接近禁止命令の条件とは?認められないケースや対処法を解説
恋人や配偶者から暴力や脅迫を受けているものの、現在の状況で接近禁止命令を出してもらえるか不安に感じていませんか。
接近禁止命令を出すには、3つの条件を全て満たす必要があります。
条件や認められないケースを知って、自分が当てはまるかを正しく判断することが大切です。
本記事では、接近禁止命令が認められる条件や、認められない主なケース、申し立てる際の注意点やポイントを解説します。
安全な生活を取り戻すための参考にしてください。
接近禁止命令が認められる条件3つ
接近禁止命令が認められるには、以下3つの条件を全て満たす必要があります。
- 被害者が加害者と婚姻・事実婚・同棲関係にある
- 関係継続中に、暴力または脅迫を受けた
- さらなる暴力等により、生命・心身に対する重大な危害を受けるおそれが大きい
なお、条件を満たしていることは、申し立てる被害者の側が証拠で示さなければなりません。
まずは、自分が条件に当てはまるかどうかそれぞれ確認してみましょう。
①被害者が加害者と婚姻・事実婚・同棲関係にある
1つ目の条件は、加害者がDV防止法の対象となる以下の間柄であることです。
- 法律婚の配偶者
- 事実婚の相手
- 同棲相手
- 元配偶者や元同棲相手(関係が続く間に暴力を受けていた場合)
性別は問われないため、同性のカップルも対象です。
ただし、同棲していない交際相手は対象になりません。
生活を別にする恋人からの暴力は、接近禁止命令では止められません。
②関係継続中に、暴力または脅迫を受けた
2つ目の条件は、身体への暴力または脅迫を受けたことです。
以下、主な具体例をまとめました。
| 身体への暴力 | 脅迫 |
|---|---|
| ・殴る、蹴る、首を絞める ・髪を引っ張る、物を投げつける |
・「殺すぞ」と告げる(生命への脅迫) ・刃物を見せて脅す(身体への脅迫) ・外出しようとすると怒鳴る(自由への脅迫) ・性的な画像をネットに広めると告げる(名誉への脅迫) ・キャッシュカードを取り上げると告げる(財産への脅迫) |
脅迫の対象は、2024年4月の改正で広がりました。
これまでの「生命・身体」に加えて、「自由・名誉・財産」への脅迫も対象です。
脅迫は、口頭だけでなく、メールやSNSで告げられた場合も含まれます。
③さらなる暴力等により、生命・心身に対する重大な危害を受けるおそれが大きい
3つ目の条件は、さらなる暴力や脅迫で、生命や心身に重大な危害を受けるおそれが大きいことです。
過去に一度暴力があっただけでは足りません。
再び被害を受ける差し迫った危険が必要です。
2024年4月の改正で、発令の要件が「生命・身体」への重大な危害から「生命・心身」への重大な危害に広がりました。
これにより、精神的な攻撃も対象になっています。
主な具体例は、以下のとおりです。
- 暴力でケガを負い、治療や通院が続いている
- 暴力が原因でうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した
- 脅迫を繰り返し受けている
保護命令が認められる割合は約77%
接近禁止命令を含む保護命令は、多くのケースで認められています。
「男女共同参画白書 令和7年版」によると、2024年に処理が終わった1,516件のうち1,168件で保護命令が認められました。
割合にすると、約77%です。

【参考】5-6図 配偶者暴力等に関する保護命令事件の処理状況等の推移|男女共同参画局
条件を満たし、証拠をそろえて申し立てれば、認められる見込みは高いといえます。
ただし、認められるかどうかは、証拠の有無次第です。
十分な証拠がなければ、却下されることもあります。
接近禁止命令が認められない主な3つのケース
ここでは、接近禁止命令が認められない主なケースを3つ紹介します。
同棲関係にない彼氏・彼女から暴力や脅迫を受けた
同棲していない彼氏や彼女からの暴力では、接近禁止命令は認められません。
DV防止法の対象が、配偶者や同棲する交際相手などに限られるためです。
同棲していない相手からの被害への対応方法については、「警察へ相談する」をご確認ください。
DVや脅迫があった客観的な証拠がない
暴力や脅迫があった客観的な証拠がないと、接近禁止命令が認められないおそれがあります。
裁判所は、証拠をもとにDVや脅迫の事実があったかどうかを判断します。
証拠がなければ、DVや脅迫の事実の立証が難しいのです。
また、提出した証拠が古い場合も注意が必要です。
今まさに危険があると示せなければ、重大な危害のおそれは小さいとみなされます。
数ヵ月前の証拠しかない場合は、却下されるおそれが高まります。
今後は暴力や脅迫を受けるおそれが低いとみなされた
今後さらに被害を受けるおそれが低いとみなされると、接近禁止命令は認められません。
接近禁止命令は、差し迫った危険から被害者を守る制度だからです。
たとえば、次のような場合は、おそれが低いと判断されがちです。
- 暴力から長い時間が経ち、相手からの接触もない
- 相手がすでに遠方へ引っ越し、接触の見込みがない
逆に、直近でも相手の連絡や待ち伏せ行為などがあれば、危険が続いていると判断されます。
過去の被害だけでなく、今まさに危険が迫っていることを証明するのが重要です。
接近禁止命令が認められないときの対処法2つ
接近禁止命令が認められなくても、対処法は残っています。
ここでは、状況に応じた2つの対処法を解説します。
即時抗告を申し立てる
却下の判断に納得できないときは、即時抗告で高等裁判所に再審理を求められます。
即時抗告の期限は、決定の告知を受けてから1週間以内です。
却下した裁判所に、取り消しの理由を記載した即時抗告申立書を提出します。
高等裁判所には、新しい証拠を提出できます。
却下された理由を踏まえ、判断を覆す材料を加えましょう。
たとえば、以下の証拠が有効です。
- 医師の診断書
- けがの写真や動画
- 脅迫の録音
- 被害の経緯をまとめた陳述書
今も危険が続いていることを示すため、証拠はできるだけ直近のものを用意しましょう。
警察へ相談する
同棲していない元恋人からのつきまといや待ち伏せ、無言電話などは、警察に相談し、ストーカー規制法にもとづく対応を求めましょう。
警察に相談すると、ストーカー規制法にもとづき、以下の流れで相手に対応してくれます。
- 相手へ警告する
- 従わない場合は、禁止命令を出す
- 命令に違反すれば、逮捕する
ただし、相談だけでは動いてもらえない場合もあるので、注意が必要です。
録音やメールなどの証拠を持って相談すると、対応してもらえる可能性が高まるでしょう。
【関連記事】ストーカー規制法違反にあたる行為とは?ストーカー行為の具体例と罰則や逮捕後の流れ
接近禁止命令を申し立てるときのポイント2つ
接近禁止命令を申し立てる際は、身の安全を守りながら、手続きをスムーズに進めるための準備を整えましょう。
ここでは、申し立てるときに押さえたい2つのポイントを解説します。
相手に現在の住所を知られない対策をとる
役所と裁判所に対して、避難先の住所を相手に知られないような対策をとることも重要です。
1つ目は、役所での住民票の支援措置です。
市区町村の役場に「住民基本台帳事務におけるDV等支援措置」を申し出ると、相手が住民票や戸籍の附票から現住所を調べることを防げます。
加害者の代理人による取得を防ぐことも可能です。
2つ目は、裁判所に出す書類の工夫です。
住所や氏名を相手に知られると生活に大きな支障が出る場合は、申立てによって裁判所が「秘匿決定」を出せます。
秘匿決定が認められると、相手は秘匿事項の届出書面を見たりコピーしたりできなくなります。
住所や氏名は「代替住所A」などの表記でかまいません。
ただし、秘匿決定が出ても、証拠などの書面は自動で秘匿されるわけではありません。
現住所がのった証拠は、黒塗りや白抜きにして提出してください。
弁護士に相談する
接近禁止命令の申立ては、弁護士に相談しながら進めるのもおすすめです。
申立ては、必ず認められるわけではありません。
証拠が足りないと、危険は低いと判断される場合があります。
認められる見込みを高めるには、手続きと証拠集めを正確に進めることが大切です。
弁護士は、有効な証拠をふまえて申立てを組み立ててくれます。
また、弁護士に依頼すれば、別居や生活費の請求、離婚の手続きまであわせて任せられます。
接近禁止命令を申し立てる流れ
接近禁止命令は、相談から発令まで4つのステップで進みます。
事案によって変わりますが、発令までの期間は2週間程度です。
緊急性が高い手続きのため、通常の裁判より早く決まるのが特徴です。
ここでは、それぞれのステップを詳しく解説します。
1.警察や配偶者暴力支援センターへ相談する
まず、最寄りの警察か配偶者暴力相談支援センターに相談してください。
相談の記録が、暴力や脅迫を受けたことを示す証拠になるからです。
公的な相談を経ておくと、あとの手続きがスムーズに進みます。
相談をしていないと、申立てのときに公証役場で「宣誓供述書」を用意する必要があり、手間が増えます。
宣誓供述書とは、公証人の前で被害の内容を述べ、書面に残したものです。
【関連記事】配偶者暴力相談支援センターの活用法|DV被害者が受けられるサポートと注意点
2.地方裁判所へ申し立てる
次に、地方裁判所へ保護命令申立書を提出してください。
提出先は、相手方の住所地、または申立人の住所地や居所を管轄する地方裁判所です。
申立てには、以下の書類や費用が必要です。
【書類】
- 申立書(2部)
- 加害者との関係を証明する書類(戸籍謄本や住民票など)
- 暴力や脅迫を受けた証拠(診断書、録音データ、第三者の陳述書など)
【費用】
- 自分で申し立てた場合:約3,000円〜5,000円(収入印紙1,000円+郵便切手2,000〜3,000円+戸籍などの取得費用)
- 弁護士に依頼した場合:約20万円〜40万円(着手金+報酬)
自分で進めれば費用は抑えられますが、書類づくりや証拠集めの手間がかかります。
費用や手間を考えながら、申し立ての方法を選びましょう。
3.裁判官による審尋を受ける
申立て後は、裁判官による審尋(しんじん)を受けます。
まず申立人が担当裁判官と面談し、被害の状況を説明します。
続いて、相手方の審尋期日が指定されます。
期日は、原則として約1週間後です。
双方の話と証拠を検討したうえで、裁判所が接近禁止命令を発令するかどうか決定します。
ただし、生命や身体への危険が差し迫っている場合は、審尋を経ずに発令されることもあります。
4.接近禁止命令が発令される
条件が認められると、裁判所が接近禁止命令を発令します。
相手が期日に出頭した場合は、その場で命令が言い渡され、すぐに効力が生じます。
相手が出頭しなかった場合でも、決定書が相手に届いた時点で効力が生じます。
発令されると、地方裁判所から警察や配偶者暴力相談支援センターへ通知が届きます。
これにより、警察は命令違反にすぐ対応でき、センターは引き続き生活面の手助けをしてくれます。
接近禁止命令の発令後に気をつけるポイント2つ
命令が発令されても、相手の行動しだいでは危険が続く場合もあるので、安心してはいけません。
ここでは、発令後に気をつけたい2つのポイントを解説します。
命令が出ても油断せず自衛を続ける
命令には強い罰則がありますが、相手が逆上して押しかけてくる危険は残ります。
命令書そのものに、相手を物理的に止める力はありません。
「命令があるから安心」と油断しないことが大切です。
身を守るために、自衛方法を見直しましょう。
たとえば、次のような対策が効果的です。
- 玄関に補助錠をかける
- 防犯カメラをつける
- センサーライトをつける
職場や子どもの学校にも、状況を伝えておきましょう。
相手が訪ねてきても、自分を呼び出さないよう協力を求めておくと安心です。
偶然会ったら命令違反にはならない
接近禁止命令の禁止対象は、意図的なつきまといや徘徊です。
そのため、相手と偶然会っただけでは命令違反になりません。
ただし、偶然会ったあとに声をかけられたり、つきまとわれたりした場合は命令違反になる可能性があります。
身の安全を守るためにも、速やかに警察へ相談してください。
接近禁止命令の効果|禁止できること・できないこととは
発令後の注意点とあわせて、命令で実際に何を止められるのかも整理しておきましょう。
接近禁止命令が禁止できる行為とできない行為を、以下にまとめました。
| 禁止できる行為 | 禁止できない行為 |
|---|---|
| ・被害者へのつきまとい ・住居や勤務先など、ふだんいる場所の付近の徘徊 |
・電話やメール ・子どもや親族への接近 |
命令に違反して禁止行為をすれば罰則が科されるため、相手へのけん制として働きます。
禁止できない行為を止めたい場合は、ほかの保護命令もあわせて申し立てましょう。
接近禁止命令と同時に出せる保護命令は、全部で5種類あります。
詳しくは、後半の「併せて申し立てられる保護命令5つ」で解説します。
接近禁止命令の有効期間は原則1年間
接近禁止命令の有効期間は、原則として1年間 です。
2024年の改正で、6ヵ月から1年に延長されました。
改正により、被害者が保護される期間が長くなっています。
有効期間は、自動で更新されません。
1年が過ぎても身の危険を感じる場合は、もう一度同様の申し立てをすれば、期間の延長が認められます。
再び申し立てるときは、危険が続いていることを証拠などで立証する必要があります。
接近禁止命令に違反したときの罰則
相手が接近禁止命令に違反すると、「 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」に処されます。
改正前は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」でしたが、2024年の改正で厳罰化されました。
起訴されて有罪になれば前科がつき、刑務所に入る可能性もあります。
併せて申し立てられる保護命令5つ
接近禁止命令だけでは止められない行為は、ほかの保護命令でカバーできます。
目的に合わせて、あわせて申し立てると効果的です。
接近禁止命令とあわせて申し立てられる保護命令は、全部で5種類あります。
以下、それぞれの内容と申し立てるべき場面、有効期間をまとめました。
| 保護命令 | 内容 | 申し立てるべき場面 | 有効期間 |
|---|---|---|---|
| 被害者への電話など禁止命令 | 電話・メール・SNSや面会要求を禁止する | しつこい連絡をやめさせたいとき | 1年 |
| 子への接近禁止命令 | 同居する子へのつきまとい・徘徊を禁止する | 相手が子を連れ戻そうとするおそれがあるとき | 1年 |
| 子への電話など禁止命令 | 子への電話・メールなどを禁止する | 相手が子へ直接連絡してくるおそれがあるとき | 1年 |
| 親族などへの接近禁止命令 | 親族などへのつきまとい・徘徊を禁止する | 相手が親族の家に押しかけるおそれがあるとき | 1年 |
| 退去等命令 | 被害者の住居からの退去を命じ、付近の徘徊を禁止する | 荷物を運び出すなど、別居の準備をするとき | 原則2ヵ月(住居の所有権または賃借人が被害者のみであれば、6ヵ月) |
目的に応じて、必要な命令を組み合わせて申し立ててください。
【関連記事】保護命令とは|自分と子供を暴力から守る制度・手続きを解説
接近禁止命令に関するよくある質問
ここでは、接近禁止命令に関するよくある質問をまとめました。
接近禁止命令を家族や友人に出せますか?
親や兄弟、友人や同僚、見知らぬ他人を相手に、接近禁止命令を出すことはできません。
接近禁止命令の対象は、配偶者や同棲する交際相手などに限られるからです。
ただし、元交際相手からつきまとわれている場合は、警察に相談してください。
警察に相談すると、ストーカー規制法にもとづき対応してくれる可能性があります。
なお、配偶者や同棲する交際相手が自分の親族に危害を加えるおそれがあれば、「親族などへの接近禁止命令」を申し立てることで親族を守れます。
接近禁止命令を取り下げ・解除できますか?
申立人(被害者)であれば、命令の効力期間中はいつでも取消しを申し立てられます。
一方、相手方(加害者)が取消しを求めるには、以下2つの条件が必要です。
- 申立人が異議を唱えていない
- 命令の効力が生じてから3ヵ月以上たっている
状況が変わったときの備えとして、覚えておいてください。
接触禁止命令や離婚後の接触禁止条項とは違いますか?
「接触禁止命令」は、接近禁止命令の通称として使われることがあります。
一方、離婚後の接触禁止条項は、当事者どうしが交わす約束で、別のものです。
両者の違いは、以下のとおりです。
| 項目 | 接近禁止命令 | 離婚後の接触禁止条項 |
|---|---|---|
| 決定者 | 裁判所 | 当事者同士 |
| 強制力 | 強い | 弱い |
| 違反したとき | 刑罰が科される | 刑罰は科されない |
暴力の危険が差し迫ったときは、接近禁止命令を検討してください。
まとめ|接近禁止命令の獲得は弁護士へ相談を
接近禁止命令が認められるには、3つの条件を全て満たす必要があります。
自分が条件に当てはまるか迷うときや、証拠集めに不安があるときは、離婚問題が得意な弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に任せれば、面倒な手続きや証拠集めを代わりに進めてもらえます。
相手とのやり取りから離れ、生活の立て直しに集中できるのもメリットです。
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