法定相続人とは?相続順位や範囲、相続割合についてわかりやすく解説
身近な方が亡くなり、相続手続きについて調べ始めたという方もいるでしょう。
その中で「法定相続人が相続権をもつことを知り、誰がなれるのか?」「どのような割合で相続できるのか?」など、基本的な知識を身につけておきたいと考えている方も多いかもしれません。
法定相続人とは、相続権を有することを法律で定められている人のことです。
法定相続人になれるかどうかは「相続順位」という優先順位に従い、親族だからといって、必ずしもなれるわけではありません。
また、遺産の分割割合は、被相続人との関係に応じて異なります。
加えて、法定相続人が誰か確認するためには調査が必要です。
本記事では、法定相続人の範囲や相続割合、法定相続人が相続権を失う場合や調査方法など、法定相続人についての基礎知識について解説します。
スムーズに相続手続きを進めるためにも、法定相続人についての基礎知識をしっかり理解しておきましょう。
法定相続人とは | 民法上、相続する権利を有する人のこと
法定相続人とは、被相続人の遺産の相続権があり、相続人になれる人のことです。
誰が法定相続人になれるかは、民法第887条から第889条で定められています。
具体的には、被相続人の子どもや親、兄弟姉妹などが該当します。
また、法律によって定められた各法定相続人が相続できる割合が法定相続分です。
その割合は同法第900条で定められており、被相続人との関係性のほか、法定相続人の構成によって異なります。
法定相続人が死亡している場合は代襲相続人が代わりに相続権を得る
本来、相続人になるはずだった人が死亡している場合、代襲相続が起こります。
代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が死亡などによって存在しない場合、その相続権が下の世代に移ることです。
たとえば、被相続人が父親で、本来なら相続人となるはずだった子どもが父親よりも先に死亡していた場合に起こります。
この場合、子どもの子ども、つまり被相続人にとっての孫がいれば、孫が相続権を得ます。
法定相続人の範囲 | 相続順位と優先度がある
被相続人の親族だからといって、必ずしも相続権を得られるとは限りません。
法定相続人になれる人には相続順位という優先順位があり、前の順位の相続人がいれば相続権を得ることはできません。
相続順位は、下表のとおりです。
なお、配偶者は常に相続人になります。
【法定相続人ごとの優先順位】
- 配偶者:常に法定相続人になる
- 血族:優先度が高い人が法定相続人になる
優先順位 |
血族の種類 |
第1順位 |
子ども・孫(直系卑属) |
第2順位 |
父母・祖父母(直系尊属) |
第3順位 |
兄弟姉妹・甥姪 |
ここでは、次のような家族を例に相続順位について解説します。
配偶者 | 常に法定相続人となる
被相続人の配偶者は、常に相続人となります。
法律上の配偶者であれば、別居中でも離婚裁判中でも、婚姻関係が続いているのであれば相続権が発生します。
また、法定相続分どおりに相続する場合、ほかに法定相続人がいれば、相続順位に従って相続権を得たほかの相続人と分割します。
子ども・孫(直系卑属) | 第1順位、配偶者を除き最優先で法定相続人となる
被相続人に子どもがいる場合は、子どもが第1順位の相続人です。
被相続人と法律上の親子関係にあれば相続権を有し、養子縁組をした養子や認知した非嫡出子、胎児でも等しく相続権があります。
また、子どもが先に亡くなっている場合は代襲相続が起こり、被相続人にとっての孫に相続権が移ります。
下の世代である直系卑属の代襲相続には制限がありません。
孫も死亡している場合は、ひ孫が相続人となります。
父母・祖父母(直系尊属) | 第2順位、配偶者・子どもより相続順位が落ちる
被相続人に子どもや孫がおらず、第1順位となる相続人がいない場合は、親が相続権をもちます。
また、法律上の親子関係があれば、養親も相続権を得られます。
すでに親が亡くなっており、祖父母が健在である場合は、祖父母が相続人となります。
代襲相続と同じようなことが起きますが、上の世代の場合は代襲相続とはいいません。
兄弟姉妹・甥姪 | 第3順位、相続順位の優先度は一番低い
被相続人に子どもや孫など下の世代がおらず、親や祖父母などもいない場合は、被相続人の兄弟姉妹に相続権が移ります。
被相続人よりも先に亡くなっている兄弟姉妹がいて、その方に子どもがいる場合は代襲相続が起こり、その子ども、つまり被相続人にとっての甥姪が法定相続人となります。
ただし、代襲相続が起こるのは一代限りであり、甥や姪も死亡していれば、その子どもに相続権が移ることはありません。
法定相続人ごとに相続できる割合が決まっている
各法定相続人が、どれくらいの割合の遺産を相続できるかは法律で定められており、これを「法定相続分」といいます。
法定相続分は誰が法定相続人かによって異なり、相続人のパターンと法定相続分は以下のとおりです。
【法定相続人ごとの法定相続分】
法定相続人 |
法定相続分 |
配偶者のみ |
配偶者が全て相続 |
配偶者+子ども(孫) |
配偶者 1/2 子ども(孫)1/2 ※子ども(孫)は1/2を均等に分割 |
配偶者+父母(祖父母) |
配偶者2/3 父母(祖父母)1/3 ※父母(祖父母)は1/3を均等に分割 |
配偶者+兄弟姉妹(甥・姪) |
配偶者3/4 兄弟姉妹(甥姪)1/4 ※兄弟姉妹・甥姪は1/4を均等に分割 |
子ども・孫のみ |
子ども(孫)が全て相続 ※複数人いる場合は均等に分割 |
父母・祖父母のみ |
父母(祖父母)が全て相続 ※複数人いる場合は均等に分割 |
兄弟姉妹・甥姪のみ |
兄弟姉妹(甥姪)が全て相続 ※複数人いる場合は均等に分割 |
配偶者が法定相続人の場合 | 配偶者の法定相続割合は1/2以上
被相続人に配偶者がいる場合、相続人のパターンと法定相続分は次のとおりです。
相続人のパターン |
配偶者の法定相続分 |
配偶者のみ |
1 |
配偶者と子ども |
1/2 |
配偶者と親 |
2/3 |
配偶者と兄弟姉妹 |
3/4 |
子ども(孫)が法定相続人の場合 | 子ども全員での法定相続割合は1/2以上
法定相続人が子どもである場合、相続人のパターンと法定相続分は以下のとおりです。
相続人のパターン |
子どもの法定相続分 |
子どものみ |
子どもの人数で等分 (例:子どもが3人の場合、 1人あたりの法定相続分=1×1/3=1/3) |
配偶者と子ども |
1/2を子どもの人数で等分 (例:子どもが3人の場合、 1人あたりの法定相続分=1/2×1/3=1/6) |
父母(祖父母)が法定相続人の場合 | 両親合わせた相続割合は1/3以上
親が法定相続人である場合、相続人のパターンと法定相続分は以下のとおりです。
相続人のパターン |
親の法定相続分 |
親のみ |
1 (ただし、両親ともに健在である場合は等分。1人あたりの相続分は1/2) |
配偶者と親 |
1/3 (ただし、両親ともに健在である場合は等分。1人あたりの相続分は1/3×1/2=1/6) |
兄弟姉妹(甥姪)が法定相続人の場合 | 全員での相続割合は1/4以上
被相続人の兄弟姉妹が法定相続人の場合、相続人のパターンと法定相続分は以下のとおりです。
相続人のパターン |
兄弟姉妹の法定相続分 |
兄弟姉妹のみ |
兄弟姉妹の数で等分 (例:被相続人を除いた兄弟姉妹の数が3人の場合 1人あたりの法定相続分=1×1/3=1/3) |
配偶者と兄弟姉妹 |
1/4を兄弟姉妹の数で等分 (例:被相続人を除いた兄弟姉妹の数が3人の場合 1人あたりの法定相続分=1/4×1/3=1/12) |
法定相続人の権利を失うケース
次の場合、本来であれば法定相続人であっても、相続権を失います。
相続欠格 | 相続にかかわる重大な非行行為をおこなった場合
相続欠格とは、法定相続人が民法第891条で定められた、次の5つの行為をおこなった場合にその相続権をはく奪されることです。
【相続欠格となる5つの非行行為】
- 被相続人や自分よりも相続順位が上の相続人を故意に死なせたり、死なせようとしたりして実刑を受けた
- 被相続人が殺害されたことを知っていたのに告発や告訴をしなかった
- 詐欺や脅迫によって、被相続人が遺言を書かせなかったり、撤回や取り消し、変更をさせなかったりした
- 詐欺や脅迫によって、被相続人に遺言を書かせたり、撤回や取り消し、変更をさせたりした
- 被相続人の遺言の偽造や破棄、変更をした
相続欠格とする証明書は必要なく、これらの行為をすれば直ちに相続権を失います。
【関連記事】相続欠格とは|相続権を失う5つの事由や相続廃除との違いを解説!
相続廃除 | 被相続人を虐待したりひどく侮辱したりした場合など
法定相続人が、被相続人に対して民法第892条で定められた次の行為をした場合、相続権がはく奪されます。
【相続廃除となる行為】
- 虐待
- 重大な侮辱
- ほかの相続人に対する著しい非行
相続廃除をするには、被相続人が生前のうちに家庭裁判所に申し立てをするか、遺言書にその旨を記載しておく必要があります。
【関連記事】相続人廃除とは|要件・手続き方法・廃除できる相続人の範囲を解説
相続放棄 | 法定相続人自らが相続の権利を放棄した場合
相続放棄をすれば、プラス・マイナス問わず全ての遺産の相続権を失います。
最初から法定相続人ではなかったのと同じであり、法定相続分も相続放棄をした人を除外して考えます。
たとえば、相続人が被相続人の3人の子どもで、そのうちの1人が相続放棄をした場合、本来ならそれぞれの法定相続分は、子どもの人数で等分した3分の1ずつです。
しかし、1人が相続放棄をしたため、相続人は2人となり、その法定相続分は2分の1ずつとなります。
また、相続放棄をすると代襲相続は発生しません。
相続放棄をした人に子どもがいたとしても、相続権が子どもに移ることはありません。
【関連記事】相続放棄とは?手続きの流れや7つの注意点を解説
法定相続人と相続人の違いは? | 言葉は似ているが厳密には違いがある
「法定相続人」と「相続人」は同義で使われる場合がほとんどですが、厳密には次のような違いがあります。
- 法定相続人:相続権がある人
- 相続人:相続権があり、かつ実際に相続をする人
法定相続人とは、相続権をもつ人全てを指します。
つまり、相続放棄をした人も、遺産分割協議の結果や遺言のために遺産を1円も取得しなかった人も法定相続人となります。
一方、相続人とは、実際に遺産の相続をする人のことをいいます。
相続放棄をした人は含まれませんし、遺言などによってまったく遺産を取得できなかった人は含まれません。
法定相続人が誰かを確定する方法 | 家族関係が複雑だと調査は困難に
誰が法定相続人になるかは、相続調査によって確認します。
相続調査とは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類を全て取り寄せ、その法定相続人を調べることです。
戸籍謄本をたどれば、被相続人の親や配偶者、子どもを特定できます。
さらに、法定相続人の戸籍謄本類の取得も必要です。
戸籍謄本を確認することで、本人が健在であるか、代襲相続は発生しないかを確認できます。
戸籍謄本類は、本籍地のある自治体の役所で取得可能です。
なお、戸籍法が一部改正されたことにより、取り寄せたい戸籍謄本類の本籍地が遠方にある場合でも、1ヵ所の市区町村の窓口でまとめて請求できるようになりました。
ただし、この制度を利用するためには、戸籍謄本類の請求者が直接窓口へ出向く必要があります。
遠方の場合は、郵送請求を利用して取得するとよいでしょう。
また「身近な親族のことだし、わざわざ戸籍謄本を取り寄せるまでもない」という方もいますが、必ずおこないましょう。
あとになって思わぬところから法定相続人の存在が発覚すれば、相続手続きをやり直さねばなりません。
面倒がらず、きちんと書類を取り寄せて確定しましょう。
法定相続人の数が多く大変な場合は、専門家に相談するのが賢明です。
法定相続人に関してよくある質問
さまざまな状況にあり、自分の場合は法定相続人になれるのかわからないという方もいるでしょう。
ここでは、法定相続人についてのよくある質問とその回答を紹介します。
養子は法定相続人になれますか?
養子と養親には法律上の親子関係があるため、養子でも法定相続人になることができます。
一方、実親の法定相続人になれるかどうかは、普通養子縁組と特別養子縁組のどちらかによって異なります。
普通養子縁組の場合は、養親・実親両方の法定相続人になれますが、特別養子縁組の場合は養親の法定相続人にしかなれません。
また、相続税の計算時には、法定相続人の数に含められる養子の数に限りがある場合があります。
相続税の基礎控除額、生命保険金や死亡退職金の限度額などの計算に含められる養子の数は、被相続人に実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までです。
内縁のパートナーや内縁のパートナーとの子どもは法定相続人になれますか?
法定相続人となるには、法律上の配偶者でなければならず、内縁のパートナーは法定相続人にはなれません。
内縁のパートナーとの間に子どもがいる場合は、被相続人がその子どもを認知していれば法定相続人になれます。
相続順位、法定相続分は実子と変わりません。
相続順位は第1順位であり、法定相続分は実子と等分した割合です。
法定相続人が未成年の場合はどうなりますか?
遺産分割協議を実施する場合は、家庭裁判所に申し立てをして特別代理人を選任してもらわねばなりません。
未成年の場合、単独で法律行為ができず、代理人を立てる必要があるためです。
通常の法律行為であれば、親権者が代理人となりますが、相続の場合は親権者も法定相続人であるために利益相反の関係となり、代理人にはなれません。
ただし、遺産分割協議をおこなわず、法定相続分どおりに分割する場合は、特別代理人を選任する必要はありません。
胎児は法定相続人として認められますか?
通常、胎児には権利能力は認められていないものの、相続に関しては例外的に、胎児も法定相続人であると認められています(民法第886条)。
ただし、万が一、流産や死産してしまったり、中絶をしてしまったりした場合は法定相続人に含められません。
胎児の相続については、以下の記事も参考にしてください。
【関連記事】胎児の遺産相続権はいつから?もらえる条件や産後の手続きを解説
離婚した配偶者との間に生まれた子どもは法定相続人になれますか?
離婚しても被相続人と子どもとの間の親子関係まで消滅するわけではないため、子どもは法定相続人です。
一方、配偶者は離婚すれば法律上の関係は何もなくなるため、法定相続人にはなれません。
【関連記事】離婚しても元配偶者や子どもは相続できる?相続させない方法も解説
法定相続人が行方不明の場合はどうなりますか?
住所がわからない場合は、戸籍附票を取得して現住所を調べ、連絡してみましょう。
戸籍附票は本籍地のある役所で取得できます。
返信がなければ、現地まで訪れて確認するのが望ましいところです。
戸籍附票に記載の住所にもいないのであれば、家庭裁判所に不在者財産管理人選任を申し立てます。
不在者財産管理人とは、行方不明の相続人に代わって財産を保存、管理する人のことです。
保存と管理についての権限しかないため、遺産分割協議に参加することはできませんが、裁判所の許可を得られれば協議を成立させることもできます。
ただし、裁判所からの許可は簡単に得られないため、専門家に相談しながら進めるほうがよいでしょう。
【関連記事】不在者財産管理人とは|音信不通の相続人がいても遺産分割を進める方法
法定相続人が不在で、遺言書もない場合はどうなりますか?
法定相続人が誰もおらず、遺言書もないために相続人がいない場合は、家庭裁判所に相続財産清算人を選任してもらいます。
相続財産清算人とは、相続人が誰もいない相続事件において、遺産の管理や清算をおこなう人のことです。
選任申し立ては通常、債権者や受遺者、特別縁故者など利害関係のある人がおこないます。
さいごに | 法定相続人や相続の問題で不安があれば弁護士に相談を!
法定相続人になれる人は法律によって定められています。
相続順位もあり、親族だからといって、必ずしもなれるわけではありません。
法定相続人を確定するには、被相続人の戸籍謄本をたどって相続調査をする必要があります。
相続人の数が多かったり、関係が複雑であったりする相続であれば、不慣れな方にとっては難しく時間や手間がかかる可能性があります。
相続手続きには期限のあるものも多いため、不安なことや困ったことがあれば、早めにベンナビ相続で弁護士を探して、相談することをおすすめします。