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パワハラの判断基準とは?|具体例や対処法について解説

弁護士監修記事
労働問題
2023年04月27日
2024年04月09日
パワハラの判断基準とは?|具体例や対処法について解説
この記事を監修した弁護士
三上 貴規弁護士 (日暮里中央法律会計事務所)
早稲田大学法学部を卒業後、早稲田大学大学院法務研究科へ上位入学。第一東京弁護士会 所属。現在は日暮里中央法律会計事務所の代表弁護士を務める。(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)
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誰しも多少のトラブルを抱えながら働いていますが、理不尽なパワハラを甘受する必要はありません。

日常的なパワハラは、心身を疲弊させ、重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

心身の健康のためにも、パワハラを解決したいと考えるならば、パワハラの定義について知る必要があります。パワハラの定義を知ることで、適切な対応が取れるようになります。

本記事では、パワハラの定義や被害を受けた際の対処法について詳しく解説しています。悪質なパワハラを受けている場合には、損害賠償請求を起こすこともできます。

自分自身の心身の健康や尊厳を守り、理不尽なパワハラから脱却したい方のために、具体的な解決法についても解説しています。

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目次

パワハラの定義

パワーハラスメント、通称「パワハラ」とは、職場内での優位性や立場を利用して、労働者に対して業務の適正範囲を超えた叱責や嫌がらせをおこなう行為のことです。

しかし、パワハラの定義は難しく、個人の主観による判断になってしまいがちです。 そこで参考になるのが、厚生労働省が発表した「職場のパワーハラスメント防止のための指針」です。

どのような行為が職場におけるパワハラになるのかを具体的に記載しています。ガイドラインでは、下記の3つの要素全てを満たすものが職場におけるパワハラの基準とされています。

詳細を確認していきましょう。

優越的な関係を背景とした言動であること

「パワー」ハラスメントと名が付くとおり、職場での「優位性」を背景とした言動がパワハラにあたります。

一般的には、立場上逆らえない上司や先輩社員から行われるという認識がありますが、同僚や部下から行われるものであっても何らかの優位性を背景とした言動であれば、パワハラに該当する可能性があります。

職場の地位や優位性を理由に「断ればなにをされるのかわからない」「評価が下げられるかもしれない」といった状況にある場合、パワハラに対処すること自体が心理的負担になる可能性があります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること

パワハラが成立するのは、業務の適正範囲を超えている場合に限られると考えられています。

たとえば、指示する口調が強くても、その内容が業務として行われるべき範囲内であればパワハラには該当しないとされます。

しかし、業務上明らかに必要ではない言動や、業務の目的とはかけ離れた言動は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」としてパワハラに該当する可能性があります。

労働者の就業環境が害される言動であること

相手に身体的又は精神的苦痛を与えて、就業環境を害する言動はパワハラに該当する可能性があります。

パワハラが原因で、職場全体の生産性やチームワークが低下することもあります。

典型的なパワハラの類型

では、典型的なパワハラにはどのようなものがあるのでしょうか。

厚生労働省は職場におけるパワーハラスメントの代表的なものを「パワハラ6類型」として分類しています。

具体例とともに確認していきましょう。

精神的な攻撃

脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などの精神的な攻撃はパワハラの典型例のひとつです。

パワハラを受けたために、精神疾患を患ってしまうなど深刻な問題となっています。

  • 人格を否定するような侮辱発言や長時間にわたって暴言を繰り返す行為
  • 他の従業員の面前や他の社員も閲覧できるメールで罵倒する行為

身体的な攻撃

殴る・蹴る・物を投げるなどの物理的な暴力は身体的侵害に当たります。

  • 叩く、蹴るなどの暴行行為
  • タバコの火を近づける、殴りつけるまねをするなど身体を脅かす行為
  • 適切に冷房や暖房を使用させない、トイレに行く回数を極端に制限するなどの行為

過大な要求

明らかに達成不可能なノルマを課すことで、就業環境が不快となった場合などには、「過大な要求」としてパワハラに該当する可能性があります。

  • 十分な教育を行わないまま達成不可能なノルマを課す行為
  • ノルマを達成できなかった際に厳しく叱責する、不当なペナルティを強制する行為
  • 業務に関わりのない、私的な雑用を強制する行為

過小な要求

その人の能力や経験とかけ離れた仕事を強制することもパワハラに該当するケースがあります。

たとえば、自分から退職させるために、能力を考慮せず能力に見合わない単調作業を強いるケースがあります。

  • 本来の能力が発揮できない仕事を強制する行為
  • 意図的に仕事を与えないなど、業務上の合理性がない行為

個の侵害

業務とは関係がない、プライベートな内容に過剰に踏み込む行為も、相手が精神的苦痛を感じ、それにより職場環境が害されるとパワハラと認定される場合があります。

また、異性に対して、過剰にプライベートを詮索した場合にはセクハラにあたる可能性もあります。

  • 相手が踏み込まれたくない家族状況や病歴などを執拗に質問する行為
  • 労働者の個人情報を本人の許可がなく他者に流布する行為

人間関係からの切り離し

社内でわざと無視したり仲間はずれにしたりして、人間関係から孤立するように仕向けた場合、パワハラと認定されることがあります。

  • 特定の従業員を集団で無視する行為
  • 特定の従業員にだけ仕事を教えない、リモートワークを強制する行為

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パワハラかどうかの判断は曖昧な部分がある

ガイドラインが制定され、企業内でのコンプライアンスが強化されているため、パワハラの判断基準は、過去に比べ明確になりつつあります。

しかし、実際にはケースバイケースで判断される曖昧さがあります。ここでは、判断を難しくさせる要因を紹介します。

厚生労働省のパワハラ指針での定義だけでの判断は難しい

厚生労働省は、パワハラ防止法に基づいてパワハラ指針を策定しました。

この指針では、パワハラの具体的な事例や対策法を示していますが、これらはあくまで参考であり、法的な拘束力はありせん。

そのため、厚生労働省のパワハラ指針だけでパワハラを断定することは難しく、裁判所や労働委員会による客観的な判断が必要になる場合があります。

受け手がパワハラと感じたらパワハラということにはならない

パワハラが社会的認知を得る中で、「受け手がパワハラと感じたらパワハラ」という認識が一部で広がっています。

しかし、これは正確ではありません。受け手がパワハラだと主張しても、客観的にみて業務上適正な範囲内であると認定された場合には、パワハラには該当しない可能性が高くなります。

最近では、指導を受ける側が「パワハラで訴えます」などと指導者に強く出る事例もありますが、客観的な事実が伴わない場合はパワハラには該当しません。

指導とパワハラの線引きは業務上必要かつ相当かどうか

一般論として、上司や先輩社員から部下や後輩への指導は必要不可欠なものです。

しかし、指導とパワハラの線引きは非常に曖昧であり、過剰な指導や不適切な言動が含まれていると、パワハラと判断される場合があります。

指導とパワハラの線引きをする際には、業務上必要かつ相当かどうかが問われます。

業務上必要かつ相当な指導とは、相手の能力や成果を向上させることを目的とし、具体的で明確なフィードバックやアドバイスを伝えるものです。

一方で、パワハラになる指導とは、相手の人格やプライバシーを侵害し、理不尽な要求や罵倒をするものです。

指導する側は、自分の言動がどのような影響を与えるかについて考え、相手の立場や感情に配慮することが大切です。

継続的な人格批判はパワハラとなる可能性がある

職場では、ときに厳しい言葉で叱責され、冗談や皮肉を言われることもあります。

それが、一時的ではなく、継続的におこなわれ、受け手の人格や尊厳を傷つける内容であればパワハラと認定される可能性があります。

たとえば、「お前はクビになるべきだ」といった人格否定につながる暴言や、容姿や能力に関する屈辱的な発言はパワハラと判断されやすいでしょう。

パワハラとモラハラの違い

パワハラとモラハラは、両方とも人間関係の問題です。

パワハラは職場における優位性を背景とした言動である点が特徴であり、モラハラは職場に限定されず、家庭や友人関係でも起こりうる精神的な虐待です。

モラハラは、人格否定や無視など、相手を精神的に傷つける点が特徴となっています。

パワハラとモラハラを明確に分けることは難しく、両方に該当するケースもあると考えられます。

パワハラで労災認定される主な条件

パワハラは被害者の心身に深刻な影響を及ぼすことがあり、場合によっては労災として認定される可能性があります。

労災認定されるためには原則として、以下の3つの要件全てを満たす場合になります。

  1. 労災認定の対象となる精神障害を発病していること
  2. 発病前おおむね6ヵ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

ここでは、それぞれの要件について詳しく解説します。

労災認定の対象となる精神障害を発病していること

労災認定の対象となる精神障害を発病していることが、パワハラで労災認定されるための要件のひとつです。具体的には、うつ病や急性ストレス反応などが対象です。

被害者はこれらの精神障害と診断された医師の診断書や治療記録を提出する必要があります。

発病前おおむね6ヵ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること

精神障害の発病前おおむね6ヵ月の間に業務による強い心理的負荷が認められることも要件となります。

この約6ヵ月という期間は、精神障害の発病と業務によるストレス要因との関係を判断する目安とされています。

被害者は、パワハラの具体的な内容や頻度、期間などを証明する資料を提出する必要があります。

業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

パワハラで労災認定を受けるための3つめの要件は、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことです。

たとえば、家族との死別や離婚など、仕事と関係のないストレスが原因で精神障害を発病した場合は、労災認定の対象とはなりません。

パワハラに直面した際の対処法

職場でパワハラに直面した際に、自身の心身の健康を守るためにすぐにとるべき方法がいくつかあります。

以下では、不当なパワハラから逃れるための退職代行や、悪質なパワハラに対する損害賠償請求などについて説明します。

不当なパワハラから逃げたい場合は退職代行もひとつの手段

パワハラによって職場環境が悪化し、自分の心身の健康を守るために退職を考えることもあるでしょう。

しかし、「退職したいと言ったらさらにパワハラが悪化するかもしれない」と思うと自ら言い出せないこともあります。

実際に退職を伝えた労働者に対し、しつこく引き留めを行い脅迫や嫌がらせで退職を撤回させようとするケースがあります。

スムーズに退職できない恐れがある場合には、弁護士に退職代行を依頼することもひとつの選択です。

退職代行とは、本人に代わって退職手続を進めてくれるサービスです。

これにより、パワハラを行っている上司や職場との対面を避けることができ、心身の負担を軽減できます。

ただし、退職代行サービスを利用する前に、専門家に相談することをおすすめします。

悪質なパワハラについては損害賠償請求ができる場合も

悪質なパワハラが原因で心身に被害を受けた場合、被害者は加害者に対して損害賠償請求をおこなうことができます。

損害賠償請求を成功させるためには、事前に証拠を十分に収集し、適切な法的手続を踏むことが大切です。

労務問題やパワハラ問題の解決実績のある弁護士に依頼して、自分の権利を守りましょう。

パワハラに対して訴訟を起こす手順

パワハラに対し訴訟を起こす場合には以下のような手順になります。訴訟を起こすには、さまざまな証拠が必要です。

現在パワハラの被害にあっている場合は、将来的に訴訟を起こす可能性に備えて証拠を集め、訴訟の手順を理解しておくことをおすすめします。

パワハラ行為について録音や動画で証拠を残す

訴訟を起こす前に、パワハラ行為の証拠を集めることが重要です。録音や動画の証拠があれば、パワハラ行為を立証しやすくなります。

証拠が不十分だと、訴訟が難航する可能性がありますので、注意が必要です。

訴訟を起こすうえで証拠となり得るものは次のとおりです。

  • 診療録(カルテ)、診断書
  • 録音データ
  • 写真・動画
  • メール、SNS(LINEなど)
  • 職場の同僚の証言
  • 被害者が作成した業務日誌、日記

心身に影響がある場合は通院し診断書をもらう

パワハラによるストレスや苦しみは、往々にして健康に悪影響を及ぼすものです。そのため、体調が崩れた場合は、できるだけ早く医師の診断を受けることをお勧めします。

通院履歴や診断書は、パワハラ被害の損害賠償請求において重要な証拠となります。診断書を提出することでパワハラ被害の信憑性が高まります。

証拠をもとに上司や人事部・労働組合に対応の相談をする

パワハラを受けている証拠がそろったら、まずは上司や人事部、労働組合に相談してみることも考えられます。

相談をすることで、会社側が適切な対応をとり解決できる場合があります。

「総合労働相談コーナー」に相談する

社内での解決が難しい場合、全国に設置されている「総合労働相談コーナー」に相談してみることも考えられます。

「総合労働相談コーナー」では、パワハラ、セクハラを含むあらゆる分野の労働問題について相談が可能です。

専門相談員が面談や電話で対応してくれます。予約は不要で利用料金もかかりません。相談のほか、「助言・指導」や「あっせん」について案内を受けられます。

労働審判による紛争解決を試みる

労働審判を活用して問題解決をはかることも考えられます。 労働審判とは、労働者と会社間の労働問題を解決するための手続です。

労働審判は、はじめに裁判所に申し立てる手続が必要です。パワハラの証拠を収集し、書面を作成する必要があるため、労働審判を活用する際には弁護士に相談・依頼するケースが多くなります。

訴訟を提起する

パワハラについて訴訟を提起することも考えられます。労働審判で問題が解決しない場合にも訴訟に移行します。

訴訟でスムーズな解決を図るためには、労働問題に詳しい弁護士に依頼することをおすすめします。

まずは、無料相談などを活用して信頼できる弁護士を見つけましょう。

パワハラ問題は労働トラブルの多数を占めている

パワハラ問題は労働トラブルの多数を占めています。これは、社会的な認識の向上や厚生労働省によるパワハラの定義の明確化も影響していると考えられます。

また、パワハラ被害の実態が明るみに出ることで、被害者が声を上げることへの抵抗が少なくなっているともいえます。

近年、パワハラが原因で職場環境が悪化し、従業員の心身の健康が損なわれるケースが多く見られます。

このような状況に対し、企業側において予防策や対応策を検討し、従業員の健康を守る取り組みが進み、パワハラに対し適正に対応する意識が高まっています。

今後は、職場におけるパワハラが減少していくことが期待されています。

理不尽な職場環境から自身の健康と未来を守るためにも弁護士に相談

今回は、パワハラに関する判断基準、パワハラに直面した際の対処法などを解説してきました。

職場でパワハラが起きているか、ご自身の受けている待遇がパワハラにあたるかなどの参考にしてください。

パワハラは、心身ともに深刻な影響を与える可能性があります。被害が大きくならないうちに、適切な対処が求められます。

パワハラの被害にあった場合は、適切な手順を踏み一日も早い解決を目指してください。

社内での解決が難しい場合には、労働トラブルを扱う弁護士への相談をおすすめします。

弁護士のアドバイスの元、有効な証拠を集め有利な条件で解決を図りましょう。

また労働局への相談はパワハラは労働局に相談できる?労働局の活用方法やその他の解決方法も紹介をご覧ください。

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編集部
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