労働基準監督署に労働問題を訴える方法|対応できる問題やメリット・デメリットを解説
「就業先の企業との間で労働トラブルが起きたけれど、誰に相談したらいいのか分からない」
そんなときは、労働基準監督署に相談することが選択肢の一つです。
労働問題への対応について一般的なアドバイスを受けられるほか、会社に対する立ち入り調査や行政指導をしてもらえることもあります。
ただし、労働基準監督署の権限や対応には限界があるため、並行して弁護士への相談もご検討ください。
本記事では、労働基準監督署の役割や対応してもらえる具体的なトラブル例など、労働基準監督署について正しく理解するための情報をご紹介します。
労働基準監督署の役割と申告の仕方
まずは労働基準監督署の役割と、労働者による相談・申告の方法について紹介します。
労働基準監督署とは
労働基準監督署とは、以下の労働基準関連法を企業側が遵守しているのかをチェックする機関です。
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 家内労働法など
従って、労働基準監督署ができるのは、上記の各法律に違反する事業主に対して、違反状態の是正を指導することです。
その範囲を超えて、たとえば労使間のトラブルの解決を仲介してくれるわけではありません。
電話・メール、匿名での申告も可能
労働基準監督署への連絡は電話・メールも可能で、匿名での申告も受け付けています。
会社に籍を置いているため、ご自身が発信した情報だと知られたくないけれど、労働基準法違反は伝えたいという場合に有効な手段です。
なお、実名で申告したとしても、労働基準監督官には守秘義務があるため、会社に申告者の情報が伝えられることはありません。
労働基準監督署へのメール相談は労働基準監督署にメール相談は効果的?|相談方法について解説をご覧ください。
緊急性がある場合は窓口で直接申告する
匿名での申告は可能であるものの、事案の詳細や切迫性が伝わりにくく、対応の優先度が下がってしまう可能性があります。
緊急性がある場合には、労働基準監督署の窓口へ出向いて直接申告することが効果的です。労働基準監督署は全都道府県にあり、お住まいの地域で相談することができます。
申告する際はお近くの労働基準監督署を探し、事前に相談に行く旨を伝えておくとよいでしょう。
そして相談窓口へ可能であれば法令違反の証拠品を持って行き、具体的に調査や指導をしてほしい内容を伝えるとスムーズに話が進む可能性があります。
労働基準監督署の管轄になる主な労働トラブル
労働基準監督署が対応できる主な労働トラブルについてご紹介します。
残業代の未払い
会社から給料や残業代が支払われなかった場合は、労働基準監督署に申告すれば対応してもらえる可能性があります。
残業代に関するルールは労働基準法で定められており、労働基準監督署の管轄事項だからです。
適切に残業代が支払われていないと思われる場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。
36協定のない長時間労働
労働基準法第32条では、法定労働時間を「1日当たり8時間・1週間当たり40時間」と定めています。
第三十二条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用:e-GOV
使用者が労働者に法定労働時間を超える労働をさせるためには、労働組合などとの間で36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定が有効に締結されていないのに、法定労働時間を超える労働を命ずることは労働基準法違反です。
また、36協定で定められた上限時間を超えて時間外労働を命ずることも、同様に労働基準法違反となります。
上記のような労働基準法違反の時間外労働を強いられている場合には、労働基準監督署へ相談すれば対応してもらえる可能性があります。
休憩時間や有給休暇がもらえない
労働基準法第34条では、労働時間が6時間を超える労働者を休憩時間なしで働かせることを禁止しています。
第三十四条
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
引用:e-GOV
上記の規定に従って休憩時間が付与されていない場合は、勤怠管理システムの記録などの証拠を確保した上で労働基準監督署へ相談しましょう。
また、年次有給休暇についても労働基準法第39条に定めがあり、6か月以上継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者には、有給休暇を付与することが使用者に義務付けられています。
フルタイム労働者の勤続年数ごとの有給休暇の日数
半年 |
10日 |
1年半 |
11日 |
2年半 |
12日 |
3年半 |
14日 |
4年半 |
16日 |
5年半 |
18日 |
6年半以上 |
20日 |
また、有給休暇は一定の要件を満たすパートやアルバイトにも取得の権利があります。
有給休暇の取得時期は、原則として労働者の自由です。使用者に時季変更権が認められる場合はありますが、あくまでも取得の時季を変更できるだけで、取得を一切認めないことは労働基準法違反です。
会社に有給休暇を取らせてもらえない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
労働災害に対する企業の不対応
労働災害(労災)とは、業務上の原因により、または通勤中に病気にかかり、ケガをし、障害を負い、または死亡することをいいます。
工場や建設現場での怪我や死亡が典型例ですが、過労死や過労自殺、セクハラ・パワハラによる精神障害も労災と判断される可能性があります。
特に業務上の原因による労災については、労働安全衛生法(労働安全衛生規則)に基づき、使用者には労働基準監督署へ「労働者死傷病報告書」の提出が義務付けられています。
しかし、労働基準監督署による摘発を怖れるあまり、労災の隠蔽(労災隠し)をする企業も散見されるところです。
労災隠しは労働安全衛生法に関する問題であるため、労働基準監督署に相談すれば対応してもらえる可能性があります。
また、労災に遭った労働者は、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求できます。請求手続きについては、労働基準監督署の窓口などでご確認ください。
労働基準監督署に相談するメリット
労働基準監督署に労働トラブルを相談する上でのメリットについて紹介します。
無料で法律に沿った労働トラブル解決の助言がもらえる
労働基準監督署は公的機関であるため、無料で相談できることが大きなメリットです。
また、相談相手となる職員は、日ごろ企業を監督する立場にある人たちであるため、労働関係の法律に詳しく、事案に応じた適切なアドバイスを受けられます。
企業への是正勧告により改善を促してもらえる
立ち入り調査の結果、労働基準法違反などが発見された場合、労働基準監督官が企業に対して是正勧告を行います。
是正勧告がなされると、会社は違反状態を是正して報告しなければならないため、職場環境が改善し、働きやすくなることが期待できます。
労働基準監督署に相談するデメリット
次に、労働基準監督署に相談することで発生するデメリットについて紹介します。
動いてもらうまでに時間がかかる場合がある
労働基準監督署は、常に多くの労働相談を抱えており、さらに違反企業の調査には事前準備が必要となるため、実際の調査等が実施されるまでにはかなりの時間を要する可能性があります。
労働問題の迅速な解決を目指すためには、労働基準監督署への相談は必ずしも得策ではない点にご注意ください。
明確な証拠がないと動きにくい
労働基準法違反などの有力な証拠がない場合は、労働基準監督署に動いてもらえない可能性が高いです。
労働基準監督署に対応してもらえる可能性を高めるためには、違反状態を示す証拠となる資料をできる限り豊富に持参しましょう。
労働基準監督署の匿名相談は企業にバレる?
「労働基準監督署に相談はしたいけれど会社には知られたくない」そう考える人は多いのではないでしょうか。労働基準監督官によって、会社に申告者の情報が伝えられることはありません。
労働基準監督官は職務上の守秘義務を負っているためです(労働基準法第105条)。
第百五条
労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。労働基準監督官を退官した後においても同様である。
引用:e-GOV
労働基準監督官から情報が漏れなくても、職場が少人数の場合などには、申告をした人が消去法的に特定されてしまう可能性があります。
しかしその場合でも、労働基準監督署へ申告をしたことを理由として、会社が労働者を不利益に取り扱うことは禁止されています(労働基準法104条2項)。
もし会社から不利益な取り扱いを受けた場合は、弁護士にご相談ください。
労働問題のトラブルで労働基準監督署が動かない場合は弁護士へ
会社とのトラブルは労働基準監督署に相談することも考えられますが、その権限やリソースには限界があるため、満足な対応をとってもらえない可能性があります。
結局動いてもらえずに、相談した時間や待った時間が無駄になってしまうケースも多いです。
これに対して、弁護士は労働者の代理人として、労働者の権利を守るために具体的な対応をとることができます。労働基準監督署が対応できない事柄についても、弁護士に依頼すれば幅広く対応してもらえます。
労使紛争の迅速・適切な解決を目指せる点が、弁護士に依頼することの大きなメリットです。労働問題にお悩みの方は、労働基準監督署に加えて、弁護士への相談をご検討ください。
弁護士へ相談する場合労働問題の24時間無料相談窓口|その他の窓口も受付時間別に紹介をご覧ください。