遺産の使い込み気づいた時の対処法|罪状や時効を解説
「遺産を使い込まれてしまったけれど、どうすればよいのだろう」
「使い込まれた遺産は戻ってくるのかな?」
遺産が使い込まれた場合は、使い込まれた証拠があれば取り戻せます。
ただし、証拠がなかったり、相手に返還するだけのお金がなかったりすると取り戻すことは難しいでしょう。
また、使い込みには時効があるため、時効が成立している場合には取り戻すことはできません。
遺産が使い込まれてしまったと気がついた場合には、使い込みの証拠を集めるようにしましょう。
個人で有効な証拠を集めることが難しい場合もあるので、できれば弁護士に依頼することがベターです。
この記事では、遺産の使い込みに気付いたらやるべきことや、弁護士に依頼するメリットなどについて詳しく解説します。
遺産の使い込みとは
遺産の使い込みとは、相続人が正当に受け取れるはずの遺産を、別の人物が勝手に使ったり売却したりしてしまうことを指します。
ここでは、具体的な事例を挙げたうえで、遺産を取り戻せるかどうかについて詳しく解説します。
遺産の使い込みの具体的な事例
まずは、よくある遺産の使い込みの事例を見てみましょう。
- 遺産を自分名義の口座に勝手に送金する
- 不動産賃料の横領する
- 遺産である不動産を勝手に売却する
- 介護費用として不当な額を横領する
- 勝手に株式取引をおこなう など
いずれの場合も、正当な相続人がいるにもかかわらず、別の人物がその遺産を使い込んでしまうことが問題となります。
また、使い込んだ方も相続人であるケースもあります。
たとえば、兄弟が相続人だった場合に兄が弟の分の遺産を手に入れてしまうといった状況も「使い込み」とされます。
遺産の使い込みは取り戻せる場合と取り戻せない場合がある
遺産の使い込みは、取り戻せる場合と取り戻せない場合があるので注意が必要です。
それぞれについて具体的にみていきましょう。
取り戻せる場合
遺産の使い込みの事実があり、それを証明できる証拠がある場合には、遺産を取り戻せる可能性が高まります。
証拠がない場合には客観的な判断ができませんが、たしかな証拠を提示することができれば、使い込んだ相手も言い逃れができなくなるしょう。
具体的には、以下のようなものが証拠として有効です。
- 被相続人の預金口座の入出金履歴
- 被相続人のカルテや診断書
- 被相続人の定期預金の解約請求書
- 被相続人の生命保険の解約請求書
- 被相続人名義の不動産の売買契約書
- 使い込みについてのメールやメモ、日記 など
取り戻せない場合
使い込まれた遺産が取り戻せないケースとしては、主に以下のとおりです。
- 使い込まれた証拠がない場合
- お金を使う正当な理由がある場合
- 相手に返還するお金がない場合
- 時効が成立している場合 など
先述したように、遺産を使い込まれた証拠がない場合には取り戻すことは難しいといえます。
また、お金はたしかに使われたものの、介護や医療費など正当な理由があって使われた場合には取り戻せません。
また、たとえ遺産を使い込まれた証拠があったとしても、相手に返還するだけのお金がない場合には取り戻すことは現実的に難しいでしょう。
また、遺産の使い込みを取り戻すには時効があります。
時効が成立してしまった場合にも取り戻せなくなるため注意しましょう。
なお、時効については第3章で詳しく解説します。
遺産の使い込みは罪に問える?
遺産の使い込みは、一般的な「窃盗罪」や「横領罪」などの罪に問えるのでしょうか。
実は、家族や配偶者などの場合には、お金を使い込んだとしても窃盗罪や横領罪に問うことはできません。
たとえば、一般的には会社のお金を使い込むと横領罪に問うことができますが、遺産の使い込みの場合はあくまでも親族間でのトラブルであり、これらの罪を問うことができる規則がないため免除となります。
遺産の使い込みに気付いたらやるべきこと
ここでは、遺産の使い込みに気付いたらやるべきことについて詳しく解説します。
使い込みについて調査する
まずは、遺産が使い込まれた事実について詳しく調査しましょう。
実際にどのような使い込みがおこなわれたのか、いくら使い込まれたのかなどを詳しく調査します。
この段階で、できる限りの証拠を集めましょう。
中には、「遺産を使い込まれているかもしれない」と思っていても、実際に遺産を計算してみたら思い違いだった、といったこともあります。
そのため、真実を明らかにするという点も踏まえ、詳しい調査は必須といえるでしょう。
なお、個人では預貯金の証拠集めしかできないことがほとんどであり、より詳細な調査をする場合は弁護士へ依頼する必要があります。
もしご自身で調べるのに限界を感じたら、弁護士に依頼して調査をおこないましょう。
話し合いをおこなう
遺産を使い込まれた事実が明らかになったら、使い込みをした相手との話し合いをおこないましょう。
この時点で相手が使い込みを認めて返還に応じれば、合意書を締結して解決します。
しかし、話し合いに応じなかったり、返還の金額について意見が割れたりした場合には、裁判を起こして解決する必要があります。
裁判を起こして返還を請求する
話し合いをおこなっても解決できなかった場合には、裁判を起こして返還を請求します。
遺産の使い込みに対しておこなえる請求は、「不当利得返還請求」または「損害賠償請求」となります。
それぞれについて、詳しくみてみましょう。
不当利得返還請求
不当利得返還請求は、遺産の使い込みが発覚した場合に返還を請求するものです。
不当利得返還請求を認めてもらうためには、遺産が不当に使い込まれたという証拠が必要となります。
なお、不当利得返還請求をおこなう場合には、弁護士に手続きを依頼することが一般的です。
また、中には証拠集めをした段階で「遺産の使い込みを知った」とみなされるケースもあることから、なるべく早い段階で調査を弁護士へ依頼することをおすすめします。
不当利得返還請求について詳しくは不当利得返還請求とは|認められるケースや流れ、時効をわかりやすく解説をご覧ください。
損害賠償請求
使い込んだ相手が、不当だとわかっていながら故意に使い込みをしていた場合には、不法行為として損害賠償請求をおこなうことも可能です。
損害賠償請求をおこなう場合には、相手に悪意(不当な利益だとわかっていながら利益を得た)があったことを証明する必要があります。
使い込み遺産を取り戻す際は時効に注意
2020年4月1日以降に発生した不当利得返還請求権の時効は5年もしくは10年です。
時効の起算日、2020年3月31日以前に生じていた不当利得返還請求権の時効の考え方を詳しく解説します。
2020年4月1日以降の不当利得返還請求権の時効は原則5年もしくは10年
不当利得返還請求権には消滅時効があります。
消滅時効とは、時の経過によって権利が消滅する制度です(民法166条)。
2020年4月1日以降に生じた不当利得返還請求権は、次のどちらか先に経過した時点で時効を迎え、消滅します。
- 不当利得返還請求できることを権利者が知ったときから5年(主観的起算点)
- 不当利得返還請求できるときから10年(客観的起算点)
2020年4月1日は、改正民法が施行された日です。
2020年3月31日以前に生じた不当利得返還請求権の消滅時効については、次に解説します。
借金の消滅時効については以下の記事で詳しく解説しています。
旧民法での不当利得返還請求権の時効は原則10年
2020年3月31日以前に生じた不当利得返還請求権の消滅時効期間は、請求できるときから10年です。
2020年3月31日以前に生じた債権の消滅時効期間については旧法にのっとるとの規定があるため、改正後の民法に追加された「主観的起算点」は適用されません(改正民法 附則10条4項)。
損害賠償請求で取り戻す場合の時効は3年
損害賠償請求で遺産を取り戻す場合の時効は、「損害及び加害者を知ったときから3年間」です。
使い込みが10年前だったとしても、それが発覚してから3年間で時効となります。
いずれの場合も、時効が成立する前に迅速に行動する必要があります。
遺産の使い込みについて弁護士に依頼するメリット
ここでは、遺産の使い込みについて弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説します。
使い込みの証拠を集めやすい
弁護士に依頼すると、使い込みの証拠を集めやすいのが大きなメリットです。
使い込みの返還を求めるには、有効な証拠を集めることが欠かせません。
しかし、使い込みの証拠を集めることは、個人では簡単ではないでしょう。
弁護士に依頼すると、必要な証拠が明確になりますし、手続きも全て依頼することが可能です。
弁護士は「弁護士会照会制度」という調査制度を活用できるため、個人では難しい預貯金の取引明細や病院のカルテ、介護記録等を取り寄せることが可能です。
また弁護士に依頼することで、具体的にどれくらい使い込まれたかを調査できます。
資料を集めるだけでなくそれらの分析も任せられるのです。
相手との交渉や訴訟を全て任せられる
弁護士に依頼すると、相手との交渉や訴訟などを全て任せられることもメリットといえるでしょう。
遺産の返還を求めるには、相手とさまざまな交渉をしなければなりません。
こうした交渉を個人がおこなうことは困難です。
また、訴訟になった場合にも、全ての手続きを一任できます。
ご自身が有利になるよう証拠を集め、手続きを全ておこなってもらえるため、返還を請求する場合には弁護士への依頼は必須といえるでしょう。
解決後の資産分割の相談もできる
無事に遺産の使い込みが解決された場合には、相続人間で遺産分割協議を進めることとなります。
その際の手続きも、弁護士に全て任せられるのもメリットとして挙げられます。
ご自身が不利にならないように協議を進めるためにも、弁護士への依頼は重要といえるでしょう。
弁護士への相談は遺産分割について弁護士に無料相談する方法|弁護士に依頼するメリットも解説をご覧ください。
遺産の使い込みを防ぐ方法
ここでは、遺産の使い込みを防ぐ方法についても詳しく解説します。
亡くなったら口座を凍結する
被相続人である人物が亡くなったら、口座を凍結することで使い込みを防ぐことが可能となります。
口座を凍結してしまえば、勝手に預貯金を引き出すことができなくなります。
遺産から被相続人の葬儀費用を出したい場合には、口座を凍結していても銀行に申し出ることで引き出せます。
ただしこの場合にも、引き出せる費用には上限が設定されています。
使い込みを防ぐ制度を活用する
使い込みを防ぐ制度を活用することもおすすめです。
たとえば、遺産や財産を守るために以下のような制度の活用も検討しましょう。
- 成年後見人制度…本人に十分な判断能力がない場合(認知症など)に財産を管理できる権利を得る制度
- 家族信託…家族のうち誰かに資産の管理を任せる制度
これらを活用することで、事前に不当な使い込みを防ぐことが可能となります。
生前に相続について話し合っておく
被相続人の方がまだ生きているうちに、相続について話し合っておく方法も有効です。
たとえば、生前贈与をおこなって事前に資産を整理しておき、誰にどのような資産を残すのかを明確にしておくとよいでしょう。
もともと家族間での信頼関係がある場合、この方法を取ることで使い込みなどのトラブルを防ぐことが可能となります。
自分が遺産の使い込みを疑われたときの対処法
万が一、自分が遺産の使い込みを疑われてしまった場合はどうすればよいのでしょうか。
ここでは、自分が遺産の使い込みを疑われた場合の対処法について詳しく解説します。
心当たりがあればすぐに返還する
当たり前のことですが、ご自身に心当たりがあるのであればすぐに返還しましょう。
使い込みの事実があり、それをごまかそうとすると「悪意がある」と判断され、使い込んだ遺産に加えて損害賠償も請求されることがあります。
また、多少使い込みがあったものの、相手の請求額よりも少ない額が妥当であると感じた場合には、弁護士を立てるなどして反論することをおすすめします。
心当たりがない場合は反論する
使い込みの心当たりがない場合には反論しましょう。
ここでは、具体的な事例を3つ解説します。
【反論例1】金をそもそも引き出していない
遺産をそもそも引き出していない場合は、事実がないということ抗弁します。
相手は、あなたが使い込んだという証拠を得なければ返還請求をおこなえません。
そもそも、お金を引き出していない場合にはそうした証拠が出てこないため、返還請求が認められることはありません。
【反論例2】金を引き出したが医療費に充てた
よくある事例としては、お金を引き出したものの医療費や介護費に充てたという場合があります。
この場合には、医療費の記録や介護記録などを用意し、実際に引き出したお金が医療費や介護費に使われていたということが証明できます。
【反論例3】生前に被相続人から贈与された
遺産を生前に被相続人から贈与されていた場合も、使い込みには該当しません。
贈与契約書など書面がある場合は、それを証拠として提出するとよいでしょう。
遺産の使い込みを疑われないために資料を残しておこう
生前に使い込みを疑われないための準備として、なるべく資料を残しておくようにしましょう。
たとえば、生前贈与を受けた場合には、それを証明する「贈与契約書」を取り替わります。
そのほか、お金を被相続人の医療費や介護に充てる場合にも、領収書等を残しておくことで遺産の使い込みを疑われにくくなります。
使い込みを疑われてしまった場合にも、使い込みではないという証拠を集めておく必要があります。
そうした証拠を集めるのが難しい場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
まとめ
この記事では、遺産の使い込みについて詳しく解説しました。
自分が受け取れるはずだった遺産を使い込まれた場合は、返還請求をおこないましょう。
ただし、それを認めさせるには、相手が不当に使い込んだ証拠を掴まなければなりません。
この立証ができない場合には、使い込んだ遺産が返還されることはないでしょう。
何よりも重要なのは、証拠を集めることです。
遺産の使い込みなどに強い弁護士に依頼することで、必要な資料を迅速に集めることも可能となります。
遺産が使い込まれてお困りの場合は、ぜひ弁護士に相談して対応することをおすすめします。