクが生じます。

  • 借金の返済義務が発生する
  • 遺産分割協議をやり直す必要がある

まず、相続放棄の無効が確定した場合、債権者からの請求を拒否できなくなります。借金などを返済できなければ、最終的には自分の預貯金や給与を差し押さえられるおそれがあるでしょう。

また、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があるため、すでにほかの相続人の間で遺産分割が完了していても、再度協議をおこなわなければなりません。

不動産や株式などの名義変更をやり直す必要が出てくるほか、すでに売却したものに関しては取り戻せず、ほかの相続人とトラブルになるケースもあるでしょう。

無効になったあとの対応を自力でおこなうのは難しいため、債権者から無効を主張されたらすぐに弁護士に相談することをおすすめします。

相続放棄の無効・取消し・撤回の違い

日常では似た意味で使われる無効・取消し・撤回ですが、相続放棄においてはまったく異なる意味で使われます。

それぞれの違いは以下のとおりです。

  無効 取消し 撤回
定義 はじめから相続放棄の効果が生じていない状態のこと 本来認められるべきでなかった相続放棄の効力を、あとから失わせること 一度受理された相続放棄を、あとからなかったことにすること
認められるか 条件に該当すれば例外的に無効になる 例外的に認められることもある 認められない
具体例 相続放棄後に相続財産を処分した 未成年者が法定代理人の同意なく相続放棄の申述をした 相続放棄したが、気が変わったため相続したくなった

債権者が主張してくるのは、相続放棄の無効です。それに対し、取消しは相続放棄をした人自身または法定代理人がおこないます。

なお、撤回は法律上認められていません。そのため、「やっぱり相続したい」というように、自己都合ではおこなえません。

債権者から相続放棄の無効を主張された場合の対処法

相続放棄後に請求されても、債権者が相続放棄の事実を知らないだけであれば、申述の際に交付された相続放棄申述受理通知書を提示すれば請求は止まるでしょう。

しかし、相手が納得せずに訴訟で相続放棄の無効を主張してくることも考えられます。その場合は、以下の方法で対応してください。

  1. 債権者の主張内容を確認する
  2. 債権者の主張に反論するための証拠を準備する
  3. 弁護士に相談する

重要なのは、相手が相続放棄の無効を主張してきても、安易に支払わないことです。

ここからは、それぞれの手順について順番に見ていきましょう。

1.債権者の主張内容を確認する

債権者が訴訟を提起すると、訴状や口頭弁論期日呼出状といった書類が自宅に届きます。

訴状には相手の主張が記載されているため、まずは内容を確認しましょう。そのうえで、答弁書を提出したり期日に出頭したりする必要があります。

相手の主張が間違っていても、放置してはいけません。何も対応しなければ、相手の主張がそのまま通ってしまう可能性があります。

2.債権者の主張に反論するための証拠を準備する

訴訟では、相続放棄が有効であることを客観的な証拠に基づいて立証する必要があります。証拠が不十分だと、裁判で不利な判決につながりかねません。

証拠には、たとえば以下のようなものがあげられます。

  • 相続放棄申述受理証明書
  • 葬儀費用の領収書や明細書
  • 遺品整理の際に撮影した写真や動画
  • 入出金履歴や通帳のコピー

相続放棄前後におこなった行為について、「いつ・何を・なぜおこなったか」を説明できる記録を残しておくことが重要です。

また、証拠を揃えておけば、弁護士への相談もスムーズになります。

3.弁護士に相談する

証拠になるものを準備したら、相続問題を得意とする弁護士に相談しましょう。法的知識や経験がない場合、訴訟対応を自力でおこなうのは困難です。

弁護士に依頼すれば、答弁書の作成や裁判への出廷を一任できます。債権者と直接やり取りする必要もなくなるため、精神的な負担が大きく軽減します。

通常、訴状が届いてから第1回口頭弁論期日までは、1ヵ月〜1ヵ月半程度しかありません。

準備の時間は限られているため、訴状が届いたら早めに相談するのがおすすめです。

相続放棄の無効に関連するよくある質問

ここからは、相続放棄の無効に関するよくある質問を紹介します。

孤独死した親の部屋を特殊清掃すると相続放棄は無効になるか

孤独死した人の部屋の特殊清掃は保存行為にあたるため、原則として無効にはなりません。

ただし、以下の行為をおこなってしまうと、単純承認とみなされるおそれがあるため注意が必要です。

  • 遺品の整理
  • 家電・家具の処分
  • 賃貸借契約の解約手続き

明らかにゴミと判断できるものであれば廃棄しても問題ありませんが、家財道具や価値のある遺品には手を出さないようにしましょう。

相続放棄の申述が一度受理されれば無効になることはないか

相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されても、そのあとの行動次第では無効になることもあり得ます。

受理はあくまでも、家庭裁判所が相続放棄の意思表示を公に証明するものであり、裁判の判決のように後日争えなくなるものではないためです。

そのため、受理後に相続財産を隠したり消費したりすると、債権者から訴訟を提起されて無効と判断される可能性があります。

申述が受理されたからといって、油断するのは禁物です。受理されても、相続財産には一切手をつけないようにしましょう。

被相続人の携帯電話やサブスクを解約したら相続放棄は無効になるか

解約手続きそのものは、保存行為にあたるとして無効にならないケースが多いです。

携帯電話やサブスクは解約しない限り月額料金がかかり続けるため、合理的な行為といえるでしょう。

ただし、解約に伴う違約金や滞納分を支払ってしまうと単純承認とみなされる可能性が高いです。また、被相続人のスマートフォンを引き取るのも、最新機種などであれば資産価値があるとみなされるためやめておいたほうが無難です。

業者から請求があった場合は「相続放棄した(またはする)ので支払いません」とだけ伝えましょう。

相続放棄後はもちろん、相続放棄をするつもりなら支払いに応じる必要はありません。

さいごに|相続放棄が無効にならないか不安ならベンナビ相続で弁護士を探そう

相続放棄前後に相続財産の処分や消費、隠匿をしたり、3ヵ月の熟慮期間を超過したりすると、相続放棄が無効になる可能性があります。

ただし、常識的な範囲内での葬儀費用の支払いや、受取人が本人になっていない生命保険金、未支給年金の受取りなどは無効にはなりません。

債権者から無効を主張されている場合、個人で対応を続けるのは精神的にも法的にもリスクがあります。

「自分の行為がセーフか確認したい」「債権者からの連絡を止めたい」という方は、ベンナビ相続で専門家を探してみてください。

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