パワハラは犯罪にもなる!5つの刑事罰と犯罪で訴える方法を詳しく解説
パワハラは、今や単なる社内トラブルではありません。
悪質なものは犯罪となり、加害者は刑事責任を追及されることもあります。
パワハラの被害者になると、加害者に対し、刑事責任を追及したいと思うかもしれません。
しかし、パワハラ問題は、刑事責任の追及が必ずしも最適な解決方法とは限りません。
この記事では、パワハラがどのような犯罪になりえるのか、どの程度の罪が科されるのかを解説します。
また、具体的な刑事責任の追及方法や、刑事事件以外の解決方法についても説明します。
パワハラの加害者を訴える手段を検討しているなら、ぜひ参考にしてください。
パワハラは犯罪になりえる!パワハラで問われる可能性がある5つの刑事罰
パワハラ行為そのものを規制する法律はありませんが、パワハラは単なる社内トラブルでは済まされず、犯罪として刑事責任を追及される可能性もあります。
以下は、パワハラの加害者が問われる可能性のある刑事罰です。
名誉毀損罪
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪(刑法第230条)が成立します。
パワハラ行為が名誉毀損罪に該当すると、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
たとえば、ほかにも同僚がいる前で、以下のような状況で発言をした場合が挙げられます。
- 上司が特定の部下に対して「おまえ以外、みんな仕事ができているぞ」と、高圧的な態度とともに罵るような発言をした
- 「仕事ができなくて、お前の子どもがかわいそうだな」と言われた
- 事実かどうかわからないにもかかわらず、上司から「お前の親も頭が悪いんだろうな」と言われた
このような発言を同僚の前で、大声で話されたことで被害者の評価を落とされた場合、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
もっとも一般的に、悪口などの侮辱的表現だけでは名誉毀損罪で訴えて刑事責任を追及することは難しいことが多いでしょう。
ただし、暴力などをともなうような場合、暴行罪や傷害罪など、別の罪に付随して名誉毀損罪も追及される可能性もあります。
侮辱罪
具体的な事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合には、侮辱罪(刑法第231条)が成立します。
侮辱罪の量刑は、1年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。
一例として、以下のような発言を職場内で繰り返し受けている場合には、侮辱罪にあたる可能性があります。
- 「バカ」「アホ」「ダメ人間」「使えないやつ」などの誹謗中傷
- 「デブ」「チビ」「ハゲ」など、相手の身体的特徴を揶揄する発言
ただし、侮辱罪も名誉毀損罪と同じく、単独で刑事責任を追及されるケースは少ないでしょう。
脅迫罪
生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合、脅迫罪(刑法第222条)が成立します。
脅迫罪には、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が適用されます。
傷害罪
相手の身体に暴行を加えるなどしてけがを負わせた場合には、傷害罪(刑法第204条)が成立します。
傷害罪には、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が適用されます。
- 上司が部下に対して、殴る、蹴るなどの暴行を加えてけがを負わせる
- 上司が暴言を吐き続けたことで、部下が精神疾患を発症してしまった
このように、物理的な暴力や精神的苦痛によって相手に肉体的、精神的な傷害を与えた場合には、加害者に対して傷害罪が適用される可能性があります。
暴行罪
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった場合には、暴行罪(刑法第208条)が成立します。
暴行罪には、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料が適用されます。
- たばこの火を吐きかける
- 殴る真似をする
- 耳を強く引っ張る
このように、暴力を振るわれたが、けがまでは負わなかった場合には、暴行罪が適用される可能性があります。
ただし、かすり傷や内出血程度のけがでも「傷害」に該当することから、被害者に対し身体的に接触している場合、暴行罪にとどまることは少ないでしょう。
また、たとえ部下によるミスに対して厳しく指導する必要があったとしても、例えば服を引っ張る、胸ぐらをつかむといった行為をし、相手に対して物理的な力を加えた時点で暴行罪が成立します。
パワハラに該当する6つの行為と犯罪になりうるパワハラ行為
パワハラは犯罪にもなり得る悪質な行為ですが、仕事をするうえで上司から叱責されること全てがパワハラになるわけではありません。
パワハラには定義があり、それに当てはまると判断された場合のみ認定されます。
パワハラが成立する3つの要件
厚生労働省の指針に定められた定義によると、以下3つの要件に全て該当した場合には、パワハラと認定されます。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲をこえたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
職場とは単にオフィス内を示すものではなく、出張先や社内懇親会の席など、職場の地位や人間関係が影響する場所も含みます。
また、働く者は正社員だけでなく、パートタイム労働者や派遣社員などの非正規雇用で働く従業員も含まれます。
優越的関係を背景にした言動であるという性質上、パワハラ行為は上司から部下へおこなわれるものが多くなります。
しかし、同僚から同僚へ、部下から上司への行為でも、①~③に該当すればパワハラと認定される可能性があります。
パワハラになる6つの行為
厚生労働省はまた、パワハラになる行為を6つに分けて定義しています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
パワハラは、殴る、蹴るなどの身体的な攻撃、同僚の前で執拗に叱責するなど精神的な攻撃だけにとどまりません。
1人だけ別室に席を移動させて社内の人間関係から切り離す、ほかの人の業務まで押しつけて到底遂行できない量の業務を与えたり、逆に全く業務を与えなかったりすることもパワハラになります。
また、業務上必要がないにもかかわらず、執拗にプライベートを聞き出そうとすることもまた、パワハラとみなされる可能性があるでしょう。
犯罪になるパワハラ行為とは
たとえば、以下のようなパワハラ行為が犯罪になる可能性があります。
・同僚の前で、頭を書類で殴るなどしながら「バカ野郎!」などと、叱責を繰り返す行為
→暴行罪、侮辱罪
・「部長と不倫している」と噂を流され、部署内で無視され続けた結果、うつ病を発症した
→名誉毀損罪、傷害罪
・「退職するなら賠償金として1,000万円支払え」などと脅される
→脅迫罪
このように、相手が身体的な攻撃によってけがを負えば、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。
また、精神的な攻撃によってうつ病や精神疾患を発症すれば傷害罪にもなりうるでしょう。
ほかにも、高圧的な言動が侮辱罪や名誉毀損罪、もしくは脅迫罪にあたる可能性もありえます。
パワハラを犯罪として訴える手順
パワハラ行為が犯罪にあたる場合、刑事告訴をすることで相手に刑事責任を追及することもできます。
以下で、その手順を解説します。
まずは弁護士に相談する
まずはパワハラ問題に詳しい弁護士に相談し、これまで受けたパワハラ被害の刑事責任を追及できるかどうかを確認しましょう。
残念ながら、中にはパワハラの内容がどれだけ悪質であったとしても、刑事事件としては立件しにくいケースもあります。
また、刑事事件として責任を追及するよりも民事責任を追及し、損害賠償請求をしていくほうがよい結果になる場合もあります。
警察はパワハラを刑事告訴することに対して、積極的ではありません。
警察には「民事不介入」という原則があります。
そのため、未だに「パワハラは社内の問題なので民事で片付けるべきだ」という意識が強いこともあるでしょう。
刑事事件として告訴するなら、前もって弁護士に相談することで、証拠集めや告訴状の書き方のアドバイスがもらえます。
また、弁護士が警察署に同行して告訴状を提出すれば、警察に対して捜査を強く促す効果もあるでしょう。
警察署へ被害届を提出する
パワハラ上司から殴る、蹴るなどの暴行を受けてけがを負った場合には、病院で診断書を作成してもらい、警察へ被害届を提出しましょう。
被害届は告訴状とは異なり、被害の事実を伝えるものであり、加害者への処罰を求める意思表示ではありませんが、捜査を開始するためのきっかけにはなるでしょう。
また、身体的なけがだけでなく、精神的な苦痛によってうつ病に罹患した場合も「傷害」にあたるため、被害届の提出は可能です。
警察署へ告訴状を提出
告訴状は、パワハラの加害者への刑事処罰を求める意思表示です。
提出する警察署の管轄に法律上の決まりはありませんが、犯罪が発生した場所を管轄する警察署に提出するのが一般的です。
告訴状は、名誉毀損罪や侮辱罪などでも提出可能です。
ただし、実際に警察が刑事事件として捜査するパワハラ事件は、被害者が死亡または重傷を負うなど、被害が大きい場合に限られることが多いでしょう。
パワハラを犯罪として訴える以外の解決方法
悪質なパワハラは刑事罰の対象となります。
ただし、実際に刑事事件として責任を追及していくことは容易ではありません。
ですが、刑事責任を追及する以外にも、以下のような解決方法があります。
社内のハラスメント窓口に相談する
まず、社内のハラスメント窓口に相談するという方法があります。
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の施行により、企業には社内でハラスメント対策を講じることが義務付けられました。
加害者と利害関係のない部署であれば、パワハラに適切な対処をしてくれる可能性があります。
ただし、加害者が社内で地位のある人物だったり、事業主本人からパワハラを受けていたりする場合には、社内窓口に相談しても解決することは難しいと考えられます。
ですが、それでも相談したという記録を残すことは大切です。
その後会社に対して訴訟提起する際などにも「会社に相談したが対応してくれなかった」として、会社の責任を追及することができるでしょう。
労働局に相談する
労働局や労働基準監督署内に設けられた「総合労働相談コーナー」という窓口に相談する方法もあります。
ただし、総合労働相談コーナーでは、直接問題を解決してくれるわけではありません。
会社と労働者との話し合いの場をあっせんするなど、あくまでも解決のための情報を提供してくれる窓口です。
労働局への相談はパワハラは労働局に相談できる?労働局の活用方法やその他の解決方法も紹介をご覧ください。
弁護士に相談し、民事責任を追及する
それでも解決できなければ、弁護士に相談して裁判手続きを検討しましょう。
パワハラは刑事で告発するより、民事事件で慰謝料などを請求していくことのほうが一般的です。
パワハラの慰謝料は、任意の交渉もしくは裁判上の手続きによって、加害者に請求します。
自力で加害者や会社に慰謝料請求するのは難しいため、弁護士に交渉を依頼しましょう。
また、弁護士への相談は最終手段ではありません。
社内窓口や労働局の窓口に相談する前に、パワハラへの対処方法を相談することも有効です。
パワハラの慰謝料についてはパワハラの慰謝料はどれくらい?うつ病になったときの相場や必要な手続きを解説をご覧ください。
まとめ
パワハラは単なる社内トラブルではありません。パワハラの内容が犯罪の成立要件を満たす場合には、加害者に刑事責任を追及していくこともできます。
パワハラを犯罪として捜査してもらうためには、警察署に刑事告訴しなければなりません。
しかし、警察はパワハラを犯罪として捜査することには消極的です。
ひどいパワハラを受けると、加害者の刑事責任を追及したいと思うかもしれません。
ただし、刑事告訴の他にもパワハラを解決する方法はあります。
まずはパワハラに詳しい弁護士に相談してみて、ご自身の目的に合った解決方法を選びましょう。