サービス残業の強要は違法!悪質な手口とその対策法を解説
法定の労働時間を超えて働いた時間に対して賃金を支払わないサービス残業は、当然違法です。
働き方改革が盛んに叫ばれ、残業時間を減らす試みが進められている一方、さまざまな手口でサービス残業は未だに発生しています。
この記事では、「これはサービス残業なんじゃないか」と不満を抱えている方に対し、実際にサービス残業と認められた事例を紹介しつつ、よくあるサービス残業の手口を解説します。
また、サービス残業への対処方法もお伝えしますので、参考にしてみてください。
サービス残業は違法!
一般的に1日8時間、1週間に40時間を超えて働いた時間は「残業時間」です。
会社が労働者に対して残業代を支払わずに残業を強いることは、明らかな労働基準法違反です。
サービス残業とは
サービス残業とは、企業などの使用者側が法定の労働時間を超えて労働者を働かせたにも関わらず、超過分の賃金を支払わないことをいいます。
労働基準法第37条では、残業をさせる際には「残業手当」「休日手当」を支払うべきことが規定されています。
使用者は通常の賃金に加えて、割増賃金を支払わなければなりません。
このように法律で規定されているにも関わらず、使用者側が労働者の超過労働を残業と認めなかったり、労働者自身が会社の慣習等によって残業代を申請しなかったりして、サービス残業が発生しているケースもよくあります。
サービス残業の強要は違法
サービス残業を社員に強要することは違法行為です。
労働基準法第37条で禁止されている行為であり、違反すれば使用者側に対し、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条1号)。
サービス残業の強要が発覚した場合、使用者は未払い残業代を支払う民事責任だけでなく、最悪の場合、使用者が懲役刑を含む刑事罰を科されるなど、重い刑事責任を追及される可能性もあります。
サービス残業を強要される原因
サービス残業が起こる原因には、以下のようなものがあります。
- 人件費削減
- 使用者側の無知
- 昔からの慣習
最も多い原因は、人件費の削減でしょう。
使用者側が人件費削減のために、人員を増やすことも残業代を支払うこともせず、今いる従業員にサービス残業を強要している状態です。
現在では、残業代未払いは違法だと広く認識されています。
しかし、みなし労働時間制だから残業代は発生しない、残業代は給料に含まれているなど、経営者の無知や認識違いによってもサービス残業が発生していることもあるでしょう。
また、日本ではサービス残業が昔から慣習になっている会社も多いでしょう。
先輩や同僚が残業代を申請していないため、自分だけ申請するのははばかられると、社員が自ら残業代申請をためらってしまう場合もあります。
近年では無理な働き方改革によって、会社から定時で退勤することを強制され、持ち帰り残業をしている方も増えているといいます。
サービス残業の強要に該当するもの
サービス残業のなかには、明らかにサービス残業とわかるものもありますが、一見サービス残業にあたらないように見えるものもあります。
以下で、サービス残業の強要に該当する労働を、具体的な裁判例をあげつつ解説します。
定時にタイムカードを押した後の労働
労働が定時に終わったと見せかけるため、定時に一度タイムカードを押させた後、さらに労働者を働かせることはサービス残業の強要にあたります。
タイムカードは、残業代を請求されたときの会社側の証拠となりえます。
会社側は、定時に押されたタイムカードを証拠として、残業が発生しなかったと主張できるのです。
ただし、タイムカードが定時に押されていたからといって、その後も就労をさせていれば、残業代を支払わなければなりません。
【裁判例:東京地判平24.12.27判決】
グラフィックデザイナーの女性がタイムカードを押した後も勤務を続けさせられていた事例で、女性が会社を相手取り、残業代の支払いを請求しました。
【判示】
裁判所は、タイムカードがある場合は打刻時間から労働時間を推定するが、打刻時間以上に働いていた証拠があればそれを認めるとし、パソコンの履歴などから女性の残業を認めました。
会社側には、残業代と不当にカットされたボーナス分の支払いが命じられました。
労働の裁量権限がないのに「名ばかり管理職」
「名ばかり管理職」とは、労働基準法第41条2号の規定を利用した残業代の不払い手段のことをいいます。
労働基準法第41条2号では、管理監督者は割増賃金規定の適用外とされています。
管理監督者は、労働条件の決定等の労務管理について、経営者と一体の立場にある者とみなされ、労働の裁量権限があると判断されるからです。
それを企業側がうまく利用し、実際には、経営者を補助する立場にすぎず、自分で労働時間を管理できないにもかかわらず、独自の基準で「管理職」を管理監督者という扱いにして、残業手当や休日手当などの割増賃金の支払いを免れるケースが相次いでいます。
しかし、もちろん「管理職」とされても、必ずしも経営者と一体の立場にある者とはいえません。
出勤や退勤といった労働時間の管理について、自由な裁量権限がなければ、労働基準法上の管理監督者とはいえません。そのため残業が発生すれば、会社側は残業代を支払わなければなりません。
【裁判例:東京地判平20.1.28判決】
ハンバーガーチェーンの店長の地位にあった男性が、会社に対して残業代を請求しました。会社は、店長は管理監督者であるとみなして、残業代を支払っていませんでした。
【判示】
裁判所は、職務内容、権限、及び責任、勤務態様ならびに給与等の待遇の観点から、店長には労働時間に関する自由裁量性はなく、管理監督者とは認められないと判断しました。裁判所は、男性が法定労働時間を超える時間外労働を余儀なくされている実態があったと認め、会社側に対し、残業代の支払いを命じました。
不適切な「みなし残業制度」
「みなし残業制度」とは、会社側があらかじめ残業時間を想定し、給与に固定で残業代を上乗せしておく制度です。
会社側には残業時間をいちいち記録せずに済み、毎月の給与計算の手間が省けるというメリットがあります。
一方で労働者側には、実際の残業がみなし残業時間よりも少なくても、残業代を受領できるというメリットがあります。
これをうまく利用して、「残業代はあらかじめ給与に上乗せしているのでこれ以上は支払わない」という態度を示す会社もあります。
しかし、みなし残業時間以上に残業をさせた場合には、その分の残業代は支払わなければなりません。
【裁判例:東京地判平29.10.11判決】
漫画喫茶で夜間対応などに従事していた労働者が残業代を請求したケースでは、会社側は既にみなし残業代を支払っていると反論しました。
【判示】
裁判所は、入社面接時に固定給部分と残業代部分を会社側が説明しておらず、残業代についての合意がなかったこと、また毎月100時間を超えるような残業が発生したことを認め、会社側に対し、未払い残業代等の支払いを命じました。
休憩時間も働かされる
- 昼休憩の時間も電話が鳴ったら対応しなければならない
- 休憩時間に来客が来たら対応しなければならない
会社にこのようなことを指示されている場合は、休憩時間に当たらず、労働時間とみなされます。
休憩時間とは、労働者が労働から完全に解放されることが保障されていなければなりません。
【裁判例:大阪地判昭56.3.24判決】
寿司屋に勤務していた店員は、客が不在のときや自分の担当業務が終わったときには休憩が認められているものの、客が来たらすぐに業務に従事するよう命じられていました。経営者はこれを休憩時間として、その分の給与を支払っていませんでした。
【判示】
裁判所は、手待ち時間は、労働者が労働から完全に解放されているとはいえず、休憩時間にはあたらないとし、経営者側に未払い残業代の支払いを命じました。
始業前の準備、終業後の片付けが労働時間に含まれていない
始業前の事務所掃除、終業後の片付けなどを会社から指示されている場合は、その時間も厳密に言えば労働時間に含まれます。
【裁判例:千葉地判平29.5.17判決】
事業所内において、警備員である従業員に対し、作業着に着替える時間、仮眠時間、朝礼時間に対する残業代が支払われていなかったケースでは、このような時間が労働時間にあたるのかが争われました。
【判示】
裁判では、使用者の指示による作業着に着替える時間、朝礼時間、及び仮眠時間は労働時間であることが認められました。
仕事を持ち帰らせる
近年は働き方改革によって、とにかく定時で退社するよう要求され、そのためやむを得ず仕事を家に持ち帰っているという方も多いでしょう。
納期に間に合わない仕事を自宅に持ち帰って完成させることを会社に指示された場合、仕事時間が残業に含まれる可能性があります。
ただし、残業に当たるか否かは仕事の内容や会社の具体的な指示・強要などによって総合的に判断されます。
自分から進んで納期のない仕事を持ち帰っても、残業には当たりません。
【裁判例:東京地判令2.3.25判決】
会社から貸与されたパソコンを自宅に持ち帰り、深夜に業務をおこなっていた労働者が、くも膜下出血にて死亡した事例です。
【判示】
裁判所は、当時この労働者が午後9時を過ぎて退社することが常態化していたことや、パソコンの履歴などから、自宅での作業時間も含め、くも膜下出血発症前6ケ月間に月平均78時間以上(発症前2ケ月間で月85時間以上)の残業があったと認め、会社側に対し、損害賠償の支払いを命じました。
サービス残業を強要されたときの対処法
このようにサービス残業はあらゆるケースで発生しており、たとえ会社が残業は発生していないと主張しても、それが認められるとは限りません。
サービス残業を会社に強要されたら、まずは以下のような対処法が考えられます。
労働基準監督署に相談する
直接経営者にサービス残業をやめるよう訴えても改善が難しい場合には、第三者機関である労働基準監督署に相談するという方法があります。
労働基準監督署は、会社(事業場)が労働基準法等の労働関係法令を遵守しているかを監視する公的機関です。
相談することで、会社内の残業状況を調査のうえ、労働基準法等の法令違反が判明すれば、会社に指導や是正勧告を促してくれます。
サービス残業の強要が発覚すれば、会社に対して改善や残業代の支払いを命じてくれるでしょう。
労働基準監督署には守秘義務があるため(労働基準法第105条)、自分が労基署に相談したことが会社にバレる心配はありません。
労働基準監督署へのメール相談は労働基準監督署にメール相談は効果的?|相談方法について解説をご覧ください。
労働組合を通じて会社に交渉する
比較的大規模な会社で、社内に労働組合がある場合には、労働組合で団結して会社に交渉し、是正を促すという方法もあります。
サービス残業を強要されている社員が自分だけではないなら、労働者同士団結すれば、会社の方針を改善できるでしょう。
サービス残業代を会社に請求するには
既にサービス残業代が発生している場合、会社に残業代を請求して取り戻す権利があります。
任意で交渉する際も、和解ができずに裁判になってしまう場合にも、以下の点に注意が必要です。
サービス残業の証拠を集める
未払い残業代を請求する際、裁判になれば残業時間の立証責任は労働者側にあります。
そのため、確実な残業の証拠を日頃から集めておくことが非常に重要です。
残業の証拠となるものの例は、以下のようなものです。
- パソコン操作のスクリーンショット
- 上司からの残業命令の記録
- トラック運転手などのタコメーター
- 日報
- 雇用契約書 など
たとえ定時にタイムカードを押す慣習があったとしても、上記のような証拠を日々残しておくことで、残業を認めてもらえる可能性が高くなるでしょう。
サービス残業代を請求できるのは過去3年分
残業代は、入社から今までに発生していた分全てを請求できるわけではありません。
残業代には時効があり、請求できるのは過去3年分のみです。
2020年の民法改正を受けて、労働基準法が改正され、残業代の請求時効は以下のように変更されました。
- 2020年3月31日までに支払日が到来→2年
- 2020年4月1日以降に支払日が到来→3年
請求せずにサービス残業を受け入れていると、過去の残業代は時効によってどんどん失われていき、3年で請求できなくなってしまいます。
弁護士に相談する
残業代を請求するなら、弁護士に相談することをおすすめします。
早期に相談をすれば、証拠の集め方なども指導してもらえるでしょう。
残業代の計算は日々の労働時間数を細かく計算しなければならないため、実際に自分一人でおこなうと、非常に煩雑です。
早めに相談を開始すれば、どのような証拠を残したらよいか、事業主にはどのように対応すべきかなど、的確なアドバイスを受けられるでしょう。
まとめ
サービス残業の強要は違法行為です。
サービス残業にはさまざまな抜け穴があるため、会社側が「残業代は支払っている」「残業は発生していない」と主張していても、実際にはサービス残業を強いられている可能性も十分にあります。
会社にサービス残業を強いられていると気づいたら、まずは証拠を確保し、労働基準監督署の窓口もしくは弁護士に相談しましょう。
また、弁護士に相談すれば、過去に発生している残業代を請求することも可能です。
そして、無料法律相談を利用すれば、自分の状況がサービス残業にあたるか、どんな証拠を残せばいいかなどのアドバイスを受けられるでしょう。
まずは一度相談してみてください。